要約
USBやカードスロットパワースイッチなどのソリッドステート過電流保護ICは、製品の試験時の過負荷/短絡の危険や顧客の誤用から端子を保護する単純で堅牢な方法を提供します。保護の程度は無制限ではありません。このアプリケーションノートでは、それらの制限について検討します。
同様の記事が、「Power Electronics Technology」の2008年10月号に掲載されています。
はじめに
1.2Aの電流制限があれば、フォルトまたは短絡が発生した場合、回路保護ICが完全な制御を維持することができると、誰しも考えるでしょう。しかし現実には、電流制限は常に実際のシャットオフが発生するまでに遅延時間があることをはっきりと示しています。ハード短絡時、電流は急激に上昇し、まずDC制限に達してから、スイッチをターンオフし始めます(DC制限は通常、高精度ですが、低速スレッショルドです。低速スレッショルドは、突入やその他の擬似的な事象からの有害トリップを回避します)。しばらく経過すると、スイッチは開きますが、DC制限より大幅に高くなり得るピーク電流に達するまでは開きません。低インダクタンスの配線によって、電流がさらに急激に上昇する可能性もあります。図1を参照してください。
抵抗によって電流を制限する
低インダクタンスの配線とハード短絡でMAX1558 USBスイッチを使用すると、電流は内部保護スイッチによって抵抗で制限されます。保護回路が最終的に開くと、ピーク電流(I)を測定することができます。この処理は、図2に示されています。ピーク電流が浮遊入力インダクタンス(LSTRAY)を流れると、エネルギー(E)が蓄積されます。
E = ½ × LSTRAY × I²
回路ブレーカまたは保護スイッチが最終的に回路を開いた場合、このエネルギーはどこへ行くでしょうか?
図1. この図は、ハード短絡時の電流経路、および浮遊インダクタンスによって駆動されるフォロースルー電流の経路を示しています。
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図2. このプロットは、CBYPASSに10µFを使用した場合の短絡回路性能を示しています。VINトレースは、入力がフォロースルー電流によって8.6Vまで急上昇していることを示しています。
図2を見ると、入力電流(IIN)が48.8Aまで急激に上昇した後、抵抗によって制限されるのがわかります。スイッチをオフにすると、電流が立ち下がるときのレートを測定することができます。IINが20A/µsで立ち下がり、VINが8.6V (VMAX)に上昇すると、回路インダクタンスは次のように経験的に計算されます。
(VMAX - VIN) = di/dt × LSTRAY
VMAX - VIN = 3.6V、およびdi/dt = 20A/µsの場合、LSTRAY = 180nHとなります。
そのため、E = ½ × LSTRAY × I²の場合、フォルトの最後に、LSTRAYに214µJが蓄積されています。バイパスコンデンサがこのエネルギーを吸収して電圧上昇を制限するために必要です。5Vの初期充電を備えた10µF入力コンデンサには、次のように、多少の初期エネルギーが蓄積されます。
½ × C × V² = E
ここで、LSTRAYに蓄積された全エネルギーが最終的には入力コンデンサCBYPASSに行くものと仮定すると、
Initial Energy + Stray Energy = Final Energy
125µJ + 214µJ = 339µJ
339µJは入力コンデンサ内の最後のエネルギーで、次式を使用します。
½ × C × V² = E
または
½ × 10µF × V² = 339µJ
Vを求めると、V = 8.23Vとなります。これは図2の8.6Vの測定値と非常に近い値です。
ここで、入力バイパスがわずか0.1µFまで低減すると、入力電圧は破壊的な電圧まで上昇する可能性があります。したがって、今度は、次式を使用します。
Initial Energy + Stray Energy = Final Energy
1.25µJ + 214µJ = 215µJ
および
½ × 0.1µF × V² = 215µJ
Vを求めると、V = 65.6Vとなります!
この過程で、もちろん、5.5V定格の部品は損傷します。このハード短絡時の波形は図3に示されています。出力も9.8Vに上昇することに注意してください。これは、スイッチがターンオフされる前に短絡が取り除かれたために発生しており、この試験での高di/dtの原因にもなっています。通常、di/dtはパワーデバイスのターンオフ特性によって左右されます。USBポートでは、回路はエンドユーザに依存します。すなわち、まったく制御されていない状態です。このような急激なターンオフは、断線しかかりのケーブル、不良のコネクタ、またはこの場合のように、機械的結合に関係する接続バウンスによって引き起される可能性があります。
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図3. このデータは入力のわずか0.1µFコンデンサで、入力電圧が破壊的な電位まで上昇し得ることを示しています。
明らかに、電圧は66Vまで上昇しません。これは、この部品がツェナー電圧を備えているためです。その結果電圧上昇をクランプして吸収エネルギーからのダメージに耐えやすくなります。そのような過電圧イベントが発生した場合、過剰エネルギーがシリコンチップによって吸収されます。以下の図4に図3の拡大図が示されています。
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図4. これは図3を拡大したものです。ターンオフ時の高di/dtに注意してください。蓄積エネルギーの一部が出力に達しました。 このイベントによって、USBスイッチが破損されました。
図4は、同じ回路を使用して、大型入力バイパスコンデンサがハード短絡に付随する浮遊エネルギーからの特別な保護を提供することを示しています。通常、グランドプレーンを備えたプリント基板(PCB)の浮遊インダクタンスは、この試験や実験室で使用される配線より大幅に小さくなります。実験室で試験する場合、配線や試験装置からの浮遊を減らすことは特に難しくなります。
入力インダクタンスがピーク電流を制限する
図5は、1.3µHの大きさの入力配線インダクタンスでさえ、この部品が10µFバイパスコンデンサで生き残り得ることを示しています。
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図5. このプロットは、入力に長い配線(1.3µH)および10µF入力バイパスを使用した性能を示しています。入力電流のランプアップ/ダウンがいかに遅いかに注意してください。この部品は、ツェナー電圧があるため、電流は、入力電圧が8Vを超えると出力にあふれ出ます(IOUT波形で表示)が、スイッチは生き残っています。
図5は、インダクタンスが大きいほど、入力電流のランプアップ/ダウンが低速になることを示しています。これは、重要な注意点であり、インダクタンスが大幅に多くなっても、電流はそれほど高速に変化することができないことを示しています。インダクタに蓄積したエネルギーは電流の2乗で、インダクタンスのみに比例するため、高ピーク電流ははるかに多くのエネルギーを保持しています。1.3µHインダクタの蓄積エネルギーは、次式のように、わずか419µJです。
125µJ + 419µJ = 544µJ
および
½ × 10µF × V² = 544µJ
上の式から、Vを求めると、V = 10.43Vとなります。
この部品はこのハード短絡に耐えますが、大型バイパスコンデンサが推奨されます。また、最大電圧をデータシートに指定されている絶対最大値に制限する必要があります。
まとめ
浮遊インダクタンス内の蓄積エネルギーを考慮しないと、USBデバイスは過電圧の影響を受け、損傷する場合もあります。図5では、入力インダクタンスがピーク電流の制限係数であることが示されていますが、図2では、抵抗が制限係数であることが示されています。入力インダクタンスが低いほど性能が向上すると結論することができます。ただし、電流が制限されていない場合は、低インダクタンス状態のエネルギーも損傷レベルに達する可能性があります。したがって、これが起こらないように配慮する必要があります。図2は、電流が0.1Ωの抵抗によって制限されていることを示しています。インダクタンスが低減されると電流のランプアップが高速になりますが、電流制限に達した場合、インダクタンスが小さいほど、エネルギーの蓄積が少なくなります。
大部分のPCBアプリケーションでは、保護スイッチ、入力および出力トレースの下にグランドプレーンがある場合、インダクタンスは180nHより大幅に低くする必要があります。グランドプレーンの上の1/16インチ幅PCBトレースは、約10nH/インチとなります。各アプリケーションには、実装が必要な入力バイパスのサイズを決定づけるそれぞれの事情があります。予測されるインダクタンスの測定と分析において、高信頼性を提供するために、より大きいバイパスが必要であることが示される場合があります。逆に、入力バイパスの低減が許容されることを示す場合もあります。