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Elderly woman in home care video calls doctor, assisted by nurse in a calm, well-equipped room.
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Andrew Burt headshot.
Andrew Burt,

デジタル・ヘルスケア事業部門 プロダクト・ライン・マネージメント担当ディレクタ

アナログ・デバイセズ

著者について
Andrew Burt
Andrew Burtは 、アナログ・デバイセズのプロダクト・ライン・マネージメント担当ディレクタです。デジタル・ヘルスケア事業部門に所属しています。センサー、光学モジュール、アルゴリズム、臨床測定などを対象とし、ヘルスケア製品向けのビジネス開発に従事。将来のウェルネス向けソリューションと疾病管理向けソリューションの構成要素となる新たな臨床グレード製品の定義にも携わっています。欧州、アジア、南北アメリカにおける経営管理や製品マーケティングの分野で25年以上にわたる豊富な経験を有しています。オックスフォード・ブルックス大学で電気工学と電子工学を専攻。余暇には、F1レースを観戦したり、カリフォルニアの山々でマウンテンバイクに乗ったりしています。
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臨床グレード技術を活用し、自宅入院による変革を実現する


医療 の分野では、自宅入院(HaH:Hospital at Home)という新たなモデルに注目が集まっています。これは、ICU(集中治療室)が必要なレベルの治療を除き、自宅で快適に医療を受けられるようにするというものです。HaHが実現されれば、日常的な診療のために病院まで足を運んだり、駐車場を探したり、診察まで長時間待たされたりするといった煩わしさがなくなります。

HaHは、医療の提供方法に関する比較的新しいイノベーションです。ここ数年で提供されるようになった医療サービスの中でも、特にエビデンスに基づいているものの一つだと言えます。HaHについては様々な研究が行われています。その結果、HaHは、患者の転帰、患者の体験、コストの削減など、価値方程式のあらゆる要素の改善に向けて有効なものであることが明確になりつつあります。そのため、HaHはより多くの支持を集めるようになりました1

HaHでは、従来型の病院と同様のケア・サービスが提供されます。その実現に欠かせない要素がリモートでの患者のモニタリングを可能にする機器です。それらの機器は、規制上、科学上、運用上の基準を満たす臨床グレードのものでなければなりません。また、高度な計測器、センサー、AIなどによって機能や性能が強化されている必要があります。


HaHとは何か?

HaH(自宅入院)とは、通常は病院で提供されるスタッフ、機器、技術、薬剤、スキルを患者の自宅で提供するというものです。そのためには、多くの分野にまたがるチームによって、バイタル・サインのモニタリング(VSM:Vital Signs Monitoring)、心不全のモニタリング、ポイントオブケアの検査(POCT:Point of Care Testing)といった必要不可欠な治療を提供する必要があります。HaHは、急性増悪を伴う慢性疾患を患っているものの、常時のモニタリングや集中的な介入治療を必要としない患者に対して最適な選択肢です。

【注意】HaHはすべての患者に適用すべきものではありません。HaHのあらゆるプログラムには、患者が自宅で治療することに適しているか否かを判断するための独自の基準が設けられています。HaHによる治療の対象となる疾患には、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性心不全(CHF)、肺炎、尿路感染症(UTI)、蜂窩織炎、喘息などがあります2


「アナログ・デバイセズは様々な製品を開発することにより、将来のヘルスケア・サービスの実現を支援しています。HaHはそうしたサービスの1つです。その成否の鍵を握るのは、クラウド・ベースのアルゴリズムと、インテリジェントなエッジで使用する臨床グレードの高度なセンシング技術です。」

Andrew Burt

デジタル・ヘルスケア事業部門 プロダクト・ライン・マネージメント担当ディレクタ | アナログ・デバイセズ

HaHが適用されるケースが増えつつある背景

18分
医師による平均診察時間3
2500人以上
多くの医師の担当患者数4
30%
米国において、在宅ケアの対象になる疾患で入院した患者の割合5
76%
病院での治療から在宅ケアへの移行を推進している医療技術/製薬分野の世界的企業の割合6

各種の調査結果に見るHaHの効果

Person in white coat video calling from office, with charts and text displayed beside the video on screen.

HaHの有用性は、多くの研究によって確認されています。JAMA Network Open誌に掲載されたある研究結果によると、「入院患者と比較すると、HaHの患者の死亡リスクは同等で、再入院のリスクは26%低く、長期療養施設への入所リスクも低い」と言います。研究者らは、「HaHは入院の有効な代替手段である」と結論づけているのです7

2018年に、Medicare & Medicaid Innovation Centerはニューヨーク市のマウント・サイナイ病院でHaHに関する研究を実施し、JAMA Internal Medicine誌でその結果を発表しました。その研究は、出来高払い(fee-for-service)のモデルに基づいて実施されました。その結果、HaHにより、急性期の入院期間が短縮され、再入院の必要性が半減し、30日に相当する救急外来と治療のコストが削減されたことが明らかになりました。また、HaHの患者はより良いケアを受けることができ、専門看護施設への転院の必要性が下がることもわかりました8

更に、ボストンのマサチューセッツ総合ブリガム病院の事例も、HaHが非主流の医療モデルではないことを示しています。同院のHaHは、米国で最大規模の非常に確立されたプログラムだと言えます。また、同院が「在宅病院(Home Hospital)」と呼ぶケアの方法は、今後の戦略における優先事項の1つに位置づけられています9

HaHが患者、医療提供者、保険会社にもたらすメリット

Icon of patient with IV drip.
患者
  • 慣れ親しんだ環境でケアを受けられ、快適さや利便性が増す
  • よりパーソナライズされた積極的なケア
  • 院外感染のリスクの低減
  • 医師/病院を訪ねる際の煩わしさ(移動、駐車、待ち時間など)が減るため、満足度が向上
Icon of doctor with stethoscope.
医療提供者
  • リソース効率の向上、必要な病床数の削減
  • 医療従事者の時間を重症患者に振り分けられる
  • 患者のモニタリングを強化できる
  • 潜在的な問題に対する早期の予防/治療に役立つ
  • 間接費の削減による運営コストの低減
Icon of insurance document.
保険会社
  • 入院を避けられることから多くのコストを削減できる
  • 入院期間の短縮によるコストの削減効果が得られる
  • 健康上の問題が早期に特定されるので、高額な費用の請求を回避することが可能

HaHの成否を決めるのはAI

既にAIは社会に変革をもたらしています。医療分野もその例外ではありません。特に大きな効果を得ているのがHaHです。実際、AIはHaHを支える重要な技術です。具体的には、以下のようなことを可能にします。

  • 予測用データのリアルタイムの分析、早期警告サイン(EWS:Early Warning Sign)の発出:患者に関する包括的なデータを基にして臨床的な判断を実施します。
  • 遠隔医療:医療提供者やバーチャル・アシスタントへのバーチャル相談が可能になり、治療への即時アクセスや治療に関する指導が得られるようになります。
  • リソースの最適化:AIのアルゴリズムはリソースの配分の最適化に役立ちます。具体的には、患者のニーズの予測や、看護師/機器/薬剤の配備の調整に利用されます10
  • 患者のエンゲージメントの向上:AIをベースとするアプリやツールを使用することで、患者は教材、コミュニケーション情報、トラッキングなどのリソース/機能にアクセスできるようになる可能性があります。
  • 投薬の管理:リマインダを提供することにより、患者は時間どおりに適量の薬を服用できるようになります。また、相互作用や副作用の情報などを提供することも可能です。

HaHの実現には臨床グレードの達成が必須

HaHが真価を発揮するためには、リモートで患者をモニタリングする機器が必要になります。それらの機器は、規制に準拠した臨床グレードのものでなければなりません。幸い、そうした高品質な機器の普及は進んでおり、価格も低下しています。そのため、患者と医療提供者の両方にとって利用しやすいものになっています。

HaHによるケアを推進する主要な技術

Person holding smartphone showing glucose reading of 119, next to sensor on their upper arm.

持続血糖値モニタリング(CGM:Continuous Glucose Monitoring)

Hand placing a fingertip pulse oximeter on another’s finger, displaying heart rate and oxygen levels.

パルス・オキシメータ

指に装着して血中酸素濃度を測定

Hand holding transparent medical device with circular adhesive pads, designed for attaching sensors.

心肺機能を日常的に監視するウェアラブルなモニタ

Person measuring blood pressure at home during a video call with a healthcare professional, taking notes.

VSM

血圧のモニタ、ウェアラブル、カフ

Child and adult watching doctor on laptop during telehealth appointment, with thermometer on the table.

遠隔医療用のプラットフォーム

Person using a point of care testing device, holding a vial.

ポイントオブケアの検査

(POCT)

HaHを実現する技術は間違いなく有益なものです。しかし、研究者らはアラーム疲労や偽陽性/偽陰性につながる精度面の問題のようなリスクの存在に気づきました11。そのような課題が存在することから、医療提供者に対して不要なアラートが送信されて負担をかけたり、患者の状態が誤って解釈されたりする可能性があります。

そこで重要になるのが、高度な半導体技術と高精度のアルゴリズムです。それらによって不必要なデータをフィルタリングすれば精度を高めることができます。その結果、医療従事者に対して必要不可欠な情報だけを確実に届けることが可能になります。つまり、アラーム疲労などの問題を軽減しつつ、より高い信頼性で患者のモニタリングを実現できるようになるということです。

医療の提供方法を変革するHaH

Healthcare worker smiling at elderly man in wheelchair, indoors with a warm, caring atmosphere.

米国では、何らかの慢性疾患を抱える50歳以上の人の数が、2050年までに現在の2倍の1億4200万人以上に達すると予想されています12。そうした患者や介護者、保険会社に対し、HaHは医療全般にわたるケアの方法を改善可能なソリューションを提供します。更に、HaHを導入すれば、サービスが行き届かない地域、地方、外出が困難な人々に対するサービスを改善することも可能になります。

HaHの普及は着々と進みつつあります。注意が必要なのは、HaHは医師と患者のやり取りを排除するものではないということです。むしろコミュニケーションを改善し、従来のやり取りを強化するものだと言えます。HaHを具現化するには、データを活用して実用的な知見を生成可能な高精度かつ臨床グレードの技術が必要です。HaHの成否は、それらの技術の利用にかかっているのです。

参考資料

1 Hospital at Home: An Evolving Model for Comprehensive Healthcare(自宅入院 - 包括的な医療のために進化するモデル)、NIH/National Library of Medicine、 2021年
2 「Hospital at Home(自宅入院)」John Hopkins Medicine、「An Introduction to Hospital-at-Home, and How RPM Enables It(自宅入院の概要、RPMによってそれを実現する方法)」CareSimple
3 Association of Primary Care Visit Length with Potentially Inappropriate Prescribing(プライマリ・ケアの受診期間と不適切な可能性がある処方の関連性)、JAMA Health Forum、2023年
4 Consideration for Patient Panel Size(患者のパネル・サイズの検討)、NIH/National Library of Medicine、2022年
5 Is Your Living Room the Future of Hospital Care?(将来は自宅のリビング・ルームが入院治療の場に?) 、KFF Health News、2021年
6 Healthier at Home: Creating Value for All in the Shift from Hospital to Home(自宅でより健康に - 病院から在宅への移行を通じ、すべての人に価値を創造する)、PA Consulting、2023年
7 Hospital-at-Home Interventions vs. In-Hospital Stay for Patients with Chronic Disease Who Present to the Emergency Department: A Systemic Review and Meta-analysis(救急外来を受診した慢性疾患患者に対する自宅入院治療と通常の入院治療の比較、系統的なレビューとメタ分析)、JAMA Network Open、2021年
8 Association of a Bundled Hospital-at-Home and 30-Day Postacute Transitional Care Program with Clinical Outcomes and Patient Experiences(自宅入院/30日間の急性期後移行ケア・プログラムのバンドルと臨床成績/患者の体験との関連性)、NIH、National Library of Medicine、2018年
9 Mass General Brigham to Expand Home Hospital to 3 Community Sites(マサチューセッツ総合病院ブリガムが在宅病院を3つの地域拠点に拡大)、Mass General Brigham、2023年
10 Kuo, A.M.H., et al「Artificial Intelligence-Based Systems for Managing Patient Flow in Emergency Departments: A Review(救急部門で患者のフロー管理に用いるAIベースのシステム - レビュー)」Journal of Medical Internet Research、2020年
11 The Role of Digital Technology in Surgical Home Hospital Programs(外科の在宅病院プログラムにおけるデジタル技術の役割)、NIH、2023年
12 Projecting the Chronic Disease Burden Among the Adult Population in the United States Using a Multi-state Population Model(複数の状態集団モデルを用いた米国の成人人口に対する慢性疾患負担の予測)、NIH、2023年