1次電池を使用するリモート患者モニタの電源設計時に考慮すべき事項

1次電池を使用するリモート患者モニタの電源設計時に考慮すべき事項

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Fahad Masood

Fahad Masood

概要

リモート患者モニタ(RPM)は絶え間なく発展を続けており、より多くの機能を含むようになったことで、医師が患者の容体をより正確に把握することが可能になりました。これらの機能は、モニタに電力を供給するシングルセル電池に、より多くの要求を課します。本稿では、これらの機能の利点を生かすために電池寿命を延ばす、ECGリモート患者モニタリング・パッチ用の電源ソリューションを示します。加えて、RPM用電池の寿命を正確に予測するための方策と、RPMの電源をオンにする前も含めたRPM用電池の寿命を延ばすための方法も示します。

はじめに

IoT(モノのインターネット)革命は、ヘルスケア・プロバイダがその患者にリアルタイム・ケアを提供する技術の利用方法についてパラダイム・シフトを可能にしました。現在、リモート患者モニタリングは、新しい医療機器が医師と患者の関わり方を変えつつある領域の1つとなっています。小型化されたICとワイヤレス通信によって、数十年来使われてきた機器が機能の強化されたフォーム・ファクタに更新され、患者のアドヒアランスの向上と治療結果の改善が実現されました。かさばって扱いにくい従来のホルター心電計に替わって、現在のリモート患者モニタリング・パッチには、心拍数、体温、加速度などのデータを収集する様々なセンサーが含まれています。これらのパッチは患者のデータをクラウドに送って、患者と医師がそのデータにリアルタイムでアクセスできるようにします。

これらのデバイスは医師がより良いケアを提供できるようにしますが、電源設計への課題も提起し、設計者にはシステム性能と電池寿命条件のバランスを取ることが求められます。これらの課題は、第2世代のパッチが精度と効率を向上させるためにマルチモーダル・センシングを採用するとより厳しいものとなり、更にそれによって、電源に関する要求事項も厳しさを増しています。

本稿では、図1に示すECG RPMパッチを例に説明します。このパッチは、ECGと加速度センサーを連続的にモニタしながら、15分ごとに体温をチェックします。データはBluetooth® LowEnergy(BLE)を介して2時間に1回送信され、1日に合計12回のBLEトランザクションが実行されます。このパッチは、負荷プロファイルがそれぞれ異なる3種類のモード(標準モニタリング・モード、温度モニタリング・モード、および送信モード)を採用しています。標準モニタリング・モードではECGと加速度センサーだけがモニタされ、温度モニタリング・モードでは、これに加えて温度センサーもモニタされます。送信モードでは、BLE無線がデータの通信を行うと同時に、ECGと加速度センサーのデータがモニタされます。

図1 ECGパッチ用電源接続図。235mAhのCR2032リチウム・コイン型電池が、電圧レギュレータ、マイクロコントローラ、ECGフロント・エンド、温度センサー、加速度センサーに電力を供給します。

図1 ECGパッチ用電源接続図。235mAhのCR2032リチウム・コイン型電池が、電圧レギュレータ、マイクロコントローラ、ECGフロント・エンド、温度センサー、加速度センサーに電力を供給します。

電源の課題

ECGパッチなどのRPMの設計は、複数の課題を電源設計者に提起します。通常、設計にはスペースの制約があり、複数のセンサーを備えたパッチには複数の電源レールが必要です。通常、RPMパッチは使い捨てが前提なので、コイン型電池が設計者の利用できる最もコスト効果の良い電源となります。コイン型電池だけを使用してパッチに電力を供給する場合、設計者は電源サブシステムの効率も把握しておく必要があります。

電源設計者の見過ごしがちな課題が、製品保管寿命の延長です。シャットダウン電流と電池の自己放電は、あらゆるシステムの寿命を短縮します。したがって、標準的な保管期間の経過後にRPMパッチが動作時間条件を満たすかどうかを判定し、もしその条件を満たすことができない場合は、パッチがユーザの手に届くまで電池寿命を維持するためにどのような手段を講じることができるのかを決定することは、設計者にとって重要です。

電池持続時間の決定

電源ソリューションが電池寿命条件を満たすかどうかを正確に判定するには、負荷プロファイルを決定する必要があります。負荷プロファイルは、システムの負荷デューティ・サイクルを簡潔に表現したものです。ここで使用するリモート患者モニタリング・パッチでは、先に述べた3種類の動作モード、つまり、標準モニタリング・モード、温度モニタリング・モード、および送信モードを考えます。

標準モニタリング・モードでは、図1に示すパッチの電流消費量(各降圧コンバータの静止電流330nAとMCUに流れる電流を含む)は1.88mAです。温度モニタリング・モードでは、15分ごとに1.95mAの電流が200ms間流れます。送信モードではパッチがBLEを介してデータを送信し、2時間ごとに7.90mAの電流が30秒間流れます。これらの値は、各デバイスのデータシートのアクティブ電流と静止電流の仕様部分に記載されています。

負荷プロファイルの分析を開始するには、まず、1日のうちで各動作モードが占める時間を使い、デューティ・サイクルを計算して決定します。式1を使用します。

数式 01

これにより、表1に示すパッチのデューティ・サイクルが求まります。

表1 各パッチ動作モードのデューティ・サイクル
動作モード デューティ・サイクル
温度測定パーセンテージ(%/日) 0.02%
BLE通信パーセンテージ(%/日) 0.42%
ECGモニタリング時間(%/日) 99.56%

図2の負荷プロファイルを使用して、パッチの消費電流を計算できます。各動作モードでのアクティブ電流消費量を取ることで、1日あたりの平均消費電流を式2から概算することができます。

図2 負荷プロファイル図

図2 負荷プロファイル図

数式 02

以下に計算例を示します。

1日あたりの標準モニタリング・モード電流 = 標準モニタリング・モード電流 × 標準モニタリング・モードのデューティ・サイクル× 24時間

標準モニタリング・モード電流 = 1.88mA

標準モニタリング・モードのデューティ・サイクル = 0.9956

1日あたりの標準モニタリング・モード電流 = 1.88mA ×0.9956 × 24時間 = 44.92mAh/日

各動作モードの1日あたりの消費電流が分かれば、式3から電池の寿命を決定できます。

数式 03

以下に計算例を示します。

電池容量 = 235mAh

1日あたりの標準モニタリング・モード電流 = 44.92mAh/日

1日あたりの温度モニタリング・モード電流 = 0.01mAh/日

1日あたりの送信モード電流 = 0.79mAh/日

電池寿命(日数)= 235mAh/(44.92mAh/日 + 0.01mAh/日+ 0.79mA/日) = 5.14日間

これらの計算の結果は、このデバイスの電池寿命が5.1日間であること、したがってデバイスが5日間の動作時間条件を満たすことを示しています。しかし、この結果は正確なものではありません。システムの保管期間が考慮されていないからです。医療機器産業においては、保管期間を14ヵ月として設計するのが最善の方法です(12ヵ月の保管期間と2ヵ月の移動期間)。

保管期間の考慮

CR2032電池の標準的な自己放電率値である1年あたり1%~2%という値を使ってシステム内のデバイスのシャットダウン電流を合計すると、14ヵ月後には、5日間の動作時間という条件を満たせるだけの十分な容量が電池に残っておらず、電池シールが必要であることが分かります。

表2 14ヵ月後の電池容量
   
2%の電池容量放電(mAh) 230.30
スタンバイ消費電流(mA) 0.0082
保管期間 – 時間数 28085.37
保管期間 – 日数 1170.22
保管期間 – 年数 3.21
14ヵ月後の容量(mAh) 146.66
14ヵ月後の残電池容量 63.68

14ヵ月の保管期間を経た後の電池容量は著しく低下します。保管されて未使用状態にあっても、CR2032のエネルギーの40%近くがシャットダウン電流と電池の自己放電によって消費されてしまいます。この電池容量を式3に代入すると、より正確な動作時間を求めることができます。

電池寿命(日数)= 146.66mAh/(標準モニタリング・モード +温度モニタリング・モード + 送信モード)

電池寿命(日数)= 146.66mAh/(44.92mAh/日 + 0.01mAh/日 + 0.79mA/日) = 3.21日間

1年以上にわたって保管されている間、電池の容量は電池自体の自己放電電流とシステムのシャットダウン電流の影響を受けます。電池の自己放電は、電池の化学組成と環境の関数です。CR2032はリチウム・マンガン電池で、その自己放電率は1年に1%から2%です。使用せずに保管している間も、1年が経過した時点で、このボタン電池はその容量の2%を失っている可能性があります。これに対しBR2032はフッ化炭素リチウム電池で、自己放電率は1年に0.3%です。このアプリケーションに最適な電池は放電率が最も低いものだということは容易に想像できますが、必ずしもそうではありません。BR2032電池は放電率が低いのですが、容量は、200mAhの容量を持つCR2032より小さくなっています。前出の式を使って計算することにより、このように低容量の電池を使うことが妥当かどうかを判断することができます。

このECGパッチでは、ICのシャットダウン電流が、システム電源オフのときの電池寿命に最も大きく関係します。シャットダウン電流は、ICがディスエーブルされてアクティブな負荷が存在しないときに流れる電流です。通常、これらの電流はIC自体とIC内にあるESD保護デバイスのもれ電流によるもので、これらのデバイスには負荷が無い状態でも小量の電流が流れます。通常、これらの電流はわずかですが(1µA未満)、電池の寿命に大きく影響します。このRPMパッチの場合はシャットダウン電流が電池の容量を1年で40%も減少させてしまう可能性がありますが、電池シールを使用すれば、シャットダウン時に電池からシステムに流れる電流を制限することができます。

電池シールの一般的な2つのオプションが、マイラ・プルタブ形の機械式電池シールと、負荷スイッチ形の電気的電池シールです。マイラ/プラスチック製のプルタブは機械式の電池シールで、電池とシステムの間にプラスチック製のタブを置きます。デバイスを使用する準備ができたら、プラスチック・タブを引き抜けば、電池はシステムへの電力供給を開始します。これは、シンプルかつ安価で実績のある機械式電池シールであり、長年にわたって使われてきました。しかし、医療用機器では、このソリューションを常に使用できるわけではありません。防水性が求められるECGパッチでは、マイラが出ている溝穴のために、パッチが水で損傷しやすくなってしまうおそれがあります。更に、小さいプラスチック・タブは、あまり手先が器用ではないエンド・ユーザにとっては扱いにくい可能性があります。

Vishay SiP32341のようなシンプルな負荷スイッチは、電気的電池シールの優れた選択肢となります。このデバイスはFETであり、開いているときは電池を残りのシステム部分からブロックするので、SiP32341のシャットダウン電流が電池から流れる唯一の電流となります。負荷スイッチにはロジック制御ラインがあり、デバイスが使用できる状態になったらプッシュボタンを介してオンにすることができます。SiP32341のシャットダウン電流は14pA(代表値)であり、これは、電池シールを取り付けなかった場合にシステム全体に流れる電流と比較して、劇的な改善となります。SiP32341を電池シールとして使用した場合、CR2032は、14ヵ月が経過した後もその容量の99.97%を維持します。電池シールを使用せずECGパッチのシャットダウン電流から電池を保護しなかった場合、CR2032が維持できる容量は最初の充電状態の62.39%に過ぎません。この37%の容量差は、14ヵ月の保管期間後もECGパッチが5日間動作できるという要求を満たすことのできる量に相当します。

表3 電池シール使用時の14ヵ月後の電池容量
   
2%の電池容量放電(mAh) 230.30
スタンバイ消費電流(mA) 0.000005
保管期間 – 時間数 46060000.00
保管期間 – 日数 1919166.67
保管期間 – 年数 5257.99
14ヵ月後の容量(mAh) 230.25
14ヵ月後の残電池容量 99.98

電池シールは、電池からシステム内のすべてのデバイスにシャットダウン電流が流れるのを防ぐことによって電池容量を維持し、14ヵ月間RPMパッチを使用せずに保管した後でも、99.9%以上の電池容量が残ります。

この電池容量を式3に代入すると、より正確な動作時間を求めることができます。

電池寿命(日数)= 230.25mAh/(標準モニタリング・モード +温度モニタリング・モード + 送信モード)

電池寿命(日数)= 230.25mAh/(44.92mAh/日 + 0.01mAh/日 + 0.79mA/日) = 5.04日間

まとめ

ある医療機器の条件をすべて満たす電源を設計する際には、システムが動作している場合と、シャットダウンされているか低消費電力モードにある場合の電池を分析することが重要です。本稿ではBLE通信を使って心拍数、体温、加速度のデータを収集するECGパッチについてのみ述べていますが、ここに示した分析と原理は、1次電池を電源に使用するあらゆる医療機器システムに適用できます。