2.4GHz FHSS WLANアプリケーションのための効率37%の+23dBm PAとPAプリドライバ
要約
このアプリケーションノートでは、WLANアプリケーション用FHSS無線機のPAとPAドライバとして使用するMAX2644とMAX2242の設計トレードオフと測定性能について示します。バイアスおよびRFのレイアウトとマッチングを修正して、2450MHzでの性能を改善しています。-12dBmの入力電力で+23dBmの出力電力を達成しました。消費電流は3Vを加えたときに185mAです。
追加情報
現在、Bluetooth、HomeRF、およびDECT (欧州ディジタルコードレス電話)など、2.4GHz FHSS (周波数ホッピングスペクトラム拡散)アプリケーション用に最適化された多くのトランシーバが市販されています。これらのICの大多数では、送信電力が制限されているため、極めて短距離の送信に限定されています。多くのPCカードの製造業者は、競合他社製品に比べて自分たちの製品を差異化したいと考えており、外付けのPA (パワーアンプ)を付加して製品の送信距離を延ばしています。BluetoothとHomeRFでは、アンテナ端で+20dBm (100mW)の最大出力電力が可能であり、一方2.4GHz DECTでは、最大+24dBm (250mW)の送信が可能です。これらのアプリケーション用のPAは一般に、RFスイッチとデュプレクサ(PAとアンテナを分離する。図1を参照)で想定される3dBの損失を克服するために+23dBm~+27dBmの出力を供給することが求められています。バッテリ寿命を延長するため、BluetoothとDECTは、GFSK (ガウス周波数偏移変調)による変調を利用し、HomeRFは、2レベルおよび4レベルのFSKを使用しています。これにより、飽和PAの使用が可能となり、リニアパワーアンプに比べて電力効率が向上します。
図1. Bluetooth、HomeRF、およびDECT用の2.4GHz FHSS WLANトランシーバ
このアプリケーションノートでは、CSP (チップスケールパッケージ)構成(1.5mm x 2.0mm)のMAX2242 2.4GHz PAの性能を実証しています。これは、内蔵のパワーディテクタと0.5μA消費電流のシャットダウン機能をもつものです(図2を参照)。また、2.4GHz LNAのMAX2644を、ここではPAプリドライバとして使用しています。MAX2242 PAは、当初は2.4GHz IEEE802.11b DSSS (直接スペクトラム拡散方式)アプリケーション用として特性化されていました。DSSSアプリケーションの場合、このPAは+22.5dBmのリニア出力電力を供給し、310mAの電流消費において3.3V電源で-33dBcのACPR性能を達成します。このアプリケーションでの飽和出力電力は+26.5dBmであり、2.4GHzのDECT用としてはこのままで申し分のないものです。MAX2242は外付けの抵抗を使用して、デバイスのバイアス電流を設定しているので、基本的にこの設定により、特定のアプリケーションに合わせてデバイスの性能を調整することができます。ここでは、PA用として+23dBmという飽和出力電力の設計目標を設定しました。これは、PAとアンテナ間での約3dBの損失を想定した場合、アンテナ端で+20dBmを必要とするからです。市販のFHSSトランシーバICの多くは、-7dBm~-13dBmの出力電力しか供給できないため、PAを飽和させるだけの入力電力を加えるためにPAプリドライバが必要でした。17dBの小信号利得および+4dBmの出力P1dB圧縮ポイントを備えたMAX2644は、この理想的な候補となりました。
図2. MAX2242の代表的なアプリケーション回路
既存のMAX2242EVキットの性能と回路に変更を加えました。所望の性能を達成するためには既存の回路に少々の変更が必要でした。外付けバイアス抵抗を91kΩに変更しました。出力シャントコンデンサC2は、1.8pFから2.2pFに変更し、デバイスの出力から少しだけ遠ざけました(EVキットのレイアウトのノッチ5.5。出力プルアップインダクタから230ミル(約5.8mm)の点)。中間段のRFバイパスコンデンサC8を内側に移動し(C7とC8のパッドの間。パッドA2から70ミル(約1.8mm)の点)、C10を外側に移動しました(パッドA4から135ミル(3.4mm)。これらのコンデンサを移動することで中間段の利得を向上できました。この利得は、リニア動作でのデバイスのACPR性能を改善するために低下させていたものです。部品配置については、図3を参照してください。また、ボードレイアウトについては、MAX2242EVキットのデータシートを参照してください。
図3. MAX2242の+23dBmの部品配置ガイド
室温(TA = +25℃)にて、3.0V電源からの175mAの電流消費(電力付加効率すなわちPAEは37%)で+23dBmの飽和出力電力が得られるようにMAX2242を調整しました。出力電力、消費電流、利得、およびPAEを、入力電力、電源電圧、および周波数に対して測定しました(図4~7を参照)。このPAについての興味深い特性は、RF電力を取り除くと、電流消費が29mAに低下するというものでした。これに対し、競合のPAは150mA以上に留まりました(図8を参照)。PAの高調波成分も測定しましたが、最悪のケースでもスプリアスはキャリアよりも35dB下回りました。
図4. MAX2242 PAの出力電力と消費電流対入力電力
図5. MAX2242 PAの利得対入力電力
図6. MAX2242 PAの電力付加効率(PAE)対入力電力
図7. MAX2242 PAの出力電力対周波数
図8. MAX2242 PAの消費電流(RF電力を印可しない状態)
MAX2644 2.4GHz LNAをPAプリドライバとして選択した理由は、+4dBmの出力P1dB圧縮ポイント、17dBの小信号利得、8mAの低電流消費、および内蔵の出力マッチングネットワークを備えているからです。MAX2644 EVキットは、修正を必要とせず、標準のままで使用しました。このアプリケーションでは、MAX2644の出力電力と消費電流を、入力電力と電源電圧に対して測定しました(図9と図10を参照)。-13dBm~-7dBmの入力電力で駆動すると、MAX2644は3V電源により2.45GHzにて3dBm~6dBmの出力電力を提供します。
図9. MAX2644 PAのプリドライバ出力対入力電力
図10. MAX2644の消費電流対入力電力
MAX2644とMAX2242をカスケード接続した性能を、トランスミッタICで利用可能な出力電力の範囲について測定しました。この構成により、-12dBm~-5dBmの入力電力に対して+23dBmの出力が実現され、予想されるワーストケースの入力電力-13dBmでは+22.9dBmに低下しました(図11を参照)。電流消費は、3V電源で約185mAでした(図12を参照)。出力電力対周波数は、+23.3dBm (2.40GHz)から+22.8dBm (2.48GHz)まで、ほぼ一定に保たれていました(図13を参照)。
図11. MAX2644とMAX2242をカスケード接続した性能
図12. MAX2644とMAX2242の総消費電流対入力電力
図13. MAX2644とMAX2242をカスケード接続した出力電力対周波数
測定した性能を見れば、MAX2644とMAX2242が、最小限のボードスペースを求める低コストで低電流のFHSS無線機設計のPAとPAドライバ段として最高の選択肢であることがわかります。17dBの利得、2.45GHzにおける2.0dBのノイズ指数、および内蔵の出力マッチングを備えたMAX2644を受信経路のLNAとして選択することにより、コストを削減してシステムのダイナミックレンジをさらに向上することができます。