要約
このアプリケーションノートでは、MAX2242パワーアンプ(PA)のアプリケーションについて詳しく説明します。取り上げるトピックは、PCBのレイアウト、段間マッチング、熱管理、およびウルトラチップスケールパッケージです。PAは+22dBmの出力電力を達成し、ACPRはCCK変調方式による第1サイドローブで-33dBc未満です。オンチップのパワーディテクタは、20dBのダイナミックレンジを実現しています。動作電源電圧は、2.7V~3.6Vです。回路ボードの材質にはFR4が使用されています。高周波で高電力の回路には、完全な接地が必要不可欠です。このアプリケーションノートでは、最適な性能を実現するためのサンプルレイアウトを紹介しています。入力ネットワーク全体のシミュレーションにより、マッチング回路の設計を可能にしています。電源ラインには、低周波用および高周波用のバイパスコンデンサが必要です。また、ボールピッチが0.5mmのUSCP™の図面を掲載しています。MAX2242のテストのセットアップでは、スペクトラムアナライザを使用してサイドローブのレベルを測定し、RFパワーメータを使用して電力出力を測定しています。
概要
このアプリケーションノートの目的は、MAX2242パワーアンプのアプリケーション情報を設計エンジニアに提供することです。このアプリケーションノートでは、プリント回路ボードのレイアウト、段間マッチング、入出力インピーダンス、熱管理、およびウルトラチップスケールパッケージなどのさまざまなトピックについて説明しています。
解説
MAX2242は、2.4GHzのISM帯域ワイヤレスLANアプリケーション用に設計されたリニアパワーアンプ(PA)です。MAX2242のリニア出力電力は22.5dBmで、ACPR (adjacent-channel power ratio:隣接チャネル電力比)は第1サイドローブで-33dBc未満、第2サイドローブで-55dBc未満であり、IEEE 802.11b 11MB/秒のWLAN規格に準拠しています。このPAは、3 × 4ウルトラチップスケールパッケージ(UCSP)に内蔵されており、サイズはわずか1.5mm × 2.0mmで、小型形状のPCカードやコンパクトフラッシュカードに搭載する無線機用に最適です。
MAX2242パワーアンプは、3段PA、パワーディテクタ、および電力管理回路で構成されています。パワーディテクタは、20dBを超えるダイナミックレンジを提供し、最大出力電力レベルにおいて±0.8dBの精度になります。このディテクタ回路を使用すると、正確な自動電力レベル制御(ALC)機能を簡単に実現できます。
このPAは外部バイアス制御ピンも備えています。外部DACを使用することにより、十分なACPR性能を維持すると同時に、低出力電力レベルにおいて電流を低減することができます。この結果、あらゆる電力レベルで最高の効率が維持されます。このデバイスは、+2.7~+3.6Vの単一電源の電圧範囲で動作します。オンチップのシャットダウン機能により、動作電流が0.5µAまで低減され、外部の電源スイッチは不要です。
アプリケーション
- IEEE 802.11b
- ワイヤレスLAN
- ホームRF
- 2.4GHzコードレス電話
- 2.4GHz ISM無線機
特長
- Po = 22.0dBmのリニア出力電力(ACPRは第1サイドローブで-33dBc以下、第2サイドローブで-55dBc以下)
- 28dBの利得
- パワーディテクタ内蔵
- 電流スロットルバック用の外部バイアス制御
- +2.7~+3.6Vの単一電源動作
- ウルトラスモールチップスケールパッケージ(UCSP)で1.5mm × 2.0mm
設計上の検討事項
RFパワーアンプの設計時には、検討すべき要因が多数あります。PCボードのレイアウトを始める前に、以下の設計上の検討事項と手段(後述)を十分理解しておく必要があります。
- PCボードの材質
- 接地方法
- 段間マッチング
- 入出力インピーダンスマッチング
- トランジェントの安定性
- 熱管理
- ウルトラチップスケールパッケージ(UCSP)
- アンプテストのセットアップ
- MAX2242データシート
- MAX2242評価キット
PCボードの材質
プリント回路ボードの材質は、FR4またはG-10のいずれかであるべきです。この種類の材質は、3GHzまでの周波数の低コストワイヤレスアプリケーションのほとんどに適しています。MAX2242評価ボードでは、誘電率が4.5、誘導層厚が6ミル、および1オンス銅の4層FR4を使用しています。
接地方法
優れた接地の必要性は、いくら強調してもしすぎることはありません。RFパワーアンプの設計時には、さまざまな部品の接地に使用する手法が非常に重要となるため、特に注意が必要です。
ハイインピーダンス回路では高電圧を考慮する必要がありますが、これとは対照的に、ローインピーダンス素子では電流の流れを考慮する必要があります。つまり、グランドの電流経路と部品の電流処理能力を慎重に考慮する必要があるということです。忘れてはならないことですが、接地は高電力レベルと高周波数ではさらに重要です。このアプリケーションには、両方の条件が必要であるということです。
MAX2242 (出力インピーダンスは2.45GHzで約(8 + j5)Ω)などのローインピーダンス回路を使用して設計する場合、インダクタンス約0.5nHだけで、8Ωの誘導性リアクタンスに相当します。8Ωのリアクタンスは、誘導率4.5で層厚6ミルのFR4 PCボード上の60ミル × 10ミルのマイクロストリップラインによって生成されます。
このアプリケーションでの優れた接地とは、最上部の部品層とグランドプレーン間の誘導性リアクタンスを最小限に抑え、2つの異なるグランドポイント間の電位差が0Vになるようにし、浮遊信号がある段から次の段にわたって結合を生じないようにすることです。
優れた接地は、グランドプレーンがほぼ連続になるように気をつけることで達成できます。上位層グランドは、メッキされた複数のスルーホールビアを使用して下位層グランドと接続する必要があります。MAX2242には、GND1、GND2、およびGND3の3つのグランドピンがあります。これら3つのピンには、誘導性リアクタンスを最小限に抑えるために可能な限り素子の近くにグランドスルーホールビアを配置する必要があります。MAX2242評価ボードは、10ミルのメッキが施されたスルーホールビアを使用します。グランドスルーホールビアの端からPAの3つのグランドピンまでは4ミルです。
図1は、複数のスルーホールグランドビアを使用してボードの接地機能を改善したものであり、異なるボード層間の誘導性リアクタンスを最小限に抑え、さらに可能な限り部品の近くにスルーホールビアを設けて受動部品の誘導性リアクタンスを最小限に抑える方法を示しています。また、RF経路に沿ってグランドビアを配置し、最適化が必要な場合にマッチング部品を移動できるようにしておくことが重要です。
図1. MAX2242評価ボードの部品上面図
段間マッチング
中間段のマッチングは部分的なものであるため、マルチステージアンプのオフチップの段間マッチングは必要不可欠です。プリドライバとドライバのアンプを最適化するには、集中定数型または分布定数型の素子による少量のインダクタンスが必要となります。
図2. MAX2242のアプリケーション回路
入出力インピーダンスマッチング
入出力インピーダンスは、2回の繰り返しによって実現しました。1回目は小信号のシミュレーションによって達成し、2回目は大信号の条件の下で実験に基づくチューニングによって達成しました。
図3および図4は、最適な入出力マッチングネットワークを構成する実際のレイアウトサイズをモデル化した集中定数と分布定数の素子を示しています。
図5は、実際のレイアウトからシミュレーションした最適なソースZ(1,1)および負荷Z(2,2)インピーダンスを示しています。Z(1,1)とZ(2,2)は、最適なソースおよび負荷インピーダンスの出発点として使用してください。
図3. 入力マッチングネットワーク
図4. 出力マッチングネットワーク
図5. 最適なソースおよび負荷インピーダンス
トランジェントの安定性
トランジェントの安定性の改善には更に注意が必要です。以下に示すガイドラインは、MAX2242が不安定になることを防ぐものです。
最初に、大きな汎用バイパスコンデンサ(タンタルまたは電解)をVCCの主給電点に配置して接地することにより、回路に発振が生じる傾向を防ぎます。また、局部デカップリングコンデンサをVCCの給電点に追加して電源関連のフィードバックからのアイソレーションを確保することが非常に重要となります。
電源バイアスラインには、RF浮遊信号がバイアスライン上に結合しないようにするため適切なシールドが必要です。シールドは、マルチステージPAで30dB以上のカスケード利得段を使用するときには特に重要となります。電源バイアスラインのシールドは、VCCラインを分離することで実現できます。また、可能であれば、浮遊信号の少ない下位層グランドプレーン、または同じく浮遊信号の少ないボードの内部層の1つにVCCラインを通すことでもシールドを実現することができます。
高利得マルチステージアンプは、出力信号が入力経路と結合する箇所でフィードバックの影響を受けやすくなります。位相偏移の合計が180度の周波数では、発振が発生する可能性があります。出力から入力へのRF結合を最小限に抑えるには、すべてのRFラインをできるだけ短くしてアンテナ効果を少なくすることをお勧めします。
最後に、回路ボードの接地不良も発振の原因となる可能性があります。ゼロでない接地インピーダンスに大きなPA電流が流れると、電圧が誘起され、接地系統にノイズが注入されることになります。
図6. アプリケーションの回路図と内部ブロック図
図7. MAX2242評価ボードの底面図
熱管理
パワートランジスタは、コレクタ/ベース接合部で大量の電力を消費します。消費電力は熱となって接合部の温度を上昇させます。しかし、接合部の温度TJは、仕様の最大値TJMAXを超えることは許されません。TJMAXを超えると、トランジスタは修復できない損傷を受ける可能性があります。破局的な故障が発生しなくても、長期的な信頼性に影響します。シリコン素子の場合、TJMAXは約150℃です。MAX2242はシリコンベースの素子であるため、接合部の最大温度すなわちTJMAXは、150℃になります。
MAX2242は、MAX2242評価ボードのグランドプレーンをヒートシンクとして使用します。
図8は、熱伝導プロセスを電気的に等価な回路で表した一例です。電力消費は電流に、温度差は電圧差に、熱抵抗は電気抵抗に相当します。
図8. 熱伝導プロセスの電気等価回路
TJ = (θJC + θCS + θSA) × PD + TA
ウルトラチップスケールパッケージ(UCSP)
MAX2242は、ウルトラチップスケールパッケージに内蔵されています。このパッケージ技術の第1の利点は、ICからPCボードへのインダクタンスが最小限に抑えられることです。第2の利点は、パッケージサイズの減少と製造工程時間の短縮、および熱伝導特性の向上です。
UCSPの詳細については、アプリケーションノート1891 「ウェハレベルパッケージ(WLP)とその応用」を参照してください。
図9. ウルトラチップスケールパッケージ
アンプテストのセットアップ
図10. MAX2242のテストのセットアップ