AN-1602: ADuM4135 ゲート・ドライバをMicrosemi APTGT75A120T1G 1200 V IGBT モジュールで使用する

はじめに

絶縁型ゲート・バイポーラ・トランジスタ(IGBT)は、オンボード・チャージャ、オフボード・チャージャ、DC/DC高速チャージャ、スイッチ・モード電源(SMPS)アプリケーションなどの高電圧アプリケーション向けの費用対効果の高いソリューションです。スイッチング周波数範囲はDC~100kHzです。IGBTは、単一デバイスとすることも、図1に示す設計のようにハーフ・ブリッジ・デバイスとすることも可能です。

図1. ADuM4135ゲート・ドライバ・モジュール
図1. ADuM4135ゲート・ドライバ・モジュール

このアプリケーション・ノートの設計で使用しているAPTGT75A120 IGBTは、Microsemi Corporation®独自のフィールド・ストップIGBTテクノロジを採用した高速トレンチ・デバイスです。また、このIGBTデバイスは、テール電流が低く、スイッチング周波数が最大20kHzで、対称設計のため浮遊インダクタンスが小さいソフト・リカバリ並列ダイオードも備えています。このIGBTを選択して高度な統合を行うことにより、接合部―ケース間の熱抵抗が低く、高周波で最適な性能を得ることができます。

IGBTは、アナログ・デバイセズのゲート駆動手法によって駆動できます。ADuM4135ゲート・ドライバは、25Vを超える動作電圧(VDD-VSS間電圧)時に7A(代表値)のソースおよびシンク電流駆動能力を持つ1チャンネル・デバイスです。このデバイスの最小コモンモード過渡耐圧(CMTI)は100kV/μsで、最大35Vを供給します。したがって、このアプリケーションには、±15V電源が適切です。 

試験のセットアップ

電気的構成

 
システム試験回路の電気的構成を図2に示します。DC電圧がフル・ハーフ・ブリッジの両端の入力に印加されます。入力段には900μF(C1)のデカップリング・コンデンサが付加されています。出力段は、200μH(L1)と50μF(C2)のインダクタ・コンデンサ(LC)フィルタ段で、2Ω~30Ωの負荷(R1)への出力をフィルタ処理します。試験構成の電力部品を表1に示します。U1はHV+とHV−用のDC電源で、T1とT2は単一のIGBTモジュールです。

図2. システム試験回路の電気的構成
図2. システム試験回路の電気的構成

完成した電気的構成を図3に示します。試験で使用する機器のリストを表2に示します。

表1. 試験構成の電力部品
Equipment Value
IGBT Module, T1, T2 APTGT75A120T1G1
U1 200 V to 900 V
Capacitor C1 900 μF
Inductor L1 200 μH
Capacitor C2 50 μF
Load Resistor R1 2 Ω to 30 Ω
表2. すべてのセットアップ機器
Equipment Manufacturer Part Number
Oscilloscope Agilent DSO-X 3024A, 200 MHz
DC Supply Delta Elektronika SN660-AR-11 (two in serial)
Gate Driver Board WATT&WELL ADUM4135-WW-MS-02 SN001
Waveform Generator Agilent 33522A
Current Probe Hioki 3275
Current Probe Hioki 3276
Passive Voltage Probe Keysight N2873A, 500 MHz
Passive High Voltage Probe Elditest GE3421, 100 MHz
High Voltage Differential Probe Tektronix P5200
High Voltage Differential Probe Testec TT-SI 9110
Thermal Camera Optris PI 160
図3. ゲート・ドライバ電源基板試験用の接続図
図3. ゲート・ドライバ電源基板試験用の接続図

テスト結果

無負荷試験

 
無負荷試験構成では、モジュールの出力に低出力電流が流れます。このアプリケーションでは、30Ωの抵抗を使用しています。

無負荷時の電気的試験構成の重要な要素と、負荷内のわずかな電流値を表3に示します。モジュールで観察された温度を表4に示します。表3と表4には、実測された結果をまとめています。様々な電圧とスイッチング周波数におけるスイッチング波形の試験結果を図5~図10に示します。

表3に示すように、試験1および試験2は600Vで実施しています。試験1は10kHzのスイッチング周波数で実施し、試験2は20kHzのスイッチング周波数で実施しています。試験3は、10kHzのスイッチング周波数にて900Vで実施しています。

無負荷試験の電気的構成を図4に示します。

図4. 無負荷試験の電気的構成
図4. 無負荷試験の電気的構成
表3. 無負荷試験、図の割り当て
Test DC Voltage, VDC1, (V) Switching Frequency, fSW, (kHz) Duty Cycle (%) IIN2 (A) Reference Figures
1 600 10 50 0.007 Figure 5 and Figure 6
2 600 20 50 0.013 Figure 7 and Figure 8
3 900 10 50 0.009 Figure 9 and Figure 10

1 VDCはHV+とHV−の電圧。 
2 IINはU1を流れる入力電流。

表4. 無負荷試験、温度のまとめ1、2
Test VDC (V) fSW (kHz) Temperature DC-to-DC Power Supply Temperature Gate Driver Temperature
Ambient (°C) Heat Sink (°C) High-Side (°C)2 Low-Side (°C)2 High-Side (°C) Low-Side (°C)
1 600 10 26 30.8 34 34 38.2 37.6
2 600 20 26 31 35 35 39.5 39.4
3 900 10 26 31 34.2 34.2 38.6 37.7

1 すべての温度はサーマル・カメラで記録しています。 
2 トランスで測定。

IGBTをオン/オフしたときの性能グラフ

 
このセクションの試験結果は、fSW = 10kHzおよび20kHzの場合の各種電圧でのスイッチング波形を示しています。VDSはVDRAINソースで、VGSはVGATEソースです。

図5. VDC = 600V、fSW = 10kHz、無負荷
図6. VDC = 600V、fSW = 10kHz、無負荷
図6. VDC = 600V、fSW = 10kHz、無負荷
図7. VDC = 600V、fSW = 20kHz、無負荷
図7. VDC = 600V、fSW = 20kHz、無負荷
図8. VDC = 600V、fSW = 20kHz、無負荷
図8. VDC = 600V、fSW = 20kHz、無負荷
図9. VDC = 900V、fSW = 10kHz、無負荷
図10. VDC = 900V、fSW = 10kHz、無負荷
図10. VDC = 900V、fSW = 10kHz、無負荷

負荷試験

 
試験構成は、無負荷試験のセクションにおける無負荷試験の試験構成(図4を参照)と似ています。実測結果を表5にまとめ、様々な電圧、周波数、負荷に対する試験から得られた性能と結果を図11~図16に示します。

試験4は、25%のデューティ・サイクルで、10kHzのスイッチング周波数にて200Vで実施しています。試験5は、25%のデューティ・サイクルで、10kHzのスイッチング周波数にて600Vで実施しています。試験6は、25%のデューティ・サイクルで、10kHzのスイッチング周波数にて900Vで実施しています。

表5. 負荷試験
Test VDC (V) fSW (kHz) Duty Cycle (%) IOUT1 (A) VOUT2 (V) POUT3 (W) IIN (A) Reference Figures
4 200 10 25 1.8 49.3 90.2 0.55 Figure 11 and Figure 13
5 600 10 25 5.4 146.5 791.1 1.62 Figure 12 and Figure 14
6 900 10 25 7.8 214 1669.2 2.5 Figure 15 and Figure 16

1 IOUTは負荷抵抗R1の出力電流。 
2 VOUTはR1に印加される出力電圧。 
3 POUTは出力電力(IOUT × VOUT)。

負荷試験でIGBTをオン/オフしたときの性能グラフ

 
このセクションの試験結果は、fSW = 10kHzおよび20kHzの場合の各種電圧でのスイッチング波形を示しています。

図11. VDC = 200V、fSW = 10kHz、POUT = 90.2W
図12. VDC = 600V、fSW = 10kHz、POUT = 791.1W
図12. VDC = 600V、fSW = 10kHz、POUT = 791.1W
図13. VDC = 200V、fSW = 10kHz、POUT = 90.2W
図13. VDC = 200V、fSW = 10kHz、POUT = 90.2W
図14. VDC = 600V、fSW = 10kHz、POUT = 791.1W
図14. VDC = 600V、fSW = 10kHz、POUT = 791.1W
図15. VDC = 900V、fSW = 10kHz、POUT = 1669.2W
図15. VDC = 900V、fSW = 10kHz、POUT = 1669.2W
図16. VDC = 900V、fSW = 10kHz、POUT = 1669.2W
図16. VDC = 900V、fSW = 10kHz、POUT = 1669.2W

高電流試験

 
試験構成は図3に示した具体的な構成と似ています。実測結果を表6にまとめ、様々な電圧、周波数、負荷に対する試験から得られた性能と結果を図17~図20に示します。

出力負荷抵抗は試験ごとに異なります。表1に示すように、2Ωと30Ωの負荷を使って電流を変化させています。VOUTはR1の両端の電圧を測定したものです。

試験7は、25%のデューティ・サイクルで、10kHzのスイッチング周波数にて300Vで実施しています。試験8は、25%のデューティ・サイクルで、10kHzのスイッチング周波数にて400Vで実施しています。

表6. 高電流試験
Test VDC (V) fSW (kHz) Duty Cycle (%) IOUT (A) VOUT (V) PIN1 (W) IIN (A) Reference Figures
7 300 10 25 19.6 68.7 1346.3 5 Figure 17 and Figure 19
8 400 10 25 25.8 91.7 2365.9 6.6 Figure 18 and Figure 20

1PINは入力電力(IIN × VIN)で、VINはDC電源です。

高電流試験でIGBTをオン/オフしたときの性能グラフ

 
このセクションの試験結果は、fSW = 10kHzおよび20kHzの場合の各種電圧でのスイッチング波形を示しています。

図17. VDC = 300V、fSW = 10kHz、POUT = 1346.3W
図17. VDC = 300V、fSW = 10kHz、POUT = 1346.3W
図18. VDC = 400V、fSW = 10kHz、POUT = 2365.9W
図19. VDC = 300V、fSW = 10kHz、POUT = 1346.3W
図19. VDC = 300V、fSW = 10kHz、POUT = 1346.3W
図20. VDC = 400V、fSW = 10kHz、POUT = 2365.9W
図20. VDC = 400V、fSW = 10kHz、POUT = 2365.9W

非飽和試験

 
システム試験回路の電気的構成を図21に示します。DC電圧がフル・ハーフ・ブリッジ両端の入力に印加されます。入力段には900μFのデカップリング・コンデンサが付加されています。この設定は非飽和検出の試験に使用されます。このアプリケーションでは、最大IC = 150Aで、ICはT1とT2を流れる電流です。

図21. システム試験回路の電気的構成
図21. システム試験回路の電気的構成

IGBTのハイサイド・スイッチ(T1)は83μHのインダクタでバイパスされており、T1スイッチはオフになっている必要があります。

IGBTのローサイド・スイッチ(T2)は500msごとに50μs間駆動されます。

非飽和試験構成のための電力部品の一覧を表7に示します。

インダクタL1における135Aでのスイッチング・イベントを図22に示し、インダクタL1における139Aでの非飽和検出を図23に示します。

表7. 非飽和試験のための電力部品の試験構成
Equipment Value
U1 0 V to 80 V
C1 900μF
L1 83 μH
図22. VDC < 68V、fSW = 2Hz、デューティ・サイクル = 0.01%
図23. VDC > 68V、fSW = 2Hz、デューティ・サイクル = 0.01%
図23. VDC > 68V、fSW = 2Hz、デューティ・サイクル = 0.01%

アプリケーション回路図

図24. ADuM4135ゲート・ドライバ基板の回路図
図24. ADuM4135ゲート・ドライバ基板の回路図

まとめ

ADuM4135ゲート・ドライバは電流駆動能力、適切な電源範囲、100kV/μsの強力なCMTI能力を備え、IGBTの駆動に最適な性能を発揮します。

このアプリケーション・ノートの試験結果は、ADuM4135評価用ボードが、IGBT駆動の高電圧アプリケーション向けソリューションであることを実証するデータを提供するものです。

著者

Martin Murnane

Martin Murnane

Martin Murnane は、アナログ・デバイセズで産業分野や計測分野向けの太陽光発電システムを担当する技術者です。エネルギーや太陽光発電のアプリケーションが専門です。アナログ・デバイセズに入社する前は、エネルギー・リサイクル・システム向けのパワー・エレクトロニクスの開発(Schaffner Systems)、Windows ベースのアプリケーション・ソフトウェア/データベースの開発(Dell Computers)、ストレイン・ゲージ技術を使用した HW/FW 製品の開発(BMS)などの業務に従事していました。リムリック大学で電子工学の学士号と経営管理学修士号を取得しています。