Thought Leadership
インテリジェントなエッジがもたらす生産性の向上、コストの削減
製造の分野では、生産性を高めたり運用コストを削減したりすることが常に求められます。それらの目標を達成するための手段として、インテリジェントなエッジを更に強化するための新たな技術が求められています。ただ、「そもそもエッジとは何なのか?」という疑問を抱いている方もいらっしゃるでしょう。アナログ・デバイセズは、エッジとは「機械が実世界と接触する場、または実世界と相互作用する場」であると定義しています。
ファクトリ・オートメーション(FA)においても、インテリジェントなエッジをより強化することが求められています。そうすれば、工場において生産量が低下してしまうことを防止することが可能になるからです。生産量が低下してしまう最大の原因は工場のダウンタイムにあります。つまり、生産ラインの停止は企業に損失をもたらします。実際、多くの工場では、年間で平均800時間、週平均で15時間にわたって生産ラインが停止しています1。このことは、企業の収益/利益に大きな影響を及ぼします。例えば、自動車メーカーの場合、工場の生産が停止すると、毎分2万2000米ドル(約320万円)に近い損失が発生します。これは、1時間あたり130万米ドル(約1億9000万円)、1週間あたり2000万米ドル(約29億円)の損失に相当します。一方で、よりインテリジェントなエッジは、既に製造ラインに好影響を与えています。その効果により、生産性が10%向上し、保守コストが20%削減されるといった具合です。工場に、よりインテリジェントなエッジを配備すれば、最終的には大きな損失につながる製造ラインの停止を防止することができます。言い換えれば、製造ラインの稼働を維持することにつながります。
上述したとおり、エッジのインテリジェンスを強化することが、生産性の向上と運用コストの削減につながることは明らかです。問題は、「エッジのインテリジェンスを強化するには何が必要なのか?」ということです。この疑問に答えるには、新たな考え方を導入することが不可欠です。
アナログ・デバイセズは、ICのサプライヤとして、インテリジェントなセンサーやアクチュエータの提供、ソフトウェアで構成が可能な入出力(IO)のサポート、高度な診断機能を実現するソリューションを提供する必要があると考えています。インテリジェントなエッジには、これら3つの要素が不可欠です。以下では、エッジのインテリジェンスを強化する上で、各要素がどのような役割を担うのか解説します。
インテリジェントなセンサー技術
センサーは、私たちの身の周りを含めてあらゆるところで使われています。製造環境でも、あらゆる種類のセンサーをあらゆる場所に配備する必要があります。その用途としては、機械が物体を検知できるようにする、物体までの距離を特定する、物体の色や組成を設定する、物体や液体の温度/圧力を監視するといったことが挙げられます。
損傷したセンサーを交換するために新しいセンサーをコミッショニングしたり、1台の装置を調整して別の製品を製造できるようにしたりするためには、多大な労力が必要になります。言い換えれば、そうした作業には生産性の低下とコストの増大が伴います。センサーを交換し、それを適切な製造パラメータに合致するようキャリブレーションを実施し直すためには、製造フロアに技術者を派遣しなければなりません。それによって発生するコストは、工場のスループットに影響を及ぼします。仮に、工場全体に配備されたセンサーに対して、そうしたメンテナンスを繰り返し実施しなければならなかったとします。そうすると、センサーの交換や再構成に伴うコストは、製造ラインで発生するすべてのコストの中で最大のものになります。
IO-Link®は、製造フロアのあらゆる機械にインテリジェントなセンサー機能をもたらす優れた技術です。この新たな技術を利用すれば、製造に関する柔軟性が高まり、スループットと運用効率が向上します。IO-Linkは、センサーとの間で双方向の情報交換を実現します。それにより、従来のデジタル・センサー/アナログ・センサーをよりインテリジェントなセンサーに変貌させます。例えば、センサーを遠隔でコミッショニングするための新たなレベルのインテリジェンスと機能を追加することができます。それだけでなく、センサーのパラメータをその場で調整するリアルタイム機能を追加することも可能です。現在では、産業用オートメーションで使用される機械類は新たなインテリジェンスを備えるようになっています。それにより、製造フロア全体に配備されたセンサーのネットワークの健全性とステータスに基づいて、リアルタイムの動作条件に動的に対応します。また、インテリジェントなセンサーで構成されたネットワークは、エンドtoエンドの豊富な情報を提供します。それらを活用することで、管理を司る施設で製造フロアのマッピングを行い、AIを利用した包括的な監視ソリューションに対して、より優れたリアルタイムの情報を提供することが可能になります。この種のソリューションを採用すれば、製造上のボトルネックや障害の発生個所を迅速に特定することができます。それだけでなく、運用効率の向上に向けて製造フロア全体を最適化するための新たな機能を提供することも可能になります。
IO-Linkはコミッショニングのプロセスを簡素化し、工場のスループットを高めることに貢献します。具体的には、プロトコル・スタックとIODD(IO Device Description)ファイルを使用する共通の物理インターフェースを介してセンサーの交換を可能にします。それにより、技術者はセンサーを迅速にコミッショニングできるようになります。結果として、製造ラインをその場で再構成し、工場のダウンタイムを削減するといったことが可能になります。
圧力センサーや近接センサー、温度センサーといった様々なセンサーをプラグ&プレイのような形で簡単に交換できれば非常に便利です。多くの企業は、そのようなことを可能にする共通インターフェースのメリットを認識するようになりました。それに伴い、IO-Linkに対応するセンサーの採用が急速に進んでいます。Research and Marketsによれば、IO-Linkの市場は33.56%のCAGR(年平均成長率)で成長を続けており、その規模は2018年の30億米ドル(約4393億円)から2023年までに120億米ドル(約1.7兆円)に拡大すると予想されています2。
IO-Linkに対応するハブ、ソフトウェアで構成可能なIO
IO-Linkは、インテリジェントな一連のセンサーの背後で触媒の役割を果たすものです。特に、IO-Linkには同技術に対応するハブを提供できるという点に特徴があります。それにより、エッジにインテリジェンスをもたらす新たな機会を提供することができます。IO-Linkに対応する新たなハブは、アナログIOとデジタルIOの拡張チャンネルを追加する簡単な方法を提供します。それだけでなく、ソレノイドやモータを駆動するためのインテリジェントなアクチュエータの統合も可能にします。
IO-Linkに対応するハブは、チャンネルの種類と数を拡張するための簡単な方法を提供します。この特徴は、製造ラインの予期せぬ再構成をサポートする上で大いに役立ちます。IO-Linkのすべての長所を活かせる拡張されたハブは、デジタルIO/アナログIOのポートを追加する作業を簡素化することが可能なソリューションになります。IO-Linkに対応する新たなクラスの製品を採用すれば、そのハブを経由してセンサーのコミッショニングを行うことができます。つまり、工場のダウンタイムを削減することが可能になります。この種のソリューションの例としては、オムロンのIO-Link対応ハブである「NXR」が挙げられます。この製品ファミリは、立ち上げ時間とコミッショニング時間を90%削減することを可能にします。
ソフトウェアで構成が可能なデジタルIO/アナログIOのソリューションにより、オートメーションを担当する技術者に対しては、遠隔でコミッショニングが可能な汎用IOポートを提供できるという利便性がもたらされます。IO-Linkが提供するメリットと同様に、デジタル/アナログに対応し、ソフトウェアによる構成が可能な新たなクラスのIO製品は、工場における配線の引き回しの負担を軽減します。加えて、デジタルIO/アナログIOを備えるセンサーやアクチュエータを、未使用のデジタルIO/アナログIOのポートに物理的に接続可能な柔軟性を提供します。このように、ソフトウェアによる構成が可能な技術を活用すれば、高い費用対効果が得られるようになります。また、製造フロアにおけるチャンネル密度を高められます。
インテリジェントなアクチュエータ
アクチュエータは、製造フロアで製品を移動させる方向と速度を制御するために使用されます。あらゆるアプリケーションには、モーション・コントロールとモータ駆動について固有の特性が必要になります。スマートなアクチュエータは、環境に応じてそれらを動的に調整し、完璧なメカトロニック・サイバー・フィジカル・システムを形成するために使用されます。インテリジェントなアクチュエータは進化を続けており、動作環境のニーズを満たすように性能に関するパラメータを自律的に調整する機能が提供されるようになっています。そのためには、アクチュエータがその環境について自律的に認識できるようにしなければなりません。このことは、最高のスループットを得るためにシステムがその性能を最適化したり、アクチュエータの長期的な信頼性と動作性能を最大化したりするための最初のステップとなります。それにより、効率の向上と運用コストの削減がもたらされます。
上述したインテリジェントなモーションの組み合わせを強化するためには、以下に示す2つの重要な要素を統合する必要があります。
- 電力効率の高いアナログ駆動技術:この技術により、高電圧での動作に対応できるようになります。また、ローカルの環境の健全性とステータスに関する情報を取得し、効率とスループットの向上のバランスをとれるようにモータの動作を最適化することが可能になります。
- スムーズな可動域を実現するためのモーション・コントロール用アルゴリズム: 動作中にモータにかかる負荷を検出する機能、ラインの障害を防止する機能、消費電力を最小限に抑える機能を実現するために必要になります。
上記のとおり、モーション・コントロール用アルゴリズムはスムーズで正確な動きを実現するために使われます。その一方で、チョッピング用のアルゴリズムではモータの電力効率を高めることに重点が置かれます。また、モータが正しい位置に移動したかどうかを知る上では、アーマチャ(電機子)の位置を検出することが重要です。通常、この処理は、ホール・センサーを使用した磁気検出またはある種の光学エンコーダのソリューションを使って実行されます。
インテリジェントな次世代アクチュエータの価値を実証するものとして、2つの実例を紹介します。それは、ADI Trinamicの「PD42-1-1243-IOLINK」と「TMCM-1617-GRIP-REF」です(図1)。前者は自律型のアクチュエータです。後者は、最近発表されたEoAT(End of Arm Tooling)グリッパのリファレンス設計です。どちらのソリューションも、アナログ・デバイセズのインテリジェントなモーション技術、ドライバ技術、IO-Linkの通信技術を組み合わせた場合に得られる力を実証しています。これらのインテリジェントなアクチュエータを使用すれば、産業用オートメーションを担当する技術者は、IO-Linkの通信インターフェースを介して50%も多くの構成パラメータ/性能パラメータにアクセスできるようになります。それにより、コミッショニングを簡素化し、工場の生産性を高めることが可能になります。加えて、これらのインテリジェントなアクチュエータは、動作環境の変化に対応するためにその場で調整することができます。また、高度なAIが導き出した生産性に関するソリューションの実装に対応することが可能です。つまり、そうした能力により、動作環境に基づいてアクチュエータの性能が決定されるということです。これは、インテリジェントなモーション・コントロールの将来像を提示するものだと言えるでしょう。

診断とリアルタイムの意思決定
より充実したデータ・セットを継続的に提供するためには、より高レベルの診断機能が必要になります。それにより、エッジをベースとしてリアルタイムの意思決定を改善することができます。結果として、製造フロアにおける生産性が高まり、運用の質が向上します。製造分野で使用されるアルゴリズムに対応したAIベースのプラットフォームについては、2018年の10億米ドル(約146億円)という収益が2025年には170億米ドル(約2兆4800億円)以上へと50%近いCAGRで成長すると予想されています3。この間、スマート・ファクトリを実現するために多額の投資が行われ、AIの中でも機械学習が最も成長率の高いセグメントになると考えられています。その成長の原動力となるのは、健全性やステータスに関する豊富な情報です。それらの情報は、IIoT(Industrial Internet of Things)向け機器のネットワーク、予測分析を実現するアルゴリズム、製品の品質を監視すると共に機械のステータスや動作の健全性を評価するためのマシンビジョン・カメラによって生成されます。
ICのレベルでは、マイクロプロセッサとの間でSPI(Serial Peripheral Interface)バスを介して、より多くの情報の監視、収集、通信が行われます。ICによってやり取りされるデータグラムの量は増加し続けています。その理由は、そうしたICによって伝送される情報が重要なものであるからです。例えば、デバイスの温度、過電圧、過電流、断線、短絡、過熱などに関する情報が扱われます。あるいは、サーマル・シャットダウン、CRC(Cyclic Redundancy Check:巡回冗長検査)などに必要な情報も伝送されます。従って、製造フロアの多様な設備全体を対象としてデータグラムを提供するICの数を増やすことを検討すべきです。そうすれば、製造フロアを対象とする診断用のマッピングを実現することができます。このマッピングは、製造ラインの障害を予測、特定、診断するために必要になります。
次なる大きな変革
ここまで、よりインテリジェントなエッジを実現するために必要な新たな考え方について説明してきました。1つ明らかなことは、その考え方を強化することで、スマート・ファクトリで新たな機能を活用することにより、スループットと生産性を高められるようになるということです。そうした新たな技術が成熟し続けるにつれ、AI向けの次世代のアルゴリズムにもメリットがもたらされることになります。そのメリットは、そうしたソリューションから生成されるより高品位なリアルタイムのデータを活用することによって得られます。その結果、自己認識が可能な新たな機械により、AIが生成したソリューションを自動的に実装し、技術者が修理/サービスを行うまで製造ラインの稼働を維持することができるようになります。そのような自己認識型の機械は、次世代の産業用オートメーションに対して大きな変革をもたらすことになるでしょう。
参考資料
1 Steve Bradbury、Brian Carpizo、Matt Gentzel、Drew Horah,、Joel Thibert「Digitally Enabled Reliability: Beyond Predictive Maintenance.(デジタル化により信頼性を高める - 予知保全を超えて)」McKinsey & Company、2018年10月
2 「IO-Link Market Analysis & Forecast by Component, Applications, Industry and Geography: Global Forecast to 2023(コンポーネント/アプリケーション/業界/地域別に見たIO-Linkの市場の分析と予測 - 2023年までのグローバルな予測)」Research and Markets、2018年10月
3 「Artificial Intelligence in Manufacturing Market(製造市場におけるAI)」MarketsandMarkets Research、2019年1月