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Greg Zimmer
Greg Zimmer,

Product Marketing Manager, BMS Products

著者について
Greg Zimmer
Greg Zimmerは、アナログ・デバイセズのバッテリ・マネージメント・システム・グループのマーケティング・マネージャでした。また、広範な高性能シグナル・コンディショニングICの製品マーケティング経験を有しています。その経歴には、マーケティング、テクニカル・マーケティング、アプリケーション・エンジニアリング、アナログ回路設計などがあります。カリフォルニア大学バークレー校で電気工学とコンピュータ・サイエンスの学士号を、同じくカリフォルニア大学サンタ・クルス校で経済学の学士号を取得しました。
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EVバッテリの背後にある驚くべき技術


概要

燃料タンクのような単一のエネルギー貯蔵要素と異なり、電気自動車(EV)のバッテリ・パックは、数百個のリチウムイオン(Li-Ion)バッテリ・セルを直列につないで構成されています。慎重に制御された範囲で使用しない限り、これらのバッテリ・セルの容量と寿命は減少し、また時間の経過や使用条件によって大きく変化してしまいます。バッテリ・マネージメント・システム(BMS)は、安全性と信頼性を確保しながら、これらのセルから最大限の容量と寿命を引き出す役割を担っています。このシステムの心臓部がバッテリ・セル・モニタで、これは、各セルの状態を評価するための重要なパラメータである充電状態(SOC)と劣化状態(SOH)の判定に使用する、セル測定値を提供します。本稿では、アナログ・デバイセズが提供するADBMS6815高電圧バッテリ・セル・モニタ・ファミリと、オートモーティブ・バッテリ・パックの最大限の容量、安全性、信頼性、寿命を実現する主要な差別化機能を紹介します。

はじめに

過去数十年にわたり、自動車産業ではゆっくりと統合化が進み、その間に技術とブランドの差別化の度合いは低下してきました。エネルギーを動きに変換するシステムであるパワートレインは、自動車メーカーの最も重要な知的財産であることはほぼ間違いなく、その背後には1世紀以上にわたる改善の積み重ねがあります。このような背景の中で、まったく新しい自動車会社が出現したことは非常に注目すべきことです。パワートレイン技術は多くの課題を伴うものだからです。

内燃機関(ICE)を使用する標準的な車両は15ガロン(約57リットル)の燃料タンクを搭載しており、これはほぼ500kWhrの電気エネルギーに相当します。ICEでは15ガロンのガソリンが375マイル(約600km)の走行距離に変換され、EVでは500kWhrの電気エネルギーが1450マイル(約2330km)の走行距離に変換されます。効率面におけるこの非常に大きな優位性が、最終的にはEVに軍配が上がる理由ですが、その過程の最終部分についてはまだ明確な像が描けていません。現行世代のEVが直面している問題は、ICE車の走行可能距離に相当するだけの十分な容量のバッテリを搭載できないことです。

課題

EVのバッテリ・パックは数百個におよぶ個別のバッテリ・セルから構成されており、直列で動作することによって400Vから800Vの電圧を発生させます。過充電や過放電はセルを損傷させたり劣化を早めたりする可能性があり、更にそれが容量の減少や寿命の短縮を招いて、最終的にセルを故障させてしまうおそれもあります。BMSの主な機能は、パックを構成しているこれら多数のセルのSOCやSOHを判定し、制御することです。リチウムイオン・セルは、そのSOCの100%まで充電したり0% SOCまで放電させたりすると、容量が低下します。SOCを判定するにはセルの電圧と温度を測定する必要があり、これらの測定値の精度がいかに良好なSOC管理を実現できるかを直接決定します。要するに、BMSの電子回路は、EVのバッテリ・システムの最大限の動作範囲、寿命、信頼性、そして安全を実現する最も重要な部分です。

互いに緊密に連係する形で直列に接続されて、高電圧のパックを構成している多数のバッテリ・セルのすべてを、正確かつ継続的に測定するのは簡単なことではありません。測定は、インバータ、アクチュエータ、スイッチ、リレーなどによって生じる電気的ノイズの干渉に対して、耐性を備えている必要があります。また、パックの電圧が高いので、電子回路自体も電気的に絶縁する必要があります。そして最終的には、これらの電子回路は、通常の使用による損傷、気象条件、そして車両の経年劣化と走行距離の積み重ねの中で、長年にわたり動作できるものでなければなりません。

BMSの心臓部

集積回路(IC)とソリューションのリーディング・プロバイダとして、アナログ・デバイセズはバッテリ・マネージメント製品において次の重要領域に焦点を当てています。すなわち、個々のセルの測定(セル・モニタ)、パック全体の測定(パック・モニタ)、各種デバイスを相互に接続するための通信ネットワーク(有線または無線ネットワーク)、そしてこれらのデバイスを制御するためのソフトウェアです。これらの電子回路の目標は、すべてのバッテリ・セルを最大容量まで安全に充電できるようにして、パック全体に保存できるエネルギーをできるだけ大きくし、車体の走行距離を最大限に延ばすことにあります。

最も重要なデバイスが高電圧セル・モニタICであることは、ほぼ間違いのないところです。セル・モニタICは、直列に接続されたバッテリ・セルの電圧と温度を測定します(通常は1個のモニタあたり12個のセル)。セルの電圧と温度は重要なパラメータであり、その測定の精度と同時性は重要な特性です。

つまり、この情報は、セルにストレスをかけることなく、BMSがセルの安全動作範囲を最大限に生かしてセルを動作させることを可能にします。したがって、これらのセル・モニタの性能は、BMSが最大限の車両走行距離、コストと重量の低減、そして信頼性の向上を実現する上で、非常に重要です。測定誤差はバッテリ・マネージメントの効果を低下させるので、アナログ・デバイセズのBMS製品は、常に業界最高の精度を備えた測定能力を提供します。

アナログ・デバイセズが最近販売を開始したADBMS6815ファミリの高精度セル・モニタでは、優れた安全、性能、コスト効果を実現する各種の機能が理想的な形で組み合わされています。このファミリは3つの基本的なデバイスで構成されており、それぞれモニタできるセルの数が異なります。ADBMS6816は6個のバッテリ・セルをモニタし、ADBMS6817は8個の直列バッテリ・セルを、そしてADBMS6815は12個の直列バッテリ・セルをモニタします。この3つの異なるセル・モニタ数は、広範なバッテリ・パック構成の様々なセル構成に対応することを可能にします。

更に、これらのデバイスをうまく組み合わせることで、最適な数のセル・モニタ・チャンネルを作り出すことができます。これらのデバイスの動作環境には非常に強い電気的ノイズが含まれるので、デバイスにはこのノイズを低減する調整式のローパス・フィルタも組み込まれており、高忠実度の測定が確保されています。

Figure 1. Simplified description of the multicell battery monitor.
図1. マルチセル・バッテリ・モニタの簡略図

アナログ・デバイセズのBMS通信技術

ADBMS6815ファミリのセル・モニタは、isoSPIと呼ばれる2線式通信インターフェースを使用するデイジーチェーン接続用に設計されています。これは堅牢性とEMI耐性を備え、電気的に絶縁されたネットワークで、BMSのマイクロコントローラからアナログ・デバイセズの複数のBMSデバイスを同期させて、操作、ポーリング、制御を行うことを可能にします。これにより、アナログ・デバイセズのパック・モニタ・デバイスを使い、パック電流およびパック電圧と同期させて、パック内のすべてのセルを測定できます。このデイジーチェーンは、各デバイスに対し1つのパスで動作させるか、ループ構成にして2つのパスで動作させることができます。ループ構成では、ワイヤやコネクタに障害が生じた場合でも、すべてのセル・モニタ・データにアクセス可能です。

isoSPIの詳細については、このビデオをご覧ください。

ADBMS6815ファミリはワイヤレスBMS(wBMS)での動作もサポートしており、その場合は有線接続のデイジーチェーンが、セル・モニタの2.4GHzワイヤレスBMSノードに置き換えられます。

Figure 2. Outline of a wired BMS.
図2. 有線BMSの概要
Figure 3. A wBMS replaces the comms wires with a radio.
図3. 通信線を無線に置き換えるwBMS

安全性

BMSのすべての目標の中で、バッテリ・パックの安全を確保することが最も重要です。IC内の故障の可能性を認識してそれを是正するには、組み込みのセルフテスト機能と冗長性が必要です。これらの機能には、冗長測定パス、入力信号間の同期改善、セルフテスト機能、その他様々な機能が含まれます。

ADBMS6815ファミリのデバイスは、ISO 26262のASIL-D規格をサポートするように設計されています。

ISO 26262は世界的に導入されている自動車用の機能安全規格で、自動車用電気機器およびシステムのライフサイクルを通じて、その安全性を確保できるように構成されています。ASIL-DはこのISO規格におけるリスク分類の1つで、システムが自動車の安全に関して最も高いレベルを実現していることを表します。アナログ・デバイセズのコンポーネントは、ASIL-Dに対応することを目標に設計され認証を受けているため、これらのコンポーネントを使用する自動車メーカーは、この重要目標を確実に達成できます。

更に、ISO 26262規格に適合することにより、一般に設計者は、IEC 61508といった他の機能安全規格にも対応し、オートモーティブ・アプリケーション以外の要求を満たすことができます。

低消費電力セル・モニタリング

自動車に電力を供給するために安定した予測可能な信頼性の高いエネルギー源を確保することに加えて、BMSには、セル自体の安全性を確保することも求められます。発生することは稀ですが、バッテリ・セルの異常は時間の経過と共にセルを短絡させて熱暴走を起こし、破滅的な結果を招くことがあります。このような理由から、BMSは何らかの問題の兆候を示す状態をモニタします。

バッテリ・セルは、使用していないからといって不活性な状態にある訳ではありません。電気化学的装置として、バッテリ・セルは未使用時であっても時間と共に変化します。言葉を変えると、セルの不具合の進行は、車両を使っていないときでも続く可能性があります。車両がキーオフ状態にある間もバッテリ・パック内にあるセルのモニタリングを継続するために、アナログ・デバイセズは低消費電力セル・モニタリング(LPCM)を開発しました。LPCMは、バッテリ・セルの重要パラメータを定期的かつ自律的にチェックする、先進的なセル・モニタリング機能です。セル・モニタはこのLPCM機能を使用し、問題の可能性を検出した場合はアラートを発し、BMSをウェイク・アップさせて適切なチェックを行うよう指示します。また、セル・モニタが定期的な肯定的確認を行えなかった場合も、BMSにアラートが発せられます。

アナログ・デバイセズがこの問題をどのように解決するのかについては、LPCMを説明したこの ビデオをご覧ください。

柔軟性、機能、およびコスト効果

ADBMS6815ファミリは、広範な要求事項に対応する機能の理想的な組み合わせを提供することによって、既に概要を説明した安全性、信頼性、性能を補完します。これらのデバイスは同じパッケージとピン配列を使用しているので、設計者は、異なるチャンネル数(各デバイスで6、8、12個のバッテリ・セルをモニタ)を組み合わせて汎用設計を行い、これを適用することでより広範なバッテリ・パック構成やセル・モジュール構成に対応できます。これらのデバイスには、デジタル入力、デジタル出力、またはアナログ入力として使用できる汎用I/Oも含まれています。アナログ入力として使用した場合は、プライマリ・セル測定と同じ精度で、5Vまでの任意の電圧を測定できます。更に、温度や電流といったこれらの補助測定機能を個々のセル測定と同期させれば、より正確なSOC計算を行うことができます。これらのI/OピンはI2CやSPIなどのサブノード・デバイスも制御できるので、アナログ入力を拡大するためのマルチプレクサ追加や、キャリブレーション情報を保存するためのEEPROM追加といった、より複雑な機能を実現することができます。最後に、これらのデバイスにはバランシング機能が含まれており、それにより任意のセルに最大300mAの電流を放出させることができます。これは、システムがパック内のすべてのセルのSOCを均等化して、それを維持することを可能にします。この均等化プロセスは周期を指定したセットアップが可能で、プログラムした閾値に達した時点で自動的に停止できます。これは、バッテリ・セル・モニタがスリープ・モードになっているときでも、長期間にわたってバランシングを行うことを可能にします。

共通機能

  • ADBMS6815(12チャンネル)
  • ADBMS6817(8チャンネル)
  • ADBMS6816(6チャンネル)

    • 自動車安全水準D(ASIL-D)をサポート
    • 最大寿命期間での最大測定誤差:1.5mV
    • 高電圧バッテリ・パックに適したスタック可能アーキテクチャ
    • 304µsでシステム内のすべてのセルを測定
    • プログラマブル・ノイズ・フィルタを備えた16ビットADC
    • プログラマブルPWM制御を備えたチャンネルあたり300mAのパッシブ・セル・バランシング
    • 電気的に絶縁された2MbpsのisoSPI通信
    • 2本のワイヤと2個のコンデンサまたはトランスのみを使用
    • 双方向通信がリングトポロジをサポートしており、通信パス沿いに障害が発生した場合でも通信が可能
    • 7本の汎用インターフェース・ピンはアナログ入力、デジタル入力、またはデジタル出力として使用可能。温度センサーをサポートしており、I2CまたはSPIメインとして設定可能
    • 5.5µAのスリープ・モード電源電流
    • 48ピン7mm×7mm LQFPパッケージ

まとめ

今後30年間で、世界の乗用車はICEからEVへ移行すると見込まれています。限りある資源から製造されるガソリンを極めて非効率的に使用しているという現実は、この変化を確実なものとするでしょう。地政学的および環境的な懸念は、この傾向を加速するものに過ぎません。未来にあるのは電気自動車であり、BMSはその重要な実現技術です。

ADBMS6815ファミリのような最先端のBMS製品は、この未来を実現します。これらのICはISO 26262のASIL-Dに適合することが証明されており、バッテリ・セルの電圧および温度測定に関して業界最高の精度を備えています。ADBMS6815ファミリは、路上で実証された多くの世代のバッテリ・モニタICに続くものであり、オートモーティブ・アプリケーションと工業用アプリケーションの環境、信頼性、および安全性に関する要求を上回る性能を実現できるように設計されています。これらの製品は、各種のEV車や大規模エネルギー・ストレージ・システムに対して新たに出現する困難な要求に、効率的に対応し続けています。設計者は、市場をリードするその技術が、今日実現しうる最高レベルのBMSを提供し、明日に向かってとどまることのない革新を基礎として最先端システムへの道を確立するのだという自信を持って、アナログ・デバイセズを選択することができます。

更に詳しい情報については、アナログ・デバイセズのバッテリ・マネージメント・グループまでお問い合わせください。また、analog.com/jp/BMSをご覧ください。