AN-2610: ADMT4000 の磁気リセット

はじめに

センサー内の磁壁パターンが破損している場合、ADMT4000 内のGMR(巨大磁気抵抗)回転数センサーの磁気リセットが必要になります。アプリケーションの磁石が所定の位置に配置されたシステム内にADMT4000 を組み込んでから、工場内でGMR 回転数センサーをリセットすることが重要です。更に、GMR 回転数センサーがBMAX より大きい磁界に曝された場合、あるいはFAULT レジスタのビット[D9, D13]のいずれかがセットされた場合にも、回転数カウンタをリセットする必要があります。

リセットするには、次の2 つの方法があります。

  • システム磁石の過剰回転によるリセット。
  • 磁界の印加によるリセット。

過剰回転によるリセット

GMR 回転数センサーは、46 回転以上回転させてリセットできます。この方法により、新しい1 組の磁壁がGMR スパイラルに確実に注入されます。これは、46 回転数の位置を越えて動作することと同じではなく、リセット動作には、現在の回転数に関係なく、時計回り(CW)にシステム磁石を46 回転させる必要があります。

磁界を利用したリセット

GMR 回転数センサーは、315º 方向に60mT 以上の磁界を印加してリセットできます。リセットすると、センサー・スパイラルは磁壁で満たされるため、回転数は、45 にリセットが発生した角度を加えたものになります。リセット磁界を印加するには、次の4 つの重要な方法があります。

  • 外部コイルを用いて、ADMT4000 の周囲に磁界を生成する方法。
  • 外部固定磁石をADMT4000 に近づける方法。
  • システム磁石1をADMT4000 に近づける方法。
  • アプリケーションPCB に埋め込まれた平面型電磁コイルを用いる方法。

アプリケーション磁石を取り付ける際にGMR 回転数センサーが破損しないようにするために、リセットする前に、システム磁石またはアプリケーション磁石を所定の位置に設置しておく必要があります。

本アプリケーション・ノートで取り上げるのは、埋込型リセット・コイル方式のみです。

平面埋込型リセット・コイル方式

 
埋込型リセット・コイル方式では、アプリケーションのPCB に埋め込まれた平面型電磁コイルを使用します。BRESET は、アプリケーションのPCB に埋め込まれたコイル(BCOIL)によって生成される磁界とアプリケーションの磁石(BAPP)を組み合わせたものです。この構成により、アプリケーション内でGMR リセット手順の実行が可能になります。

BAPP は、315º 方向で位置合わせが必要です。システム磁石の角度範囲の中心は、リセットが発生する可能性のある315º 方向です。リセットが発生する角度範囲は、次の条件に依存します。

  • BCOIL の強度。
  • BAPP の強度。
  • GMR 回転数センサーの温度。

最終的なシステムの温度特性を評価して、システム磁石の許容可能な方向範囲を決定することを強く推奨します。

埋込型リセット・コイル

 
埋込型リセット・コイルは、図1 に示すように、電流パルスによって励起されたときに315º方向で磁界が生成されるように配向させる必要があります。コイルの図面は、本製品のウェブページからdxf 形式(ADMT4000_MAGNETIC_RESET_COIL_V2_1.dxf)で入手できます。

  • コイルは、ADMT4000 のすぐ下のPCB 層上に2 オンスの銅配線パターンでレイアウトする必要があります。
  • 埋込型リセット・コイルの中心は、ADMT4000 パッケージ内のGMR 回転数センサーの中心と位置合わせする必要があります。
  • 図1 に示すように、コイルの方向は一致している必要があります。
図1. 埋込型リセット・コイルとADMT4000 の位置
図1. 埋込型リセット・コイルとADMT4000 の位置

埋込型リセット・コイル用パルス発生器

 
図2 に、電流パルスを生成して、埋込型リセット・コイル(L2)を励起するための代表的な回路を示します。昇圧DC/DCコンバータVR1を用いると、電源電圧VDD(3.3V)を昇圧して、1 次放電コンデンサC5 を充電できます。C5 が完全に充電されると、C5 は、MOSFET Q1によってL2 を介して放電されます。必要な電流パルスを最小のVOUT 電圧で発生させるには、放電回路の直列抵抗を最小にする必要があります。次の事項を確認してください。

  • 埋込型リセット・コイルのセクションに示すように、L2 が構築されます。
  • C5 は低ESR コンデンサであり、この例では、C5 のESR は22mΩ です。
  • MOSFET Q1 は低いRON を有します。この例では、U1 を用いて次の操作を行います。
    • COIL_RS(3.3V ロジック)を5V に昇圧します。
    • 高速エッジを付与して、MOSFET の高速ターンオンを可能にします。

回路の特性を完全に評価するために、図4 に示すように、差動プローブ(例えば、Tektronik P6247)を用いてインライン抵抗上の電圧を監視して、L2 を通る電流を測定します。図2 の深紅色のトレースは、28V の電圧パルスから得られた電流パルス(229A ピーク)を示します。R2 とR3 によって形成される抵抗分圧器を変更して、VOUT を修正します。詳細についてはLT3467 のデータシートを参照してください。標準的な4 層PCB では、GMR 回転数センサーでコイルによって生成される磁界の伝達関数は0.44mT/A です。

図2. 代表的なリセットパルス 黄色:Q1 のドレイン端子の電圧緑色:Q1 のゲートの電圧青色:Q1 のソース端子の電圧深紅色:コイルL2 を通る電流パルス
図2. 代表的なリセットパルス
黄色:Q1 のドレイン端子の電圧
緑色:Q1 のゲートの電圧
青色:Q1 のソース端子の電圧
深紅色:コイルL2 を通る電流パルス

図3 に、埋込型リセット・コイル用パルス発生器の回路を示します。

図3. 埋込型リセット・コイル用パルス発生器の回路
図3. 埋込型リセット・コイル用パルス発生器の回路
表1. 埋込型リセット・コイル用パルス発生器回路の推奨部品
Reference Designator Value Description Manufacturer Part Number
C1 4.7µF Ceramic capacitor, 4.7µF, 6.3V, 10%, X8M, 0603, AEC-Q200 Murata GCJ188M8EC475KE08D
C2 0.1µF Ceramic capacitor, lowESR, 0.1µF, 35V, 10%, X7R, 0402, AEC-Q200 TDK CGA2B3X7R1V104K050BB
C3 9pF Ceramic capacitor, 9pF, 50V, 0.5pF, C0G, 0402 Murata GJM1555C1H9R0DB01D
C4 1µF Ceramic capacitor, 1µF, 50V, 10%, X7R, 0603 Yageo CC0603KRX7R9BB105
C5 220µF Aluminium polymer capacitor, 220µF, 40V, 20%, 10mm × 12.2mm, 2.2A, 0.022Ω, 2000H, AEC-Q200 Kemet A768MS227M1GLAE022
D1 40V Schottky diode, barrier rectifier, 40V, 500mA Diodes Inc. B0540W-7-F
D2 150V Schottky diode, 150V, 3A ST Microelectronics STPS3150UF
E1 600Ω Ferrite bead and chip Murata BLM31PG601SN1L
L1 6.8µH Inductor, power shielded wire wound, 6.8µH, 20%, 100kHz, 1.5A, 0.15Ω, DCR, AEC-Q200 Coilcraft Inc. LPS4018-682MRC
Q1 30V Transistor, N-channel MOSFET, 30V, 30A, PowerDI3333-8 Diodes Inc. DMT32M5LFG-13
R1 100kΩ Resistor, SMD, 100kΩ, 5%, 1/10W, 0402, AECQ200 Panasonic ERJ-2GEJ104X
R2 402kΩ Resistor, SMD, 402kΩ, 1%, 1/10W, 0402, AECQ200 Panasonic ERJ-2RKF4023X
R3 18kΩ Resistor, SMD, 18kΩ, 1%, 1/16W, 0402, AEC-Q200 Yageo AC0402FR-0718KL
R4 2.7kΩ Resistor, SMD, 2.7kΩ, 5%, 2/3W, AEC-Q200 Panasonic ERJ-P08J272V
R5 4.75kΩ Resistor, SMD, 4.75kΩ, 1%, 1/10W, 0402, AECQ200 Panasonic ERJ-2RKF4751X
U1 32mA IC, single Schmitt trigger buffer, transistortransistor logic (TTL) Nexperia 74LVC1G17GW-Q100
VR1 2.1MHz IC, 1.1A step-up DC/DC converter with integrated soft-start Analog Devices, Inc. LT3467AIS6#PBF
図4. 差動プローブ接続の代表的な回路
図4. 差動プローブ接続の代表的な回路
表2. 差動プローブ接続用の推奨部品
Reference Designator Value Description Manufacturer Part Number
C6 0.1µF Ceramic capacitor, 0.1µF, 50V, 10%, X8R, 0603, AEC-Q200 TDK CGA3E3X8R1H104K080AB
C7 0.1µF Ceramic capacitor, 0.1µF, 50V, 10%, X8R, 0603, AEC-Q200 TDK CGA3E3X8R1H104K080AB
P1 3A per Contact PCB connector, 3-positions, unshrouded, header, pitch-mating 2.54mm Amphenol 77311-118-03LF
R6 1MΩ Resistor, SMD, 1MΩ, 0.1%, 1/16W, 0603 TE Connectivity CPF0603B1M0E1
R7 1MΩ Resistor, SMD, 1MΩ, 0.1%, 1/16W, 0603 TE Connectivity CPF0603B1M0E1
R8 0.005Ω Metal alloy surface mount fixed resistor, 1206 (3216M), 0.5%, 0.5W Ohmite LVK25R005FER

1 この方式は磁石の設計に依存します。

注記