チョッパかオートゼロか、それが問題

チョッパは低消費電力の低周波アプリケーション(<100 Hz)に対して優れた選択肢ですが、オートゼロ・アンプは広帯域アプリケーションに対して優れています。オートゼロ技術とチョッピング技術の組み合わせは、低ノイズ、スイッチング・グリッチなし、広帯域を必要とするアプリケーションに対して最適です。

ゼロ・ドリフト・アンプ

ゼロ・ドリフト・アンプは、オフセット電圧を動的に補正し、ノイズ密度をリシェープします。一般に広く採用されているオートゼロ・アンプとチョッパの 2 つのタイプは、ナノボルト・レベルのオフセットを実現し、時間と温度に対するオフセット・ドリフトを極めて小さくします。アンプの 1/f ノイズも DC 誤差と見なされて、除去されます。ゼロ・ドリフト・アンプは、システムで常に問題となっている温度ドリフトと 1/f ノイズを除去するため、多くの利点を提供します。さらに、ゼロ・ドリフト・アンプは、標準アンプと比べて高いオープンループ・ゲイン、高い電源除去比、高い同相モード除去比を持つため、全体出力誤差は同じ構成の標準高精度アンプより小さくなります。

ゼロ・ドリフト・アンプのアプリケーション

ゼロ・ドリフト・アンプは、10 年以上の期待デザイン寿命を持つシステム内で使用され、また低周波 (<100 Hz)かつ低振幅レベル信号で高いクローズド・ループ・ゲイン (>100)を持つシグナル・チェーン内で使用されます。例としては、高精度重量計、医用計測機器、高精度測定装置、さらに赤外線、ブリッジ、熱電対の各センサー・インターフェースなどがあります。

オートゼロ技術

オートゼロ・アンプは、一般に入力オフセットを 2 クロック位相内で補正します。図 1 の AD8571 の図に示すように、クロック位相 A でスイッチ φA が閉じ、スイッチ φB が開きます。ヌル・アンプのオフセット電圧が測定されてコンデンサ CM1 に記録されます。

図 1.オートゼロ・アンプの位相 A: ヌル位相

図 1.オートゼロ・アンプの位相 A: ヌル位相

図 2 の AD8571 の図で示すように、クロック位相 B で、スイッチ φB が閉じて、スイッチ φAが開きます。メイン・アンプのオフセット電圧が測定されてコンデンサ CM2 に記録されます。一方、コンデンサ CM1 に記録された電圧によりヌル・アンプのオフセットが調節されます。次に全体オフセットが、入力信号の処理中にメイン・アンプに加えられます。

図 2. オートゼロ・アンプの位相 B: オートゼロ位相

図 2. オートゼロ・アンプの位相 B: オートゼロ位相

サンプル・アンド・ホールド機能があるため、オートゼロ・アンプは 1 つのデータ・サンプル・システムとなるので、折り返しの影響が生じます。低周波でノイズはゆっくり変化するため、連続する 2 つのノイズ・サンプルを減算することにより相殺されます。高周波ではこの相関が小さくなるため、誤差の減算により広帯域成分がベースバンドへ折り返されます。このため、オートゼロ・アンプの帯域内ノイズは、標準オペアンプより増えます。低周波ノイズを削減するため、サンプリング周波数を高くする必要がありますが、チャージ・インジェクションが増えてしまいます。信号パスにはメイン・アンプだけが含まれるため、比較的大きいユニティ・ゲイン帯域幅を得ることができます。

チョッピング技術

図 3 に、ローカル自動補正帰還 (ACFB) ループを採用したチョッパ・アンプ ADA4051 のブロック図を示します。 メイン信号パスには、入力チョッピング回路(CHOP1)、相互コンダクタンス・アンプ(Gm1)、出力チョッピング回路 (CHOP2)、相互コンダクタンス・アンプ (Gm2)が含まれています。CHOP1 とCHOP2 は、初期オフセットと Gm1 からチョッピング周波数までの 1/f ノイズを変調します。 相互コンダクタンス・アンプGm3 は、CHOP2 出力で変調済みリップルを検出します。チョッピング回路 CHOP3 は、リップルを復調して DC へ戻します。3個のチョッピング回路はすべて 40 kHz でスイッチングします。最後に、相互コンダクタンス・アンプ Gm4 は、Gm1 出力で DC 成分をゼロに相殺させます(相殺させないとリップルとして出力されます)。スイッチド・キャパシタ・ノッチ・フィルタ(SCNF)は、必要な入力信号を乱すことなく、全体出力から不要なオフセット関連リップルを選択的に除去します。このフィルタは、変調された成分を完全に除去するようにチョッピング・クロックに同期しています。

図 3.チョッピング方式

図 3.チョッピング方式

2 つの技術の組み合わせ

図 4 に示す AD8628 のようなゼロ・ドリフト・アンプでは、オートゼロとチョッピングを使用してチョッピング周波数でのエネルギーを削減すると同時に、低周波でのノイズを非常に小さくしています。この組み合わせ技術により帯域幅を従来型ゼロ・ドリフト・アンプより広げています。

図 4.オートゼロとチョッピングの組み合わせによる広帯域化

図 4.オートゼロとチョッピングの組み合わせによる広帯域化

オートゼロとチョッピングの違い

オートゼロではサンプリングを使ってオフセットを補正しますが、チョッピングでは変調と復調を使っています。サンプリングではノイズがベースバンドへ折り返されるため、オートゼロ・アンプの帯域内ノイズは多くなります。ノイズを小さくするために電流を大きくするので、デバイスの消費電力は大きくなります。チョッパでは、フラット・バンド・ノイズに対応する低周波ノイズになりますが、チョッピング周波数とその高調波では大きなエネルギーを持ちます。出力フィルタが必要となるため、これらのアンプは低周波アプリケーションに最も適しています。オートゼロ技術とチョッピング技術の代表的なノイズ特性を図 5 に示します。

図 5.様々なアンプ回路の代表的なノイズ周波数特性

図 5.様々なアンプ回路の代表的なノイズ周波数特性

推奨アプリケーション

ゼロ・ドリフト・アンプは、アナログ・オフセット誤差を動的に補正するデジタル回路を採用した複合アンプです。ここで説明したデザイン技術は、オフセット電圧、時間と温度に対するオフセット・ドリフト、ノイズ・カーブ形状などの多くのオペアンプ・パラメータを大幅に改善しますが、犠牲になる点もあります。アンプ・デザインで共通のこのトレードオフは、理想アンプは存在しないという一点によります。ゼロ・ドリフト・アンプを使用する際の考慮すべきアプリケーション問題としては、チャージ・インジェクション、クロック・フイードスルー、相互変調歪み、過負荷回復時間などがあります。チョッパとオートゼロ・アンプのスイッチング動作から発生するチャージ・インジェクションは、アンプ入力に現れます。例えば、ゼロ・ドリフト・アンプを非反転構成で構成した場合(図 6 参照)、入力スイッチング動作に起因して小さいリップルが出力に現れます。

図 6.入力周波数対チャージ・インジェクションから生ずる出力リップル

図 6.入力周波数対チャージ・インジェクションから生ずる出力リップル

チャージ・インジェクションの大きさは、温度に依存しませんが、回路ゲインが大きくなると、またはソース抵抗が大きくなると、あるいはゲイン設定抵抗が大きくなると、大きくなります。 図 7 に、チャージ・インジェクションから発生する誤差電圧対ソース抵抗を示します。

図 7.オフセット電圧対ソース抵抗AD8638 オートゼロ・アンプ

図 7.オフセット電圧対ソース抵抗AD8638 オートゼロ・アンプ

アプリケーション・レベルのソリューションでは、この誤差成分を容易に削減することができます。チャージ・インジェクションの影響を小さくする方法には次が含まれます。

  1. 帰還にコンデンサを追加して信号帯域幅を制限します。
  2. ソース抵抗と帰還抵抗を小さくします。
  3. アンプ・ステージの後ろに能動フィルタまたは受動フィルタを使用します。
  4. Rf と Rs の並列接続に等しい抵抗を非反転入力に接続してIBの影響を相殺させるようにします。
  5. ACFB を持つ ADA4051 のようなデバイスを使います。

アンプ・デザインが良くない場合、または純粋なチョッピング技術を使用する場合にクロック・フイードスルーが発生します。図 8 に、周波数スペクトル全体での内部クロックのノイズを示します。

図 8.クロック・ノイズの周波数特性

図 8.クロック・ノイズの周波数特性

オートゼロ周波数より高い周波数を持つ信号を増幅することができます。オートゼロ・アンプの速度はゲイン帯域幅積に依存し、このゲイン帯域幅積はヌル・アンプではなくメイン・アンプに依存します。オートゼロ周波数は、スイッチング・ノイズが発生し始めるタイミングを与える指標になります。入力がチョッピングまたはオートゼロ周波数に近づくと、相互変調歪み(IMD) が図 9 に示すように発生して、入力周波数がクロック周波数に近づくと、誤差が大きくなります。高周波入力信号とチョッピング周波数との間の IMD により、周波数 fCHOP − fINと周波数 fCHOP + fINでトーンが発生します。賢いデザイン技術を使用し、チョッピング方式とオートゼロ方式との組み合わせを使用すると、AD8628 の相互変調歪みは、 AD8551 ファミリーに比べて 12 dB 小さくすることができます。

図 9.相互変調歪み

図 9.相互変調歪み

IMD を改善する 1 つの方法は、擬似ランダム・オートゼロ周波数を使用することです。例えば、AD8571 ファミリーでは 2 kHzと 4 kHz の間で変化するクロックを使用しています。もう 1 つの可能性は、図 10 に示すようにアンプの周囲にフィルタを追加することです。この図では、フィルタの前後のクロック・ノイズが示してあります。適切なカットオフ周波数を選択すると、回路応答を改善することができます。ゼロ・ドリフト・アンプの過負荷回復時間は、一般に標準 CMOS アンプより大きくなっています。 

図 10.フィルタ追加によるノイズ周波数特性の改善

図 10.フィルタ追加によるノイズ周波数特性の改善

オートゼロ・アンプの各入力が何かの理由で大きく異なると、出力が飽和します。ヌル・アンプではこれをオフセットとして扱うため、誤差をゼロにしようとします。このためメイン・アンプの飽和がさらに進み、回復時間が長くなります。AD8628のようなアンプは過負荷を検出する機能を内蔵しているため、30 μs 以下で回復することができます。この技術を持たないデバイスは、過負荷状態からの回復に最大 40 ms を要します。

ゼロ・ドリフト・アンプの選択

すべてのゼロ・ドリフト・アンプは次の機能を提供します。

  1. 全 VCM範囲で低オフセット電圧 (10 μV 以下)
  2. 時間と温度に対して超低オフセット電圧ドリフト (40 nV/°C以下)
  3. 1/f ノイズをなくするノイズ・リシェープ機能
  4. 非常に高いオープンループ・ゲイン、CMRR、PSRR
  5. 高入力インピーダンス
  6. 極めて高い動作温度 (最大 200°C)
  7. 外部トリミング不要

チョッパは低消費電力の低周波アプリケーション (<100 Hz)に対して優れた選択肢ですが、オートゼロ・アンプは広帯域アプリケーションに対して優れています。例えば、オートゼロ技術とチョッピング技術の組み合わせを使用する AD8628 は、低ノイズ、スイッチング・グリッチなし、広帯域を必要とするアプリケーションに対して最適です。表 1 に、幾つかのデザイン・トレードオフを示します。

表 1.
Auto-Zero Chopper Stabilized Chopper Stabilized & Auto-Zero
Very low offset, TCVOS Very low offset、TCVOS Very low offset、TCVOS
Sample/hold Mod/demod Sample/hold plus mod/demod
Higher low frequency noise due to aliasing Similar noise to flat band (no aliasing) Combined noise shaped over frequency
Higher power consumption Lower power consumption Higher power consumption
Wide bandwidth Narrow bandwidth Widest bandwidth
Lowest ripple Higher ripple Lower ripple level than chopping
Little energy at auto-zero frequency Lots of energy at chopping frequency Little energy at auto-zero frequency

結論

チョッパについての多くの古い伝説は新しい 製品の中で賢い技術により克服され、ゼロ・ドリフト・アンプにより、オペアンプが所謂理想アンプに近づいてきました。システム・エンジニアは、これらの製品が提供する利点を利用して、超高精度システムを構築することができます。

参考資料

Analog Dialogue Vol.38 No.2: Bridge-Type Sensor Measurements Are Enhanced by Auto-Zeroed Instrumentation Amplifiers

MT-055 Tutorial: Chopper Stabilized (Auto-Zero) Precision Op Amps

Analog Dialogue Vol.34 No.1: オートゼロ・アンプの不思議を解き明かす – その 1

Analog Dialogue Vol.34 No.2: オートゼロ・アンプの不思議を解き明かす – その2

Reza Moghimi

Reza Moghimi

Reza Moghimiは、アナログ・デバイセズ(カリフォルニア州サンノゼ事業所)の高精度シグナル・コンディショニング・グループのアプリケーション・エンジニア・マネージャです。 1984年にサンノゼ州立大学でBSEE、1990年にMBAを取得しました。