DC/DCコンバータは、なぜ軽負荷時に不安定になるのか?

DC/DCコンバータは、なぜ軽負荷時に不安定になるのか?

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質問

負荷が軽いとき、または負荷が存在しないときに、DC/DCコンバータの動作が不安定になります。
なぜこのようなことが起きるのでしょう?

 

 

回答

リニア・レギュレータの代わりに、スイッチング方式のDC/DCレギュレータ(DC/DCコンバータ)が使用されるケースが非常に増えてきました。

1つの背景としては、電池で駆動するタイプの機器が増加していることが挙げられるでしょう。最近では、外付け部品の点数を抑えた非常に使いやすそうなDC/DCコンバータ製品も増えています。

実際、想定している負荷電流が流れている場合には、容易に良好な動作が得られることがほとんどであるはずです。ところが負荷が軽くなったとき、特に負荷が存在しない状態に近づいたときに、動作が不安定になってしまうことがあります。なぜ、このようなことが起きるのでしょう。そして、設計面ではどのような対策を施せばよいのでしょうか。

 

原因は、伝達関数の違い

一般に、DC/DCコンバータは、定格の負荷が存在する場合と負荷が存在しない場合とでは異なる伝達関数で動作します。これについては、コイルの特性が関連しています。負荷が軽い場合、コイルには電流不連続モード(DCM:Discontinuous Current Mode)で電流が流れます。

一方、負荷が重い(定格負荷である)場合には、電流連続モード(CCM:Continuous Current Mode)で電流が流れます。それぞれの特性をモデル化した場合、同じコイルでありながら(動作が非線形であるため)異なるモデルになるということです。そのことが原因で、負荷が軽くなったときに、動作が不安定になってしまうことがあります。

問題の解決に向けた最も適切なアプローチは、最初に、対象とするDC/DCコンバータの評価を行うことです。具体的には、そのループ・ゲインを測定し、ボーデ線図を作成します。その結果を基に、適切な位相補償回路を付加することが主要な対策になります。手元に適切な計測器が存在しないといった理由でこのようなことが行えない場合、カット&トライで対応することになりがちです。その結果、仮に安定な状態が得られるようになったとしても、どの程度の位相余裕を確保できているのかわからず、不安要素を抱えてしまうことになります。

では、実際の評価や調整の作業としてはどのようなことを行えばよいのでしょうか。

ここでは、モジュール化されたDC/DCコンバータを例にとってその手順を示します。また、評価に使用する計測器としては、NF回路設計ブロックの周波数特性分析器「FRA」を使用することにします。このFRAを、図1に示すような形でDC/DCコンバータに接続します。

 

図1. ループ・ゲインの測定方法

 

このような構成でループ・ゲインを測定し、その結果をプロットしたものが図2のボーデ線図です。

 

図2. ループ・ゲインの特性例

 

ご覧のように、周波数が約300Hzのポイントでゲインが0dBになっています。そのとき、位相余裕は90°以上確保できているので、DC/DCコンバータ全体としては安定していると言えます。

ただし、この図からは懸念点も読み取れます。というのは、もう少しエラー・アンプのゲインを高めると不安定になる可能性があるということです。

位相のプロットを見ると、1.8kHz付近に上昇カーブが描かれています。このカーブの頂点が0のラインよりも上に達すると、確実に発振します。このような情報を基に、位相補償回路の追加をはじめとする調整作業を行うことになります。 そうした対策を容易化するための1つの策として、「デジタル電源」を採用するという手もあります。

アナログ・デバイセズもデジタル電源(デジタル・パワー・システム・マネージメント)を製品化しており、ラインアップも充実しつつあります。

デジタル電源では、IC自身が自動的にDCMとCCMを判定してループ・フィルタの伝達関数を適切に調整します。DSPの複雑な設計は不要で、所望のスペックを入力することによってパラメータの設定を実施してくれるツールも充実していく見込みです。

なお、非常に負荷が軽い場合の動作については少し注意が必要です。

DC/DCコンバータは片方向にしか電流を流せません。負荷が無くなった瞬間には、出力コンデンサが充電されている状態にあり、なおかつ内部抵抗による電圧降下も生じなくなります。そのため、この過渡的な瞬間には、線形なループ特性の動作から外れた挙動を示します。言い換えると、計測器で取得したループ特性が当てはまらない状態になる可能性があるということです。

例えば、ダミーの抵抗を付加することで完全に無負荷の状態が生じないようにするという対策も考えられます。ただ、その場合は無駄な消費電力が発生してしまうことには目をつぶる必要があります。

 

現実に発生した問題

上述したような問題が生じた具体的な例を紹介しておきます。

あるユーザが「ADuM5000」を使用した際に遭遇した事例です。同製品は、アナログ・デバイセズの iCoupler®を適用した絶縁型DC/DCコンバータです。

そのユーザは、同製品のVDD1ピンに3.3Vを入力し、VISOピンから3.3Vの出力電圧を得るという使い方をしていました。このとき、入力側を素早くオン/オフすると、出力が4Vになったり、0Vになったりするという状況に陥ったと言います。

その原因は、出力に10μFのコンデンサを接続していたことでした。入力をオフにし、この出力コンデンサが完全に放電する前に再び入力をオンにすると、そのような不安定な状態に陥ってしまうということだったようです。

この例では、出力に510Ωのダミー抵抗を付加することで対処したとのことです。

もう1つ事例を紹介しましょう。あるユーザが、PWM(Pulse Width Modulation)/PFM(Pulse Frequency Modulation)切り替え式のICを使用してステップダウン型のDC/DCコンバータを構成していました。そのDC/DCコンバータは、負荷が軽くなるとPFMモードに遷移し、スイッチング周波数が可聴帯域内(20Hz~20kHz)まで低下します。その結果、コイルから音が生じてしまうという問題に遭遇してしまったのです。

この例ではコイルでしたが、実際にはコンデンサから音がする場合もあります。負荷が軽いときの問題なので、電流量は少なく、音も小さいはずです。それでも、DC/DCコンバータの位相補償がうまく行えず、低調波発振を起こしてしまい「ピー」といった音が聞こえるというのはよくある話です。

もしそのような状況に遭遇したら、最少負荷電流というスペックを定めたり、20kHz以下でスイッチングしないようにしたりといった対策を行います。あるいは、位相補償用の周辺部品、出力コンデンサ、インダクタなどを調整する方法や、負荷が小さいときには強制的にPWMモードで動作させる方法などを適用します。DC/DCコンバータの販売元に連絡し、フィールド・アプリケーション・エンジニアから適切なサポートを得るのもよいでしょう。

 

シミュレーションも有効な手段

DC/DCコンバータに関する問題の解析/対策においては、シミュレーションも有効な手段となります。

ここでは、そのためのツールとして「SIMetrix/SIMPLIS」を紹介しておきます。その「イントロ版」は無償ダウンロードできます。このツールは、アナログ・デバイセズの電圧レギュレータ設計ツール「ADIsimPower」を利用する標準的な設計フローにも組み込まれています。また電源回路のシミュレーションに適したツールとしては「SCAT」も有名です。現実の回路に対してカット&トライを繰り返す前に、シミュレーションを活用してみるのもよいでしょう。

 

注釈:記事中の画像は、HN:NickNameHama さんより、アナログ電子回路コミュニティへ投稿されたものです。

 


 

アナログ電子回路コミュニティとは

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ここでは、そのアナログ電子回路コミュニティに寄せられた多くのスレッドの中から、反響の大きかったスレッドを編集し、技術記事という形で公開しています。アナログ電子回路コミュニティへのユーザ投稿に関するライセンスは、アナログ電子回路コミュニティの会員登録時に同意いただいておりました、アナログ・デバイセズの「利用規約」ならびに「ADIのコミュニティ・ユーザ・フォーラム利用規約」に則って取り扱われます。

 

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