あらゆる分野にセンシング機能を提供する最新のLIDARシステム

最近の技術の進化に伴い、従来は存在しなかったモダリティを利用できるようになりました。現実世界の物理的な情報をデジタル形式で捕捉することが可能になったのです。これに貢献した技術としてはLIDAR(Light Detection and Ranging)が挙げられます。LIDARは、多くの分野の多くのアプリケーションで使用されています。実現される機能は、地形の測量、構造の3Dマッピング、物体の認識など多岐にわたります。そうした機能は、製造分野で使われるオートメーション機器や、安全性を確保するための装置、農業用機器など様々な用途で使用されます。このように、LIDARはあらゆる業界で活用されています。それにより、各業界はコストの削減、より安全な環境の構築、効率の向上といったメリットを享受しています。あるいは、従来は存在しなかった機能を実現できるようになったという例もあります。LIDARのインパクトについて正しく理解するためには、次のようなことについて知っておく必要があります。すなわち、LIDARとはどのような技術なのか、LIDARが登場する前は何が使われていたのか、LIDARによって何を測定できるのか、また何が行えるようになるのかといったことです。

LIDARについて最も簡単に説明すれば、「光を物体に照射して反射光を測定することで、物体までの距離や物体の性質を検出するシステム」ということになります。このような機能を実現するために、LIDARシステムには、光を照射する送信部と反射光の到達時間などを測定する受信部が設けられます。ここまでの説明であれば、従来のレーダー・システムとほとんど変わりはありません。しかし、両者には非常に重要な違いが1つあります。それは、LIDARシステムが送信する光の波長は、レーダーで送信される電波の最短波長の1万分の1のレベルであるということです。

図1. レーダーの概念図。人が見ているものとレーダーで検知しているものを比較しています。

図1. レーダーの概念図。人が見ているものとレーダーで検知しているものを比較しています。

LIDARにはどのような違いがあるのか?

波長がはるかに短いことで、レーダーでは不可能だった何ができるようになるのでしょうか。物理的な制限として、測定を行う際には、測定に使用するものよりも細かいレベルで結果を得ることはできません。つまり、分解能(波長)を上回るレベルの結果は得られないということです。逆に言えば、短い波長の光を使用することにより、レーダーを使用する場合と比べてはるかに解像度の高い画像を得ることができます。長い波長の電波を使って測定した場合には、ソフトウェアや信号処理による工夫を適用したとしても、ある程度の特徴をつかむことしかできません。従来のレーダーでは、位置、大まかな大きさ、速度しかわかりませんでした。それに対し、より波長の短い光を扱うLIDARを使用すれば、物体を検知するだけでなく、その特徴を把握することも可能になります。

慣れていない暗い部屋の中を進もうとするケースを思い浮かべてみてください。その場合、照明がついているときよりもゆっくりと動き、周囲の物体を手探りして、何がどこにあるのか感じ取ろうとするでしょう。同じ部屋で、それぞれゴム手袋、ガーデニング用の手袋、ボクシング用のグローブをはめている様子を思い浮かべてみてください。各手袋はそれぞれの用途では価値がありますが、暗やみの中で進もうとする場合にはほとんど役には立ちません。

LIDARが登場してから既に数十年、何が新しいというのか?

レーダーは数十年にもわたって活用されてきました。これからも非常に重要なものであり続けるでしょう。しかし、更に物体を感知する能力が高い新たなツールが登場しようとしています。従来、LIDARの用途は、大型で高価な機器(特殊な測量装置など)か、小さくて単純な機器(警察が使う車速検出装置など)に限られていました。

LIDARシステムは、基準になる性能レベルに達している必要があります。例えば、車載向けのものとして魅力的なシステムにするためには、ピーク電流が40A~80A、幅が3ナノ秒~5ナノ秒のレーザー・パルスを送出できる送信部を用意しなければなりません。レーザーのドライバは、ようやくこのようなレベルに近づいてきました。つまり、LIDARではこのような送信部が実現されつつあります。それ以外にも、小型で効率的なパワー・マネジメント・システム、統合されたサブシステム、安価かつ高速なデータ処理、すべてのデータの意味を解釈するための高度なソフトウェアなどが必要です。アナログ・デバイセズであれば、LIDARシステムの性能を高めつつ、消費電力を削減することができます。そのため、以前は要件を満たせなかった多くのアプリケーションでLIDARシステムを使用するということが現実的な話になっています。実際、そうしたソリューションに対する関心は高まる一方です。現在は、性能を高めつつ、コスト、サイズ、消費電力を低減するという目標に向けて総力が結集されている状況にあります。

MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術は1990年代に大きく進化しました。それと同様に、現在のLIDARでは小型化、コストの低減、多用途対応が進んでいます。MEMSもLIDARも、その潜在能力をシステム/サブシステムで完全に発揮できるようにするまでには長い時間を要しました。MEMSは、もともと1950年代に開発された技術です。しかし、当初はコスト、サイズ、消費電力、性能の面で一般的なシステムに適用できるレベルの実用的な選択肢だとは言えませんでした。しかし、1990年代にはプロセス技術が十分な成熟を迎えました。その結果、MEMSデバイスは、それまでは想定できなかったようなアプリケーションにも適用できるレベルに達したのです。LIDARは、1960年代の初頭に開発された技術です。MEMSと同様に、LIDARもようやくコストやサイズなどの要件を満たせるものになりました。

従来とは異なり、高性能のLIDARシステムについては、設計と製造に関連する様々な事柄が融合するようになっています。そうした変化は、LIDARシステムにおいて固有の制約を満たす上で非常に役に立っています。例えば、コストの削減、サイズと消費電力の問題の解決、全体性能の向上などにつながっているということです。このような理由から、LIDARでは開発費を削減しつつ性能を高めることが可能になりました。結果として、LIDARを様々な用途に適用するというのは理に適った考え方になりました。

図2. LIDAR技術とMEMS技術の飛躍的な進化

LIDARでは、従来にはない何を実現できるのか?

LIDARシステムを利用すれば、物体の表面をスキャンすることができます。但し、LIDARはコストの面では必ずしも優位性があるとは言えません。より手が届きやすい価格を実現できたとしたら、LIDARシステムにはどのような用途が生まれるのでしょうか。以下、LIDARを利用した最近のイノベーションを紹介します。


エンターテインメント


LIDARがエンターテインメント業界にもたらすメリットは、複雑なセットや物体をデジタル的にマッピングできるようになることです(図4)。そうすれば、私たちにとっての現実とソフトウェアで生成した現実を、相互に、よりシームレスに作用させることができます。例えば、映画やビデオ・ゲームにおいて、俳優による演技を滑らかな3Dモーション・キャプチャで取得し、架空の世界に転写するといった具合です。従来、この作業はセンサーを備えるスーツを使って行われていました(図3)。このスーツは非常に高価であることに加え、限られた動きの情報しか送出することができませんでした。もう1つの方法は、必要なディテールに応じてアニメーションを制作するというものでした。しかし、この方法は多くの時間とコストを要します。

図3. 従来の3Dモーション・キャプチャの取得方法。特殊なスーツを使用し、白い球体の動きを追跡することでデータを収集します。

図3. 従来の3Dモーション・キャプチャの取得方法。特殊なスーツを使用し、白い球体の動きを追跡することでデータを収集します。

図4. LIDARによってキャプチャした表情。この方法であれば、従来よりもはるかに表情豊かな画像を得ることができます。

図4. LIDARによってキャプチャした表情。この方法であれば、従来よりもはるかに表情豊かな画像を得ることができます。


地形の測量


LIDARは、以前から地形の測量に使用されていました。しかし、LIDARシステムは測距範囲と分解能の面で大きな進化を遂げています。そのため、現在では、徒歩では調査することができなかった場所で古代遺跡を発見するといったことが実現されるようになりました。小型化と低コスト化が絶えず進んでいることからも、LIDARは土木系の工学や調査における魅力的な選択肢となっています。実際、従来と比べて、速度、精度、柔軟性、安全性の面で優れた測量方法を実現できます(図5)。

図5. 採石場の標高を表すマッピング画像

図5. 採石場の標高を表すマッピング画像


構造工学、土木工学


LIDARシステムは、建物の建築作業の進捗状況をリアルタイムで監視する用途に利用できます。例えば、システムによる測定値を設計図と比較し、それを更新するといったことを実現可能です。あるいは既存の構造物をスキャンし、時間の経過と共に劣化が進む様子をより正確に把握することもできます。そうすれば、改築や再建が必要かどうかをより適切に判断することが可能になります。

図6. 建設現場の監視。取得した情報をリアルタイムで更新し、設計と異なる個所を通知することができます。

図6. 建設現場の監視。取得した情報をリアルタイムで更新し、設計と異なる個所を通知することができます。


交通


自律走行の実現には、LIDARシステムが欠かせません。現在も車両の周囲の情報を測定するために多くの機器が使用されています。しかし、それらだけでは自律走行の実現には不十分です。そこで、低コストのLIDARシステムを追加し、足りない部分を補完するのです。具体的には、レーダーでは測定が不可能な路面の詳細な特徴をLIDARによって取得します(あるいは物体を識別します)。そうすれば、天候による障害が生じている状況下でも、従来のビジョン・システムを使う場合と比べてはるかに的確に自律走行することができます(図7)。

図7. LIDARを活用した自動車。近接する物体の特徴を検知することで、夜間でも車両の安全な走行が維持されます。

図7. LIDARを活用した自動車。近接する物体の特徴を検知することで、夜間でも車両の安全な走行が維持されます。


安全性の向上


従来のセンサーでは、極端に言えば「目の前に何かが存在するか否か?」という単純なことしか検知できませんでした。LIDARシステムを利用すれば、安全な状況を保つためには、いつ、どのように対処すべきなのかということまで把握できるようになります。例えば、重い物体を扱うロボット・アームがあったとします。その稼働範囲内に、想定された物体ではなく、人が立ち入ってしまった場合には、より敏感に反応するといった具合です。


農業


従来は、サイロ内の穀物の高さや、作物の状態、燃料の残量などを検知するために単純なセンサーが使われてきました。しかし、一歩踏み込んだ情報を得ようとすると、そうしたセンサーでは必要な事象を捕捉できないことが多くなります。例えば、サイロに穀物を流し込んだとき、それによってどのような山の形ができるのかといったことです。また、その山のどこを測定するのか(高さの最高値、最低値、平均値、あるいは任意の個所の高さ)によって、貯蔵庫をどれだけ有効に活用できるかということに影響が及ぶ可能性もあります。従来のセンサーを使ってそうした情報を捕捉する方法は1つしかありません。それは、センサーの数を増やすことです。但し、それ自体の分解能に限界があることが問題であることに加え、センサーの数を増やせば製造コストが大幅に増加します。LIDARを使えば、作物全体の成長を経時的に詳しく把握することができます。また、重要なデータを取得できることから、栽培方法に関してリアルタイムに情報を取得したり、将来を見越した知見を得たりすることが可能になります。更に、LIDARは、作物を収穫する際に使用する自動機械の動きを最適化したい場合にも役立ちます(図8)

図8. 畑の耕作。作業を行った後の地形の情報をリアルタイムにマッピングすることができます。LIDARの特質として、照明の条件からの影響を受けることはありません。

図8. 畑の耕作。作業を行った後の地形の情報をリアルタイムにマッピングすることができます。LIDARの特質として、照明の条件からの影響を受けることはありません。


オートメーション


物理的な構造を正確かつ詳細に把握できるようになると、ロボットの価値が大きく高まります。それにより、ロボットはサイズと形状が様々な物体をより正確かつ適切に取り扱えるようになるからです。そうすると、ハンドリングや並べ替えが繰り返し行われる製造現場や倉庫にも適用できるようになります。また、そのような作業に必要な情報を得ることにより、製造時に不必要なまでに厳しくしている許容誤差を緩和することができます。その結果、製造にかかるコストや品質管理のコストを削減することも可能になります(図9)。

図9. ビン詰め工程の監視。ビン詰めの実施時や包装の完了後の監視作業には、大型のビジョン・システムがよく使用されます。そのようなシステムの設置が現実的ではない場合、LIDARを適用することで、ビン詰めを実施する前に損傷や欠陥を検出することが可能になります。このような仕組みは、特に、ビンの区別を視覚的に行うのが困難な場合に役立ちます。

図9. ビン詰め工程の監視。ビン詰めの実施時や包装の完了後の監視作業には、大型のビジョン・システムがよく使用されます。そのようなシステムの設置が現実的ではない場合、LIDARを適用することで、ビン詰めを実施する前に損傷や欠陥を検出することが可能になります。このような仕組みは、特に、ビンの区別を視覚的に行うのが困難な場合に役立ちます。

上述した各種のアプリケーションは、現在開発中または既に開発済みのものです。ただ、LIDARのような技術については、他にどのような創造的かつ有用な用途が存在するかはわかりません。読者の中には、LIDARのメリットを活用できそうな製品やシステムを提供しているという方もいらっしゃるでしょう。その場合、ぜひアナログ・デバイセズにお声がけください。そのアイデアを具現化するためには、様々な専門知識が必要になります。当社であれば、そうした知識や技術を提供できます。

LIDARによるメリットを享受するためにはどうすればよいのか?

Analog.com/jp/lidarに掲載している情報は、LIDAR関連の市場に参入したり、既存の製品の強化を目指したりしているお客様にとっての出発点になります。ハイ・レベルのアプリケーションをベースとするアプローチについては、当社にお問い合わせください。当社が擁するシステムの専門家がお話を伺い、問題に対処する方法についてアドバイスいたします。技術的なアプローチについては、「AD-FMCLIDAR1-EBZ」などの開発/評価用プラットフォームを用意しています。それらを使用することで、不要な設計作業を回避し、製品をより迅速に市場に投入することが可能になります。

tony-pirc

Tony Pirc

Tony Pircは、カリフォルニア州立大学チコ校で電気工学の学士号を取得しました。また、副専攻としてコンピュータ工学、物理学、数学を履修しました。製造環境で使用される産業用オートメーションに関連した業務の経験を有しています。アナログ・デバイセズで担当しているのは高精度アンプです。ユーモアを愛する多才な人物です。