Thought Leadership

Donal McCarthy
Donal McCarthy,

Automotive Radar Product Line Director

著者について
Donal McCarthy
Donal McCarthyは、アナログ・デバイセズのマーケティング/事業開発担当ディレクタです。マイクロ波通信グループ(アイルランド コーク)に所属しています。ユニバーシティ・カレッジ・コークで電気工学の学士号、ボストン・カレッジで経営学の修士号、ダブリンのアイリッシュ・マネジメント・インスティテュートでマーケティングの学位を取得。MACOM Technology Solutionsでは設計エンジニア、HittiteMicrowave(現在はアナログ・デバイセズに統合)ではフィールド・セールス・エンジニアとマーケティング職、アナログ・デバイセズではマーケティング・マネージャ/ディレクタを担当するなど、多彩な経歴を有しています。
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レーダーは自動車の「バーチャルな目」


レーダー・センサーは、より分解能が高く、より高速なものへと進化を続けています。その結果、新たな運転支援技術が生み出されるようになり、車両の安全性と快適性をより一層高められるようになりました。世界的な投資家たちが自動車の業界で勝者になるには、どうすればよいのでしょうか。そのためには、市場に変革をもたらす以下のメガトレンドを受け入れ、投資活動にうまく活かしていく必要があるはずです。

  • ADAS(先進運転支援システム)技術の普及。将来的には、自律走行車によって公道を走行することが許されるようになるでしょう。
  • 電動化
  • MaaS(Mobility-as-a-service:移動のサービス化)。これは、自動車の個人所有という従来の考え方への挑戦です。

これらのトレンドが重要であることは、TeslaとFord Motorの時価総額を比較すればうかがい知ることができます。現状、Teslaによる自動車の生産台数は、年間で40万台にも達していません。しかし、Teslaは、自社ブランドのライドシェアリング・サービスをサポートする事柄に対して、突出したレベルで注力しています。バッテリ駆動のトラクション、自律走行、ロボタクシーなどに関する一連のイノベーションを戦略の基盤に置いているのです。

Fordの収入の柱は、大出力の内燃エンジンを搭載する昔ながらのピックアップ・トラックです。その生産台数は、2017年でも600万台を超えていました。2019年下半期の同社の時価総額は、370億米ドル(約4兆円)です。ただ、Fordに比べれば非常に小さい企業であるTeslaの時価総額は、440億ドル(約4兆7000億円)にも達しています。

Uber Technologiesなどが先鞭をつけたビジネス・モデルとソフトウェアのイノベーションにより、MaaSの導入が進んでいます。また、電動化がどこまで進むかは、Teslaのバッテリ生産工場(Gigafactory)に代表される製造分野のイノベーションにかかっています。それに対し、運転支援に関するイノベーションについては、ハードウェア技術とソフトウェア技術の両方の進化を必要とします。具体的には、高性能のセンサー・システムとAI(人工知能)の融合がポイントになるはずです。

あらゆる運転支援システムは、いくつかの認知技術を利用して実現されます。例えば、完全自律走行車では、LIDAR(Light Detection and Ranging)やカメラなどの光学技術を、電磁的なモーション・センサー(加速度センサー、ジャイロ・センサー、磁気センサーなど)やRF/マイクロ波を利用するシステム(レーダーや衛星測位など)と共に利用することになるでしょう。

レーダーは、第2次世界大戦の頃に初めて注目を集めた技術です。それが現在、車載技術において最も革新的な発展を支える存在になっているのは、驚くべきことではないでしょうか。実際、現在の自動車のバンパーには、24GHzに対応するレーダー・センサーがいくつも取り付けられています。これまでに、アナログ・デバイセズだけでも約3億ユニットのレーダー・センサーを供給してきました。それらは、ブラインド・スポット・モニターや自動車線変更、自動緊急ブレーキ(AEB:Autonomous Emergency Braking)などのアプリケーションに使用されています。

Super radar and imaging radar, the eyes of the vehicle
図1. 自動車の目となるスーパー・レーダーとイメージング・レーダー

ADASは、AEBやACC(Adaptive Cruise Control)といった機能を導入することで進化を続けています。言い換えれば、それらの機能が実用化されることで、従来よりも高いレベルの運転支援が求められるようになるということです。アナログ・デバイセズをはじめとするサプライヤは、安全性と快適性という2つの目標に向けて、高精度化、より長い距離への対応、検知の高速化を進めています。それにより、2つの目標がどのように具現化されるのかを示す新たなレーダー・システムを開発しています。AEBやACCなどの運転支援システムは、人命を救い、事故を防ぎます。そうしたシステムを搭載した新たな自動車には、NCAP(New Car Assessment Programme)において、より高い安全スコアが付与されます。結果として、その車種の価値や消費者に対する訴求力が高まります。

現在は、L2/L3(レベル2またはレベル3)の運転支援技術を適用した車両の市場が拡大しつつあります。その背景にあるのは、AEBと自動緊急操舵システムです。これらのシステムは、より広範な車種に適用されつつありますが、その一方でより複雑さを増しています。例えば、新たなNCAPの仕様では、歩行者(NCAPの用語では交通弱者)の検知能力を高めることが求められています。新たなAEBシステムは、市街地と高速道路の両方の環境で、より高速で走行している場合でも、ブレーキを適切に制御できるようにする必要があります。言い換えると、通常の規定よりも複雑な条件において、確実に動作するようにしなければなりません。

当然のことながら、市場も自動車の購入者からの声に応えています。特に重視しているのは、高速道路での運転に伴う労力を軽減する技術に対する要望です。既にMercedes-Benzの「Sクラス」などの高級車は、高速道路などに限って対応可能な自動運転機能を搭載しています。例えば、車間距離の適応制御や、車線内での走行を維持するためのアクティブ・ステアリング・アシストといった機能です。自動車メーカーは、そうした機能をより広範かつ複雑な状況下でも使用できるよう継続的に機能の強化を図っています。その結果として、優れた性能を備えるレーダー・センサーに対するニーズがより高まっています。

より高いレベル(L4やL5)では、ドライバーが車両を直接操作しなくても安全に走行できることが求められます。この完全な自律化への移行を果たすには、自動車の周囲360°をリアルタイムに見渡すことができるセンシング・システムを開発しなければなりません。そうしたロボタクシー用の制御システムは、極めて複雑なものになります。例えば、レーダーやカメラ、LIDARといった種類の異なるセンサーから得られた情報を組み合わせて、誤検出が生じるリスクを排除できるようにするための冗長性が必要になります。

カメラは、人間や動物、道路標識といった物体の視覚的な認識に役立ちます。一方、LIDARを使用すれば、数多くの点群を生成することができます。物体から車両までの距離と物体のサイズを瞬時に測定し、車両の外部環境に関する高解像度の3Dマップを生成することが可能です。

レーダー・センサーの機能は、継続的に強化されています。L4/L5のシステムでは、他のセンサーを補完するものとして、レーダー・センサーが不可欠です。また、L2/L3への対応を目指す場合、レーダーであればサイズ、コスト、性能の面で最高の組み合わせが得られます。言い換えると、レーダーは最も有力なセンサーだということです。

レーダーで最も注目すべきこととしては、4Dのセンシングを実行できる点が挙げられます。つまり、ミリ波帯のパルスを1回照射するだけで、それを反射した物体に関する距離、速度、角度、高さの情報を取得できるのです。また、レーダー・センサーは、雨や霧、雪など、LIDARやカメラではうまく結果が得られなかったり、動作に問題が生じたりする条件が存在しても、正常な動作が得られます。

性能と集積度を高める

現在開発中の車載レーダー・システムと比較した場合、既存のレーダー技術はいずれ精彩を欠いた制約の多い技術だと感じられるようになるでしょう。フロント・バンパーに取り付けられている既存のレーダー・センサーは、前方にある1台の車両までの距離と速度であれば、適切に測定することができます。

しかし、高速道路で完全な自動運転を実現するためのシステムにおいては、そのレベルの機能では不十分です。例えば、ドイツのアウトバーンでは、乗用車よりも小型で検知が難しいバイクが時速180km以上で外側の車線に接近してくることがあります。そのような状況下でも安全に走行できるようなシステムが求められるのです。そうした危険な状況を迅速かつ正確に検知するためには、自動運転用のレーダー・システムに、より早く、より正確に、より長い距離を対象として検出を実施できる機能を設けなければなりません。

自動車業界では、車載システムに対して、サイズやコストの面で厳しい制約が課せられます。その範囲内で必要な機能を開発するには、どうすればよいでしょうか。これまで、アナログ・デバイセズは、半導体技術、RFシステムの動作、信号処理の分野で数々のイノベーションを実現してきました。その高い技術力を活かせば、必要なレーダー・システムを開発することができます。

アナログ・デバイセズは、レーダー向けのデバイスを数多く製品化しています。なかでも、76GHz~81GHzに対応するトランスミッタやレシーバーといった新世代のMMIC製品は、28nmのCMOSプロセスに対応する技術プラットフォームであるDrive360®をベースにしています。Drive360は、半導体業界で従来からレーダーに使用されてきたSiGe技術とは一線を画す技術です。同プラットフォームにより、以下に示すようなメリットが得られます。

  • 出力電力が大きく折り返しノイズが小さいので、より離れた位置にある物体を検知することができます。
  • 位相ノイズが小さく、IF として広い周波数帯域幅を使用できるので、従来のレーダー・センサーでは捕捉が困難だったバイクや幼児などの小さな物体を極めて高い精度で検知できます。
  • 高性能の位相変調により、シーン内の複数の物体をより効果的に識別することが可能です。
  • 非常に高速なパルスを送信することにより、時速 180km で走行するバイクといった高速の移動体に対して、迅速に応答を得ることができます。

また、CMOS技術の採用していることから、レーダー・デバイス内にデジタル機能を高いレベルで集積することも可能です。そのため、先進的なレーダー・システムにおけるコストの削減と小型化に貢献できます。アナログ・デバイセズは、オーバーサンプリング型のA/Dコンバータや超低ノイズのデジタルPLLなどにおいて中核的な要素となる知的財産を保有しています。それらにより、77GHzに対応する次世代レーダー・センサーにおいても、動作速度、分解能、安定性の面で優れた性能を得ることができます。

先進的な半導体技術、アナログ領域の専門知識、システム・レベルのソフトウェアを組み合わせることにより、ADASの機能を強化可能なレーダー技術を実現できます。それにより、次世代の車両に求められる機能を提供することが可能になります。アナログ・デバイセズは、今も、そしてこの先10年も、レーダー開発において中心的な役割を果たし続けます。