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Nicola O’Byrne,

アナログ・デバイセズ コネクテッド・モーション&ロボティクス・グループ マーケティング・マネージャ|アナログ・デバイセズ

著者について
Nicola O’Byrne
Nicola O’Byrneは、アナログ・デバイセズのオートモーティブ事業部門の自律型モビリティ・チームに所属するストラテジック・マーケティング・マネージャです。アイルランド国立大学コーク校(UCC)で電気工学/マイクロエレクトロニクス工学の学士号を取得し、当社に25年以上勤務しています。A/Dコンバータ技術、モーション制御、ロボティクス・システムが専門です。彼女は、数多くの特許を保有し、学会や業界のフォーラムでの講演や業界誌向けの記事の執筆も多く行っています。
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作業現場における 新たなコラボレーション ―― 新世代のコボットにより人の負担を軽減する


オートメーション技術を活用すれば、作業の危険性、過酷さ、単調さを軽減することができます。しかし、そのためにはシステムの実装を繊細に行う必要があります。また、作業員に対しては技能の再教育を実施しなければなりません。本稿では、この分野に関するNicola O'Byrneの洞察を共有します。O'Byrneは、アナログ・デバイセズでロボティクス担当のグローバル・アンバサダを務めています。

Figure 1. Are cobots the new co-workers?
図1. コボットが作業を行っている様子。作業員にとって、コボットは新しい同僚のようなものです。

概要

ロボティクス技術は、十数年前から様々な分野で利用されるようになりました。その普及は様々な力によって後押しされており、現在ではかなりの数のロボットが多様な現場に導入されています。最も多く利用されている場所は工場ですが、科学研究施設や倉庫、物流施設などでも広く使われています。また、園芸をはじめ、多くの人手を要する分野でも利用が拡大しています。

2020年3月、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが発生しました。それを受けて、ロボットの普及を後押しする力は倍増したと言えるでしょう。パンデミックの影響で、人々の間にはニュー・ノーマル(新しい生活様式)という概念が広まりました。その結果、職場においてもソーシャル・ディスタンスが強く求められるようになりました。また、eコマースの取引量が激増し、フルフィルメントのサービスに対する需要が高まりました。その結果、広範にわたってグローバル化されたサプライ・チェーンが実は驚くほど脆弱なものであるということが表面化しました。このような変化を受けて、ロボットの導入の必要性が強く認識されたということです。多くの業界では、パンデミックによって引き起こされた状況に対処するための取り組みが進められています。その取り組みにおいて重要な役割を担うのがロボティクスです。

技術革新が進んだ結果、ロボティクスをベースとするシステムは、迅速かつ容易に導入できるようになりました。実際、ロボティクスの領域の技術的な課題を解決するのは、以前と比べてはるかに容易になりました。その結果、注目すべきはロボットではなく人間やプロセスであるということが明らかになりました。ロボティクスは、人員の配置パターンや、スキル/トレーニングに関する要件、組織の文化、社会全般など、あらゆる事柄に対して大きな変化をもたらす可能性があります。会社組織や公共機関などは、そうした変化に対して細心の注意を払わなければなりません。

ロボティクスを導入する企業に対するハイ・レベルのガイダンス

上述した変化にうまく対応できるよう業界を導くことを目的として、アナログ・デバイセズはNicola O'Byrneをロボティクス担当のグローバル・アンバサダに任命しました。O'Byrneは技術者として長年にわたり、ロボティクス・システム向けのコンポーネント開発や技術開発に携わってきました。開発の対象としていたのは、モータ、SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)モジュール、安全性を確保するためのイベントの検出などに必要な要素です。

現在、O'Byrneはアナログ・デバイセズのお客様ならびにお客様のお客様に対し、ロボティクスの導入や拡大に伴う多様な問題に関する助言を行っています。新型コロナウイルスのパンデミックを受けて、企業によるロボティクスの導入はかつてないほど急速なペースで進行しています。「その際には、高いレベルの視点を持つことがこれまで以上に重要になっています」とO'Byrneは語ります。また、O'Byrneは助言に伴い様々な問題提起を行っています。いくつかの問題について考慮すれば、企業はロボティクスを単に迅速に導入するのではなく、自社や自社を取り巻くコミュニティに適した形で効果的にロボットを活用できるようになります。

「ロボティクスは、工場の製造ラインにおける生産性を大きく引き上げる要素になり得ます。このことを、私たちは実体験に基づいて理解しています。しかし、従来ロボットを導入するということは、設置、コミッショニング、プログラミングに数週間を要する大型で高価な機械を導入するということを意味していました」とO'Byrneは指摘します。その上で、O'Byrneは次のように語ります。

「新型コロナウイルス感染症のパンデミックが始まって以来、新たな種類のロボットの導入に対する関心が高まっています。その例としては、コボットとして知られる協調型のロボットが挙げられます。現在は、パンデミックの影響により感染や自主隔離を理由とした休職が増えて、シフト勤務の計画を立てるのが難しくなっています。また、ソーシャル・ディスタンスが求められることから、一部の職場では本来の数の人員を収容できないという問題が発生しています。そうした労働力の不足分を補うためのものとして、ロボットやコボットに注目が集まっているのです」

世界のサプライ・チェーンは、米中の貿易摩擦と英国のEU(欧州連合)離脱が原因で、既に緊迫した状態にありました。そうしたなか、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生したことで、サプライ・チェーンには更なる圧力がかかりました。このような問題に対する一般的な対策の1つが、製造の国内回帰です。つまり、購入/使用する場所の近くで製品を製造するということです。

このような対策においても、ロボットは重要な役割を担います。これについて、O'Byrneは「製造の国内回帰は、事業の継続性とレジリエンスの面で有効な取り組みです。しかし、欧州や北米で製造を行う場合、中国などのアジア諸国と同様の低い賃金で労働力を得ることはできません。ロボットはこのような問題の解決に役立ちます。それだけでなく、よりモジュール化された柔軟なアプローチが製造にもたらされることから、マス・カスタマイゼーションに向けた取り組みが容易になるというメリットも得られます」と説明します。

新たな種類のロボットの新たな役割

O'Byrneによると、上述したオートメーションの新たな波は、従来のものとは異なる性質を持っているといいます。革新的な組織であれば、新たな種類のロボットに加えて、新たなスキルを有するオペレータ(人間)を必要とする新たな自動化の手段を見いだしているというのです。O'Byrneは、「コボットの設計/配備については非常に大きな進化が見られました。コボットの役割は、多くの手作業に伴う単調さと緊張感を排除することです。コボットは、単調でありながら労力を要したり危険であったりする作業を、オペレータのガイダンスの下で実施します。そうした作業の例としては、研磨、フライス加工、穴あけ、切断などが挙げられます」と説明します。実際、コボットとの協調によって作業の安全性が高まるということは、既に研究結果として示されています1

コボットはオペレータの傍らで稼働します。したがって、その消費電力や占有面積は、従来のスタンドアロン型のロボットと比べてはるかに厳しく制限されます。コボットは、自らの稼働環境について認識する能力を備えていなければなりません。自身の工具やアームといった可動部の近くに人間がいることを検知したら、速度を落としたり動作を停止したりする必要があるからです。

コボットのメーカーは、コミッショニングやプログラミングの迅速化と簡素化を実現するための新しい手段も見いだそうとしています。「コボットのメーカーは、プログラミング向けに高度に抽象化されたアプローチを導入しています。多くの場合、ユーザはコボットの動作を実現するためのコードを全く記述する必要はありません。そうではなく、表形式のコンソール画面によって設定を行うことで必要な動作を実現できます。その場合、オペレータはガイドに従ってプログラムを実行します。例えば、コボットのアームの位置を設定する際には、空間内のポイントを選択することでシーケンスを決定することができます。そのシーケンスの情報は、コンソール画面上のボタンを押すことでコボットのメモリに保存することが可能です」とO'Byrneは述べています。

「コボットの設計/配備については非常に大きな進化が見られました。コボットの役割は、多くの手作業に伴う単調さと緊張感を排除することです。コボットは、単調でありながら労力を要したり危険であったりする作業を、オペレータのガイダンスの下で実施します。そうした作業の例としては、研磨、フライス加工、穴あけ、切断などが挙げられます。」

Nicola O’Byrne

アナログ・デバイセズ コネクテッド・モーション&ロボティクス・グループ マーケティング・マネージャ|アナログ・デバイセズ

Figure 2. Cobots will find many new areas and use cases.
図2. 稼働中のコボット。コボットは今後、新たな分野、新たな用途で利用されるようになるでしょう。

ロボティクスの業界は、ロボットの利用拡大に向けて1つのビジョンを掲げています。それは、より迅速かつ容易に導入できる小型で安価なコボットを実現するというものです。人間とコボットが協調して作業を行うことにより、人間の安全性をより高めつつ、はるかに多くの成果を得られるようになります。また、それによって仕事や職場を新たに構築するための大きな機会が生み出されます。すなわち、手作業で実施するのが当たり前だと思っていた仕事を別の形に転換し、肉体的な負担、単調さ、危険性を軽減できる可能性が得られるのです。加えて、人的ミスが生じる余地を排除することも可能になります。そうした作業から解放された労働者には、経験的な知識に基づいた能力を有効に活用することができ、労働意欲をかきたてられる仕事に携わる機会が与えられます。

Figure 3. Humans and cobots can work hand in hand.
図3. 人間とコボットによる協調作業

但し、O'Byrneは「業界を取り巻くコミュニティの同意を得るためには、慎重な管理の下で転換を進める必要があります」とも指摘しています。「世の中には、特に資格などを必要としない賃金の低い仕事がたくさんあります。そのような領域では、ロボットが人間にとって代わってしまうのではないかという不安を覚える方もいるでしょう。その気持ちは理解できますが、それは杞憂にすぎないと考えています。実際、ロボットによって人から奪われてしまう作業は存在するでしょう。しかし、奪われるのは作業であって、仕事のすべてが奪われるというわけではありません。コボットにはできることとできないことがあります。プロセスの管理、創造力を活かしたプロセスの改善や再設計、コボットと協調するチームの構築といった仕事は人間が行わなければなりません。そうした仕事に必要なのは人間であり、ロボットではありません。しかも、既に雇用されている従業員こそが、コボットの構成、操作、管理を担うに最もふさわしい場合が多いのです」とO'Byrneは語ります。これについてO'Byrneは以下のように説明します。

「工場でプロセスに関する最も細かい知識を持っているのは作業現場で働いている人々です。つまり、コボットをどのようにして現場に組み込めばよいのか最もよく理解しているのはその人たちだということです。もちろん、役割が変化すれば、何らかのスキルや知識が追加で必要になります。企業としては、トレーニングや、組織の再編のための豊富なプログラムによって、その転換をサポートすべきです。また、人員を投入したり、より広範なコミュニティを活用したりする必要もあるでしょう。更に、そうした動きに向けては、公的な機関も大きな役割を果たすことができるはずです。例えば、大卒者を対象として、ロボティクスに関連する職業教育課程を用意するといった具合です。そうすれば、新卒者は就職先における自らの価値をより高められるようになります」。

新たなロボティクス技術を導入すれば、誰もが満足する結果を得ることが可能になります。ただ、当社のO'Byrneをはじめとする専門家たちは、それに向けて明確なメッセージを発信しています。「ロボットを適切に導入するためには、技術を中心に据える必要があります。しかし、新世代のロボットがもたらすメリットを最大限に活用したいのであれば、技術だけに注目してはなりません。重要なのは、人間とプロセスに注意を払うことです」(O'Byrne)。

参考資料

1What Do You Know About Cobots?(コボットについてご存じですか?)」Matthews Intelligent Identification、2017年1月