スイッチモード電源用ボード・レイアウトの黄金律

本稿では、スイッチモード電源の設計において重要な側面である、ボード・レイアウトを最適化するための基礎について説明します。優れたレイアウトは、スイッチング・レギュレータの機能を安定させ、放射干渉や電磁干渉(EMI)を最小限に抑えることができます。これは、エレクトロニクス開発者の間では既に周知ですが、スイッチモード電源用に最適化されたボード・レイアウトとはどのようなものかということは、あまり知られていません。

LT8640S評価用ボードの回路を図1に示します。これは、最大42Vの入力電圧に耐えることができる、最大6Aの出力電流用に設計された降圧スイッチング・レギュレータです。すべての部品が極めてコンパクトに配置されています。一般的には、部品をボード上にできるだけ狭間隔で配置することが推奨されています。この記述は誤りではありませんが、ボード・レイアウトの最適化を目指す場合には、特に適しているとは限りません。図1では、多数(11)の受動部品がスイッチング・レギュレータのICの周辺に配置されています。これらの受動部品のうち、配置上で他の部品よりも優先される部品はどれでしょうか。また、優先される理由とはなんでしょうか。

図1 部品が狭間隔に配置され、コンパクトなボード・レイアウトになっているLT8640Sスイッチング・レギュレータのボード

図1 部品が狭間隔に配置され、コンパクトなボード・レイアウトになっているLT8640Sスイッチング・レギュレータのボード

スイッチング・レギュレータのPCB設計において最も重要なルールは、大きなスイッチド電流が流れるパターンをできるだけ短くなるように配線することです。このルールが正しく実施されていれば、スイッチング・レギュレータのボード・レイアウトの大半は、適切に対処されているといえます。

ボード・レイアウトでこの黄金律を実施する最も簡単な方法はなんでしょうか。最初のステップは、スイッチング・レギュレータのトポロジにおけるクリティカル・パスを特定することです。パス内では、スイッチの遷移に伴い、電流が変動します。図2は、降圧コンバータ(降圧トポロジ)の代表的な回路を示しています。クリティカル・パスは赤色で示しています。これらのパスは、パワー・スイッチの状態に応じて、最大電流のライン、もしくは電流の流れていないラインを接続しています。これらのパスは、できるだけ短くする必要があります。降圧コンバータの場合、入力コンデンサはできるだけスイッチング・レギュレータICのVINピン、およびGNDピンの近くに配置する必要があります。

図2 降圧スイッチング・レギュレータの回路図、高速変動する電流パスを赤色で表示

図2 降圧スイッチング・レギュレータの回路図、高速変動する電流パスを赤色で表示

図3は、昇圧トポロジを使用した回路の基本的な回路図を示しています。この回路では、低電圧がこれより高い電圧に変換されます。ここでも、パワー・スイッチの切り替えにより電流が変動する電流パスを赤色で示しています。興味深いことに、入力コンデンサの配置はまったく重要ではありません。最も重要となるのは、出力コンデンサの配置です。出力コンデンサは、フライバック・ダイオード(もしくはハイサイド・スイッチ)、およびローサイド・スイッチのグラウンド接続にできるだけ近く配置する必要があります。

図3 昇圧スイッチング・レギュレータの回路図、高速変動する電流パスを赤色で表示

図3 昇圧スイッチング・レギュレータの回路図、高速変動する電流パスを赤色で表示

その後で、他のスイッチング・レギュレータ・トポロジを調査し、パワー・スイッチ切り替え時における電流の変動についての情報を入手することができます。従来の方法では、回路を印刷し、3色の異なる色のペンを使用して、電流を表していました。1色目はオンタイム時、つまり、パワー・スイッチが電流を流しているときの電流を表すために使われます。2色目はオフタイム時、つまり、パワー・スイッチがオフのときの電流を表すために使われます。最後に、3色目は、1色目のみまたは2色目のみにマークされたパスすべてで使われます。これで、パワー・スイッチの切り替えによって電流が変動するクリティカル・パスを明確に特定することができます。

経験の少ない回路設計者は、スイッチング・レギュレータのボード・レイアウトを理解のできない複雑なものだと考えがちです。最も重要なルールは、スイッチの遷移時に電流が変動するパターンをできるだけ短く、かつコンパクトになるよう設計することです。これは容易に説明できることであり、論理的な関係性に従った、スイッチモード電源の設計におけるボード・レイアウト最適化の基礎となるものです。

Frederik Dostal

Frederik Dostal

Frederik Dostalは、この業界で20年以上の経験を持つパワー・マネージメント・エキスパートです。ドイツのエアランゲン大学でマイクロエレクトロニクスを専攻後、2001年にNational Semiconductorに入社し、フィールド・アプリケーション・エンジニアとして勤務しながら、顧客プロジェクトにおけるパワー・マネージメント・ソリューションの導入に関して多くの経験を積みました。その間、アリゾナ州フェニックス(米国)でも4年間過ごし、アプリケーション・エンジニアとしてスイッチング・モード電源に取り組みました。2009年にアナログ・デバイセズに入社し、以降、製品ラインや欧州のテクニカル・サポートを担当する様々なポジションに就き、現在はパワー・マネージメント・エキスパートとして、設計およびアプリケーションに関する幅広い知識を活用しています。勤務先は、ドイツのミュンヘンにあるアナログ・デバイセズのオフィスです。