アプリケーション・ノート使用上の注意

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なお、日本語版のアプリケーションノートは基本的に「Rev.0」(リビジョン0)で作成されています。

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アプリケーション・ノート使用上の注意

AN-1024: マルチプレクサのセトリング・タイムとサンプリング・レートの計算方法

はじめに

このアプリケーション・ノートでは、スイッチとマルチプレクサ・スイッチのセトリング・タイムの計算方法について説明します。マルチプレクサの最大サンプリング・レートの計算方法についても説明します。

スイッチまたはマルチプレクサのセトリング・タイムの計算

スイッチまたはマルチプレクサが安定するために要する時間の基礎的な計算は、デバイスのRC すなわちRON × CD を計算して、これに必要とされるシステム精度の時定数の個数を乗算することにより評価することができます。この結果をスイッチまたはマルチプレクサのスイッチ・タイミング(TON、TOFF、またはTTRANSITION)に加算します。

安定に要する時間=スイッチング・タイミング+ (RON × CD ×時定数の個数)

ここで、
RONはスイッチのオン抵抗。
CDはスイッチのドレイン容量。
時定数の個数= −ln (%誤差/100)。

応答はスイッチと回路の抵抗と容量の関数であるため、セトリング・タイムを計算することができます。これは極が1 個のシステムと見なすことができるため、 表1 に示すように必要とされるシステム精度へ安定するために要する時定数の個数を計算します。

表1.単極システムで1 LSB 精度に安定するために要する時定数の個数
Resolution, No. of Bits LSB (%FS) No. of Time Constants = −ln (% Error/100)
6 1.563 4.16
8 0.391 5.55
10 0.0977 6.93
12 0.0244 8.32
14 0.0061 9.70
16 0.00153 11.09
18 0.00038 12.48
20 0.000095 13.86
22 0.000024 15.25

スイッチの動的伝達関数を図1 に示します。この図には、代表的なアプリケーション・セットアップでの1 チャンネルのスイッチとスイッチング時に影響を与える主要パラメータを示してあります。オン→オフとオフ→オンのポジション変化を行うときのスイッチのセトリング・タイムを計算する式を図1 に示します。

Figure 1. Dynamic Switch Transfer Function—Settling Time. 図1.スイッチの動的伝達関数—セトリング・タイム

図1.スイッチの動的伝達関数—セトリング・タイム

マルチプレクサのセトリング・タイムはスイッチと同じ方法で計算されますが、スイッチの場合に使ったTON/TOFF の代わりにマルチプレクサの変化時間を使う点が異なります(式A 参照)。

式A

TSETTLE MUX = TTRANSITION + [(RON × RLOAD/RON + RLOAD) × (CLOAD+ CD) × (時定数の個数)]

代表的なアプリケーション・セットアップでの10 ビット精度へのADG1208 のセトリング・タイムは、式A を使って計算することができます。

TSETTLE MUX = TTRANSITION + [(RON × RLOAD/RON + RLOAD) × (CLOAD +CD) × (時定数の個数)]

±15 V 電源での代表的なデータ・シート仕様を使うと、

RON = 120 Ω

CD (OFF) = 6 pF

アプリケーション・パラメータは、

RLOAD = 1 kΩ

CLOAD = 5 pF

TSETTLE MUX = TTRANSITION + [(RON × RLOAD/RON + RLOAD) × (CLOAD +CD) × (時定数の個数)]

TSETTLE MUX = 80 ns + [(120 × 1000/120 + 1000) × (5 pF + 6 pF) ×(6.93)]

TSETTLE MUX = 80 ns + 8.2 ns

TSETTLE MUX = 88 ns

マルチプレクサの最大サンプリング・レートの計算

式 B を使って、マルチプレクサの最大サンプリング・レートfS を計算します。

式B

fS = 1/[(TSETTLE MUX) (チャンネル数)]

ここで、TSETTLE MUX は式A を使って計算します。

ADG1208 の場合は、

TSETTLE MUX = 88 ns

チャンネル数= 8

これから最大サンプリング・レートは次のように求まります。

fS = 1/[(88 ns) (8)] = 1.4 MSPS

オンライン・セトリング・タイム・カルキュレータによるスイッチまたはマルチプレクサのセトリング・タイムの計算

スイッチ/マルチプレクサのセトリング・タイム・カルキュレータはアナログ・デバイセズのウェブサイトhttp://designtools.analog.com/dt/settleで提供しています。

Figure 2. Switch/Multiplexer Calculator Tool. 図2.スイッチ/マルチプレクサ・カルキュレータ・ツール

図2.スイッチ/マルチプレクサ・カルキュレータ・ツール

このカルキュレータは、縦続接続された低速なRC ネットワークの2 個の時定数を求め、次にシステムが最終値の1%、0.1%、0.01%、0.001%以内に安定するまでに通過する時定数の個数を計算することにより、マルチプレクサのセトリング・タイムを計算します。

このオンライン・セトリング・ツールは、セトリング・タイムをRC と時定数の個数との積として計算することに注意してください。スイッチング・タイミング(TON、TOFF、またはTTRANSITION)は含まれていません。

カルキュレータを使うときは、マルチプレクサのパラメータをRON (スイッチまたはマルチプレクサのオン抵抗)、CS(OFF) (ソース・オフ容量)、CD(OFF) (ドレイン・オフ容量)へ入力します。

アプリケーション・パラメータをRSOURCE、RLOAD、CLOAD へ入力します。Tab を使ってフィールド間を移動してテーブル表示を更新するか、 Calculate をクリックします。

一例として、オンライン・ツールを使って、ADG1208 マルチプレクサのセトリング・タイムを計算することができます。この場合も、±15 V 電源での代表的なデータ・シート仕様を使います。

RON = 120 Ω

CS (OFF) = 1.5 pF

CD (OFF) = 6 pF

アプリケーション・パラメータは、

RSOURCE = 0 Ω

RLOAD = 1 kΩ

CLOAD = 5 pF

図3 に示す10 ビット精度へのセトリングの場合、セトリング・タイムは9 nsと求まります。

Figure 3. Settling Time Calculator Showing the ADG1208 as an Example. 図3.セトリング・タイム・カルキュレータ―例としてADG1208 を使用

図3.セトリング・タイム・カルキュレータ―例としてADG1208 を使用

前述のように、このカルキュレータではセトリング・タイムの計算にはスイッチ・タイミング(TON、TOFF、またはTTRANSITION)が含まれず、システムのRC と時定数の個数との積を使って計算しています。スイッチ・タイミングの計算では、式A を使った計算に非常に近い値が得られます。

オンライン・カルキュレータによるマルチプレクサの最大サンプリング・レートの計算

また、オンライン・セトリング・カルキュレータは、S/H 入力を持つ従来型ADC に適用可能な最大サンプリング・レートも計算します。サンプリング・レートは 1/sqrt として計算されます。

[(TSETTLE+TTRANSITION) 2 + tPGA2 ]

この値はADCの和(tACQ + tCONV)より小さい値である必要があります。そうしないと、最大サンプリング周波数は後者により制限されます。最大サンプリング周波数の計算値は、セトリング・タイム値の右側にメガ・サンプル/secで示されます(図3 参照)。

このオンライン・ツールは、マルチプレクサの1 チャンネルの最大サンプリング・レートを計算します。マルチプレクサ上のスイッチするすべてのチャンネルの最大サンプリング・レートが必要な場合は、カルキュレータから得られたサンプル・レートをスイッチするチャンネル数で除算してください。図3 に示すように、カルキュレータはADG1208 の最大サンプリング・レートを11.24 MSPSと計算します。これは、1 チャンネルだけのスイッチングに基づいています。ADG1208 の8 チャンネルすべてをスイッチさせる場合は、この値を8 で除算する必要があります。ADG1208 の8 チャンネルの10 ビットへのセトリングでは11.24MSP/8 = 1.4 MSPSサンプリング・レートとなります。この場合も、式Bを使った場合と同じ結果が得られます。

著者

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Theresa Corrigan

Theresa Corriganは、アナログ・デバイセズのリメリック工場(アイルランド)のエンジニアです。