電源電圧が異なる回路間で信号を受け渡す場合の回路の保護
質問
電源電圧が高い回路から電源電圧が低い回路に対して信号線を引き渡す場合、保護用の手段としてショットキー・バリア・ダイオードを使うケースは少なくないと思います。
ただ、この種のダイオードは、リーク電流が多すぎて性能に問題が生じてしまうことがあります。これに代わる優れた保護手法はありませんか?
回答
電源電圧が高い回路から電源電圧が低い回路に信号線を引き渡すケースは少なくありません。ただ、オペアンプをはじめとする多くのICでは、絶対最大定格が電源電圧±0.3V程度で規定されているはずです。
この種の規定を守るために、信号を受け取る部分(例えば、オペアンプの入力部など)にはクランプ用のダイオードを正/負の電源との間に挿入することが多いでしょう。その際、電源電圧±0.3Vに抑えるという目的と照らし合わせると、ショットキー・バリア・ダイオードが適切な選択肢であるように感じられます。ところが、同ダイオードには、シリコン・ダイオードと比べるとリーク電流が2桁も多いという欠点があります。そのため、バイアス電流が大量にリークしてしまい、オフセット・エラーを引き起こしやすいといった問題があります。
質問者は、数百μV~数mVの電圧を計測する製品の設計を外部業者に委託したときに、この問題に遭遇しました。電源電圧の低い側の回路の入力部を保護するためにショットキー・ダイオードが挿入されていたのですが、入力信号が存在しないのに出力が発生しているかのような状態に陥っていたというのです。そのときは、マッチングの良いダイオードを選別してプラス/マイナスそれぞれのクランプ用として使い、何とか精度面の仕様に収まるように対策することができました。ただ、こうしたケースでは、実際にはどのような保護回路を使用するのが適切なのでしょうか。
1つの対策としては、TVS(過渡電圧サプレッサ)を使用するという方法が考えられます。アナログ・デバイセズの場合、シングルチャンネル用の「ADG465」や8チャンネル対応の「ADG467」といったTVSを提供しています。これらの製品は確かに保護回路として有用なのですが、用途によっては、電源電圧 -1.5Vでクリップしてしまうことがネックになることがあります。
実際、質問者が想定しているのは同一基板上の回路間に適用する保護回路であり、信号を受け取る側の電源電圧は3.3Vといった値です。そこから1.5V低いレベルでクランプしてしまうというのは許容できないと言います。
信号をきれいにクリップするには、相応のクランプ回路が必要です。そのクランプ用のダイオードとして、通常のダイオードではなく、トランジスタをダイオード接続にして使用する方法があります。このような方法の方が、リークなどについては良好な特性が得られる可能性があるからです。
例えば、NPNトランジスタのコレクタとベースを接続し、コレクタ側をアノード、エミッタ側をカソードとするといった具合です。特に、JFET(Junction Field Effect Transistor)をダイオード構成で使用すると、リーク電流の少ないクランプ回路を実現できます。
ただ、この方法が常に最適な解になるとは限りません。各アプリケーションの条件に応じて適切な方法は異なる可能性があり、これが“決定版”というものは存在しないと考えた方がよいでしょう。
ここからは、入力電圧が数mVのレベルのケースに適していると考えられる方法を紹介することにします。それは、オペアンプ(計装アンプを含む)を使用する方法です。入力保護回路を内蔵しているオペアンプ製品を使用すれば、必要に応じて外付け部品を簡素化することができます。
以下、入力保護回路を内蔵しているオペアンプはなぜ有効なのか、この用途にはどのような製品が適しているのか紹介します。
入力過電圧保護回路を内蔵するオペアンプ
一般的なオペアンプは、反転入力/非反転入力端子に外付けの保護回路が付加されていなければ、電源電圧以上の過電圧が印加された場合に生じる電流により、ラッチアップや出力の位相反転(Phase Reversal)といった異常動作が生じる可能性があります。それだけでなく、ESD保護用デバイス/入力デバイスの焼損や異常な電源電流の発生といった破壊的な状況に陥ることもあり得ます。
通常、電源電圧より高い入力電圧が印加される危険性がある場合には、図1、図2、図3のような外付けの保護回路を使い、過電圧によって生じる電流から入力部を保護します。



表1はそれぞれの方法の特徴をまとめたものです。
メリット | デメリット | |
差動ダイオード による保護 |
リーク電流が少ない 容量が小さい コストが安い |
外付けの素子が必要 |
ダイオード による保護 |
コストが安い | リークや容量は不定 高精度の用途には不向き 直線性が低下する |
専用素子 による保護 |
リーク電流が少ない 電源がオフしていても入力が保護される |
コストが高い リカバリ時間が長い |
あるいは、図4のように、IC内部のESD保護用ダイオードに頼る方法もあります。コストが余分にかからないという利点はありますが、保護の方法としてはこれでは不十分です。

オペアンプICのチップ上に、入力保護用の回路を集積できれば便利です。しかし、電流制限抵抗やダイオードの耐圧、リバース・ジャンクションの導通といった問題があることから、それは容易に実現できることではありません。ただ、そうした課題を解決して実現された製品も存在します。その1つが、「ADA4091-2」です。
同製品はレールtoレールの入出力を特徴とするオペアンプICであり、過電圧保護回路も内蔵しています(図5)。この回路によって、両入力端子ともに過電圧に対して保護されるようになっています。電源電圧よりも高い電圧が入力された際、外付けの入力保護回路が存在しなくてもダメージを受けることはありません。仮に、3Vの単電源で使用していて、±15Vといった信号が誤って入力されても問題は生じません。もちろん、過電圧が生じている状態では正常な動作(本来、期待されている動作)は得られませんが、出力の位相反転やラッチアップといった大きな問題が生じることはなく、IC本体にダメージが加わることもありません。また、入力信号が正常な範囲に戻れば、正常な動作に復帰します。

ADA4091の入力部にはブレークオーバー電圧が42Vのダイアックと5kΩの制限抵抗が付加されています。このダイアックは、ESD保護用のダイオードとは別のものです。より強力な保護を実現するために、外部にオプションで制限抵抗Rextを付加することができます。入力電流は5mAに制限する必要があります。ダイアックと抵抗により内部のアンプ回路が保護されるわけですが、両電源電圧から42Vまでの入力電圧が許容範囲です。例えば、このオペアンプを±15Vの電源電圧で使用している場合、保護回路を外付けすることなく、-27V~27Vまでの入力電圧に耐えられます。この入力保護回路が存在する状態で、オペアンプICとしては表2のような仕様が実現されます。
最大オフセット電圧 | 500μV |
最大バイアス電流 | 55nA |
帯域 | 1.5MHz |
電源電圧 | 3V~36V |
動作温度 | -40~125℃ |
オフセット・ドリフト | 1.1μV |
ノイズ | 25nV/√Hz |
最大消費電流 | 350μA/ch |
入出力の仕様 | レールtoレール |
パッケージ | 8ピン SOIC |
このアンプの入力保護回路は、実際には図6に示すようなやや複雑な構造を成しています。このような回路を外付け部品を使って構成しようとすると、リークや浮遊容量などを処理するために大変な目に遭うことになるでしょう。
図6において、D1、D2、D5、D6は一般的なESD保護用のダイオードです。これらのダイオードとR1、R2によって入力電流を5mAに制限します。入力電圧が電源レールから42V以上離れた値になると、D3、D4、D7、D8のダイアックがオンになり、電流は電源に対して流れるようになります。このとき、ダメージを避けるためには、外部への電流を5mAに制限する外付け抵抗が必要になります。

このICの最適な用途というのは、実は一概には言えません。ただ、最近は低い電源電圧で動作するアナログ回路やコンバータ回路が増えています。それらに対する入力信号を生成する回路は、必ずしも同じ値の電源電圧を使っているとは限りません。
例えば、ブリッジ・センサーの励起電圧が高い場合、正常に動作している間はよいのですが、電源のオン/オフ、ケーブルの断線、接触不良などが生じると、電源電圧より高い電圧がアナログICやコンバータICに入力される恐れがあります。そのため、それらのICの入力部にこのオペアンプを配置するという用途が考えられます。何らかの理由により入力に過電圧が加わったときに、後段への影響を防止するために使用できるでしょう。なお、電源電圧は3V~36Vまで対応するので、3Vの単電源でも、±15V以上の両電源でも使用できます。
このADA4091と似た特性を持つICとして「OP191 / OP291 / OP491」が挙げられます。これらのオペアンプは、電源電圧が高い外部の回路から高電圧が印加されてしまう可能性がある場合や、前段の回路の位相反転などによって高電圧が加わる可能性がある場合に、回路を保護しつつ信号を受け取る役割を果たすものとして使用できます。
もう1つ、「AD8221」というゲイン設定が可能な計装アンプも紹介しておきます。広範な周波数範囲全体で最高レベルのCMRR(同相ノイズ除去比)が得られる点を大きな特徴とします。市販の計装アンプの中には、200Hzの辺りからCMRRが低下する製品が少なくありません。それに対し、AD8221は、ゲインが1の場合に最小80dBのCMRRを10kHzまで維持することができます。そのため、広い帯域にわたる干渉や電源から生じる高調波を排除することが可能です。
これは、フィルタの条件を大幅に簡素化できるということを意味します。この製品のすべてのピンは、ESDに対する保護機構を備えています。また、入力構造が工夫されており、負電源 -VSよりも低いDC過負荷の状態を許容できるようになっています。+VSを超える電圧に対しては、入力に直列に外付け抵抗を接続して電流を制限する必要があります。いずれの場合でも、AD8221は6mAの電流を連続的かつ安全に流すことができます。
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アナログ電子回路コミュニティは、アナログ・デバイセズが技術者同士の交流のために提供していた掲示板サイトで、2018年3月に諸般の事情からサービスを終了しました。
アナログ電子回路コミュニティには日々の回路設計活動での課題や疑問などが多く寄せられ、アナログ・デバイセズのエンジニアのみならず、業界で活躍する経験豊富なエンジニアの皆様からも、その解決案や意見などが活発に寄せられました。
ここでは、そのアナログ電子回路コミュニティに寄せられた多くのスレッドの中から、反響の大きかったスレッドを編集し、技術記事という形で公開しています。アナログ電子回路コミュニティへのユーザ投稿に関するライセンスは、アナログ電子回路コミュニティの会員登録時に同意いただいておりました、アナログ・デバイセズの「利用規約」ならびに「ADIのコミュニティ・ユーザ・フォーラム利用規約」に則って取り扱われます。
また、英語版ではございますが、アナログ・デバイセズではEngineerZoneというコミュニティサービスを運用しています。こちらのコミュニティでは、アナログ・デバイセズの技術に精通した技術者と交流することで、設計上の困難な課題に関する質問をしたり、豊富な技術情報を参照したりすることが出来ます。こちらも併せてご活用ください。
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