要約
このアプリケーションノートでは一般的な車載用PMIC (パワーマネージメントIC)のMAX16922で、放射ノイズを抑えて特性を最大限に引き出すためのレイアウト方法を説明します。
はじめに
周波数の高いスイッチングレギュレータ、例えばMAX16922を使用する際には、優れたPCBレイアウトによって、クリーンな出力を提供することができ、ノイズ放射問題の欠陥を調査改善するためのEMI対策品を考慮(検討)する時間を削減します。このアプリケーションノートでは、適切なレイアウトによって最大の利点を提供する重要な分野の説明をします。
一般的なレイアウトのガイドライン
- OUT1:入力コンデンサ(C3とC5)、インダクタ(L1)、キャッチダイオード(D1)、出力コンデンサ(C12)のトレースループの面積を最小限にする。
- OUT2:入力コンデンサ(C10)、インダクタ(L2)、出力コンデンサ(C11)のトレースループの面積を最小限にする。
- パワーグランド(9ピンとD1のアノード)とそれ以外のグランドを、MAX16922裏面のエクスポードパッドの近くで、一箇所に接続する。この接続により、デバイスのエラーアンプへのノイズカップリングを低減することができる。
- トレースは、幅を広くするより短くすること。
AC-DC電流パスの適正化
スイッチングレギュレータのMAX16922は、デバイス上で大きな放射源になります。その結果、放射ノイズを低減するために、スイッチングレギュレータの受動部品のレイアウトが重要になります。電流のステップ変化があるパスは、AC電流パスとみなされます。これらのAC電流パスは、スイッチングのオンとオフの両期間に流れる電流パスを削除することで見ることができます。オンとオフの期間にこれらの部品を流れるパスは、DC電流パスとみなされます。
OUT1のAC電流パス
DC-DCコンバータ(OUT1)には5つの受動部品(C3、C5、C12、L1、およびD1)があり、スイッチング電流のパスに直接接続されています。これらの5つの部品は、放射とOUT1の特性に大きな影響を与えます。図1は、内部DMOSスイッチがターンオンした時のオン期間の電流パスを示しています。図2は、内部DMOSスイッチがターンオフした時のオフ期間の電流パスを示しています。これら二つの電流パスの違いは、電流の流れが急に変化する所で、AC電流パスとみなされます(図3)。部品D1、C3、およびC5の適正なレイアウトを行うことが最も重要で、続いて部品L1およびC12になります。
図1. OUT1でのDMOSがオン時の電流
図2. OUT1でのDMOSがオフ時の電流
図3. OUT1でのAC電流の差
OUT2のAC電流パス
同期式DC-DCコンバータ(OUT2)には3つの受動部品(C10、C11、およびL2)があり、スイッチング電流のパスに直接接続されています。OUT1と同様に、これらの3つの部品は、放射とOUT2の特性に大きな影響を与えます。図4と図5は、オンとオフ期間でのスイチング電流のパスを示しています。図6はこれら2つの電流パスの違い、最大のdi/dtが発生するパスを示しています。部品C10の適正なレイアウトを行うことが最も重要で、続いて部品L2およびC11になります。
図4. OUT2でのPMOSがオン時の電流
図5. OUT2でのDMOSがオン時の電流
図6. OUT2でのAC電流の差
OUT1のブーストAC電流パス
DC-DCコンバータ(OUT1)は、ハイサイドにDMOS素子を採用しているため、LX1ピン(DMOSのソース)より5V高い電源電圧が必要になります。この電圧を発生するために、ブーストコンデンサがLX1ピンとBSTピン間(図7)に接続されています。DMOSのオフ期間に、ブーストコンデンサ(C11)は5VのLSUPレギュレータから充電されます。LSUP出力は、またエラーアンプにも電源を供給します。このため、エラーアンプ回路に悪影響を与える過度なノイズを低減するため、LSUPはできるだけ安定であることが重要です。これを実現するための最良な方法は、C4とMAX16922の接続でのインダクタンスを低減することです。C4をできるだけ19ピン(GND)と17ピン(LSUP)の近くに配置して、ビアを介さないでください。
図7. OUT1ブーストコンデンサでのAC電流
LXノードへのスナバの追加
LX1の立上り/立下り時間はスイッチングノイズを低減するために、電源の効率にあまり影響しない範囲で、できるだけ遅くします。更に放射ノイズの低減が必要な場合には、RCスナバをLX1ピンに接続してLX1の立上りを抑制することができます。コンデンサは、効率にあまり影響を与えないで、なおかつ機能するためにも330pFを超えない範囲で、最小のコンデンサ容量を選択してください。抵抗値は2Ω前後が推奨されます。スナバは図13の回路図でR2とC13で構成され、オプションとして示されていています。
LX2の立上り/立下り時間は、LX1より速いです。LX2はメインの入力電源より隔離されているため、一般的には伝導性放射ノイズの心配は少ないです。しかしながら、時にはLX2ノードは、周辺素子やコネクタピンに放射することで、放射問題を引き起こすこともあります。これらの放射を低減するために、スナバをLX2に同様に追加することもできます。部品定数も同様で、コンデンサは220pF以下、直列抵抗は8Ω~20Ωにしてください。
4層PCBレイアウト例
図8から図11は、このアプリケーションノートのガイドラインを基にした4層レイアウト例を示しています。図12では、重要なオンとオフのACとDCの電流パスをレイアウト中に示しています。
図8. トップ面
図9. ボトム面
図10. 内層1 (パワーグランド)
図11. 内層2 (グランド)
図12. 電流パス。黒はオンサイクル、オレンジはオフサイクル、赤は差を示しています。
メイン電源のフィルタリング
メイン電源のフィルタリングも大変重要です。これは、伝導性放射がモジュール外部に出る前に低減される最後のポイントがメイン電源のためです。スイッチング周波数の高いレギュレータ、例えばMAX16922では伝導性放射問題は通常FMラジオ帯域(76MHz~108MHz)で発生します。これらの放射を低減するためには、この周波数帯でハイインピーダンスになるフェライトビーズや自己共振周波数が108MHz以上のインダクタを追加します。
結論
スイッチングレギュレータのMAX16922では、重要な受動部品のレイアウトを適切に行うことでノイズと放射ノイズをもとから低減することができます。これにより、プロジェクトの評価段階において貴重な時間と努力を節約することができます。
表1. 部品リスト
Designation | Qty | Description |
C1 | 1 | 47µF, 25V electrolytic capacitor |
C2–C3 | 2 | 47nF, 50V ±10% X7R 0603 ceramic capacitors |
C4 | 1 | 1µF, 10V ±10% X7R 0603 ceramic capacitor |
C5 | 1 | 4.7µF, 50V ±10% X7R 1210 ceramic capacitor |
C6 | 1 | 100nF, 10V ±10% X7R 0402 ceramic capacitor |
C7 | 1 | 4.7µF, 10V ±10% X7R 1206 ceramic capacitor |
C8–C9 | 2 | 2.2µF, 10V ±10% X7R 0805 ceramic capacitors |
C10–C12 | 3 | 10µF, 10V ±10% X7R 1206 ceramic capacitors |
C13 | 1 | 100pF, 50V ±10% X7R 0402 ceramic capacitor |
R1 | 1 | 20kΩ ±1% 0402 resistor |
R2 | 1 | 2Ω ±5% 0402 resistor |
L1 | 1 | 4.7µH inductor |
L2–L3 | 2 | 2.2 µH inductors |
D1 | 1 | MBR140SFT1 Schottky diode |
D2 | 1 | ES1D diode |
U1 | 1 | MAX16922ATPA/V+ quad-output PMIC |

図13. PCBレイアウトに使用した回路図