AN-1446: AD5767 でのディザ発生
はじめに
AD5767 は16 チャンネル、12 ビットのdenseDAC® D/A コンバータ(DAC)です。最小 -20 V から最大 +14 V までの複数の出力電圧スパンを2.5 V の外部リファレンスから生成し、同時に、チャンネルあたり最大 20 mA の出力電流を供給するように設定することが可能です。
AD5767 は、光通信で広く使用されている変調器であるインジウムリン・マッハツェンダー 変調器(InP MZM)にバイアスを与えるのに推奨します。
InP MZMの最適な DC バイアス点は、物理的な応力や経時変化などの影響で変化します。最適な DC バイアス点を見出して変調器の完全な直交性を維持するために、バイアス入力電圧にディザ信号を与えることができます。
この目的で、AD5767 には、DAC で生成した DC 信号に 10 kHzから 100 kHz の低周波数の低電圧ディザ信号を重ね合わせる機能が内蔵されているので、部品表(BOM)やプリント回路基板(PCB)の面積が減少し、システム設計が簡素化されます。
本アプリケーション・ノートでは、ディザに関する異なる動作モードを示し、ディザ機能をイネーブルまたはディスエーブルする最適な方法を示します。
AD5767 のブロック図を図 1 に示します。
AD5767 のディザの詳細
ディザ印加とモード制御の方法
AD5767 には 2 つの独立したディザ入力ピン Pin N0 と Pin N1 があり、これらはマルチプレクサを通して各チャンネルの内蔵出力バッファに内部接続されています。ディザ入力ピンはすべてのDAC 出力チャンネルに対してディスエーブルするか、任意のDAC チャンネルに対してイネーブルすることが可能で、チャンネルあたり最大 20 mA の出力電流を供給します。コマンド x9 とコマンド xA を用いて、ディザ入力信号を選択し、DAC 出力チャンネルに印加することができます。
各 DAC チャンネルに同時に印加できるディザ入力信号は 1 つだけです。
N0 と N1 のディザ入力信号ピンは、入力電流を最小に抑えるため、内部でバッファされており、図 8 に示すように、10 kHz ~100 kHz の 90 kHz 帯域幅のアクティブ・バンドパス・フィルタ(BPF)を備えています。
ディザ信号の許容最大振幅は、図 2 に示すように、250 mV p-pで最大ピーク電圧は AVCC です。
AD5767 は入力周波数が BPF の帯域幅に入っている限り、ディザ入力信号として任意の AC 波形を受け入れます。
ディザ入力信号は、選択した DAC 出力チャンネルに印加する前に、チャンネルごとに個別にスケーリングと位相シフトを行うことが可能です。
ディザ信号の振幅は、コマンド xC または コマンド xD を使用して、25 %、50 %、75 % にスケーリングするか、または元の振幅のままに保つことができます。対応する減衰係数は、出力チャンネルごとに選択します。
ディザ入力信号の位相は、コマンド xB を使って内部反転ディザ・レジスタに書き込むことにより 180° 反転できます。
利得、位相、外部ディザ信号の使用可否は動作中いつでも変更できます。
ディザのモニタリング
AD5767 は 16:1 の内部マルチプレクサ(MUX)を備えています。このマルチプレクサにより、コマンド x0 を使って内部モニタ MUX コントロール・レジスタに書き込んで、MUX_OUT ピンを通してモニタする任意の DAC 出力チャンネルをいつでも選択することができます。
マルチプレクサをディスエーブルするには、モニタ MUX コントロール・レジスタからの VOUT_SEL ビットをクリアします。
この内部モニタ MUX は内部でバッファされていないので、外部バッファを使って、モニタ対象に選択したチャンネルの負荷効果を最小化することを推奨します。MUX_OUT ピンを流れる外部電流はモニタ対象の DAC チャンネルに影響するからです。
DAC 出力への影響
ディザをイネーブルする場合、一連の影響を考慮する必要があります。二次効果が出力チャンネルに影響することがあるためです。
ディザのイネーブル/ディスエーブルによるエネルギー・トランジェント
選択したチャンネルのディザをイネーブルまたはディスエーブルすると、ディザ・スイッチによって DAC 出力バッファへ注入されるエネルギーにより、選択した DAC 出力チャンネルに一連の高速トランジェントが現れます。
さらに、図 6 に示すように、内部のデジタル信号線間のカップリングにより、選択されていない DAC 出力に高速トランジェントが見られることがあります。
AD5767 の出力スパンを設定する前、出力は AGND にクランプされているので、最適な動作のためには、この状態でディザ入力を設定し、その後電圧スパンを設定してからディザ信号を印加することを推奨します。
DC シフト
ディザ信号が DAC 出力チャンネルに加わると、この DAC 出力電圧がわずかに増加します。この現象は、ディザ・バッファによって 電流が DAC の出力バッファに注入されるためです。
ディザ信号をイネーブルしたときの DAC 出力電圧への影響を図 7 に示します。
電源投入時にディザがイネーブルされると、ディザ・バッファによって生じる DC オフセットは、オフセット・エラーのインクリメントとして計算することができます。
振幅減衰と位相シフト
ディザ 入力ピン Pin N0 と Pin N1 は、アクティブ・バンドパス・フィルタを一体化しており、ディザの DC 電圧を除去し、DAC 出力バッファの不安定性を防ぎます。低周波カットオフ周波数は 10 kHZ、高周波カットオフ周波数は 100 kHz です。
減衰と位相シフトに関しては、選択した出力電圧範囲での入力ディザの伝達関数にある程度依存します。出力電圧範囲が ±5 V時の標準的な性能を図 8 と図 9 に示します。
クロストーク
ディザ信号があるチャンネルに印加されると、隣接チャンネルにクロストークが現れることがあります。隣接チャンネルに伝わるクロストークの大きさは、これらのチャンネルに別のディザ信号が与えられているか、あるいはディザ信号が与えられていないかに依存します。
全高調波歪み(THD)
AD5767 の複数の内部バッファによる入力ディザ信号の全高調波歪みを図 11 に示します。
最高性能を得るための最善の方法
AD5767 の動作中にディザ機能を使用する場合、DAC から最高性能を引き出すには、まずディザを設定してから、グラウンドへの出力クランプを解除します。
この推奨手順で AD5767 を動作させてディザ機能を利用すれば、ディザ機能がイネーブルまたはディスエーブルされる際にDAC 出力に生じるトランジェント振幅を最小にすることができます。
推奨するディザの設定方法は次のとおりです。
- AD5767 に電源が投入されるとき、コマンド x9、コマンドxA、コマンド xB、コマンド xC、コマンドxD を使用して入力ディザ信号を設定します。
- AD5767 を通常動作モードに設定してから、ディザ信号を入力ピンに与えます。AD5767 を通常動作モードに設定するには、コマンド x4 を使用して、AD5767 の出力クランプを解除できるように、スパン・レジスタを設定する必要があります。
- N0 と N1 のいずれかもしくは両方にディザ信号を与えて、ディザ設定を完了します。
スパン・レジスタを設定する前にディザ信号を DAC に与える場合、DAC 出力にトランジェントが生じることが予想されます。ディザ信号の DC 成分を 1 V 以下に制限すればトランジェントの振幅を減少させる効果があります。しかし、この動作モードは推奨モードではないことに注意してください。