スマート・センサー:AIによりビッグ・データからスマート・データを生成

インダストリ4.0が導入されると、各アプリケーションにおいて、膨大な量の複雑なデータが生成されるようになります。これは、いわゆるビッグ・データを処理しなければならないということを意味します。一般に、センサーをはじめとするデータ・ソースの数が増加すれば、機械、システム、プロセスを詳細に仮想化できるようになります。それによって、バリュー・チェーン全体で見ると、付加価値が生み出される可能性が大いに高まるはずです。問題なのは、いったいどのようにすればそうした価値を引き出すことができるのかということです。実際、このことは絶えず問題として浮上します。結果として、データを処理するためのシステムやアーキテクチャは、より複雑なものになっていくはずです。必要なのは、現実の問題に直結する質の高い有用なデータです。そうしたスマート・データが存在してこそ、それらに関連する経済的な可能性を明らかにすることが可能になります。

課題

あらゆるデータをできるだけ多く収集し、それらすべてをクラウドに保存しておく――。これは、それらのデータを後で評価/分析/構造化することを期待しての行動です。しかし、これはデータから価値を引き出すための効果的な方法だとは言えません。その状態では、データから付加価値を生み出すための潜在的な能力が十分に活用されてはいないのです。問題の解決策を見いだす作業は、後回しにするほどより煩雑になります。選択肢としてより優れているのは、どのような情報が問題の解決につながるものなのか、それらはデータ・フローの中のどこで抽出できるのかということを早期に検討することです。比喩的な表現を用いるなら、これはデータから不純物を取り除き、“精製”する作業だと言うことができます。つまり、ビッグ・データを処理する系で精製を行い、スマート・データを取得するということです。AI(人工知能)のアルゴリズムとしてどのようなものを使えば、個々の処理ステップをうまく実行できる可能性が高まるのかということは、アプリケーションのレベルで判断することができます。この判断は、利用できるデータ、アプリケーションの種類、使用可能なセンサー・モダリティ、低位のレベルの物理的なプロセスに関する背景情報といった境界条件に左右されます。

個々の処理ステップにおいては、センサーの信号から真の付加価値を生成するためにデータを正しく取り扱い、解釈することが極めて重要です。アプリケーションによっては、センサーの離散的なデータを正しく解釈し、所望の情報を抽出するのは容易ではないことがあります。経時的な挙動が重要な役割を果たしていて、所望の情報に直接影響を及ぼすことは少なくありません。また、複数のセンサー間の依存関係について考慮しなければならないこともよくあります。単純な閾値や、手作業の代替レベルのロジックやルールだけでは、もはや複雑なタスクに対処することはできません。

AIのアルゴリズム

AIのアルゴリズムを使用したデータ処理を導入すれば、センサーで得た複雑なデータを自動的に分析することができます。この分析により、データの処理系において所望の情報(つまりは付加価値)を自動的に得ることが可能になります。

AIのアルゴリズムを利用する場合には、必ずモデルの構築という作業が伴います。これについては、2つの基本的な方法があります。

1つは、データと所望の情報との関係を表す数式や、それらの明示的な関係を用いてモデリングを実施するというものです。これは、モデル・ベースのアプローチと呼ばれています。このアプローチにおいては、数学的な記述という形で物理的な背景情報を利用できるようにしなければなりません。センサーからのデータと背景情報を組み合わせることにより、所望の情報に対するより正確な結果を得ます。最も広く知られている例としては、カルマン・フィルタが挙げられます。

データは利用できるものの、数式の形で記述できる背景情報が存在しないというケースもあります。このような場合には、いわゆるデータ駆動型のアプローチを選択することになります。その場合、アルゴリズムによって、データから直接所望の情報を抽出します。そのためには、線形回帰、ニューラル・ネットワーク、ランダム・フォレスト、隠れマルコフ・モデルなど、機械学習で使用されるあらゆる手法を活用します。

AIの利用方法の選択は、アプリケーションに関する既存の知識に依存することが少なくありません。広範な専門知識を利用できる場合、AIが果たす役割はより補助的なものになり、アルゴリズムとしても非常に基本的なものを使用するだけで済みます。一方、利用できる専門知識が存在しない場合には、AIのアルゴリズムとしてはるかに複雑なものを使用しなければなりません。多くの場合、使用するハードウェアは、アプリケーションの内容に応じて決まります。それにより、AIのアルゴリズムの限界も決まります。

組み込み、エッジ、クラウドへの実装

データの処理系には、個々のステップで必要になるすべてのアルゴリズムを実装しなければなりません。その際には、可能な限り質の高い付加価値を生み出せるようにする必要があります。通常、その実装は、演算用のリソースが限られた小型のセンサーから、ゲートウェイやエッジのコンピュータ、大規模なクラウド側のコンピュータまでのあらゆるレベルを対象として実施しなければなりません。1つのレベルだけを対象としてアルゴリズムを実装すべきではないことは明らかです。ただ、一般的には、できるだけセンサーの近くにアルゴリズムを実装する方が有利になります。そうすることにより、初期の段階でデータを精製して圧縮することができます。結果として、通信やストレージにかかるコストを削減することが可能になります。また、必須の情報をデータから早期に抽出することで、高位のレベルでグローバル・アルゴリズムを開発するのがより容易になります。多くの場合、ストリーミング・アナリティクスの分野のアルゴリズムを使用できるのであれば、データを無駄に保存することを避けて、データ転送やストレージにかかる大きなコストを回避することができます。この種のアルゴリズムでは、各データ・ポイントは一度しか使用しません。これは、完全な情報が直接抽出され、データを保存する必要がないということを意味します。

AIのアルゴリズムを備える組み込みプラットフォーム

アナログ・デバイセズの「ADuCM4050」は、プロセッサ・コアとしてARM® Cortex®-M4Fを採用したマイクロコントローラです。この製品は、データのアクイジション、処理、制御、ネットワーク接続といった機能を担うアナログ/デジタル・ペリフェラルとパワー・マネジメント用の回路を統合した低消費電力のシステムです。このような機能を備えていることから、AIを利用するスマート・アルゴリズムを適用したデータ処理をローカルで行う用途に最適です。

アナログ・デバイセズは、ADuCM4050を搭載した開発キット「EV-COG-AD4050LZ」も提供しています。これは、当社のセンサー、マイクロコントローラ、HFトランシーバーに対応する超低消費電力の開発/評価用プラットフォームです。また、当社は、「EV-GEAR-MEMS1Z」というArduinoシールドも提供しています。これは、当社の様々なMEMS(Micro Electro MechanicalSystems)製品の評価用に設計されたものです。ただ、用途はそれだけに限定されているわけではありません。このシールドは、「ADXL355」などADXL35xシリーズの加速度センサーに対応しています。それにより、優れた振動整流、長期的な再現性、高いノイズ性能を小さなフォーム・ファクタで実現します。EVCOG-AD4050LZとEV-GEAR-MEMS1Zを組み合わせることで、振動、ノイズ、温度の解析に基づく構造物の健全性の監視や機械の状態監視に関する検討を迅速に行うことができます。また、必要に応じて、他のセンサーをCOGプラットフォームに接続することも可能です。複数のセンサーを利用したデータ・フュージョンを実現することで、選択したAI手法を使って現在の状況をより的確に推定できるようになります。様々な動作の状態や故障の状態を、より適切な粒度とより高い確率で分類することが可能になるということです。COGプラットフォーム上のスマートな信号処理により、ローカルでビッグ・データからスマート・データを生成できるので、アプリケーションに関連するデータをエッジかクラウドに送信するだけで十分になります。

加えて、COGプラットフォームには、ワイヤレス通信用のシールドも用意されています。例えば、「EV-COG-SMARTMESH1Z」は、多くの産業用アプリケーションに対応する通信プロトコルとして、6LoWPANとIEEE 802.15.4eをサポートしています。また、高い信頼性と堅牢性を兼ね備えつつ、消費電力も極めて少なく抑えています。SmartMesh® IPネットワークは、スケーラビリティが高く自己形成型のマルチホップ・メッシュで構成されています。そのワイヤレス・ノードにより、データの収集/中継を実現します。ネットワーク・マネージャによって、ネットワークの性能とセキュリティを監視/管理し、ホスト・アプリケーションとの間でデータをやり取りします。

特に、バッテリ駆動型でワイヤレスの状態監視システムでは、組み込みAIによって完全な付加価値を実現することができます。例えば、ADuCM4050に組み込まれているAIのアルゴリズムを使用し、ローカルにおいて、センサーで取得したデータからスマート・データを生成します。そうすることにより、センサーで得たデータをエッジやクラウドに直接伝送する場合と比べて、データによる負荷を軽減できます。その結果、消費電力を削減することが可能になります。 

アプリケーションの例

専用に開発されたAIアルゴリズムを搭載するCOG開発プラットフォームであれば、多様なアプリケーションに対応することができます。機械、システム、構造物、プロセスの監視を必要とする分野において、単純な異常の検知から複雑な故障の診断まで、あらゆるアプリケーションを対象とした機能を構築可能です。また、加速度センサー、マイクロフォン、温度センサーが統合されているので、多様な産業用機械やシステムの振動/ノイズを監視できます。プロセスの状態、ベアリングやステータの損傷、制御用電子機器の故障、そして電子機器の損傷などが原因で生じるシステムの未知の挙動さえも、組み込みAIによって検出することが可能なのです。特定の損傷に対する予測モデルを利用できる場合には、その損傷をローカルで予測することもできます。それにより、早い段階で保全処置を講じることができ、事前に故障を回避することが可能になります。予測モデルが存在しないケースにも、COGプラットフォームは役に立ちます。その分野の専門家が機械の挙動を逐次学習し、予知保全に必要な、機械の包括的なモデルを時間をかけて導出する作業に活用できるのです。

まとめ

組み込みAIアルゴリズムは、理想的には、ローカルでのデータの分析により、どのセンサーがどのアプリケーションに対して有用で、そのアプリケーションに対してどのアルゴリズムが最適であるかを判断できるものであるべきです。これが実現できれば、そのプラットフォームはスマート・スケーラビリティを備えているということになります。仮に、使用しているAIのアルゴリズムが、機械の状態監視用の様々なアプリケーション向けに最小の労力で実装できるよう、既にスケーリングされているとしましょう。その場合も、各アプリケーションに最適なアルゴリズムを見つけ出す役割を担うのは、現時点では依然としてその分野の専門家です。 

また、組み込みAIは、データの質に関する判断も行えるものでなければなりません。データの質が不十分である場合、センサーと信号処理系に最適な設定を見いだして、そのとおりに設定を行う必要があります。複数の異なるセンサー・モダリティを使用してセンサー・フュージョンを利用する場合、特定のセンサーや特定の方法の欠点を、AIのアルゴリズムによって補うことができます。それにより、データの質とシステムの信頼性が向上します。AIのアルゴリズムによって、あるセンサーが各アプリケーションに対して有用ではない(またはそれほど有用ではない)と判断された場合には、その結果に基づいてデータ・フローを抑制することが可能です。

アナログ・デバイセズのオープンなCOGプラットフォームには、自由に利用できるソフトウェア開発キットが含まれています。また、迅速な試作、開発の促進、独創的なアイデアの具現化に向けて、ハードウェアとソフトウェアに対応する多くのサンプル・プロジェクトも用意されています。複数のセンサーを使用したデータ・フュージョン(EV-GEAR-MEMS1Z)と組み込みAI(EVCOG-AD4050LZ)を活用することにより、スマート・センサーをベースとし、堅牢性と信頼性に優れるワイヤレス・メッシュ・ネットワーク(EV-COG-SMARTMESH1Z)を構築することが可能になります。

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Felix Sawo

Felix Sawo は、センサー・フュージョンや自動データ分析のアルゴリズム開発を専門とするKnowtionのCEO(最高経営責任者)です。2011年より現職。以前は、フラウンホーファー研究機構のIOSB(Optronics, System Technologies, and ImageExploitation)で機械の診断に使用するアルゴリズムやシステムの研究/開発に携わっていました。2005年にイルメナウ工科大学でメカトロニクスに関する理学修士号、2009年にカールスルーエ工科大学でコンピュータ科学に関する博士号を取得しています。

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Dzianis Lukashevich

Dzianis Lukashevich は、アナログ・デバイセズのプラットフォーム/ソリューション担当ディレクタです。2012年にドイツ支社(ミュンヘン)に入社し、セールス・マーケティング部門の職に就きました。現在は、産業の未来を形作り、広範な市場で事業を変革するメガトレンド、新技術、完全なソリューション、新しいビジネス・モデルに重点的に取り組んでいます。2005年にミュンヘン工科大学で電気工学の博士号、2016年にウォーリック・ビジネス・スクールで経営学の修士号を取得しています。