C2B――車載アプリケーション向けの新たなカメラ・リンク技術

現在、自動車の業界は、自動運転車の実用化に向けて突き進んでいます。その過程で明らかになったのは、目標を達成するためには、更に多くのセンサーを自動車に搭載しなければならないということです。自動運転車の進化を支えるのはセンサーです。その中でも、カメラは最も重要な役割を担っていると言えます。現在は、次々に新しいアプリケーションが登場している状況にあります。それに伴って、車載カメラの台数は急速に増加しています。従来、カメラをベースとするアプリケーションは、生産台数の少ない高級車のためのものという位置づけでした。それが現在では、より大量に生産される車両で一般的に使われるものになってきています。実際、カメラを搭載する車両の比率は、増加の一途をたどっています。図1を見れば、車載カメラの市場が急速に成長していることを実感していただけるでしょう。

図1. 車載カメラの市場

図1. 車載カメラの市場

このような成長トレンドは、2025年以降まで続く見込みです。20台ものカメラを搭載する自動車が登場する日も、そう遠くはありません。

カメラについては、高い解像度に対するニーズも着実に高まっています。その背景には、主に2つの理由があります。1つは、より多くのADAS(Advanced Driver Assistance System)機能が求められるようになったことです。より高度で正確な機能を実現するためには、より高い解像度が必要になります。もう1つは、消費者がスマートフォンの高解像度のディスプレイに慣れ親しんでいることです。その結果、自動車の各種機能に対しても、それに匹敵する画質が求められるようになりました。その結果、より高い画質を得るために、より解像度の高いカメラが必要になったのです。

ただ、これについては1つ問題があります。それは、自動車の寿命は、スマートフォンの使用期間と比べてはるかに長いということです。このことから、自動車のメーカーは、できるだけ長い期間、時代のニーズに対応可能な車載ディスプレイ・システムを採用する必要があります。車両の生産を開始する際には、その時点で最新のディスプレイ技術を選択していなければなりません。

自動車のメーカーは、車載ディスプレイとして、よりサイズが大きく、より解像度が高いものを使用していきたいと考えています。そうしたディスプレイに対応するためには、カメラの解像度も高め続ける必要があります。標準画質(SD)の既存のカメラでは、ユーザ・エクスペリエンスを大いに損ねてしまうからです。解像度の低いカメラを使用すると、画質も低くなります。ドット・クロールや色漏れなど、多くの望ましくない視覚的アーティファクトが、ディスプレイ上にはっきりと表れてしまいます。つまり、SDカメラではもはや不十分だということです。顧客に満足してもらうためには、高精細度(HD)のカメラが必要になります。

しかし、そうしたカメラを採用するとコストが増加します。コストの内訳は、新たに必要になるセンサーと画像処理だけで発生するわけではありません。カメラから処理装置に映像のデータを転送する際には、自動車のハーネスに組み込まれた銅ワイヤを使用します。実は、この部分でもコストが増加します。そうした車載カメラのリンクにおいて、銅ワイヤを追加しなければならなくなるからです。これについては、大きな問題には感じられない方もいるかもしれません。しかし、自動車において、ハーネスは(エンジンとシャーシに次いで)3番目に高価なコンポーネントです。自動車のメーカーにとって、ワイヤとコネクタは非常に重要な要素なのです。その背景には、ハーネスは多くの場合、1つずつ手作業で組み上げられるという事情があります。人件費で見ると、この部分が全体の最大50%を占めます。またワイヤ・ハーネスは、自動車の中で(シャーシとエンジンに次いで)3番目に重いコンポーネントでもあります1。このワイヤ・ハーネスを自動車に配備する作業は、自動車の製造ラインにおいて、より大きな課題として認識されています。この部分の製造工程を追加しなければならなくなると、更にコストがかさみます。また、電気自動車の普及を進めるためには、車体重量の増加は避けなければなりません。重量が少しでも増加すると、走行可能距離に直接的に影響が及ぶからです。新しいセンサーが次々に登場し、2020年には220億個もの車載センサーが製造されるとの予測があります。このことは、コストや重量の問題は悪化する一方だということを意味します。このような理由から、自動車のメーカーにとって、ワイヤ・ハーネスの重量とコストの削減につながる技術は、非常に魅力的なものとなります。言い換えれば、この部分に大きなニーズが存在するのです。

そうしたニーズに応えるものとして、アナログ・デバイセズは、C2B(Car Camera Bus)という技術を開発しました。車載カメラ・リンクだけを対象として最適化されたものであり、上記の問題を解決可能な数少ない技術のうちの1つとなっています。C2Bは、以下に挙げる3つの目標に基づいて開発されました。

  • SDカメラ用UTP(Unshielded Twisted Pair)ケーブルとコネクタという既存のインフラを再利用し、HDカメラへの最も簡素なアップグレード・パスを提供します。
  • 同インフラを利用しつつ、優れた画質のHDビデオをサポートします。
  • 同インフラを利用しつつ、車載EMI/EMC(電磁干渉/電磁両立性)規格のすべての要件を満たします。
図2. C2Bの概念図。同技術は、カメラをベースとするシステムに数多くのメリットをもたらします。

図2. C2Bの概念図。同技術は、カメラをベースとするシステムに数多くのメリットをもたらします。

カメラは、車載センサーの中で最も帯域幅が広いものだと言えます。高解像度のカメラへ移行すると、帯域幅はより広くなります。既存の車載SDカメラを使用するソリューションでは、UTPケーブルとシールドのないコネクタなど、帯域幅の狭いインフラが使用されます。それが許される1つの理由は、SDカメラに求められる帯域幅は、HDカメラに求められる帯域幅よりも狭いからです。もう1つの理由は、NTSCなどのSD伝送規格では、マルチレベルの伝送方式を採用することにより、ケーブルやコネクタがサポートしなければならない帯域幅が更に狭められているからです。LVDS(Low voltage differential signaling)方式のSerDes(Serializer/Deserializer)をはじめとするソリューションでは、UTPケーブルよりもはるかに広い帯域幅をサポートするケーブルやコネクタが必須です。つまり、ケーブルについては、同軸ケーブルやSTP(Shielded Twisted Pair)ケーブルなどを使用しなければなりません。なぜなら、現在のSerDesソリューションは、NRZ(Non-return to Zero)の伝送方式を採用しているからです。マルチレベルの伝送方式を使用しないので、ケーブルとコネクタの帯域幅に対する要件は、非常に厳しくなります。ただ、より性能が高く、より広い帯域幅に対応するケーブルやコネクタを使用すると、ワイヤ・ハーネスのコストと重量がますます増加します。

C2Bでは、SD向けのUTPケーブルやコネクタといった既存のインフラによって、HDのビデオを送信できます。これを可能にするために、C2Bでは、マルチレベルの伝送方式を採用しました。それにより、HDのビデオの伝送に必要な帯域幅の要件を緩和しています。C2Bは、SDカメラからHDカメラへの最も簡単なアップグレード・パスを提供する技術だと言えます。ケーブルとコネクタについて、既存のインフラに変更を加える必要がないからです。このことから、C2Bは、自動車のメーカーにとってコスト効率が高く、貴重で機知に富んだソリューションとなります。

UTPケーブルやコネクタを再利用することには、別のメリットもあります。それは、ヘッド・ユニットやカメラ用のECU(電子制御ユニット)が備える汎用ブロック・コネクタの未使用ピンを接続に使用できるというものです。つまり、SerDes技術で求められる専用コネクタを使用する必要はありません。そうした専用コネクタは、システム・ソリューションのコストを増加させる要因になります。また、ヘッド・ユニットやカメラ用のECUモジュール内部の非常に貴重な実装スペースを消費する要因になります。

図3. C2Bのシグナル・チェーン

図3. C2Bのシグナル・チェーン

C2Bの伝送方式は、車載用途において最大限の堅牢性が得られるように選択されています。例えば、ケーブルに求められる帯域幅は、他のソリューションの1/10です。また、上述したように、既存のインフラを再利用できることから、HDカメラへのアップグレードが非常に容易になります。加えて、既存のインフラの性能は、長年にわたって現場で実証されているので、新規のインフラを導入する際に必要な品質評価を実施しなくて済みます。更に、C2B技術の伝送方式は、この用途に向けて最適化されているので、より長いケーブル長(最長30m)に対応できます。このような理由から、C2Bを採用すれば、自動車のメーカーは他の技術を導入することによって課される制約を回避し、より自由にインフラを設計/実装することが可能になります。

C2Bにおける伝送データの形式は、既存のケーブル/コネクタをインフラとして使用しても、卓越した画質と優れたEMI/EMC性能が得られるように選択されています。高い周波数における視覚品質を維持することと、真に優れたビデオ・エクスペリエンスを提供することに重きを置くことで、帯域幅が狭いインフラでも、HDビデオの画質を維持できるようにしています。画質については、最新の規格に照らし合わせた徹底的な品質試験によって検証されています。

マルチレベルの伝送方式を採用すれば、低コストのケーブル/コネクタで解像度の高いカメラをサポートできる可能性が生まれます。ただし、課題がないわけではありません。そうしたインフラには、障害を防いだり、干渉成分を減衰させたりする仕組みが存在しません。したがって、車載向けの非常に厳しいEMI/EMC規格を満たせるよう放射を抑えたり、耐性を高めたりするためには、トランシーバーの設計が非常に重要になります。C2Bは、最初からそうした要件を念頭に置いて車載向けに定義/設計されています。そのため、車載向けのあらゆるEMI/EMC規格を満たす卓越した堅牢性が得られることが実証されています。

C2Bは、様々な機能をサポートしています。例えば、同じUTPケーブルを介した側波帯制御通信を使用すれば、カメラ・モジュールの遠隔設定が可能になります。これは、カメラの設計のさらなる簡素化につながる機能です。C2Bは、多くの自動車メーカーにとって主要な要件となるフリーズ・フレーム検出にも対応します。

現在、アナログ・デバイセズは、C2Bに対応する製品として「ADV7990」、「ADV7991」、「ADV7380」、「ADV7381」を製造しています(図4)。

図4. C2Bに対応するIC製品

図4. C2Bに対応するIC製品

C2Bは、既存のインフラを再利用できるようにすることで、SDカメラ(NTSC対応カメラ)からHDカメラへのアップグレードを容易化するソリューションです。この技術は卓越した画質と堅牢なEMI/EMC性能が得られるように最適化されています。複数の車載カメラを配備する際に発生する問題は、ますます増加する一方です。しかし、多数のメリットを備えるC2Bを採用すれば、そうした問題を緩和する最適なシステム・ソリューションを実現することができます。

参考資料

1Automotive Ethernet: An Overview(車載イーサネット:概要)」Ixia、2014年5月

fionn-hurley

Fionn Hurley

Fionn Hurleyは、アナログ・デバイセズの車載キャビン・エレクトロニクス・グループ(アイルランドのリムリック)に所属するマーケティング・マネージャです。RF設計技術者としてのキャリアを積んだ後、2007年に入社しました。アイルランドのユニバーシティ・カレッジ・コークで電気/電子工学の学士号を取得しています。