高精度で低コストの存在検知システムが、空間管理の未来を変える

概要

本稿では、まず存在検知の重要性が増している理由について説明します。続いて、現在市場に提供されている存在検知システムについて概観します。それにあたっては、受動型赤外線センサーに対する能動型赤外線センサーの優位性に注目することにします。最後に、能動型の赤外線センサーを使用したトラッキング向けの新たなソリューションを紹介します。

存在検知とは何なのか?

存在検知(Presence Detection)とは、人の存在を検知する機能のことです。特定のエリアや物理的な空間を対象とし、人の存在を確認したり位置を把握したりするために使用されます。

なぜ存在検知は重要なのか?

屋内を対象とした存在検知は、従来にも増して重要なものになっています。2020年に発生したCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)のパンデミックを契機とし、存在検知の重要性は更に増しています。その利用場面は、オフィスやエレベータ、廊下、店舗など、屋内の空間全体に及びます。例えば、エレベータにおける存在検知は、単なる便利な機能ではなく、緊急時に人命を救うための重要なツールになります。また、店舗における存在検知は、客の行動パターンのモニタリングに活用できます。それによって得られたデータは、商品の配置の最適化に役立ちます。これは、店舗と消費者の両方にメリットをもたらします。更に、存在検知を使えば、オフィスがどのくらい利用されているのかを判断することもできます。オフィスが十分に利用されていないという状況は実際に起こり得ます。その理由としては、長めの休暇や在宅勤務などが挙げられます。存在検知を利用してオフィスの使用状況の詳細を分析した結果、場合によってはオフィスの机の数を減らすといった対応を図ることも可能でしょう。また、存在検知は、モバイル・オフィスのようなアプリケーションに適用することもできます。社員の居住場所によっては、会社が指定した作業スペース(仕事机)を利用できないケースがあります。そのような場合には、モバイル・オフィスのプロバイダを介して利用可能な作業スペースを確保するといった具合です。こうしたアプリケーションには、現在の設計に容易に組み込める高度で費用対効果の高いソリューションが必要になります。

市場に提供されている存在検知システム

現在の市場では、存在検知向けの様々なソリューションが流通しています。使用されるセンサーとしては、ToF(Time of Flight)センサー、レーダー、2Dカメラ、受動型/能動型の赤外線センサーなどが挙げられます。それらの価格や精度には大きな違いがあります。例えば、ハイエンドのToFセンサーは、存在検知において最高レベルの精度を提供します。但し、価格も上位に位置します。そのため、ToFセンサーはヒューマン・ロボット・インタラクションのような非常に高い精度が求められる用途に使用されます。一方、赤外線センサーは、それほど高い精度が求められるわけではないアプリケーションに適しています。そうしたアプリケーションに必要な精度を、かなり低いコストで提供できるからです。

能動型の赤外線センサーがもたらすメリット

赤外線センサーには、受動型(パッシブ)のものと能動型(アクティブ)のものがあります。いずれを採用した場合でも、費用対効果の高いソリューションを実現できます。ただ、能動型の赤外線センサーは高精度のカウンティング・モードで使用できます。また、存在検知に使用するセンサーは、照明がどのような状態であっても、わずかな動きを認識できなければなりません。能動型の赤外線センサーは、人間を検出するために、能動的に赤外光を照射します。したがって、存在検知のアプリケーションに非常に適しています。人体から放射される赤外光だけに頼る受動型の赤外線センサーとは対照的です。

また、能動型の赤外線センサーを使用するソリューションでは、動いている人間だけでなく静止している人間も検出できます。このことから、誤った結果が得られる可能性を低減できます。光学的な原理から、能動型の赤外線センサーは、赤外光を透過するプラスチックやガラスで覆うことができます。そのため、製品や屋内環境にうまく組み込むことが可能です。

能動型の赤外線センサーを使用したソリューション

アナログ・デバイセズは、測光用のフロント・エンド「ADPD1080」を提供しています。図1に、同製品の評価用ボードを示しました。このボードを使用すれば、能動型の赤外線センサーによるトラッキングを実現できます。

図1. ADPD1080の評価用ボード。これを使用すれば、動きと長距離に対応する存在検知機能を実現できます。

図1. ADPD1080の評価用ボード。これを使用すれば、動きと長距離に対応する存在検知機能を実現できます。

この評価用ボードには、ADPD1080に加え、パワー・マネージメント・システム、1個のフォトダイオード、6個のLEDが実装されています。LEDから赤外光を照射し、その反射光の強度を計測することができます。対応可能な距離は最長5mに達します。

人の動きは、強度の変化によって検出することができます。室内に動きがなければ強度は変化しません。フォトダイオードは、複数のLEDの中心に当たる位置に実装されており、黒色のプラスチック・スクリーンをかぶせることができます。また、別の機能を設計できるように、配置位置についてはオプションが用意されています。

この評価用ボードは、2種類の設定が行えるようになっています。1つは近接用の設定、もう1つは長距離用の設定です。各設定においてはLEDの強度が異なり、それぞれのアプリケーションに対して最適に機能するようになっています。ADPD1080は、測光用のあらゆる機能を備えたフロント・エンドであり、フォトダイオードに接続するための8つの入力を備えています。また、3個のLEDドライバを内蔵しています。2つのタイム・スロットで動作するようになっており、フォトダイオードの信号の読み出しとLEDの制御を独立してプログラムすることができます。このような仕組みにより、レジスタを再プログラムすることなく異なるモードを有効にすることが可能になっています。そのため、(前のバージョンに比べて約20%)消費電力を削減できます。更に、ADPD1080は周辺光を除去する機能も備えています。具体的には、太陽光や照明器具などの周辺光に対してフィルタリングを施すことが可能です。蛍光電球の広範な周波数スペクトラムも、LED照明のスイッチング周波数も、効果的にフィルタリングすることができます。

図2に、ADPD1080のブロック図を示しました。フォトダイオードの電流は、トランスインピーダンス・アンプによって増幅/変換されます。その後、バンドパス・フィルタと積分器によって周辺光のフィルタ処理が行われます。バンドパス・フィルタによってDC光を遮断し、積分器によって周辺光のAC成分を除去することで、80dBの低減が実現されます。図3には、ADPD1080の動作タイミングを示しました。

図2. ADPD1080のブロック図

図2. ADPD1080のブロック図

図3. ADPD1080の動作タイミング

図3. ADPD1080の動作タイミング

実測値が示すメリット

評価ボードについては、複数の異なる環境下でのテストによって性能が確認されています。それらのテストは、いくつかのオフィスの天井に評価用ボードを設置することで実施されました。各テストでは、担当者がオフィス内を歩き回り、その動きをセンサーによって検出するということを行いました。図4に、そのようにして取得/記録した信号の典型的な例を示しました。人の動きによって、センサーからの信号が変化するという明確な結果が得られています。図4(左)は、反射光の強度の値のプロットしたものです。一方、図4(右)は強度の変化を表しています。人の動きに対応して強度に変化が生じていることがわかります。

図4. 人の動き(歩行)に対する赤外線センサーの応答。左は強度の値、右は強度の変化を表しています。

図4. 人の動き(歩行)に対する赤外線センサーの応答。左は強度の値、右は強度の変化を表しています。

図5に示したのは、より厳しい条件下で評価用ボードのテストを行った結果です。担当者はわずかに動くことだけは許されていましたが、基本的に直立不動の状態でした。つまり、動きを検出するのではなく、人の存在を検出する能力をテストしたということです。図5のように、信号と強度が明らかに変化しています。

図5. 人の存在(静止状態)に対する赤外線センサーの応答。左は強度の値、右は強度の変化を表しています。

図5. 人の存在(静止状態)に対する赤外線センサーの応答。左は強度の値、右は強度の変化を表しています。

まとめ

ADPD1080は、従来にはない存在検知のソリューションを提供します。この製品を使用すれば、能動型の赤外線センサーを使って、小型、高精度、低コストのシステムを構築することが可能になります。ToFセンサーやレーダーを使用する場合と比べて非常に少ない消費電力で、最長で半径5mの範囲を対象とした存在検知が行えます。堅牢性が高く、既存の製品に容易に組み込むことができるため、存在検知だけでなく、ジェスチャの検出を含む様々な用途に対応可能です。ADPD1080を利用すれば、コストを抑えつつ、優れた効率と高い安全性を実現することができます。その結果、設備管理に新たな未来がもたらされます。

Christoph Kaemmerer

Christoph Kämmerer

Christoph Käemmerer。2015年2月以来、ドイツのアナログ・デバイセズに勤務。2014年にエアランゲンのフリードリヒ・アレクサンダー大学を卒業。物理学修士。その後、プロセス開発のインターンとしてリメリックのアナログ・デバイセズに勤務。2016年12月にフィールド・アプリケーション・エンジニアとしてのトレイニー・プログラムを終了してアナログ・デバイセズに勤務し、新興アプリケーションを担当。現在は新興ビジネス・マネージャとして、アナログ・デバイセズにとって将来成長が見込まれるオプションの検討を担当。