絶縁型ゲート・ドライバの選択時に 注目すべき重要な特性

駆動系をはじめとするパワー・エレクトロニクスの分野では、高電圧/大電流に対応可能なスイッチング素子として、IGBT(絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ)がよく使用されます。この種のパワー・トランジスタは、電圧制御型のデバイスであり、主な損失はスイッチングの際に生じます。このスイッチング損失を最小限に抑えるためには、スイッチングにかかる時間を短くすることが望まれます。しかし、スイッチングが高速になると、高電圧のトランジェントが抱える危険性が表面化しにくくなります。そうしたトランジェントは、プロセッサのロジック処理に影響を及ぼしたり、損傷を与えたりする可能性があります。こうした理由から、IGBTに適切なゲート信号を供給することが可能なゲート・ドライバを選択することが重要になります(図1)。ゲート・ドライバは、スイッチング速度に直 接影響を及ぼすだけでなく、回路の短絡を防ぐように機能する必要があります。このように重要な役割を担うゲート・ドライ バを選択する際には、いくつかの特性に注目することが非常に重要です。

図1. 絶縁型ゲート・ドライバのブロック図。 ADuM4135の例を示しています。

図1. 絶縁型ゲート・ドライバのブロック図。 ADuM4135の例を示しています。

電流の駆動能力

トランジスタは、スイッチングする際に短い時間ではありますが、高い電圧と大きな電流が印加される状態になります。その結果、オームの法則に従い、その状態が継続する期間に応じて一定の損失が生じます(図2)。したがって、損失を削減するためには、その期間(スイッチング時間)を最小化することが目 標になります。これに関連する主な要因は、スイッチングの際に充放電されるトランジスタのゲート容量です。過渡電流が多くなれば、この充放電のプロセスは高速化します。

図2. トランジスタで発生する損失。 個々の損失の成分を簡略化して示しています。

図2. トランジスタで発生する損失。個々の損失の成分を簡略化して示しています。

そのため、長時間にわたって多くのゲート電流を供給できるドライバは、スイッチング損失に関する性能が高いと言えます。例えば、アナログ・デバイセズの絶縁型ゲート・ドライバ 「ADuM4135」は、最大4Aの電流を供給できます。対象となるIGBTの種類によっては、ナノ秒のレベルという非常に短いスイッチング時間を達成することが可能です。

タイミング

スイッチング時間を最小化する上では、出力の立上がり時間tR、立下がり時間tF、伝搬遅延tDが重要な要素となります。これらのうち、伝搬遅延は、入力のエッジが出力に到達するまでに要する時間として定義されます。この時間は、ドライバの出力電流と負荷によって決まります。通常、伝搬遅延には、立上がりエッジと立下がりエッジにわずかな差があることから、一定のパルス幅歪み(PWD:Pulse Width Distortion)が発生します(以下参照)。

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ゲート・ドライバは、複数の出力チャンネルを備えていることが少なくありません。それらは仮に同じ入力によって駆動される場合でも、それぞれに応答時間が異なります。そのため、わずかなオフセットである伝搬遅延スキューtSKEWが生じます。

図3. 複数の出力を備えた ゲート・ドライバにおけるタイミング図

図3. 複数の出力を備えたゲート・ドライバにおけるタイミング図

図4. 複数の出力を備えた ゲート・ドライバの概略図

図4. 複数の出力を備えたゲート・ドライバの概略図

絶縁耐電圧

パワー・エレクトロニクスでは、機能面と安全面の理由から、絶縁が必要になります。例えば、駆動系のアプリケーションでは、ゲート・ドライバはハーフブリッジのトポロジで使用されます。その場合、高いバス電圧と大電流に触れることになるため、安全性の面から絶縁が不可欠となります。一方、機能面の理由としては、次のような事柄があります。通常、パワー段は低電圧の回路によって作動します。そのため、ハーフブリッジにおけるハイサイドのスイッチは、同時に開くローサイドのスイッチによって高い電位がもたらされると、作動できません。また、故障が発生した場合、絶縁を施してあれば、高電圧部を制御回路から確実に分離できます。そのため、人間が接触しても危険が及びません。一般に、絶縁型ゲート・ドライバは、5kV以上の絶縁耐性を備えています。 

イミュニティ

一般に、産業用アプリケーションは、電気/電子回路にとって過酷な環境で運用されます。そのため、産業用アプリケーションには、できるだけ高いイミュニティが求められます。つまり、干渉源に対する高い耐性が要求されるということです。ゲート・ドライバには、RFノイズ、コモンモード過渡現象、磁気干渉フィールドといったものが結合する可能性があります。そうすると、パワー段に影響が及び、望ましくないタイミングでスイッチングが行われてしまうかもしれません。そのため、絶縁型ゲート・ドライバには、コモンモード過渡耐圧(CMTI:Common-mode Transient Immunity)という性能指標が設けられています。これは、入力と出力の間のコモンモード過渡現象を除去する能力を表します。「ADuM4121」の場合、CMTIは、150kV/マイクロ秒を超える優れた値を示します。

本稿で注目したパラメータは、ゲート・ドライバの仕様の一部です。完全なリストを示したわけではありません。動作電圧、電源電圧、温度範囲のほか、ミラー・クランプ出力機能や非飽和状態からの保護機能なども非常に重要な要素となります。こうした事柄について検討することにより、多くのゲート・ドラ イバ製品の中から、アプリケーションの要件に応じて最適なものを選択することが可能になります。

Thomas Brand

Thomas Brand

Thomas Brand。2015年、修士論文作成の一環で、ミュンヘンのアナログ・デバイセズでのキャリアを開始。卒業後、アナログ・デバイセズのトレイニー・プログラムを受講。2017年、フィールド・アプリケーション・エンジニアとなる。中央ヨーロッパの産業分野の大型顧客をサポートすると共に、工業用イーサネットの分野を専門とする。モースバッハ産学連携州立大学で電気工学を専攻後、コンスタンツ応用科学大学で国際セールスの修士課程を修了。