環境に優しいスマート・ビルディングの実現を後押し、ワイヤレス・センサー・ノードの鍵を握るエナジー・ハーベスト

なぜ、エナジー・ハーベストが求められるのか?

現在では「地球に優しく」という考え方は一般的なものとなり、環境への配慮は必須の事柄として扱われるようになりました。そのため、ある意味では何もかもがグリーン化に向かっているかのようにも感じられます。実際、エレクトロニクスの世界では、10年以上も前からエナジー・ハーベスト(環境発電)という概念に注目が集まっています。しかし、環境エネルギーを基に電力を生成するシステムを導入するのは、決して容易なことではありません。そのために必要な作業は煩雑かつ複雑で多くのコストを要するからです。それでも、既にエナジー・ハーベストがうまく活用されている分野は存在します。具体的な例としては、交通インフラ、ワイヤレスの医療用機器、タイヤの空気圧の検知、ビル・オートメーションといったものが挙げられます。最後に挙げたビル・オートメーション・システムでは、様々な個所にエナジー・ハーベスト・システムが適用されています。それにより、電源用の配線や制御用の配線を使うことなく、人感センサー、サーモスタット、照明スイッチなどが配備され様々なアプリケーションが実現されています。

現在は、化石燃料によって生成した電力を大量に消費しなくて済むエネルギー効率の高い建物が求められています。環境に配慮するには、商業施設や住居といった種類を問わず、エネルギーの節約が図れるスマート・ビルディングを増やしていかなければなりません。

商業ビルをスマート化するのは、そのビルを所有/利用する会社などの組織にとって大きなメリットになります。なぜなら、そのビルのエネルギー効率が高く、合理化されているなら、エネルギー・コストを削減できるからです。また、そこで働く人々に対して生産的な環境を提供することにもつながるでしょう。ただ、その実現に向けては、スマート・ビルディングならではの課題を解決しなければなりません。例えば、その種のビルには、冷暖房システムの運用、照明の制御、空間の活用を効率的に実現するためのフィードバック情報を提供してくれるインフラが必要になります。その場合、環境を監視/制御するための方法論としては、IoT(Internet of Things)を利用することが必然になると考えられます。また、環境を効率的に監視/制御するための代替電源への依存度も高まることになるはずです。

スマート・ビルディング向けのIoT

スマート・ビルディングが導入されると、人々の日々の行動様式が変化します。また、スマート・ビルディングは、エネルギーの消費量やコストの削減にも役立ちます。このようなメリットを得るために、IoTを活用したスマート・ビルディング化の手法が既にいくつも具現化されています。

その代表的な例は、予知保全(Predictive Maintenance)の分野に適用されています。センサーなどをはじめとするIoT機器を活用し、商業ビルやその全設備の状態に関するレポートを取得するというものです。このようなフィードバック情報を得ることにより、メンテナンスが必要な時期をタイムリーかつ効果的な方法で把握することができます。予防保全(Preventive Maintenance)では、突発的な故障に悩まされることがあります。この問題は、予知保全の手法を導入することによって克服することが可能です。

また、労働者の生産性は、職場の空気の質に左右される可能性があります。この分野を専門とする業界が行った調査によると、室内環境の質が良いビルで仕事をする場合には、そうでない従来のビルで仕事をする場合と比べて、業務効率が10%向上するといいます。その種のビルを実現する場合にはIoT機器が適用されます。それらの機器は、メッシュ・ネットワークに組み込まれた様々なセンサーを使用し、空気の質や空気中の二酸化炭素のレベルを測定/確認するために使用されます。ビル内のあらゆる場所にIoT機器を設置することで、環境とそこにいる人々を健全で高い生産性が得られる状態に維持することが可能になります。

今後、スマート・ビルディングにおいては、IoT対応のアプリケーションがより一層活用されるようになるでしょう。その代表的な例としては、サーマル・イメージングが挙げられます。この種のアプリケーションを使用すれば、施設管理者は設備が許容される動作温度の範囲内にあるか否かを確認することができます。温度の検知機能を実現するのは、さほど難しいことではありません。その機能を適用することで、設備が正常に稼働しなくなる前にメンテナンスを実施することが可能になります。IoTを活用することにより、商業施設の管理者は、データを収集して情報を追跡するための革新的な手段を得ることができます。従来は到達するのが非常に困難で、実質的にアクセスできなかった場所からも情報が得られます。ビルの様々な個所にセンサーを設置すると、従来は決して得られなかったあらゆる情報を追跡できます。IoTで相互接続されたシステムを利用することにより、施設の管理者は、あらゆる情報を入手できるようになるのです。

また、IoTを導入することで、商業施設の所有者はビルのエネルギーを自給できるようになる可能性があります。このことは、ビルの設計に良い影響を及ぼします。つまり、環境に配慮した資源効率の高いビルを実現できるということです。そうしたインテリジェント・システムを導入すれば、どこからでも遠隔管理を実施することが可能になります。つまり、旧式で重たい機器を、振動や温度の変動などに対応するインジケータを使って制御を実施できるセンサー・システムで置き換えることが可能になります。その結果、多くのエネルギーとコストを節約できるだけでなく、維持費も低減可能になることは明らかです。

更に、ビルにIoTを適用することで、エネルギー効率を高められる可能性があります。これこそが最も重要な効果だと言えるかもしれません。センサー・ネットワークは、管理者がより効率的に資産管理を行うための情報を入手する手段となります。同時に、環境内の有害な廃棄物を削減することにも寄与する可能性があります。具体的な活用例としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 温度を制御するためにセンサーを利用
  • HVAC(暖房、換気、空調)制御のためにアクチュエータを利用
  • ビルにおいて完全なエネルギー・オートメーションを実現するための複雑なアプリケーション
  • 天気予報を考慮し、リアルタイムでエネルギー・コストを削減

ワイヤレス・センサー・ノード――エナジー・ハーベストの主要なアプリケーション

エナジー・ハーベストを利用する主要なアプリケーションとしては、ビル・オートメーション・システムで使われるワイヤレス・センサーが挙げられます。米国の場合、最も多くの電力を消費しているのはビルだと言われています。この分野における電力の消費量は、輸送分野や産業分野の電力消費量をわずかに上回っています。

エナジー・ハーベストを利用するワイヤレス・ネットワークを導入すれば、ビル内の任意の数のセンサーをリンクさせることができます。そうすると、例えばビルや部屋が空いている場合に温度を調整したり、不要な照明を消灯したりすることで、HVACや電気のコストを削減することが可能になります。また、エナジー・ハーベストを利用する電子デバイスを導入するためのコストは、電源配線の敷設コストやバッテリ交換に伴うメンテナンス・コストを下回ることがほとんどです。つまり、エナジー・ハーベストを採用することで経済的な利益が得られることは明らかです。

ワイヤレス・センサー・ネットワークの各ノードに対し、専用の外部電源を設けなければならないケースを考えます。その場合、上述したメリットの多くは失われてしまいます。パワー・マネージメント技術が進化した結果、バッテリを使う場合でも、従来よりもはるかに長い時間、電子回路を動作させることが可能になりました。とはいえ、この手法には限界が存在することも事実です。エナジー・ハーベストは、バッテリを使用する手法を補完するものだと言えます。エナジー・ハーベストは、ローカルな環境エネルギーを電気エネルギーに変換することによって、ワイヤレス・センサー・ノードに電力を供給する手段として活用できます。環境エネルギー源としては、光や温度差、機械的な振動、RF送信信号など、トランスデューサを用いて電荷を生成できればどのようなものでも利用可能です。これらのエネルギー源はどこにでも存在し、適切なトランスデューサを使えば電気エネルギーを生成することができます。温度差に対してはTEG(Thermoelectric Generator)、振動に対しては圧電素子、太陽光(または屋内照明)に対しては太陽電池、水分に対してはガルバニック作用を利用した発電方法を使用するといった具合です。こうしたフリー(無料)のエネルギー源を使用することで、電子部品やシステムに自律的に電力を供給することが可能になります。

ワイヤレス・センサー・ノードは、μWのレベルの平均電力で動作するように設計されます。そのため、従来とは異なるエネルギー源を基に電力を供給できる可能性が生まれます。このことがエナジー・ハーベストの活用につながっています。システムによっては、バッテリは、利便性が低く、高コストで、扱いが容易ではなく、危険が伴うという短所を抱えた存在になり得ます。エナジー・ハーベストを使用すれば、そうしたバッテリを充電したり、補完したり、置き換えたりすることが可能になります。また、電力の供給やデータの伝送を実施するための配線も不要になります。

図1は、エナジー・ハーベストを利用する標準的なワイヤレス・センサー・ノードのブロック図です。このノードは、以下のようなものから構成されています。

  • 環境エネルギー源
  • 下流の電子デバイスに電力を供給するトランスデューサ素子とパワー・コンバータ回路
  • 物理的な世界にノードをリンクさせるセンシング部と、測定結果を処理してメモリに保存するマイクロプロセッサ/マイクロコントローラで構成される演算部
  • 隣接するノードや外界とワイヤレスで通信するための近距離無線機で構成される通信部

環境エネルギー源では、HVACのダクトといった発熱源に取り付けたTEG(またはサーモパイル)や、窓ガラスなどの機械的な振動源に取り付けた圧電トランスデューサなどが使われます。発熱源については、小型の熱電素子を使用することで、微小な温度差を電気エネルギーに変換することができます。機械的な振動や歪みが生じる場所では、圧電素子を使うことで、それらを電気エネルギーに変換することが可能です。

生成された電気エネルギーに対しては、エナジー・ハーベスト回路により、下流の電子回路に給電するための変換が施されます。変換後の電力を供給されたマイクロプロセッサは、センサーを起動します。それによって計測が実行されます。得られた結果は、A/Dコンバータ(ADC)によってデジタル・データに変換されます。そのデータは、超低消費電力のワイヤレス・トランシーバーを介して送信されます。

図1. エナジー・ハーベストを利用する標準的なシステム

図1. エナジー・ハーベストを利用する標準的なシステム

エナジー・ハーベストでは、温度差や振動といったエネルギー源が存在するときだけしかエネルギーを得ることはできません。そのため、環境エネルギー源を比較する際に第一の基準となるのは電力密度です。エネルギー密度ではありません。一般に、エナジー・ハーベストで利用できる電力は低レベルで、変動しやすく予測ができません。そのため、通常はハーベスタと補助用の蓄電デバイスを併用するハイブリッド構造が使われます。ハーベスタをシステムのエネルギー源として使用する場合、電力が不足してしまう可能性があるからです。補助用の蓄電デバイス(バッテリかコンデンサ)は、より大きな電力を生成できますが、蓄積できるエネルギー量は決して多くはありません。電力が必要な場合には電力源として使用されますが、その以外の期間はハーベスタから電荷を受け取ってエネルギーを蓄積する役割を果たします。環境エネルギーを利用できない状況下では、補助用の蓄電デバイスによってワイヤレス・センサー・ノードに対する給電を行います。

完全に自己完結型のワイヤレス・センサー・システムを設計する際には、どのようなことに気を配る必要があるのでしょうか。その場合、わずかなエネルギーしか存在しない環境から電気エネルギーを得ることになります。したがって、消費電力が最小限に抑えられており、すぐに入手が可能なマイクロコントローラとトランスデューサを選択する必要があります。従来、ハーベスタ回路は、30個以上の部品を使用して実現していました。そうしたディスクリート構成の設計では、変換効率が低く、自己消費電流が多くなってしまい、高い性能は得られませんでした。当然のことながら、最終的なシステムにおいても高い性能を得ることはできませんでした。

ハーベスタの自己消費電流が多い場合、エネルギー源の出力レベルが低すぎると問題が生じます。自身の動作に必要な量を上回る電力が得られなければ、外部に電力を供給することができないのです。アナログ・デバイセズは、このような問題に対応できるPower by Linear(PbL)製品を提供しています。それらの製品を利用すれば、新たなレベルの性能とシンプルさを得ることができます。

エナジー・ハーベスタの例

LTC3109」は、DC/DCコンバータ機能とパワー・マネージャ機能を備えるIC製品です。これを使用すれば、TEGやサーモパイル、小型の太陽電池などから得られる極めて低い入力電圧を基にエネルギーを収集して管理することができます。独自の自動極性制御トポロジを採用していることから、極性に関係なく、わずか30mVの入力電圧を基にして給電機能を実現することができます。

図2の回路では、小型の昇圧トランスを2つ使用してLTC3109への入力電圧を得ています。これにより、ワイヤレスのセンシングとデータ・アクイジションに対応する完全なパワー・マネージメント・ソリューションを実現することができます。従来のようにバッテリを電源として使用するのではなく、わずかな温度差からエネルギーを収集し、システム向けの電力を生成することが可能です。

図2. LTC3109の標準的な実用回路

図2. LTC3109の標準的な実用回路

各トランスの2次側巻線で発生したAC電圧は、チャージ・ポンプ用の外付けコンデンサとLTC3109内部の整流器によって昇圧/整流されます。この整流回路は、VAUXピンに対して電流を供給します。まず、VAUXピンの外付けコンデンサに電荷を供給し、その後、他の出力向けに電力を供給します。2.2Vを出力する内蔵LDO(低ドロップアウト)レギュレータは、低消費電力のプロセッサや他のICへの給電に使用できます。

まとめ

一般に、アナログ技術をベースとするスイッチング電源の設計ノウハウは、十分に蓄積されているとは言えません。そのため、環境に優しいスマート・ビルディングで使用するための優れたエナジー・ハーベスト・システムを設計するのは容易ではありませんでした。課題の1つは、ワイヤレス・センシングに関連する効果的なパワー・マネージメント手法を具現化することです。それに対し、LTC3109のような製品を採用すれば、ほぼどのような熱源からでも効果的にエネルギーを抽出することができます。そのため、エナジー・ハーベストによる電源をシステムに導入することが可能になります。結果として、化石燃料の使用量を削減することができます。それだけでなく、現在/将来の世代に対して、より環境に優しいスマート・ビルディングを提供することも可能になります。

Tony Armstrong

Tony Armstrong

Tony Armstrongは、アナログ・デバイセズPower by Linear製品グループのプロダクト・マーケティング・ディレクタです。電力変換と電源管理製品の導入から廃止までの全期間にわたるすべてを担当しています。アナログ・デバイセズ入社前は、Linear Technology、Siliconix Inc.、Semtech Corp.、Fairchild Semiconductors、Intelでマーケティング、セールス、経営などのさまざまな業務を経験しました。英国マンチェスター大学から応用数学の名誉理学士号を取得しました。