ワイヤレス基地局用ハイリニアリティミキサの選定

ワイヤレス基地局用ハイリニアリティミキサの選定

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Stephanie Overhoff

要約

ワイヤレス基地局をはじめとする最近の通信システムは、レシーバ感度と強入力信号性能に対する要求が厳しくなっています。このアーティクルはミキサに着目し、データシート記載の基本パラメータとミキサ性能の鍵となるものを紹介します。また受信チャネルを最適化するためのベストなミキサの選び方も紹介します。

このアーティクルはマキシムの「エンジニアリングジャーナルvol. 68」(PDF、5.1MB)にも掲載されています。

同様のアーティクルが「Elektronik Informationen」誌(ドイツ語)の2008年7月号、および 「High Frequency Electronics」誌(英語)の2009年10月号にも掲載されています。

はじめに

GSM、UMTS、そして(新しい) LTEといったワイヤレス基地局の通信規格では、強入力信号が存在する場合のレシーバの感度と性能など、さまざまなパラメータに最低仕様が定められています。その結果、ワイヤレス基地局の無線機能ブロックはいずれも厳しい要件を満足しなければならなくなりました。受信信号パスの中で、ミキサ性能はレシーバの感度と強入力信号性能に大きな影響を与えます。このアーティクルでは、受信チャネルに最適なミキサを選定する際に重要となるミキサの性能とパラメータについて説明します。

ワイヤレス基地局レシーバ

まず、ワイヤレス基地局で使用されている代表的なレシーバのブロックダイアグラムを見てみましょう(図1)。スーパーヘテロダインと呼ばれるレシーバで、受信信号は2回のダウンコンバージョンによって周波数を逓減します。図1では、アンテナで受信した信号を、まず、RFフィルタ1でフィルタリングします。ここでは、普通、不要な信号を取り除きます。このフィルタ出力をLNA (低ノイズアンプ)で増幅します。ここでは通常、雑音指数が非常に低いアンプを使用します。

図1. 代表的なワイヤレス基地局レシーバのブロックダイアグラム
図1. 代表的なワイヤレス基地局レシーバのブロックダイアグラム

増幅した信号をRFフィルタ2でもう一度フィルタリングし、周波数帯域を狭めるとともに、ミキサ性能を制限するおそれのある不要な信号を取りのぞきます。フィルタリングと帯域制限をかけた信号を、次はミキサに入力し、LO (ローカルオシレータ)信号と混合してIF周波数へダウンコンバージョンします。レシーバのアーキテクチャによっては、このIF信号をもう一度ダウンコンバージョンし、さらに低周波数の第2 IF信号とする場合もあります。最後にIF信号を復調し、ベースバンドでの処理を行います。

では、このレシーバチェーンで使用するミキサについて検討してみましょう。ミキサのパラメータはレシーバの感度と強入力信号性能に大きな影響を与えるため、十分に検討する必要があります。

ミキサパラメータ

ミキサの入力から出力の間にSN比(信号対雑音比)がどれだけ低下するのかを示す指標が雑音指数です。この比は、式1のように、デシベル(dB)という対数形式で表現されるのが普通です。

式1 (式1)
もう1つ、重要なパラメータがコンバージョン利得(コンバージョン損失とも呼ばれる)です。コンバージョン利得は、ミキサの構成がアクティブであるかパッシブであるかを示す重要な指標です。パッシブミキサでは挿入損失(コンバージョン損失)が発生します。信号を増幅する素子が搭載されていないからです。これに対してアクティブミキサは能動素子を持つため、コンバージョン利得が得られます。

アクティブミキサの実現方法は2種類存在します。一つは平衡(ギルバートセル)設計の集積ミキサ、もう1つはパッシブミキサにIFアンプ段を組み合わせて損失ではなく利得を持たせる方法です。集積ミキサはミキサ自体がゲインを持つため、IFアンプ段を外付けして挿入損失を補う必要がありません。

式2 (式2)
コンバージョン利得(または損失)は、式2に示すように、dB単位で表される対数形式です。周波数依存性があるため、ミキサの動作周波数の全域をカバーする形で考える必要があります。最善のレシーバ性能を得るためには、指定された周波数帯域においてコンバージョン利得/損失の変動をできる限り少なくするべきです。

ワイヤレス基地局の場合、温度環境が変動しがちです。つまり、コンバージョン利得/損失も、指定された動作温度範囲をカバーする形で考える必要があります。こちらも、変動が少ない方が良い結果が得られます。通常の条件では、温度による変動が小さいとヘッドルームを小さくすることができてシステム設計がやりやすくなるため、温度範囲は重要なポイントとなります。

ミキサの強入力信号特性を記述するミキサパラメータは「1dB圧縮ポイント」あるいは圧縮ポイント(IP1dB)と呼ばれるもの、および2次と3次のインターセプトポイント(IP2およびIP3)です。IP1dB圧縮ポイントとは、式3の線形な式より、ミキサ利得が1dB低下する入力電力レベルを予想するパラメータです。

POUT = G × PIN (式3)
ミキサは、同じ周波数に近い2つの強入力信号が入力に加えられたときにも、弱い信号に変換されます。この特性を記述するのが3次のインターセプトポイント(IP3)で、これと雑音指数からミキサのダイナミックレンジが決定されます。IP3が大きいということは、高い直線性を持つミキサであることを示します。ミキサのデータシートには、入力または出力についてインターセプトポイントが記載されています。式4を使えば、IIP3 (入力インターセプトポイント)からOIP3 (出力インターセプトポイント)、あるいはその逆を算出することができます。
OIP3 = IIP3 + G (式4)
ここで、OIP3はミキサ出力のインターセプトポイント、IIP3は入力のインターセプトポイント、Gはコンバージョン損失あるいはコンバージョン利得です。この式から、コンバージョン損失があるパッシブミキサは、OIP3が低下することがわかります。この挿入損失分はRFあるいはIF利得段において補償しないと、レシーバ全体で所定の雑音指数を実現することができません(雑音指数とは、レシーバ設計で守らなければならないパラメータの1つです)。

パッシブミキサ対アクティブミキサ

パッシブミキサには、周波数アップコンバータとしても使うことができるというメリットがあります。つまり、入力信号の周波数を高いほうへ変換することができます。アップコンバータは、トランスミッタチェーンでIF信号を最終的な送信周波数へと変換する際によく使われるコンポーネントです。つまりパッシブミキサであればトランスミッタチェーンでもレシーバチェーンでも使えるため、発注する部品も在庫も1種類で済みます。

IF信号を経由せず、入力信号を直接ベースバンドにダウンコンバートする「ダイレクトダウンコンバージョンレシーバ」というものもあります。このようなレシーバについては、ミキサのデータシートに記載されているポート間アイソレーションという仕様が重要になります。ポート間アイソレーションはLO信号とミキサ入力信号の分離度を示す数値です。ポート間アイソレーションが小さいとLO信号同士のミキシングが発生し、ミキサ出力にDCオフセットが発生してレシーバ性能が低下します。

ミキサでは周波数変換が行われるため、ミキサスプリアスと呼ばれる新しい周波数が発生します。このスプリアスは十分な検討を加える必要があります。特に、(2RF - 2LO)と(3RF - 3LO)におけるスプリアス、およびレシーバのIF周波数と一致する高次のスプリアスに注意が必要です。この挙動は、2x2パラメータ、3x3パラメータという形でミキサのデータシートに記載されています。

このようなパラメータのほか、集積度も考慮すべき点の1つとなります。用途によっては、ミキサコアにLOアンプ、バラン、LOスイッチまで集積したほうがよい場合もあります。

設計柔軟性を実現する共通PCBレシーバレイアウト

1つのレイアウトで複数の周波数帯域をカバーすることができれば、開発の労力を削減することができます。900MHz GSMシステム用に設計したレシーバが、部品の一部を交換するだけで1800MHz GSMシステムに使うことができるようになります。

共通PCBレイアウトで複数の周波数帯域をカバーし、ワイヤレスインフラストラクチャを構築したい場合、ピンコンパチブルなミキサのファミリが便利です。GSM、UMTS、WiMAX™、およびLTEを処理可能なマルチスタンダードワイヤレス基地局が1つのレイアウトで構築することができればベストでしょう。

レシーバチェーンにMAX2029などのパッシブミキサを採用すれば、レシーバ信号のダウンコンバートを行うミキサと同じ回路のミキサをトランスミッタ側ではIF信号から最終送信周波数へのアップコンバートに使うことができます。LOバッファアンプ、バラン、およびLOスイッチなどの外付部品まで集積した回路の例を図2に示します。

図2. パッシブミキサのブロックダイアグラム
図2. パッシブミキサのブロックダイアグラム

MAX2029をダウンコンバータとして使うと、IIP3は36.5dBm、IP1dBは27dBm、コンバージョン損失は6.5dB、雑音指数は6.7dBとなります。MAX2029はSiGeプロセス技術によって高い性能を実現しているため、高い直線性と低い雑音指数が重要な基地局用途に適しています。

MAX2029は2RF - 2LO除去(-10dBm RF入力信号で72dBc)を行うことができるため隣接高調波のフィルタリングが緩和され、シンプルで費用対効果に優れたフィルタとなります。周波数帯域も、下限が815MHzから1000MHzまで使用可能です。MAX2029とピンコンパチブルなミキサファミリ製品にはMAX2039MAX2041などがあり、1つのレシーバ用PCBレイアウトで複数の周波数帯域と複数の通信規格を処理することができます。

アクティブミキサは、平衡(ギルバートセル)設計とするか、パッシブミキサにIFアンプ段を組み合わせる形とします。後者の例がMAX9986です。MAX9986は雑音指数が低いため、ミキサ段上流のRF利得を低く抑えることができ、レシーバ全体の直線性が改善されます。カスケード雑音指数を引き下げるためにミキサ上流の利得を大きくする場合、ミキサの直線性が高くなければレシーバ全体の直線性が落ちてしまいます。


適切なミキサを選定する

インターネットでミキサを探すとき大変なのは、さまざまなミキサの仕様をチェックして歩かなければならない点です。その上で最適な製品を選ぶ必要があります。幸いなことに、このような作業をしてくれるウェブベースのパラメトリック検索ツールがあります。パラメトリック検索をすれば、用途に適したICをすばやく見つけることができます。フィルタリング情報の検索条件と対応部品のリストが1つのページにまとめられており、条件を変更すると部品リストが更新されます。検索機能としては、シングルクリックのフィルタリング、スライディングフィルタコントロール、マルチレベルソート、その他豊富なツールチップが用意されています。これほど簡単に、用途に適した部品を選べる方法はほかにありません。

図3は、基地局用に設計された、10dBの利得を持つアクティブミキサの検索結果です。推奨された部品はMAX9986でした。推奨部品をクリックすると、当該部品のクイックビューページが開き、そこからデータシート、アプリケーションノートなどの情報を確認することができます。

図3. このウェブツールを使うと、フィルタ設定に適した製品の数がすぐにわかります—クリックする必要もありません。
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図3. このウェブツールを使うと、フィルタ設定に適した製品の数がすぐにわかります—クリックする必要もありません。

Maximが提供するこのウェブツールのパラメトリック検索では、ユーザーがクリックする前にフィルタ設定に合う製品の数がわかります。「スマート」な検索アルゴリズムにより、有効な条件のみが表示されます。該当部品がなくなる選択肢は選ぶことができません。このパラメトリック検索は最新のWeb 2.0技術で開発されており、ユーザー側のシステムにプラグインをインストールする必要がありません。