AN-1154: ADF4157 およびADF4158 のPLL の位相ノイズとスプリアス性能のコンスタント・ネガティブ・ブリード使用による最適化

はじめに

コンスタント・ネガティブ・ブリード電流を使用すると、ADF4157 およびADF4158 の位相ノイズ(PN)と整数境界スプリアス(IBS) 性能を改善することができます。最大の改善は、位相周波数検出器 (PFD)の周波数の整数倍周波数またはその付近で得られます。効果は60 kHz 以上のループ帯域幅で顕著に現れますが、すべてのPLL ループ帯域幅に対してコンスタント・ネガティブ・ブリードを使用すことが推奨されます。

コンスタント・ネガティブ・ブリード電流は、チャージ・ポンプに固定オフセットを加算することにより機能します(PLL ループでは位相オフセットと等価)。これは、原点付近の非直線領域 (チャージ・ポンプ・デッド・ゾーンと呼ばれることもあります)から遠ざけることによりチャージ・ポンプを直線化する効果を持ちます。図 1 に、この現象を説明します。

図1.ブリード電流のチャージ・ポンプへの効果

図1.ブリード電流のチャージ・ポンプへの効果

この固定電流オフセットなしでは、シグマ・デルタ量子化(dQ)ノイズが帯域内に折り返されるため、大きなノイズまたはスプリアスが発生します。シグマ・デルタ・ノイズの帯域内への折り返しは、ADF4157 やADF4158 で使用されているような高分解能シグマ・デルタ変調器で (モジュラス値が大きい場合)のみ発生します。これらのデバイスでは、最適な位相ノイズとスプリアス性能を実現するためにコンスタント・ネガティブ・ブリード電流を使用する必要があります。この電流は、モジュラス値が小さい非整数型N PLL または整数型N PLL に対しては不要です。

ADF4157 とADF4158 のコンスタント・ネガティブ・ブリードは、レジスタ 4 のビット DB[24:23]に 0b11 を設定すると使用可能になります。

位相ノイズとスプリアスに対するブリード電流の効果

コンスタント・ネガティブ・ブリードを使用すると、チャージ・ポンプ電流(ICP)の一定範囲でのみ位相ノイズと整数境界スプリアスが改善されます。ICP 値によっては、位相ノイズとスプリアスの性能が低下することもあります。この現象を、12.5MHz と25 MHz の2 つのPFD 周波数に対して測定しました。各PFD 周波数は、2 つの隣接整数チャンネルの近くでテストしました。各PFD 周波数に対するループ・フィルタ構成は、アペンディックスに示します。

測定値の記録方法

測定値は、EV-ADF4157SD1Z 評価用ボードで記録しました。ループ・フィルタは、各PFD 周波数に対して調整しました。

  1. 25 MHz のPFD 周波数を使って、ループを5800.001 MHz にロックしました。
  2. チャージ・ポンプ電流を最小値(0.31 mA)に設定しました。
  3. ネガティブ・ブリードをディスエーブルしました。
  4. 5 kHz オフセットでの位相ノイズと、1 kHz での整数境界スプリアスを記録しました。
  5. ネガティブ・ブリードをイネーブルしました。
  6. 5 kHz オフセットでの位相ノイズと、1 kHz での整数境界スプリアスを記録しました。
  7. 5 mA までの各チャージ・ポンプ電流設定に対してステップ3~ステップ 6 を繰り返しました。
  8. ループを5825.001 MHz にロックして、ステップ 2 ~ステップ 7 を繰り返しました。
  9. 12.5 MHz のPFD 周波数に対してループ・フィルタを変更し、12.5 MHz のPFD 周波数を使ってループを5800.001MHz にロックしました。ステップ 2~ステップ 8 を繰り返しました。

結果

PFD 周波数= 25 MHz


出力周波数= 5800.001 MHz

図2.5800.001 MHz での位相ノイズおよびIBSPFD 周波数= 25 MHz

図2.5800.001 MHz での位相ノイズおよびIBSPFD 周波数= 25 MHz

出力周波数= 5825.001 MHz

図3.5,825.001 MHz での位相ノイズおよびIBSPFD 周波数= 25 MHz

図3.5,825.001 MHz での位相ノイズおよびIBSPFD 周波数= 25 MHz

PFD 周波数= 12.5 MHz


出力周波数= 5800.001 MHz

図 4.5800.001 MHz での位相ノイズおよびIBSPFD 周波数= 12.5 MHz

図 4.5800.001 MHz での位相ノイズおよびIBSPFD 周波数= 12.5 MHz

出力周波数= 5825.001 MHz

図5.5,825.001 MHz での位相ノイズおよびIBSPFD 周波数= 12.5 MHz
図5.5,825.001 MHz での位相ノイズおよびIBSPFD 周波数= 12.5 MHz

結果の解析

図 2 から、25 MHz のPFD 周波数の場合、3.13~3.75 のチャージ・ポンプ電流の使用が、最適PN とIBS に対する最適オプションであることが分かります。これは、3.13~3.75 の値が両周波数に対して最適であることを示している図3 と矛盾しません。

図 4 と図5 から、12.5 MHz のPFD 周波数の場合、PN を改善するチャージ・ポンプ電流値はありませんが、4.06 以上のチャージ・ポンプ電流を使用すると、PN の大きな性能低下なしに、IBS の大幅な改善が得られることが分かります。

結論

PFD 周波数によっては、特定のチャージ・ポンプ電流でネガティブ・ブリードを使うと、整数境界スプリアスと位相ノイズが改善されることがあります。

別の PFD 周波数では、ネガティブ・ブリードを使っても位相ノイズの改善は得られませんが、整数境界スプリアスを大幅に改善することができます。この場合、最適整数境界スプリアスと最適位相ノイズとの間のトレードオフは、アプリケーションに依存します。

最適チャージ・ポンプ電流を見つけるためには、特定のアプリケーションのPFD 周波数でこのアプリケーション・ノートの測定を繰り返す必要があります。

アペンディックス

表 1.コンスタント・ネガティブ・ブリード対チャージ・ポンプ電流スケーリング
CP Current (mA) Bleed (µA) % Bleed
0 0.3125 100 32
1 0.625 200 32
2 0.9375 200 21
3 1.25 300 24
4 1.5625 600 38
5 1.875 700 37
6 2.1875 700 32
7 2.5 800 32
8 2.8125 100 4
9 3.125 200 6
10 3.4375 200 6
11 3.75 300 8
12 4.0625 600 15
13 4.375 700 16
14 4.6875 700 15
15 5.00 700 14

ループ・フィルタ


PFD 周波数= 25 MHz でのループ・フィルタ構成チャージ・ポンプ電流 = 2.5 mA。

ループ帯域幅         107 kHz
位相マージン         45°
C1                  560 pF
R1                  680 Ω
C2                  6.8 nF
R2                  1.2 kΩ
C3                  220 pF

PFD 周波数= 12.5 MHz でのループ・フィルタ構成チャージ・ポンプ電流 = 2.5 mA。

ループ帯域幅         101 kHz
位相マージン         47°
C1                  220 pF
R1                  1.2 kΩ
C2                  3.3 nF
R2                  2.7 kΩ
C3                  100 pF

著者

Robert Brennan

Robert Brennan

Robert Brennanは、アイルランドのリムリック大学の電子工学部を卒業し、2010年にアナログ・デバイセズに入社しました。アナログ・デバイセズのリムリック事業所にてRFアプリケーション・エンジニアとして数年間勤務した後、米国に移りました。現在は、マサチューセッツ州のRF/マイクロ波グループでマーケティング・エンジニアを務めています。主にPLL、VCO、PLL/VCOを集積したICを担当しています。現在は、エンジニアリング・マネージメント科学修士取得を目指してタフツ大学に通っています。