リニア回路設計ハンドブック
第2章 その他のリニア回路
バッファ・アンプ
初期の高速回路では、高速バッファとして単純なエミッタ・フォロワがしばしば使用されました。バッファという用語は一般に、ユニティ・ゲインのオープンループ・アンプを意味するものとして受け入れられていました。マッチングのとれた PNP トランジスタが利用できるようになると、図 2.1A に示すように、単純なエミッタ・フォロワを改善することが可能になりました。この相補型回路は DC オフセット電圧の1 次キャンセルを可能にし、100 MHz を超える帯域幅を実現できます。マッチングしていないディスクリートのトランジスタを使用しても、トリミングなしのオフセット電圧(代表値)が通常は 50 mV 未満に なります。
高い入力インピーダンスが必要な場合は、図 2.1B に示すように、相補型エミッタ・フォロワの前に入力段としてデュアル FET を設置します。この方式のバッファ回路は、ナショナル・セミコンダクタ社のLH0033 やアナログ・デバイセズの ADLH0033 などに実装されました。
このような回路は、約 100 MHz の帯域幅と、代表値で –60 dBc より良好な優れた高調波歪み特性を達成します。ただし、500 未満の負荷を駆動する場合は、DC および AC で直線性がなくなります。
これらの機能を最初に完全なモノリシックで実現した IC の 1 つは、図 2.2 に示す、プレシジョン・モノリシック社(PMI)の BUF03 です(参考資料 1 参照)。PMI は現在、アナログ・デバイセズの 1 部門になっています。このオープンループ・バッファ IC は、2V のピーク to ピーク信号で約 50 MHz の帯域幅を達成しました。
設計の時点(1979 年頃)で利用可能であったほとんどの IC プロセス では、バーティカル PNP トランジスタは動作が遅く、帯域幅が制限されていました。そのようなバーティカル PNP トランジスタを不要にする技術を実証したという点で、BUF03 回路は興味深いといえます。
これまで述べてきたすべてのオープンループ・バッファの問題点の 1 つは、広い帯域幅は達成可能でも、負帰還の利点を活用していないという点です。オープンループ・バッファは、代表的なビデオ回路のインピーダンス・レベルである 50 Ω、75 Ω、100 Ω などの負荷が接続されると、歪みが増大し、DC 性能が大幅に低下します。解決策は、適切に補償された広帯域オペアンプをユニティ・ゲイン・フォロワ構成で使用することです。初期のモノリシック・オペアンプでは、プロセスの制約によりこれが不可能であったため、オープンループ方式が暫定的な解決策として広く採用されていました。
実際には、安定なユニティ・ゲインの電圧帰還型または電流帰還型のオペアンプはすべて、単純なフォロワ構成で使用できます。ただし、汎用オペアンプは、一般に広範囲のゲインおよび帰還条件で動作するように補償されています。そのため、特にユニティ・ゲインの非反転モードでは、帯域幅が低ゲイン時にやや減少するため、通常は追加の外部補償が必要になります。
1 つの現実的な解決策は、図 2.4 に示すように、所望のクローズドループ・ゲインになるようにオペアンプを補償し、同時にゲイン設定抵抗をチップに内蔵することです。この種のオペアンプは内部でバッファとして構成されており、一般には帰還ピンがないことに注意してください。また、抵抗と補償回路をチップに内蔵することによって寄生容量を低減することもできます。
このようにして最適化されたオペアンプは数多く存在します。Roy Gosser が設計した AD9620(参考資料2 参照)は、おそらく最も早くこの方法をモノリシックで実現したアンプです。AD9620 は 1990 年に製品がリリースされ、±5 V 電源を使用して 600 MHz の帯域幅を達成しました。これはユニティ・ゲインに最適化され、電圧帰還アーキテクチャを採用しています。同様の技術に基づいた新しいデザインにはAD9630 があり、750 MHz の帯域幅を実現しています。
BUF04 ユニティ・ゲイン・バッファ(参考資料 3 参照)は 1994 年にリリースされたデバイスで、120 MHzの帯域幅を達成します。このデバイスは大信号用に最適化され、±5 V ~ ±15 V の電源で動作します。BUF04 は広い電源電圧範囲で動作するため、スタンドアロンのユニティ・ゲイン・バッファとして使用できるだけでなく、出力を増大させるために標準的なオペアンプと共に帰還ループ内で使用することもできます。
バッファの一般的な定義はユニティ・ゲイン・デバイスですが、この用語はゲインが 2 の回路に使用されることもあります。ゲインが 2 のクローズドループ・バッファには、図 2.5 に示すように、伝送ライン・ドライバとして幅広い用途があります。
内部で固定ゲインに設定されたアンプは、ソースと負荷の終端による損失を補償します。50 Ω、75 Ω、100Ω というインピーダンスは、よく使用されるケーブル・インピーダンスです。AD8074/AD8075 は 500 MHzトリプル・バッファで、ゲインがそれぞれ 1 および 2 に最適化されています。AD8079A/AD8079B は 260MHz デュアル・バッファで、ゲインがそれぞれ 2 および 2.2 に最適化されています。
電圧帰還オペアンプを用いて高速ユニティ・ゲイン・バッファを構成する場合、通常は帰還ループに抵抗が不要なので、回路を大幅に簡略化できます。しかし注意していただきたいのは、これは 100 % 確実というわけではないということです。必ずデバイスのデータシートを確認してください。電流帰還オペアン
プを用いたユニティ・ゲイン・バッファは、一般に 500 Ω ~ 1000 Ω の範囲の帰還抵抗が常に必要です。したがって、基本的な部分だけでなく、使用する特定の電源にも適切な値を必ず使用してください。
ゲイン・ブロック
オペアンプではゲインを外付け抵抗で設定できますが、固定ゲインで動作するように設計されている回路もあります。これらのデバイスは通常は RF 用です。これらはまた、通常、入出力を内部で整合させた 50Ω 環境で動作するように設計されています。多くの場合、ゲイン・ブロックは数種類のゲイン設定のものが提供されています。
例えば、AD8354 RF ゲイン・ブロックはシングルエンドの入出力ポートを備えた固定ゲイン・アンプです。これらのポートのインピーダンスは、100 MHz ~ 2.7 GHz の周波数範囲で公称 50 Ω となっています。そのため、インピーダンス整合回路を必要とせずに直接 50 Ω システムに挿入できます。入出力インピーダンスは、温度や電源電圧の変動に対して十分に安定しており、インピーダンス整合補償は不要です。
差動入出力ゲイン・ブロックも提供されています。差動入力、シングルエンド出力のデバイス例としてはAD8129 があります(図 2.7 参照)。
AD8350 のような完全差動入出力デバイスも提供されています(図 2.8 参照)。
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