多くのロボット開発チームは、やがて同じ疑問にたどり着きます。半導体デバイスは有望であり、ベンチマーク数値も魅力的で、デモも問題なく動作します。それなのに、なぜ実用可能なロボットを市場に出すまでに、依然として18ヶ月もかかるのだろうか、と。その原因がプロセッサであることはほとんどありません。ポイントはプロセッサを取り巻く多くの要素なのです。
今日の自律型ロボット開発者が直面している課題は、どの演算モジュールが最高のピーク・スループットを提供するかではありません。「有望な多数の半導体デバイスの選択肢から、動作検証を終えた実用に耐えうるロボットへと、いかにしてより早くたどり着けるか」ということです。
マイクロコントローラからAI対応コンピューティングへ:新しい自律スタック
自律型ロボットのアーキテクチャは継続して変化しています。かつては分散型のマイクロコントローラ上で動作していました。各コントローラがセンシング、モーション、通信のいずれかの限られた領域を担当していたシステムは、より集中化されたAI対応のロボット用コンピューティングへと収束しつつあります。
AMD Kria™ AI Robotics Developer Platformは、この変化を映し出しています。このプラットフォームは、自律型ロボット向けのオープンで完全に統合されたプラットフォームをターンキーで提供するものです。工場用ロボットやAMRから移動型マニピュレータ、ヒューマノイドに至るまで、ロボティクスのすべての領域に対応しています。Kria AI Robotics Developer Platformは、コンセプトから設計、プロトタイプ作成に至るまでの開発プロセスを加速させることができます。この演算能力は、CPU、iGPU、NPU、および統合メモリ・リソースを単一の集積デバイスに搭載した「Kria AI SOM」によって実現されています。FPGAおよびADIのセンシングおよびコネクティビティ・スタックがSOMを補完するかたちで提供されています。
このプラットフォームは、AMD ROCmソフトウェアを基盤とするAMD Robotics Software Suiteによってサポートされています。Linux、ROS 2、PyTorch、TensorFlow、Docker、そして開発者が使い慣れたハードウェア・アクセラレータ対応の知覚ライブラリなど、オープンソースのランタイム・スタックを備えています。
この「使い慣れている」ということは重要です。多くのロボティクス・プログラムにおいてx86 Linuxは妥協策ではなく、最適な開発環境です。独自仕様のSDKの習得に時間を浪費する必要がないため、チームの開発スピードも向上できます。

ロボティクス・プログラムの推進を妨げる統合の課題
高性能なコンピューティング・プラットフォームであっても、統合作業には自律性とは全く関係のない膨大な時間が費やされます。これらの課題は十分に認識されているにもかかわらず、新しいハードウェアの設計のたびに、それぞれを最初から解決しなければなりません。これには、あらゆるプロジェクトでよく見られる5つの課題があります。
1) マルチカメラ配線の複雑さ
視覚認識に依存するロボットでは、4~6台から、それ以上のカメラ映像が必要になることがよくあります。多くのセンサーの配線を管理しつつ、信号の完全性、時間同期、カメラごとの電力供給を維持し、すべてを中央の演算ノードへ接続することは、それ自体が機械的、電気的な設計上の課題となります。
2) 実環境における位置推定
低照度の倉庫、反射性の高い床、特徴のない廊下など、カメラやLiDARの性能が低下しがちな環境では、慣性センシングが不可欠です。正確なタイムスタンプ機能とROS 2ドライバのサポートを備えた高安定性なIMUを統合するには、単なる調達における方針決定にとどまらず、キャリブレーションやソフトウェア統合の作業が必要です。
3) 深度処理のオーバーヘッド
深度センサーは高密度な3Dデータを生成しますが、このデータはリアルタイムでフィルタリング、位置合わせ、および他のセンサー・ストリームとの融合が必要です。ハードウェア・アクセラレーションされたパイプラインがなければ、この処理はホストCPU上で実行するナビゲーションや計画処理とリソースを競合します。
4) 安全性が極めて重要なモーション・コントロール
高精度なアクチュエーションを実現するには、バスを介して動作速度コマンドを送信するだけでは不十分です。モーター・コントロール・インターフェース、絶縁されたフィールドバス接続、エンコーダからのフィードバック、電流検出をすべて統合し、実環境における振動や温度変動の下で、システムとして正確に動作するか検証を行う必要があります。
5) ROS 2の立上げ時間
ロボット工学プログラムにおいて最も過小評価されがちなコストは、ROS 2を用いてハードウェア・サブシステムを動作させるために必要な開発時間です。すべてのセンサーとアクチュエータには、ドライバ、ハードウェア・バインディング、ROS 2ノード、検証済みのメッセージ・タイプやタイミングが必要です。汎用ボードを基にシステムを構築するチームは、これらすべてを自力で実装しなければなりません。
その結果、チームは部品の選定、キャリア・ハードウェアの構築、Linuxドライバの移植、センサーのタイミング検証、カメラの配線、そしてROS 2とのインターフェースといった作業に貴重な時間を費やし、サブシステムを一つずつ開発することになってしまいます。
単なる「脳」ではなく、ロボット対応の「神経システム」
AMDは、同社の新しいKria AI Robotics Developer PlatformとADIのソリューションを組み合わせることで、自律型ロボットの実現に独自のアプローチを提唱しています。単一のレイヤだけを最適化し、残りを開発者に任せるアプローチではなく、このコラボレーションが提供するものは、ロボットが実際に必要とするものです。すなわち、単なる「脳」ではなく、神経系のように機能する、検証済みのシステム・レベル・プラットフォームです。
Kria AI SOMは、ADIによって実現された、FPGAと一般的なロボット用インターフェースを備えたオープンなロボティクス・キャリア・カードが組み合わされています。これには、自動車分野で実績のあるGMSL™(ギガビット・マルチメディア・シリアル・リンク)による高速カメラ・コネクティビティ、慣性センシング、CAN-FD、RS-485、ギガビット/マルチギガビット・イーサネット、低遅延オーディオ伝送のための車載オーディオ・バス(A2B)、バッテリ管理用BMS、およびモーター・コントロール拡張機能が含まれています。
標準化されたCOM-HPCアーキテクチャにより、開発者は特定のキャリア設計に縛られることがありません。演算要件が変化した場合、チームはSOMを移行させますが、プラットフォームの他の部分はそのまま使用できます。
自律型ロボットが実環境への導入の段階へと進化するにつれ、安全性と信頼性は必須の要求となります。視認性が悪い環境をロボットは克服しなければなりませんが、まさにそこに、ADIの高精度で小型なMEMS慣性計測ユニット(IMU)ADIS16607が真価を発揮します。ADIによる先進的なセンサー・フュージョンに関する研究では、ビジョンとIMUを第2のモダリティとして組み合わせることで、主要なデータセットにおいてシステム堅牢性を大幅に向上できる、有望な結果が得られています。
演算性能の評価は、単にTOPSだけではありません。ロボティクスの動作環境は多岐にわたり、そこには知覚モデル向けの低精度トランスフォーマー推論と、高精度な従来型アルゴリズム、数値最適化、キャリブレーション、そして開発ワークフローのサポートが必要です。AMD Kria AI SOMに統合されたx86 GPUおよびNPUアーキテクチャは、これらの処理に対応できるよう設計されています。
ADIは、ロボットの物理インターフェースをこのプラットフォームに提供しています。具体的には、高安定性の慣性センシング、決定論的な深度処理、一本の同軸ケーブルで複数の映像信号を伝送できる長距離カメラ・リンク、モーター・コントロール用の絶縁型産業用通信デバイス、48 Vロボット用電源向けのバッテリ管理リファレンス・デザインなどです。
スクラッチからではなく、検証済みプラットフォームから始められる
このプラットフォームから得られる最重要なことは、同時に最も単純なことがらです。顧客は「Linuxをスクラッチから始めるのではない」ということです。
AMD Kria AI Robotics Developer Platformは、ADIのドライバが統合された検証済みのハードウェアおよびソフトウェアのプラットフォームです。インターフェースの特性評価は完了、ROS 2環境の準備も整っており、開発キットから実稼働用のSOM、そして適用されたロボット・システムに至るまでのプロセスが文書化されています。開発者は、最初の数週間をキャリア・ボード立上げ作業に費やすことなく、初日から自律機能の開発に着手できます。
多くの開発プログラムにおいて、この先行優位性は数ヶ月単位の差となります。
より完成度の高いシステムが待つ未来へ
今日、倉庫、工場、物流業務に導入されているロボットは、演算性能のベンチマークがその能力を制限しているのではありません。むしろ、演算機能周辺のすべてを構築するのにかかる時間とコストによって制限されているのです。確かに、AIをさらに活用する余地は常にありますが、長きにわたり基盤となるレイヤは「つぎはぎだらけ」の状態でした。
ADIとAMDは、この統合の問題を解決するプラットフォームを構築しました。それは検証済みの演算、センシング、コネクティビティ、モーター・コントロール、およびROS 2ソフトウェアを備え、導入初日から連携して動作できるように設計された、ロボット対応の神経系です。貴社のチームがプロトタイプ段階から量産段階へと移行しようとしているなら、そのプロセスをより迅速に進められるよう、私たちがお手伝いします。詳しくはAMDのページ、https://www.amd.com/en/products/system-on-modules/kria/ai/robotics-developer-platform.html をご覧ください。