Thought Leadership

Sarven Ipek
Sarven Ipek,

LIDAR Marketing Manager

Bob Scannell
Bob Scannell,

プロダクト・マーケティング・マネージャ、
航空宇宙・防衛・RFとマイクロ波

Andreas Parr
Andreas Parr,

Senior Marketing Engineer Business Development

自律型機器による産業革命


第1次産業革命の背景には、綿繰り機と蒸気機関の発明がありました。第2次産業革命では、組み立てラインの開発が大きな役割を担いました。これらの例に代表されるように、私たちの世界は、新しい実用的な技術が急速に普及することによって、大きな躍進を遂げてきました。

Industrial Automation Technology from Analog Devices

多くのアナリストは、インダストリ4.0と自律型システムにより、次の産業革命とも言える大きな変化が始まりつつあると考えています。産業分野は、次の発明の時代を迎えつつあるということです。原料や労働力をより効率的に利用できるようにするには、その基盤となる技術を急ピッチで進化させ続けなければなりません。

最近では、自律的に動作するロボットや自動車、ドローンなどが続々と開発されています。それらは既に製造、鉱業、農業、物流のプロセスにしっかりと組み込まれており、現在進行中の産業革命において、非常に重要な柱になっています。

自律型のアプリケーションでは、非常に高いレベルのシステム性能が求められます。例えば、自律的に移動する機器は、周囲の状況を把握した上で進路を決定できるように設計する必要があります。そうした機能を実現するためには、従来型のアルゴリズムや、AI(Artificial Intelligence)/機械学習をベースとするアルゴリズムを利用します。それらにより、各センサーの出力を融合して解釈するセンシング・モダリティを実現するのです。自律型アプリケーションを開発する目的は、安全性、効率、コスト、柔軟性を高めることです。このゴールに到達するまでには、複数のセンサー技術を同時に実装しつつ、信頼性と可用性を高いレベルで確保するという非常に大きな課題を解決しなければなりません。

自律型のシステムでは、複数のセンシング・モダリティによって収集したデータの正確さが非常に重要な意味を持ちます。必要な制御を実現するためのAIやアルゴリズムは、それらのデータを基に処理を行うからです。既に広く普及しているセンサーとしては、レーダー、LIDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging)、ビジョン・センサー、超音波センサー、慣性センサーが挙げられます。以下の表に、各知覚センサー・モダリティの利点と弱点(制約)を列記します。それぞれの弱点を補完するために、複数種類使用する必要があります。

表1. 各種センサーの特徴
センサー 主なメリット 制約 主な用途
ビジョン・センサー 最も高い解像度、色 夜間、
悪天候、
距離の推定
3Dマッピング(15m以上)、
第1段階の分類、
小さな障害物の検知 
LIDAR 高い解像度、
距離の測定 
悪天候 3Dマッピング(15m以上)、
第1段階の分類、
小さな障害物の検知
レーダー ほとんどの天候、
距離の測定、
速度の測定 
分解能が低い 物体の検知と追跡
超音波センサー 全天候、
距離の測定、
最も低いコスト
短距離、
分解能が低い、
応答が遅い 
低速、短距離での検知

知覚用のセンシング――機械に視覚を与える

インダストリ4.0の課題は多岐にわたっています。過酷な環境、限られたスペース内で、ロボットやコボットといった機械類を自律的に動作させるには、近くにある物体に対してより高精度の測定が行える、より小型なレーダーが必要になります。効率、生産性、安全性を高めるには、周囲の状況を画像化して分類する機能が不可欠です。

RFトランシーバーIC技術は、目覚ましい進化を遂げています。それにより、知覚アプリケーション向けの重要なセンサー技術の1つとして、レーダーの存在感が急速に高まっています。最近では、77GHzに対応する完全統合型のデジタル・トランシーバーMMICが製品化されています。こうした製品を採用し、高速で直線性の高いFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)チャープを、出力電力が大きくノイズの小さい送受信チャンネルならびにMIMO(Multiple Input Multiple Output)アンテナ・アレイと組み合わせれば、高性能、高分解能のレーダー・システムを合理的なコストで実現できます。レーダーをベースとするデジタル・ビームフォーミングを使用することで、最も過酷な環境下でも、複数の対象物の動径速度、角度、距離を検知することが可能になります。これは、絶えず変化する環境において、ロボット、コボット、AGV(Automatic Guided Vehicle:無人搬送車)を安全かつ効率的に動作させる上で非常に重要なことです。

多くの場合、産業環境において自律型システムがなすべきことは、安全を確保するために物体を回避することではありません。そうではなく、物体を検知してそれを拾い上げることが重要になります。例えば、LIDARを採用すれば、そうした一般的な作業を完遂するために必要な能力が得られます。LIDARは、物体を検知するための優れた性能を備えていることに加え、高い精度で物体を分類することができるからです。

LIDARシステムは、THzの周波数帯を使用します。そのため、高い角度分解能を実現できます。結果として、解像度の高い深度マップを生成することが可能になります。LIDARシステムは、その深度マップを利用して物体を分類します。その結果を、ビジョン・センサーやIMU(慣性計測ユニット)、レーダーで取得した情報と融合することにより、ミッションクリティカルな意思決定を高い信頼性で行うことができます。LIDARシステムは、明るい太陽光にさらされる屋外のような環境でも正確に機能するように設計されます。絶えず変化する厳しい条件下でもより遠方まで見通すことができるように、波長域が900nm帯/1500nm帯の狭いパルス光を大きなパワーで出力します。太陽からの放射光には、900nm帯/1500nm帯の赤外光はあまり含まれていません。そのため、狭いパルス光によって深度に対する解像度を向上させ、1ピクセル内に存在する複数の対象物を検出することができます。

LIDARシステムの普及を促進するためには、数多くの課題を克服する必要があります。例えば、複雑でコストのかかるシグナル・チェーン、難易度の高い光学設計、システムのテスト/キャリブレーションなどが問題になります。現在は、複雑さやサイズ、消費電力、総所有コストを低減するために、シグナル・チェーンの集積化が進められています。

ナビゲーション用のセンシング――機械に感覚を与える

産業用機械には数多くのセンサーが導入され、得られるデータの量も急増しています。そうしたなか、機械の位置や相対的な動きの情報の重要性も増しています。多くの場合、自律動作はモビリティと関連を持っています。例えば、車両の位置をピンポイントで特定し、機械の動きを制御して、搭載する機器を正確に動作させるといったことが必要になります。安全性と信頼性が高く、より高度で価値のあるアプリケーションを実現するには、機械の動きを正確に検知できるようにしなければならないということです。例えば、スマート農業では、作物を管理する際の効率を継続的に高めることが課題になっています。機器の位置を数cm以内の精度で特定することが、投入量を節約し収穫量を最大化する上で重要な鍵になります。

Autonomous Technology from Analog Devices

自律ナビゲーションのアプローチの1つは、GNSS(Global Navigation Satellite System)による測位サービスを活用することです。これであれば、どこでも利用が可能です。その一方で、信号の途絶という問題の影響を受けやすくなります。完全な自律性を実現するためには、信号が妨害されたり、一時的に途絶したりするおそれがないようにしなければなりません。この問題を解決する策の1つは、慣性センサーを使用することです。それによって動きの測定を行えば、信号の途絶の影響を受けることがなくなり、外部インフラも不要になります。通常、6自由度のIMUには、3つの軸向けに、直線運動と回転運動に対応するセンサーが統合されています。IMUの出力は、追加の処理によって解釈することができ、相対姿勢、進行方向、速度の情報を得ることができます。それらを利用すれば、デッド・レコニング・ナビゲーションとして知られる機能を実現することが可能になります。

cmのレベルで位置を特定できるだけの精度や、0.1°の角度分解能を得るためには、非常にグレードの高い慣性センサーが必要です。民生向けのIMUの出力は、良好な環境下でも非常に早くドリフトします。また、振動や交差軸の障害などによって生じる動き(誤差)と、本来測定すべき動きを区別することもできません。一方、高性能の慣性センサーであれば、1時間あたり1°のレベルの優れた安定性が得られます。加えて、リニア-gの誤差を排除するために特殊なセンサー・アーキテクチャを採用しており、温度やアラインメント時の障害を補償するためのキャリブレーションを実施することが可能です。非常に高い精度で動きを検出できるだけでなく、GPSや知覚センサーと比べて10倍から100倍高速です。非自律型の機械では、人間の知覚に頼って直観的に動きを検出していました。上記のようなIMUを使用すれば、そうした旧来の機能を自律型の機能に置き換えることが可能になるのです。

現在進行中の産業革命は、どれだけの発展を見せるのでしょうか。その発展を支えるのは、自律動作の基盤となるセンシング技術の進化です。レーダーやLIDAR、カメラは、短距離/長距離の両方で物体を正確に検出して分類する能力を備えています。それらを利用して自律型の産業用車両を実現すれば、人間のオペレータと同じくらい効率的に物体や事象を検知できるようになります。また、慣性センサー技術は、自律型のアプリケーションにおいてデッド・レコニング・ナビゲーションを実現する上で不可欠なものになるでしょう。センサーの精度が高まるほど、AIに入力されるデータの質は向上します。その結果、より安全でより効率的なアプリケーションを実現することが可能になります。

自律型機能の実現に役立つアナログ・デバイセズの技術については、analog.com/jp/autonomyをご覧ください。

Sarven Ipek は、アナログ・デバイスのマーケティング・マネージャです。自律走行/安全グループのLIDAR部門(マサチューセッツ州ウィルミントン)に所属しています。2006年の入社以降、故障解析、設計、特性評価、プロダクト・エンジニアリング、プロジェクト管理、プログラム管理などの経験を積み重ねてきました。ノースイースタン大学で電気/コンピュータ工学の学士号と、通信システム/信号処理に関する修士号を取得しています。

Bob Scannell は、アナログ・デバイセズの慣性 MEMS 製品のビジネス開発マネージャーです。ADI に 20 年間在籍、センサー、DSP、ワイヤレスなどのさまざまなテクニカル・マーケティング部門およびビジネス開発部門で勤務してきました。それ以前は、Rockwell International で設計およびマーケティングを担当していました。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)で電気工学の学士号、南カリフォルニア大学でコンピュータ・エンジニアリングの修士号を取得しました。

Andreas Parr は、アナログ・デバイセズでビジネス開発を担当するシニア・マーケティング・エンジニアです。2018年に入社しました。それ以前は、レーダー・センサーのベンダーであるドイツのSymeo(現在はアナログ・デバイセズに統合)で産業用レーダー・センサーのプロダクト・マネージャを務めていました。その前は、フリードリヒ・アレクサンダー大学エアランゲン=ニュルンベルクで、UHF帯に対応するRFIDを利用した位置検出を専門とする研究助手の職に就いていました。2011年に、同校で電気工学、電子工学、情報技術工学の学位を取得しています。