5Gのテストに取り組むモバイル業界、産業用途で99.9999%の信頼性を目指す

5Gよりも前の世代の携帯電話技術は、いずれも端末の動作を改善することを主な目的として開発されました。第1世代(1G)の携帯電話ネットワークは、アナログ技術をベースとしていました。利用できる機能は音声通話だけであり、そのために必要な帯域幅だけが確保されていました。1990年代の初頭になると、2Gが登場しました。これが、初のデジタル・モバイル技術です。そして1990年代の終盤には3Gが生まれました。この世代では、携帯電話端末によって電子メールの送受信や、ウェブ・ページへの基本的なアクセスが行えるようになりました。

スマートフォンの機能を本格的に利用できるようになったのは、2008年に4G技術が導入されてからです。4G対応のモバイル・ブロードバンド技術が普及するのに伴って、スマートフォン向けのアプリが数多く開発されるようになりました。その結果、マルチメディア・サービスやストリーミング・サービスが普及し、外出先でも高速インターネットを利用できるようになりました。

現在は、5Gに対応するネットワークの展開が進められている状況にあります。5Gは、新世代のモバイル技術としては初めて、端末ではなく、機械やシステムにおけるニーズに応えることを主な目的として開発されました。通信業界では、以下に示す3つの主要なパラメータについて技術的な革新を果たすことを目指し、5Gに関する計画が策定されました。

  • 遅延、信頼性、確定性
  • 接続密度
  • 帯域幅、データ伝送速度

では、なぜこれらの性能の向上を目指すことが目標になったのでしょうか。それは、密集した状態で同時に通信を行うデバイスを、リアルタイムに監視/制御できるようにしたかったからです。例えば、5Gを導入したスマート・シティでは、路上の駐車スペースのうち利用可能な場所に関するリアルタイムの情報を、近くにいる自動車のナビゲーション・システムに表示できるようにすることが期待されています。そのようなスマート駐車システムを実現するには、小さなエリア内に存在する数千もの近接センサー/カメラと数千台の自動車を同時に無線接続できるようにしなければなりません。その上で、空き情報や位置情報に関するデータをリアルタイムかつ連続的に伝送できるシステムが必要になります。

このようなアプリケーションでは、遅延や接続密度、帯域幅について、より厳しいスペックが要求されます。5Gの仕様は、これらの要件を満たせるように策定されました。具体的には、以下に示す3つの方向性で技術を強化することにより、そうした要件を満たしています。

  • URLLC(Ultra-reliable Low Latency Communication):リアルタイム制御が必要なシステムに対応するために、極めて信頼性が高く、遅延の小さい通信を実現する
  • eMBB(Enhanced Mobile Broadband): 拡 張 現 実(AR)や仮想現実(VR)を含めて、帯域幅に依存する新たなユースケースに対応する
  • eMTC(Enhanced/Massive Machine Type Communications):広帯域/低消費電力のワイヤレス・ネットワークで利用可能なマシンタイプ通信を実現する

これらにより、5Gでは、工場の制御システムで求められるリアルタイムの確定性と99.9999%の可用性という要件を満たすことが可能になります。しかし、2G/3G/4Gのネットワークを利用する多くの端末ユーザーは、実体験を通して次のような実感を持っているはずです。それは、電波が弱かったり届かなかったりするエリアが存在し、時々予期せず接続が途絶えることがあるというものです。

そのため、ミッション・クリティカルで時間的な制約のある産業用機械の無線接続に携帯電話技術を利用するというのは、現実的なことなのかという疑問が生じることになります。

成熟した4~20mA技術の置き換え

最先端の5G技術に対する期待は過剰なまでに高まっています。一方で、現実に目を向けると、今日の多くのプロセス設備は成熟した4~20mAの有線通信を使って制御されています。4~20mAは1950年代から使われています。つまり、多くの実績を積み重ねてきた信頼性の高い技術です。ミッション・クリティカルな制御システムや安全第一の制御システムを実装する際には、確実性の実現とリスクの回避が不可欠です。4~20mA技術は、そうした業界のニーズに合致しているのです。

しかし、繰り返し押し寄せる変化の波を永遠に拒み続けることはできません。実際、工場の運用方法についても技術革新が求められるようになっています。それに向けて、制御システムの設計者は、4~20mAの代替技術を評価してみようという方向に動き出しています。インダストリ4.0をはじめとする世界的な動きによって、工場の運用方法は飛躍的なペースで進化しつつあります。そして、2つのトレンドに後押しされ、新たなネットワーク技術の導入が進められようとしています。2つのトレンドのうちの1つは、自律型のモバイル機器を導入することです。もう1つは、パーソナライズされた製品や構成済みの製品に対する需要の高まりに対応するために、より柔軟性の高い製造設備を開発することです。

工場や倉庫では、効率と生産性を高めるための有効な手段として、無人搬送車(AGV:Automated Guided Vehicle)やコボット/ロボットなど自律型のモバイル機器が使われるようになっています。自動化された装置を導入することにより、作業員は反復作業や単純作業から解放されます。その結果、機械では実行できない、より価値が高くやりがいのある業務に従事することが可能になります。

そうした新世代の自律型モバイル機器には、ワイヤレス通信機能が必須です。その通信機能では、リアルタイム制御を実現するために遅延を小さく抑える必要があります。また、LIDAR(Light Detection and Ranging)ベースのスキャナやビデオ・カメラといった複数のセンサーからの信号を伝送するための広い帯域幅も求められます。更に、干渉に対する高い耐性も備えていなければなりません。こうした特徴は、まさに5G対応のモバイル・ネットワークで目指していることです。

有線接続のネットワークをワイヤレス・ネットワークに置き換えれば、消費者の新たな需要やその変化に応じて工場の設備を素早く再構成するための柔軟性を得ることができます。Eコマースの台頭に伴い、消費者の期待は高まる一方です。例えば、注文した商品をすぐに届けてほしい、これまでにないくらい多様な製品の中から好きなものを選択できるようにしてほしいといった具合です。このような状況に対応するためには、製造装置や処理装置をより迅速かつ容易に移動させられるようにすることも重要になります。有線接続を利用するインフラでは、装置を特定の場所に固定しておかなければなりません。つまり、装置をどこに配置しても接続できるワイヤレス・ネットワークを利用する場合と比べると柔軟性に欠けます。ワイヤレス・ネットワークを採用すれば、通信ケーブルの敷設に伴うコストを削減し、不便を取り除き、技術的な難易度を下げることが可能になります。

実際には、確立された有線通信技術と共にワイヤレス制御機能を利用することによって、長期的にメリットを享受することになるでしょう。一方で、近い将来のことを考えれば、以下のような非常に重要な要件を満たすことを優先しなければなりません。

  • 高い信頼性と可用性
  • セキュリティ
  • 過酷な産業環境に対応可能な堅牢性
  • 非常に小さい遅延

工場で長年にわたり4~20mAが通信規格として使われてきた理由がここにあります。工場の運用を担当する人たちは、4~20mA技術を置き換えたいと思っています。しかし現在は、ワイヤレス通信を採用するのではなく、有線の産業用イーサネット通信にTSN(Time-Sensitive Networking)を適用する方法が検討されています。

TSNはデータ伝送速度が高く、信頼性と堅牢性に優れ、遅延をマイクロ秒のレベルに抑えられます。また、企業のITネットワーク・システムに統合しやすいという理想的な性質を併せ持っています。そのため、工場における広帯域幅の有線データ通信に適した規格として注目を集めているのです。

また、TSN規格は複数の業界からの支持を得ています。加えて、TSN対応のコンポーネントやシステムを提供する企業から成る充実したエコシステムが急速に構築されています。そのエコシステムにはアナログ・デバイセズも参加しています。

OpenRAN:5Gの性能の検証を可能にする非パブリック・ネットワーク

TSNを採用したネットワークを実装するのと並行して、ワイヤレス・ネットワークにより工場の運用がどの程度改善されるのかという評価が盛んに行われるようになっています。TSNを早期に導入した産業分野の企業の中には、TSNを適用した新たなイーサネット・ネットワークで4~20mAをベースとする既存のシステムを置き換えるのと同時に、工場内に導入した5Gネットワーク・システムのテスト、検証、評価の作業を既に始めているところがあります。このような検証作業を行った結果として、5G技術を適用すべきアプリケーションが明らかになるはずです。

そうしたテストは、5Gの革新的な機能を対象として実施されます。代表的な機能の1つとしてはMassive MIMO(Multi Input Multi Output)が挙げられます。Massive MIMOとは、アンテナのアレイを使用して、トランスミッタとレシーバーの間に複数の物理的な伝送パスを構築するというものです。アンテナのアレイは、複数のレシーバーに対して複数のビームを送信するように構成されます。それにより、チャンネルのハードニング、ビームフォーミング、迅速なチャンネル推定、アンテナ(空間)のダイバーシティといった技術の実装が可能になります。これらの技術は、4Gモバイル・ネットワークと比べてはるかに高い信頼性と、はるかに小さな遅延の実現につながります。

実際、5Gの規格が策定された目的の1つは、ワイヤレス・ネットワークを使用したパケット伝送において99.9999%の信頼性を達成することでした。つまり、パケット・エラー率を1/100万に抑えるということです。この値は、有線のイーサネット・ネットワークに匹敵します。また、5Gでは遅延をわずか1ミリ秒に抑えられます。これであれば、産業分野の多くの制御アプリケーションにおける要件を余裕を持って満たすことができます。

では、その性能は、現実の工場における条件の下でも達成可能なのでしょうか。現実の環境では、通信装置は、いくつもの大振幅のRF干渉源、電圧トランジェント、高い温度といった問題にさらされる可能性があります。

工場のシステム設計を担当する技術者には、5G対応のシステムの現実の性能を検証するための選択肢が提供されます。もちろん、5Gを導入した工場は、モバイル・ネットワークのサービス・プロバイダが提供する5Gのカバレッジによるメリットを享受することができます。ただ、5Gの規格では、いわゆる非パブリック・ネットワーク(NPN:Non-public Network)の実装についても規定されています。NPNは、プライベートなシステムや、工業団地、大きな工場の複合施設などをカバーします。選択すべきパブリック・ネットワークやプライベート・ネットワークは、産業分野のユーザーやユースケースごとに異なります。

モバイル・ネットワーク事業者は、OpenRAN(Open Radio Access Network)という仕様を策定しています。そうした事業者は、工場における5Gネットワークの実装を推進すべく取り組みを行っています。OpenRANにより、5Gの無線装置/コア装置の市場は、従来から通信機器の市場に参画してきた企業だけでなく、より広範なサプライヤにも開放されました。このような取り組みにより、産業分野で利用できる装置の選択肢が広がることが期待されます。そうした装置は、一般的なものとは異なるユースケースのニーズを満たす必要があります。つまり、事業者が一般市場向けに提供するパブリック・ネットワークのターゲットとは異なるユースケースに対応しなければならないということです。また、そうした取り組みによって、産業分野の市場に特化したサプライヤによる5G製品の開発が促進される可能性もあります。

アナログ・デバイセズは、TSN対応の装置と5G対応のインフラを提供する両方のメーカーに対し、物理層のコンポーネントとプロトコル・ソフトウェアを提供します。当社は、産業用の制御システムに実装した場合の各技術の可能性を評価できる理想的な立場にあります。直近の未来を形作るのは、有線の産業用イーサネット技術です。しかし、工場内のAGVやロボットが、5Gのネットワークを介して時間的な制約が厳しいミッション・クリティカルなデータ・ペイロードを送受信する未来は容易に想像できるでしょう。5Gのネットワークのカバレッジを活用できるのであれば、理論上の可能性ではなく現実的な可能性としてそうした未来を想定できるのです。

brendan-odowd

Brendan O'Dowd

Brendan O'Dowdは、アナログ・デバイセズの産業用オートメーション事業を担当するゼネラル・マネージャです。Tellabs、Apple、アナログ・デバイセズなどの企業で、30年以上にわたって産業分野の業務に従事してきました。