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放射線への耐性を備える新世代の宇宙用途向け製品
宇宙関連の産業は、最新技術の進化に伴い、様々な企業にとって従来よりもはるかに有望なものとなりました。これまでは防衛分野の特定の企業や国家機関だけで構成されていた市場に、人類の生活圏の範囲外を対象として事業を展開しようとする民間企業が数多く参入し始めたのです。このパラダイム・シフトにより、宇宙事業向けの新たな製品の開発が促進されるようになりました。そうした製品は、将来の宇宙船の規模や性能に対し、すべての顧客にとって印象的で胸躍る影響をもたらすはずです。
最近では頻繁に報道されるようになりましたが、現在、宇宙事業向けの製品に関する前途有望な技術を有している民間企業に対しては、多額の投資が行われています。例えば、いくつかの企業は、ロケットの新たな打ち上げ方法を開発しました。それにより、打ち上げ費用はかつてないレベルにまで削減されています。また、地球低軌道(LEO:Low Earth Orbit)に衛星コンステレーションを配備し、世界のあらゆる地域の人々をつなぐために10億米ドル(約1080億円)もの資金が投入されています。それ以外にも、インターネットへの接続を拡大するための取り組みとして、高高度無人航空機(UAV:Unmanned Aerial Vehicles)などの開発も進められています。こうした取り組みにおいて目標を達成するには、よりスマートで軽量なプラットフォームを構築できるようにするために、より集積度の高いICが必要になります。
現在、宇宙事業向けの製品については、イノベーションを求める声がかつてないほどに高まっています。アナログ・デバイセズは、これまで長きにわたり、宇宙において放射線による障害を被ることを回避するために、最高水準の品質、信頼性、レジリエンスを備える製品を提供してきました。その長年の取り組みを受け継ぐ当社の宇宙事業向け製品は、100kradを超える吸収線量に対応できるレベルの放射線耐性を備えています。それらの製品が非常に厳しい軌道環境に適していることは、宇宙業界においてよく知られている事実です。
アナログ・デバイセズは、より小型で効率的な製品を設計できるようにするために、商用市場に向けた新たなICを開発し続けています。しかし、そうした製品に変更を加えて、宇宙環境での使用にも適したものに移行するには、複雑かつ時間のかかる作業が必要になります。当社の新製品の多くは、BiCMOSプロセスを採用しています。バイポーラとCMOSそれぞれの最も良い部分を組み合わせることができるからです。しかし、放射線への耐性を得るには、BiCMOSデバイスの特性評価を行い、トータル・ドーズ効果(TID:Total Ionizing Dose)とシングル・イベント効果(SEE:Single Event Effect)の両方の影響を緩和する必要があります。現在は、より迅速に新製品をリリースすることが求められます。その状況下で、そうした手順を踏まなければならないのでは、新製品の市場展開に遅れが生じてしまいます。
新製品の開発において検討すべき1つの事柄としては、パッケージが挙げられます。多くの新製品は、商用ICとしての性能を強化するために特有のパッケージを採用して設計されます。そうした商用製品の性能は、既存の非ハーメチック・パッケージに直接依存しているため、それを宇宙市場向けに改変/移行するのは、現実的に不可能なケースもあります。例えば、寄生効果の増大に対応するために全く新たなハーメチック・パッケージを開発したり、高いコストをかけてパッケージング後のトリムを実施できるよう再開発を行ったり、非常に複雑な新テスト・システムやハンドラを調達しなければならなかったりするからです。いずれにしても、既存の商用製品を宇宙市場向けに改変/移行するのは、投資額があまりにも多すぎて、全く見込みが立たなかったのです。
幸い、より高度な製品をより迅速に開発する上で好都合な条件も存在します。まず、LEOにおいては、放射線によるTIDの要件が他の軌道と比較して低くなります。30krad~50kradの放射線に対する耐性を備える製品であれば、その要件を満たすことができます。もう1つは、プラスチック封入モジュール(PEM:Plastic Encapsulated Module)を宇宙で使用できるようにしようという動きが進んでいることです。最近まで、この発想はEEE(Electrical, Electronic, Electromechanical)部品を担当するマネージャや技術者によって、完全に否定されていました。実際容易なことではないのですが、宇宙業界に認められる形でPEMの採用が進めば、宇宙船の性能が劇的に高まり、SWaP(サイズ、重量、消費電力)を大幅に削減できる可能性があります。
この分野で成功を収めるためには、最高水準の品質と信頼性を備え、宇宙環境に適したPEM製品を製造することが不可欠です。世界中の主要な宇宙機関は、かなり前から、宇宙での利用に適したPEMの後処理に関する仕様を定めています。宇宙業界は、長年にわたってPEMの使用を拒んできました。ロットのトレーサビリティ、放射線に関する試験結果の妥当性、試験のプログラムの相関性、メーカーによる保証やサポートの欠如など、一連のプロセスにリスクと不確定性が内在することがその原因です。試験の実施にはコストと時間がかかります。また、1つのロットが不合格になると、設計者は別の部品を使ってプロセスを最初からやり直すか、シールドを追加するといった緩和策を講じなければなりません。当社が宇宙環境に適したPEM製品を提供すれば、そうしたリスクは大幅に緩和されます。十分な在庫を確保することで、開発スケジュールも劇的に短縮される可能性があります。
アナログ・デバイセズはこのようなニーズに対応し、新たな商用宇宙製品シリーズを導入しました。その製品シリーズにおいては、打ち上げる衛星の数に応じ、顧客からの異なる要望に対応する3つのフローを提供します。最も低レベルのフローでは、純粋に商用目的で多数の衛星を宇宙に打ち上げる予定の民間宇宙企業に対して、放射線に関する要件に対応可能な特殊なサポートを提供します。中レベルのフローでは、放射線に関する追加の試験、スクリーニング、ロットごとの品質評価を提供します。これらのフローにより、大多数の民間宇宙企業の要件が満たされるはずです。
高レベルのフローでは、品質と信頼性に関連するスクリーニングと評価を強化します。加えて、放射線に対する特性の評価と保証を行います。このフローには、TIDとSEEの両方を対象とした放射線に対する特性評価と、TIDに関するロットごとの品質評価が含まれます。必要な作業は広範に及ぶので、価格もそれを反映したものになります。それでも、既存の宇宙向け製品より高い性能とSWaPが実現され、品質と放射線に関する保証も得られるので、そのコスト以上のメリットを享受できます。その結果、従来よりも総コストを抑えつつ高い性能を達成する将来の宇宙船を実現できるようになります。
なかには、PEM製品を許容するわけにはいかないミッションも存在します。そのことを当社は十分に理解しています。そこで、上述したパッケージの課題に対処しやすいことが実証済みのハーメチック・パッケージを採用した、高度な類似製品の開発も続けています。将来の宇宙船に本当の意味で革新をもたらす製品を開発するためには、お客様からのご意見が貴重な情報になります。アナログ・デバイセズのどの製品が、宇宙船のSWaPと性能に最も影響を与えるのかということについて、ぜひご意見をお寄せください。製品に対する小さな改良でも、宇宙船においてその製品が大量に使用されることから、大きな効果が見込めるといったこともあるでしょう。あるいは、ほとんど機能を備えていない単一の部品が、多数の機能と保護機構を集積したICに大きな効果をもたらしたりする可能性もあるはずです。アナログ・デバイセズの将来の製品開発を突き動かすのは、お客様のニーズです。
本稿で触れた製品の詳細については、analog.com/jp/DACを参照してください。