狭い裏庭用の160mバンド・アンテナ

携帯電話によって安価ですぐに利用できる通信手段が世界中で普及しています。それにも関わらず、いまだに世界で数百万のアマチュア無線愛好家が活動しているという事実を知って、驚く人もいます。趣味の世界は実用性だけで割り切れるものではないということだと思います。私の友人であるアマチュア無線家の何人かは、災害復旧支援活動に積極的に取り組んでいます(彼らは、現在も続いているプエルトリコの災害復旧活動において、とりわけ重要な役割を果たしていました)。国際宇宙ステーションで地球軌道を周回している宇宙飛行士にもアマチュア無線家がおり、ステーション内に無線局を設置し、我々地上の愛好家と通信を行っています。月面で反射して戻ってくる信号を捉えるために、高ゲインのアンテナを設計・作成したアマチュア無線家もいます。私たちはこのようなことはもちろん、さらに多くのことを行うのに、最先端技術によるデジタル・モード(コンピュータ上で使用)から、古き良き時代のモールス符号まで、様々な方法を用いています。

この趣味の世界で私が楽しんでいる分野はHF通信で、アマチュア無線用に割り当てられた1.8MHzから28MHzまでの範囲にある8つの異なる周波数セット(「バンド」と呼ばれます)を使用します。幸いなことに、私の自宅敷地には長手方向の両端に木が1本ずつあり、長さ100フィートの中央給電ダイポール・アンテナを設置できる場所がありました。ダイポール・アンテナは素晴らしいアンテナです。まず、安価です。このアンテナは、実際のところ単なる何本かのワイヤで、給電線と数本の固定用ロープの両端を、利用できる樹木に取り付けただけのものです。さらに設計、設置、調整、固定が容易な上に、ゲインが小さいという点も利点になります(回転しないので方向は固定されますが)。

下に示したのはダイポール・アンテナの位置を示した自宅の空中写真で、右下にはめ込んであるのは「ツインリード」と呼ばれる部分(トランスミッタからアンテナへの給電線)と、(実際のアンテナが特定の周波数で共振しなくても)50Ωの負荷を接続してトランスミッタを「だます」ためのアンテナ・チューナの写真です。

 

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私はこのダイポール・アンテナをHF周波数で使って、50の州すべてと200を超える国々と交信しました。最も遠い場所はオーストラリア南西部で、これは地球のほぼ裏側にあたります。しかし、最も低いアマチュア無線バンドである160mバンド(1.8~2.0MHz)を使用する場合、ダイポールの高さは地表からわずか25フィートに過ぎず、160mという波長の1/20に満たないので、十分な性能が得られませんでした。これは、送信信号のほとんどが外へ向かってではなく、上に向かっていたことを意味します。このバンドにおける私の最大交信距離はわずか1100マイル程度でした。

昼食時に、アナログ・デバイセズの同僚であり同好の士でもあるWoody Beckford(WW1WW)と雑談した際、私はこの問題を説明しました。彼は、空中線を撚り合わせてバランの一方から給電を行うことにより、私の100フィートのダイポールを垂直アンテナにしてはどうかと提案しました。垂直にすれば送信する信号の「打ち上げ」角度が小さくなり、送信信号の到達距離が長くなります。これは、アマチュア無線家の間で広く使われているアンテナ・アナライザ・プログラムのEZNECによって劇的な効果が確認されました。左側が高さ25フィートに設定したダイポール・アンテナのパターンのモデルで、右側が同じ周波数における25フィート垂直アンテナのモデルです。右側のモデルのローブでは、RFの打ち上げ角が小さくなっています。

 

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ダイポールは(同様に垂直アンテナも)高さが25フィートに制限されるので(波長160mの1/20足らず)、2.0MHzという低い周波数に同調させるには問題のあることが分かっていました。Woodyは、アンテナ解析ソフトEZNECを使って延長コイルのパラメータを計算しました。このコイルはアンテナの電気的長さを延ばすだけでなく、バランも不要にします。下の写真はWoodyの仕様に基づいて私が設計したコイルで、直径2インチのPVCの周囲に#10のワイヤを38回巻き付けています。上端から出ているワイヤはツインリードの撚り合わせたリード・ペアに接続されており、SO-239によって無線室からの同軸ケーブルに簡単に接続できる他、端子を使ってラジアルを簡単に増減させることができます。

 

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ここで、ラジアルについて少し説明します。お分かりのように、この時点ではアンテナは文字通り半分しか完成していません。これは、垂直アンテナがダイポール・アンテナには必要でないものを必要とするためです。垂直アンテナは「半分」だけが存在していて、あとの半分は地中の「鏡像」であると言えます。つまり、垂直アンテナは、垂直アンテナの基部から放射状に伸びるワイヤ(したがって「ラジアル」と言います)を経由し、地中を通って戻る電流に依存しています。したがって、基本的にこれは、接地システムに電流が流れ込めばアンテナにも同様に流れ込むということを意味します。これで準備は整ったと思いましたが、アナログ・デバイセズに勤務していたもう一人のアマチュア無線家(K1DG)であるDoug Grantがあることを思い出させてくれました。ダミー負荷を使ってのテストです。

接地ラジアル・システムの有効性の定量化には、放射抵抗(R)を使用できます。これは、一言で言うとシステム全体、つまりアンテナ、給電線、およびラジアル・システムで生じる損失を表します。ここではRと、いくつかの疑問に答えるための助けとなる特別な計器(私はMFJ-259アンテナ・アナライザを使用)が必要です。例えば、いくつのラジアルを設置する必要があるのか、ラジアルの長さはどの程度にすればいいのか、ラジアルは地上に露出させるのか埋めるのかといったことです。さらに、自宅や近所の家、土壌の導電率(これは季節ごとに変化します)、埋設されたガス管、水道管、下水管、電話線、電線などは、Rや垂直アンテナの送信パターンにどのような影響を及ぼすのか、ということもあります。このように、計算すべき変数は実に数多くあります。その答えを見つけるには(ラジアルを設置することによって)テストを行うしかありませんでした。しかし、これは楽しみの始まりでもありました。

私は1000フィート(約330m)の絶縁ワイヤのリールを手に、いくつものラジアル配置方法を試し、SWR、R、およびX(Xについてはまだ触れていませんでしたが、これはリアクタンスを表します。すべてのアンテナ・システムに内在する容量とインダクタンスの組み合わせによる、交流電流の流れを阻害する成分です)を測定する作業を開始しましたが、その完了までには数カ月かかりました。これらのパラメータは、いずれも、できるだけ値を低く抑える必要があります。このブログではRに着目します。XはRの増減に従って変化する傾向があるからです。また、SWRは本来低いことが望ましいのですが、私はチューナを持っているので、これを使っていつでもトランスミッタへの負荷を50Ωに設定することができます。最初のテストでは、下の写真に示すように、4本のラジアルを自宅の敷地外周と建屋沿いの地表に配置しました。

 

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この時のRは、最も低い値でも私が簡単に達成できると思っていた目標の50Ωを上回っており、バンドの上限まで徐々に周波数を上げていくと最後は60Ωを超えてしまいました。しかし、これらの結果は希望の持てるものでした。ラジアルを増やす必要があるのは明白でしたが、問題はどこに設置すればよいかという点でした。その答えは、Rudy(N6LF)がQEX誌に寄稿したQEX articles on verticals and radialsというタイトルの一連の記事の中にありました。これらの記事の中で彼は、どのようにすれば、地表から離して設置したラジアルで地表ベースのラジアルと同等の効果を得ることができるか、あるいは時としてより高い効果を得ることができるか、ということを詳しく説明しています。私はこれを読んで、2本のラジアルを地表から約3 ½ フィート(1.07m)離し、裏庭を囲む木製フェンスの上部サポート沿いに設置しました。結果は非常に良好で、160mバンド全体にわたり値が少なくとも10Ω低下しました。

時間と1000フィートリールに残ったワイヤだけは豊富にあったので、私はさらに何本かのラジアルを様々なレイアウトで追加してみました。これには、「地表から離れたところにラジアルを1セット追加しただけでRが10Ω減ったのなら、フェンスの真ん中ぐらいにさらにもう1セット追加してみない手はないのではないか?」と考えて行ったテストも含まれています。しかし測定の結果、予想に反してバンド全体でRが増えているのが分かったとき、私がどんなに驚いたかは想像に難くないと思います(どなたかこれを計算で説明してみようという方はいないでしょうか)。最終的には、さらにいくつかのレイアウトと長さを試してみた結果、新たに70フィート(約21m)のラジアルを2本、垂直アンテナの反対側に追加すると最良の性能が得られ、160mバンド全体にわたってRの値をさらに約5Ω減らせることが分かりました。これらの結果を下に示します。3つのプロットは、それぞれ最初に配置した4本のラジアルによる性能(赤)、フェンスの上に設置したラジアルによる性能(青)、および最終的に70フィートの地表設置ラジアルを2本追加した場合の性能(緑)です。

これらの結果をWoodyとDougに知らせたところ(そして「次はどうしたらいいか」と尋ねたところ)、「いや、もう十分でしょ。あとは交信するだけだね。」という、これまでで一番のアドバイスが返ってきました。そのときはもう10月になっていましたが、私は、まもなく冬が訪れようというときに(160mバンドを使い最適な状態で交信できるようになり)裏庭を掘り返さなくても良くなったことに満足していました。その冬の間、そしてそれ以降、このアンテナは私の控えめな期待以上の働きを見せ、本土48州のすべてと35を超える国々と交信を行うことができました。その中には4,000マイル以上離れた東ヨーロッパやロシア、南アメリカのアマチュア無線家たちとの交信も含まれています。ダイポールの大きな改善の結果です。裏庭中を掘り返してワイヤを埋める努力、そして近所から向けられた奇異の目に見合うだけの価値は十分にありました。

 

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2019年2月更新

この記事を書いたのは約1年前ですが、それから色々なことがありました。私が設置した最初のアンテナは、一方の端の支えに使っていた木が病気になって切らなければならなくなったため使えなくなりました。その後、代わりに建てたアンテナ・マストも吹雪のために倒壊してしまいました。

隣人の親切がなければ(隣人の庭の木の1本をアンテナ用に使わせてくれました)、アマチュア無線活動を続けることはできなかったでしょう。木とマストは失いましたが、それに見合うだけのいいこともありました。隣人の木は私の自宅にあった木よりもはるかに高く、垂直アンテナは22フィートから40フィートを超える高さになりました。これは、それだけで性能を向上させることになります。

最近、ある冬の朝にニュージーランドの局と交信することができました。160mバンドで9,500マイル以上離れた場所と話ができたのです。それから数日後には南極圏の局と交信しました。約8,500マイルの旅です。ここに紹介した交信やその他の交信についてのデータ詳細、この垂直アンテナ・プロジェクトの写真にご興味をお持ちの方は、私のアマチュア無線局のウェブサイトをご覧ください。

参考資料

本コンテンツは、アナログ・デバイセズのオンライン・コミュニティ・サイト EngineerZone®に掲載されているブログを翻訳したものです。原文は「A 160 Meter Antenna for a Small Backyard」をご覧ください。

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David Kruh

かつてニューヨークに在住。メリーランド大学でアメリカ史の学位を取得して卒業。その後、父の期待に反しニュージャージー州の小さなAMラジオ局でディスク・ジョッキー兼チーフ・エンジニアとして勤務。さらにいくつかの局に勤務の後、復学して工学の修士号を取得。卒業後はマサチューセッツ州に新たに設立された小さな企業に勤務。当時最先端の超高速2400bpsモデムをプログラム。同社は非常に小さい企業だったのでマーケティングも手掛けたが、自分がエンジニアリングよりもマーケティングに向いていることを自覚し、数年後にはプロジェクト・スポークスパーソンとしてビッグ・ディグ・プロジェクトに従事。1997年にアナログ・デバイセズ入社。以来、ダイレクト・マーケティング・プログラムに向き合う日々。既婚。一人娘は映画産業に勤務。余暇にはアマチュア無線家(WB2HTO)として交信を楽しむ他、アンティーク無線機の熱心なコレクターとしてレストアも行う。