SAWフィルタへのMAX2395の出力マッチングによって、カスケード利得の平坦性を最適化

SAWフィルタへのMAX2395の出力マッチングによって、カスケード利得の平坦性を最適化

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要約

TX SAWフィルタの出力インピーダンスは、SAWフィルタ入力から見えるソースインピーダンスに強く依存します。SAWフィルタと後続のPAによって影響を受けるMAX2395の出力ポートインピーダンスの変動は、帯域内で3dBの利得変動が生ずる原因となる大きさです。MAX2395とTX SAW間のマッチング回路を修正することによって、帯域に対する利得平坦性が向上しました(利得リップルが合計で約1dB)。

はじめに

MAX2395は、WCDMA/UMTSアプリケーション用のシングルバンドでモノリシックの準ダイレクトコンバージョン変調器ICです。MAX2395は、約50Ωの出力インピーダンスとなるように設計されているため、RF出力と後続のSAWフィルタ入力間に必要な外付けのマッチング部品は、プルアップインダクタとDCブロック用コンデンサのみです。SAWフィルタのソースインピーダンスに対する感度によりますが、この単純なマッチングで十分にリターンロス9dB以下となりえます。

ただしSAWフィルタは、存在するソースインピーダンスに応じて、周波数にわたって出力インピーダンスのリップルを生成する場合があります。このインピーダンスのリップルは、所望の帯域内でのカスケード利得の平坦性を損なう原因になります。振幅リップルの重要性は、SAWフィルタの後続のパワーアンプ(PA)がソースインピーダンス(SAW出力インピーダンス)の影響をどの程度受けやすいかによって決められます。通過帯域があまりにも平坦でなければ、MAX2395の出力マッチングをさらにチューニングして所望のカスケード利得の平坦性を確保する必要があります。SAWフィルタのS22のリップルが大きい場合に、マキシムのWCDMA参照設計は、MAX2395の出力マッチングを調整して、カスケード接続されたトランスミッタの最適な性能を得るための代表例を示しています。

周波数帯域に対する利得の平坦性

図1に示すように、MAX2395は広範なオンチップ出力マッチングを備え、9dBよりも良好なリターンロスを実現しています。MAX2395の室温での利得平坦性は良好で、WCDMAバンド全体にわたって0.5dB未満となります(50Ωで終端したとき)。ただし、市場で普及しているSAWフィルタ及びパワーアンプをマキシムのWCDMA参照設計に組み込んだ場合、動作周波数帯域(1920MHz~1980MHz)にわたって3dBを超える利得変動がトランスミッタ全体として生じます(最小利得は帯域の中央に生じます)。利得リップルの原因を調査するためにいくつかのテストを実行しました。図2のブロック図は、評価測定を行ったTXシステムの場所を示しています。

図1. MAX2395の出力リターンロス
図1. MAX2395の出力リターンロス

図2. WCDMA TXパスの3つのテストポイント
図2. WCDMA TXパスの3つのテストポイント

テスト 1

ポイントAでMAX2395のRF出力を信号源として使用し、ポイントCで出力電力を測定すると(実際のアプリケーションとほぼ同等)、周波数帯域に対する利得変動は3dBを超え、最小利得は中央の帯域(1950MHz)に生じます。

テスト 2

ポイントAで信号発生器を信号入力として使用すると、ポイントCで測定した利得の平坦性は極めて良好で0.5dB未満です。つまり、SAWフィルタとPAは、周波数帯域にわたって平坦な利得を示すということです。

テスト 3

MAX2395を入力信号源として使用し、SAWフィルタの出力であるポイントBで測定すると、この場合も利得平坦性は0.5dB未満です。

ソリューション

上記のテストから、結論として、TXパスのすべてのセクションが、帯域に対する利得平坦性に関して良好な性能を示すことがわかります。ただし、セクション間のインピーダンスの相互作用が大きな利得変動の原因となります。SAWフィルタの入力をMAX2395の出力に接続したときのSAWフィルタのS22を測定しました。S22のグラフを図3に示します。SAWフィルタのS22には中央の帯域に隆起があります。この隆起が、PAの利得が低下する原因になります。

図3. 元のマッチング回路によるSAWフィルタの出力リターンロス
図3. 元のマッチング回路によるSAWフィルタの出力リターンロス

カスケード接続されたTXの利得平坦性を向上する優れた方法は、SAWフィルタの出力を監視しながらMAX2395の出力マッチングを調整し、より良好で平坦なS22を得るというものです。試行を数回繰り返した結果、今回のケースで所望のマッチングを実現することができました。これを図4に示します。図5は、MAX2395の推奨出力マッチングによって得られたSAWフィルタS22のグラフです。全体的なリターンロスは、元のリターンロスよりもはるかに良好となり、中央帯域で-12dBです。PAの出力端で測定した出力電力の変動は、カスケード接続されたTXの利得変動と同等であり、図6に示されています。この変動値は、WCMA周波数帯域にわたって約1.0dBです。これによって、TX全体の電力制御がある程度簡単になります。

図4. SAWフィルタ入力へのMAX2395出力のマッチング
図4. SAWフィルタ入力へのMAX2395出力のマッチング

図5. マッチング回路を修正した、SAWフィルタの出力リターンロス
図5. マッチング回路を修正した、SAWフィルタの出力リターンロス

図6.
図6.