アイソレーション技術の開拓に尽力
エンジニア・スポットライト
アイソレーション技術の開拓に尽力
Baoxing Chenは、中国の南京大学で物理学の理学士号を取得し、ミシガン大学で物理学の博士号を取得した後、1997年にアナログ・デバイセズに入社しました。Baoxingと彼のチームは2001年、初のiCoupler®製品であるADuM1100をリリースしました。iCouplerは、医療機器、プラズマTV、ハイブリッド車、産業機器などの様々なアプリケーションに必要な絶縁境界を提供する革新的な技術です。絶縁境界は、オペレータと機器を数千ボルトのサージから保護します。Baoxingは、アナログ・デバイセズの社内と業界の両方で、絶縁および集積化磁気技術の専門家として認められており、優れた人材を募ってチームを編成し、指導に当たっています。また、Isolation Groupの創設以来リーダーシップを発揮するだけでなく、製品の定義、戦略的計画、主要顧客とのやり取りに関するビジネス関連の責任も負っています。これまでに外部の主要出版物向けに30編以上の論文を執筆し、特許の保持数も50件以上に及びます。
名声を得るきっかけとなったアナログ・デバイセズ技術について
iCoupler:完全統合型の信号と電源の絶縁。フォトカプラは、超小型電子機器における絶縁の標準として長年にわたり使用されていました。データ・レートの急速な向上に対応するかたちで集積回路の高密度化と高度化に基づく大幅な小型化への動きが進む中、フォトカプラのサイズが大きくなり、プログラマビリティが本質的に欠如していることは、フォトカプラの限界を浮き彫りにしました。フォトカプラでは、産業用通信バス(1990年代後半のRS-485など)における絶えず増大する帯域幅ニーズを満たせません。iCouplerデジタル・アイソレーションにより、データ・レートが大幅に向上するだけでなく、小型化とデジタル・プログラマビリティも可能になります。iCouplerデジタル・アイソレーションでは、速度が10倍以上向上する一方で、消費電力は100分の1以下に減少します。フォトカプラ技術には、その信頼性と長期的な堅牢性に関連したもう1つの重大な限界があります。フォトカプラの電流伝達率(CTR)は時間とともに著しく低下します。一方、iCouplerデジタル・アイソレータはソリッドステートの磁気結合に依存しているため、時間の経過に伴う信号の劣化がなく、信号とデータの整合性が保証されます。
信号とデータの絶縁分離が必要となる多くのアプリケーションでは、電源も絶縁する必要があるのが一般的です。従来、電源の絶縁には大型の絶縁型DC/DCコンバータが使用されていました。これらのDC/DCコンバータには、ディスクリート・トランスとダイオードが使われています。iCouplerデジタル・アイソレータは、ICタイプの小型デバイス1台で信号/データと電源の絶縁分離を実現するため、スタンドアロンのフォトカプラとDC/DCコンバータに取って代わることができ、設置面積とサイズの大幅な縮小に貢献します。アナログ・デバイセズのiCouplerデジタル・アイソレータは、絶縁業界に大変革を起こし、大型で高額かつ分離された機械式ソリューションであった絶縁機能を、半導体ベースのモダン・ソリューションへと刷新しました。アナログ・デバイセズはこのように業界を変革した後も、ますます高度化および集積化するモダン・マイクロエレクトロニクスの世界でリーダーシップを発揮し続けています。
この技術が人々の生活をどのように向上させるかについて
従来の分離型絶縁ソリューションにはない魅力的な利点を備えたiCouplerデジタル・アイソレーションは、産業オートメーション、計測器、モータ・コントロール、電源、エネルギーの生成と貯蔵などの幅広いアプリケーションに採用されています。アナログ・デバイセズは、35億を超えるチャンネル出荷数を誇るデジタル・アイソレーションのリーダーです。ますます増加している最新式の医療計測器では、地絡の発生時に致命的な電気ショックから人間の心臓を保護するための絶縁が必要です。また、iCouplerデジタル・アイソレータは、高信頼でコンパクトかつ設計が容易な患者モニタリング機器の開発を可能にします。この良い例としては、iCoupler対応の統合型USBアイソレータによって強化されたECG機器にはUSB接続が必要なことが挙げられます。iCouplerは、超音波システムや内視鏡システムなどの医療画像アプリケーションにおいて患者の安全とビデオの精度を同時に実現します。iCouplerに固有の高速絶縁機能(ギガビット絶縁)により、安全機能が組み込まれた、非常に高解像度の医療用画像システムの構築が簡素化されます。診断の大幅な高速化と精度の向上を促進する4K以上の最新式ディスプレイをこれらのシステムでサポートする必要性はますます高まっています。
iCoupler技術は、環境的持続可能性においても重要な役割を果たします。特に電化の役割は、輸送とクリーン・エネルギー生成の両方の分野で拡大しています。iCouplerは、家庭、商業、グリッドの各レベルで太陽光発電の効率化のために使用されています。電気自動車では、iCoupler絶縁型ゲート・ドライバがトラクション・インバータで重要な役割を果たすだけでなく、自動車の蓄電システムの重要な機能向上にも貢献し、航続距離の増加に加え、急速充電および蓄電も可能になっています。
想像を超える可能性に向け、お客様を支援
iCouplerは、堅牢で容易に導入可能な信号、データ、および電源の絶縁分離機能を提供し、お客様のシステム設計を簡素化して、安全性とデータの完全性を保証し、市場投入までの時間を短縮します。優れたEMC耐性によって、システム・パフォーマンスを損なうことなく、信頼性の高いシステム動作が保証されます。iCouplerが絶縁関連のペナルティを排除するため、お客様は絶縁について心配することなくシステムの最適化に集中できます。これによりお客様は、安全性について懸念せずに、より良い未来のための作業に専念できるようになります。
この技術の魅力的な要素について
iCouplerは、ポリイミドを使用したロックステップで動作するにあたり半導体スケールのマイクロトランスの集積化に依存しています。ポリイミドは、最大20kVのサージ電圧に耐える絶縁バリアを提供する能力に優れた、先進的で柔軟性の高い絶縁材料です。iCouplerには、非常に微細な同様の集積化で電源を絶縁分離できるという、他のどの絶縁ソリューションにもない追加の利点があります。つまり、データと制御信号だけでなく電源もすべて1つの小さなフットプリントにまとめることができ、比類のないレベルの集積化と小型化が実現します。トランスの高いコモンモード過渡耐圧は、SiC(炭化ケイ素)とGaN(窒化ガリウム)を含む次世代WBG(ワイドギャップ)電源スイッチの駆動と制御などの分野において、厳しいタイミング要件を持つアプリケーションにi技術を展開することを可能にするもう1つの機能です。最後に、iCoupler技術は高速化の可能性も切り開いています。1ギガビット/秒を超えるデータ・レートで絶縁できるため、急速に増加し高速化するデータを安全かつ確実に転送する必要のある環境においても、超高解像度の医療用画像処理や診断など、様々な新しい分野での応用が可能です。
この技術でのアナログ・デバイセズの専門技術の活用について
集積型アイソレーション技術であるiCouplerは無比の存在です。アナログ・デバイセズでは、フル機能シグナル・チェーンのリーダーとしての専門技術をベースに、高度に複雑なシグナル・チェーンを結合して簡素化する高集積ソリューションにiCoupler技術を組み込む取り組みを続けています。iCoupler技術と高精度A/Dコンバータの集積はその例であり、電力量監視とモータ・コントロールの分野の重要なアプリケーションに対応する、極めて高性能かつ導入が容易なセンシング・シグナル・チェーンを生み出しています。アナログ・デバイセズのiCoupler技術をRS-485からCAN USBまでの様々な通信トランシーバー・プロトコルと統合すると、フル機能の通信PHYが実現するだけでなく、組み込みの安全性とデータ整合性に基づく、容易に導入可能で認定されたエンドtoエンドのソリューションももたらされます。
アナログ・デバイセズでの仕事と能力開発について
私は物理学の博士号と電子工学の修士号を取得するなど、教育面の土台はしっかりしていましたが、市場のニーズに関する知識はほとんど持たない状態で、大学院を卒業してすぐにアナログ・デバイセズに入社しました。幸いにも、適切な課題に取り組む機会に恵まれ、高度な技術ラボ構想をアナログ・デバイセズの数百万ドル規模のビジネスに成長させることができました。これが可能となったのも、アナログ・デバイセズのDNAであるメンターシップ、チームワーク、革新的な思考があったからです。アナログ・デバイセズに流れる起業家精神とコラボレーション精神は、優れた技術を開発するだけでなく、さらなるイノベーションを今後生み出す次世代の優れた人材も育んでいます。
アナログ・デバイセズで働き続ける理由とその魅力について
私がアナログ・デバイセズで働き続けているのは、極めて困難な課題に取り組み、社会やビジネスに大きな影響をもたらすことができるからです。また、同じ志を持つ革新的な考えの同僚と場所を問わず連携できる機会にも恵まれています。アナログ・デバイセズの特別な点は、「想像を超える可能性」に向けて難題に取り組むエンジニアによる、優れたエンジニアリング文化が確立されていることです。イノベーションこそが当社の生命線であるという認識を全員が共有しています。アナログ・デバイセズが市場の追従者ではなく先導者であるという点に、特に魅力を感じます。
若手エンジニアに求める点について
学際的な知識と学習意欲です。より完全なソリューションがお客様とその顧客から求められるようになる中、私たちは知識の幅を広げ、回路から物理学、材料、機器、プロセス、システムまでを網羅すると共に、お客様とパートナー企業のアプリケーションの最終的な用途により深く関与する必要があります。学習してそれを成功に結び付ける俊敏性が必要です。課題は常に付いて回ります。その意味で粘り強さと熱意が重要です。アナログ・デバイセズでは、正式なものと略式なものを含め、様々なメンタリング機会が提供されています。上級レベルのエンジニアと若手エンジニアが同じプロジェクトに共に取り組み、OJT形式で学べることが大切です。
仕事以外の何に情熱を注いでいるかについて
読書に加え、スポーツ観戦(特にフットボール)も好きです。フットボールに興味を持つようになったのは、フットボール・プログラムが盛んなミシガン大学に在学中でした。Tom Bradyがミシガン大学のチームでプレーしていた時代です。彼は私の大好きな選手であり、彼を応援する気持ちはペイトリオッツに入団した後も続きました。私が共感を覚えるペイトリオッツの「Do Your Job」精神は、アナログ・デバイセズのiCouplerチームを的確に言い表した言葉です。iCouplerの成功は、各自の任務を粛々と影で果たしている多くの社員の努力のたまものです。