TNJ-050:LTspiceでアクティブ・フィルタのノイズ解析(中編) サレン・キー型と多重帰還型アクティブ・フィルタを比較し、ローノイズ化を図るためにLT1128を使ってみる

はじめに

ひとつ前の技術ノートでは、LTspice を使って「アクティブLowPass Filter(LPF)」のノイズ特性に関して、その基本的な考え方や特性自体について検討してみました。𝑄値が大きくなってくると、信号ゲインのピークよりも、ノイズ・ゲインのピークのほうが上昇率が高くなることが分かりました。

アクティブ・フィルタのノイズ性能だなんて、書籍やWebの記事でもこれまで見かけたことがありませんでしたが、相当オモシロイものだということが分かりました。

今回の技術ノートでは、どうすればローノイズなアクティブLPF を実現できるかを考えていきます。ここまで見てきたサレン・キー型LPF と多重帰還型LPF のノイズ特性の違いを検討し、OP アンプを超ローノイズOP アンプ LT1128 に変えてシミュレーション実験もしてみます。

 

サレン・キー型と多重帰還型LPF を比較する

まず異なるアクティブ・フィルタのトポロジー(構成)で、ノイズ特性がどう変わるかを見ていきます。ここで「異なるトポロジー」としては、前回の技術ノートでみてきた「サレン・キー型」と、これから説明していく「多重帰還型」で考えてみます。

図1 は前回の技術ノートの図4 の再掲です。これはサレン・キー型LPF の特性を確認するLTspice のシミュレーション回路です。図2 のシミュレーション結果(前回の技術ノートの図5 の再掲)では、𝑄 = 4, 3, 2, 1, 1/√2, 0.5 として、回路の𝑄値(QualityFactor)を変えてシミュレーションしています。𝑄値を変えることで、カットオフ周波数において信号ゲインのピークが18dBほど変化していることが分かります。

「なぜ𝑄値の異なるものを考えるか?」ですが、高次なアクティブ・フィルタ(切れのいい、という意味)では、𝑄値の異なる図1 のような2 次アクティブ・フィルタ回路をカスケード(従属)に接続していき、多段フィルタとして目的の特性を実現するからです。

 

多重帰還型LPF と周波数特性を比較する

図3 は多重帰還型LPF の特性を確認するLTspice のシミュレーション回路です。図4 にシミュレーション結果を示しますが、図1 や図2 と同じように、𝑄 = 4, 3, 2, 1, 1/√2, 0.5 として回路の𝑄値を変えてシミュレーションしています。この図4 の結果は図2 と全く同じだということが分かります。信号ゲインのピークの変動も18dB になっています。これにより「回路動作としては、このふたつのフィルタ回路(サレン・キー型と多重帰還型)は同じもの」ということが確認できました。

さて、それではノイズ特性は一体どうなるのでしょうか。

図1. サレン・キー型フィルタ(カットオフ周波数1kHz。前回の技術ノート図4 再掲)
図1. サレン・キー型フィルタ(カットオフ周波数1kHz。前回の技術ノート図4 再掲)
図2. 図1 の回路の 𝑄値ごと(𝑄 = 4, 3, 2, 1, 1/√2, 0.5)による入出力振幅伝達特性(前回の技術ノート図5 再掲)
図2. 図1 の回路の 𝑄値ごと(𝑄 = 4, 3, 2, 1, 1/√2, 0.5)による入出力振幅伝達特性(前回の技術ノート図5 再掲)
図3. 多重帰還型フィルタ(カットオフ周波数1kHz)
図3. 多重帰還型フィルタ(カットオフ周波数1kHz)
図4. 図3の回路の 𝑄値ごと(𝑄 = 4, 3, 2, 1, 1/√2, 0.5) による入出力振幅伝達特性
図4. 図3の回路の 𝑄値ごと(𝑄 = 4, 3, 2, 1, 1/√2, 0.5) による入出力振幅伝達特性

 

多重帰還型LPFのほうがノイズ特性が悪い

図5のようにサレン・キー型LPFと多重帰還型LPFで、それぞれノイズ・シミュレーションを実行してみました。ノイズ特性は多重帰還型LPFのほうが悪いことが分かります。「回路動作としては、このふたつのフィルタ回路(サレン・キー型と多重帰還型)は同じもの」なわけですが(信号極性は反転しますが)、ノイズ特性は同じではないのですね…。

OPアンプ出力で得られる全ノイズ電圧実効値(rms値)の計算を、CTRLを押しながらグラフ領域のV(onoise)のラベルを左クリックする、という操作でやってみました。

サレン・キー型が20.5µVrms、多重帰還型が25.2µVrmsとなり、多重帰還型でのSNR(Signal to Noise Ratio; SN比)の劣化は1.8dBとなりました(まあ、それ程大きな差異ではありませんが)。

 

多重帰還型LPFのノイズ密度スペクトルが大きい原因を考察する

ノイズ特性は多重帰還型LPFのほうが悪いことが分かりました。この原因はどこから来ているのでしょうか。その確認のため、多重帰還型LPFのノイズ・ゲインをシミュレーションする回路を図6のように作ってみました。

ノイズ・ゲインは「その回路を非反転増幅回路として考えたときのゲイン」なので、この回路構成でノイズ・ゲインのシミュレーションができることも納得できるでしょう。

シミュレーション結果を図7に示します。𝑄 = 4の場合のノイズ・ゲインは33.8dBあり(サレン・キー型は30.3dB)、𝑄値を変えて𝑄 = 4, 3, 2, 1, 1/√2, 0.5としたときのノイズ・ゲインの変動幅は28.6dB(サレン・キー型は26.6dB)になっています。また回路が反転増幅回路構成になっているので、DCでのノイズ・ゲインも6dB(サレン・キー型の場合は0dB)になっている、という違いもあります。

OPアンプの入力換算ノイズが、このノイズ・ゲインで増幅されて出力に現れるわけです。

(a) サレン・キー型LPFのノイズ密度スペクトル(𝑄 = 4)
(a) サレン・キー型LPFのノイズ密度スペクトル(𝑄 = 4)
(b) 上記の全ノイズ実効値は20.5μVrms
(b) 上記の全ノイズ実効値は20.5µVrms
(c) 多重帰還型LPFのノイズ密度スペクトル(𝑄 = 4)
(c) 多重帰還型LPFのノイズ密度スペクトル(𝑄 = 4)
(d) 上記の全ノイズ実効値は25.2μVrms
(d) 上記の全ノイズ実効値は25.2µVrms
図5. サレン・キー型LPFと多重帰還型LPFの ノイズ密度スペクトルとrmsノイズを比較する
図6. 多重帰還型LPFのノイズ・ゲインを シミュレーションする回路
図6. 多重帰還型LPFのノイズ・ゲインを シミュレーションする回路
図7. 図6の回路の 𝑄値ごと(𝑄 = 4, 3, 2, 1, 1/√2, 0.5) によるノイズ・ゲインの変化
図7. 図6の回路の 𝑄値ごと(𝑄 = 4, 3, 2, 1, 1/√2, 0.5) によるノイズ・ゲインの変化

 

LT1128にOPアンプを交換してノイズ特性を考える

ここまでOPアンプはAD8091というものを用いました。今更ですがAD8091をご紹介すると、AD8091は高速レールtoレールOPアンプで低価格な製品です。

http://www.analog.com/jp/ad8091

【概要】

AD8091 (シングル)とAD8092 (デュアル)は、低価格、電圧帰還の高速アンプであり、+3 V、+5 V、±5 Vの電源で動作するように設計されています。これらのデバイスは、負側レールの下側200mVまで、かつ正側レールの内側1Vまでの入力電圧範囲を持つ真の単電源動作機能を備えています。

低価格にもかかわらず、AD8091/AD8092は全体に渡って優れた性能と多様性を提供します。出力電圧の振幅はそれぞれのレールの25mV以内と拡張されており、優れたオーバドライブ回復特性を備え、最大出力ダイナミックレンジを提供します。

・・・

AD8091はG = +1で-3dB帯域幅が110MHzという高速なものです。このような高速OPアンプをカットオフ周波数1kHzのアクティブ・フィルタに用いた理由ですが、この技術ノートではお話ししていませんが、アクティブLPFが高域でも正しい性能を出すためには(とくにサレン・キー型では)、カットオフ周波数よりも十分に高い周波数特性をもつOPアンプを使用する必要があるからです。そうしないと減衰域で適切な減衰量を確保することができないのです(次の技術ノートの最後にその話題も少し説明します)。

 

超ローノイズOPアンプLT1128に交換してみる

実はAD8091は電圧性ノイズ特性がそれほど良いものではありません…。電圧性ノイズはノイズ・ゲイン倍で出力に現れるため、この特性に注意する必要があります。

そこで図1のサレン・キーLPF回路のOPアンプを、超ローノイズOPアンプLT1128に交換してみます。そのLT1128は

http://www.analog.com/jp/lt1128

【概要】

LT1028(利得-1で安定)/LT1128(利得+1で安定)では、0.85nV/√Hz(1kHz)および1.0nV/√Hz(10Hz)など新しいノイズ性能の規格が得られます。この超低ノイズとともに優れた高速仕様(利得・帯域幅積がLT1028では75MHz、LT1128では20MHz)、無歪み出力、および高精度パラメータ(0.1µV/°Cのドリフト、10µVのオフセット電圧、30,000,000の電圧利得)が得られます。LT1028/LT1128の入力段はほぼ1mAのコレクタ電流動作によって低電圧ノイズを達成していますが、入力バイアス電流はわずか25nAです。

LT1028/LT1128の電圧ノイズは50Ω抵抗のノイズ以下です。したがって、低ソース・インピーダンスのトランスジューサまたはオーディオ・アンプのアプリケーションでは全システムのノイズに対するLT1028/LT1128の影響は無視できます。

・・・

AD8091とLT1128の比較を表1に示しました。私がよく使う、元々のADIの超ローノイズOPアンプであるAD797も参考として掲載してみました。LT1128のほうが電流性ノイズが低く、相当の高性能であることが分かります。

図8に図1のOPアンプをLT1128に交換したシミュレーション回路を、図9にそのシミュレーション結果を示します。AD8091の場合と比較して、ノイズ密度スペクトルが非常に低くなっていることが分かります〔同図(a)〕。比較のために同図(b)にAD8091の結果〔図5(a)の再掲〕を示します。

LT1128出力で得られる全ノイズ電圧実効値(rms値)は、図10のようにAD8091の20.5µVrms〔図5(b)〕から3.41µVrmsまで低減しており、なんと15.6 dBもSNRが改善しています。

  電圧性ノイズ typ
@ 1kHz
電流性ノイズ typ
@ 1kHz
AD8091 18nV/√Hz 1.8pA/√Hz
LT1128 0.85nV/√Hz 1pA/√Hz
AD797(参考) 0.9nV/√Hz 2pA/√Hz
表1. OPアンプごとのノイズ性能
図8. 図1のサレン・キー型LPFのOPアンプを超ローノイズOPアンプ LT1128に交換してみる(𝑄 = 4)
図8. 図1のサレン・キー型LPFのOPアンプを超ローノイズOPアンプ LT1128に交換してみる(𝑄 = 4)
(a) LT1128でのノイズ密度スペクトル
(a) LT1128でのノイズ密度スペクトル
(b) 比較のためのAD8091でのノイズ密度 スペクトル〔図5(a)の再掲〕
(b) 比較のためのAD8091でのノイズ密度 スペクトル〔図5(a)の再掲〕
図9. サレン・キー型LPFをLT1128に交換した ノイズ・シミュレーション結果(𝑄 = 4)
図10. LT1128を使用したサレン・キー型LPF(図8、図9)の全ノイズ電圧実効値。3.41μVrmsまで低減している
図10. LT1128を使用したサレン・キー型LPF(図8、図9)の全ノイズ電圧実効値。3.41µVrmsまで低減している

 

LT1128のLPFでの電流性ノイズや抵抗のサーマル・ノイズの影響は

ひとつ前の技術ノートで、OPアンプ回路全体におけるノイズ・ソースは

  • OPアンプの電圧性ノイズ
  • OPアンプの電流性ノイズ
  • 抵抗のサーマル・ノイズ

があると示しました。これまでみてきたAD8091でのアクティブ・フィルタでは電圧性ノイズが支配的になっており、電流性ノイズは無視できるものでした。しかしLT1128ではこれらの関係はどうなるでしょうか。

簡単に見積もってみましょう。LT1128の電流性ノイズは1pA/√Hzで、使用している抵抗は図1のように1kΩですから、電流性ノイズにより抵抗で生じる電圧降下は

1E-12[A] * 1E3 [Ohm] = 1E-9[V]

となりLT1128の電圧性ノイズ0.85nV/√Hzを超えてしまっていることが分かります!また実は、抵抗のサーマル・ノイズも

式 1

で計算してみると(𝐵 = 1Hzとしてノイズ密度を求めると)4.07nV/√Hzもあるのです!

そこでLT1128の電圧性ノイズだけの影響をシミュレーションで見るために、ひとつ前の技術ノートで説明したように

  • 電流性ノイズで生じる電圧降下を低く抑えるため、抵抗を1Ωに
  • カットオフ周波数を1kHzに維持するため、コンデンサの大きさを1000倍に
  • 抵抗1Ωを問題なく駆動できるようにするため、バッファとしてVoltage Controlled Voltage Source(VCVS)E1を追加
  • 抵抗からのサーマル・ノイズをなくすためにLTspiceのオプション「noiseless」を各抵抗素子にオマケで追加(1Ωなのでこの影響はほぼ無い)

というように回路を修正してみました。この回路図を図11に、またシミュレーション結果を図12に示します。

図11. LT1128の電圧性ノイズの影響のみを見られるように 抵抗を1Ω、コンデンサの大きさを1000倍にした(低抵抗を駆動できるようにバッファとしてVCVSも追加。𝑄 = 4)
図11. LT1128の電圧性ノイズの影響のみを見られるように 抵抗を1Ω、コンデンサの大きさを1000倍にした(低抵抗を駆動できるようにバッファとしてVCVSも追加。𝑄 = 4)
(a) ノイズ密度スペクトル
(a) ノイズ密度スペクトル
(b) 全ノイズ電圧実効値。2.06μVrmsに低減している
(b) 全ノイズ電圧実効値。2.06µVrmsに低減している
図12. 図11のノイズ・シミュレーション結果(𝑄 = 4)

ノイズ密度スペクトルが非常に低くなっていることが分かります。LT1128出力での全ノイズ電圧実効値(rms値)は、3.41µVrmsから2.06µVrmsまで低減しており、4.6dBの改善が確認できます。AD8091の20.5µVrmsからすれば、なんと20.2 dBのSNR改善となるわけです。

1mVrmsの入力信号に対しても、56dBのSNRを確保できることになります。

 

実際の回路では1Ωの抵抗とVCVSなんて使えないぞ!

「図11のような構成にすればローノイズを実現できることは分かった。しかし抵抗1ΩとVCVSなんて実際の回路では使えないではないか。これは机上の空論でしかないぞ」とお思いの方もいらっしゃると思います。

ここであらためて一旦基本に戻って、「それぞれのノイズ・ソースの影響度」という点を考えてみます。OPアンプ回路全体のノイズ・ソース

  • OPアンプの電圧性ノイズ
  • OPアンプの電流性ノイズ
  • 抵抗のサーマル・ノイズ

これらはそれぞれ相互に無関係(無相関)に振舞うものです。そのため、それぞれはRSS(Root Sum Square; 自乗和平方根)で影響度が効いてきます。RSSをもっと簡単にいうと「電力で足し算する」という考え方です。RSS とは

式 2

と表されます。ノイズ・ソースを𝑉𝑁1,𝑉𝑁2,𝑉𝑁3とすると、それぞれは「自乗」として効いてくることになります。𝑉𝑁1と𝑉𝑁2が2:1であれば、𝑉𝑁2の影響度は25 %しかないことになります。

この考えを図11の机上の空論的回路に応用します。図13のように、図8の回路の抵抗を1kΩから270Ωにし、コンデンサは3.7倍(1000/270 = 3.7)にします。そうすると抵抗のノイズへの影響度を0.272=0.073; 7.3%に低減できます。

LT1128がドライブする負荷電流は大きめになりますが、ドライブ可能なレベルにはなります(LT1128の出力短絡電流は20mA @ 125°C)。

負荷電流のワーストケースを考えてみましょう。いま入力信号V3が3Vピークで、信号周波数はカットオフ周波数より十分に高いとすると、その周波数ではC1, C2がショートされたかたちになりますので、VOUT = 0Vになります。このとき入力信号V3からR1に流れる電流をすべてOPアンプ出力がシンク/ソースすることになります。そうするとOPアンプ出力の電流は約10mAピークになります。これはLT1128の出力短絡電流量の半分で、十分にドライブが可能だということが分かります。

図13. 図8の回路の抵抗を270Ωに低減し、コンデンサを 3.7倍にした(𝑄 = 4)
図13. 図8の回路の抵抗を270Ωに低減し、コンデンサを 3.7倍にした(𝑄 = 4)
(a) ノイズ密度スペクトル
(a) ノイズ密度スペクトル
(b) 全ノイズ電圧実効値。2.50μVrmsになっている
(b) 全ノイズ電圧実効値。2.50µVrmsになっている
図14. 図13のノイズ・シミュレーション結果(𝑄 = 4)

 

抵抗を約1/4にするだけでかなり特性が改善するぞ!

図8の回路から抵抗を270Ωにし、コンデンサの容量を3.7倍(1000/270 = 3.7)にした図13の回路で、ノイズ・シミュレーションした結果を図14に示します。抵抗値を27%にしたところ(影響度が0.272=0.073; 7.3%になること)がポイントです。同図(a)のグラフを見ても、図12の理想状態とそれほど違いが見られませんし、全ノイズ電圧実効値(rms)をみても、理想的な状態の2.06µVrmsに対して2.50µVrmsに上昇するのみで、これは1.8dBのSNR劣化にしかなりません。繰り返しますが「RSSで効いてくる」ということがポイントです。ちなみに抵抗を100Ωにすると2.21µVrms(0.7dBの劣化)になりました。

なお、この考え方は、採用を考えているOPアンプの電圧性ノイズと電流性ノイズがどれだけあり、またそこに何Ωの抵抗を用いるかによって変わってきます。そのため

電圧性ノイズ > 電流性ノイズ × 抵抗値
電圧性ノイズ > 抵抗のサーマル・ノイズ

が基本的な「ざっくりとした」見極め点といえるでしょう。

 

本当にこれで最適ですか?

これで最適!と本当に言い切れるでしょうか。もう少し検討してみましょう。

 

シミュレーション結果の周波数軸をリニアにかえてみる

図14を良くみてみると、図の右側、100kHzから1MHzあたりに「ノイズの盛り上がり」が確認できます。これはどのアンプでも生じるものではないようで、図5のAD8091では観測されていません。LT1128に起因するもののようです。

ここで図14の横軸をリニア・スケールに変えてみたものを図15に示します。マーカで測定している低域(1000Hz)でのノイズ密度は75nV/√Hz程度になっていますが、その範囲は非常に狭いものです。いっぽう0.25MHzから0.55MHz程度までに、5nV/√Hz程度をピークとした盛り上がりが確認できます。たとえば平均2nV/√Hzのノイズ密度が300kHz(0.55MHz~0.25MHz)に分布していると考えれば、その実効値は. 1nV/√Hz × √300kHz =1.1µVrmsと計算できます。「高域に出ているノイズ密度スペクトル」は無視できないものであったわけです!

 

カットオフ5kHzのポスト・フィルタを接続してみる

そこで図13の回路を改良して、図16のようにカットオフが5kHzになるようなポスト・フィルタを接続してみました。これで0.25MHzから0.55MHz程度にあったノイズ密度の盛り上がりをフィルタリングしてみます。

このシミュレーション結果を図17に示します。ノイズ密度の盛り上がりが低下しています。

図18のように実効値も表示してみました。1.43 µVrmsになっており、4.9dBも改善していることが分かります。結構大きい改善ですね…。

ADコンバータ1ビット分解能相当のSNR改善は約6dBになりますので、この4.9dBの改善は結構大きいことが分かります。

図15. 図14のノイズ・シミュレーション結果の横軸を リニア・スケールに変えてみた
図15. 図14のノイズ・シミュレーション結果の横軸を リニア・スケールに変えてみた
図16. 図13の回路にカットオフ周波数5kHzのポスト・ フィルタを接続してみた
図16. 図13の回路にカットオフ周波数5kHzのポスト・ フィルタを接続してみた
図17. 図16のノイズ・シミュレーション結果。横軸は リニア・スケールにしている
図17. 図16のノイズ・シミュレーション結果。横軸は リニア・スケールにしている
図18. 図17の全ノイズ電圧実効値
図18. 図17の全ノイズ電圧実効値

 

まとめ

今回の技術ノートでは、サレン・キー型LPFと多重帰還型LPFのノイズ特性の違いと、どうすればローノイズなアクティブLPFを実現できるか、OPアンプを超ローノイズOPアンプのLT1128に変更して考えていきました。やればやるほどアクティブ・フィルタのノイズ特性を最適化することは奥が深いことが分かりました。

今回は一例をお見せしたわけですが、おなじようなかたちでLTspiceを用いて色々なアナログ回路のノイズ特性を確認することができるわけです。

次回の技術ノートでは、高次なアクティブ・フィルタを実現するため、複数のOPアンプ・アクティブLPFをカスケード(従属)に接続していくときに、異なる𝑄値の個々のLPF回路をどの順番で接続していけばよいかを考えていきます。

参考資料

[1] 柳沢 健, 金光 磐; アクティブフィルタの設計, 1973年, 株式会社産報(絶版)

[2] Mike Engelherdt著, LTspice Users Club訳; LTspice XVII公式和訳マニュアル, アナログウエア No.3, トランジスタ技術2017年9月号別冊付録, CQ出版社

Satoru_Ishii

石井 聡

1963年千葉県生まれ。1985年第1級無線技術士合格。1986年東京農工大学電気工学科卒業、同年電子機器メーカ入社、長く電子回路設計業務に従事。1994年技術士(電気・電子部門)合格。2002年横浜国立大学大学院博士課程後期(電子情報工学専攻・社会人特別選抜)修了。博士(工学)。2009年アナログ・デバイセズ株式会社入社、現在に至る。2018年中小企業診断士登録。
デジタル回路(FPGAやASIC)からアナログ、高周波回路まで多岐の電子回路の設計開発を経験。また、外部団体主催セミナーの講師を多数務める。