TD-SCDMA UE位相ノイズ要件を満たすMAX2392

2006年02月17日
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要約

TD-SCDMAの3GPP UE仕様では、UEとBS間における無変調周波数誤差が±0.1ppmを超えてはならないと定められています。ここでは、この仕様を現実の世界に即して解釈しています。UEに影響する要素はシステムのAWGNとTx/Rx位相ノイズだけであることを考え、これら2つの要素の重ね合わせをベースにして統計解析を行い、UEトランシーバの位相ノイズに制限を設定しています。マキシムのTD-SCDMA v2.0参照設計は、マージンを含んだ上で、この位相ノイズの仕様を満たしていることが実証されています。

適用範囲

TD-SCDMA規格によると、「一定のタイムスロットの期間にわたって観測したとき、UEで変調された搬送周波数は、BSから受信した搬送周波数と比較して±0.1ppm以内の精度でなければならない」という規定があります。 この記事では、この規定に影響する各種要素について詳細に説明します。シミュレーションを通じて、付加された白色ノイズがどれだけこの規定に影響を与えるかを理解し、これによってハンドセット/ユーザ機器(UE)のRxとTxのPLL位相ノイズに対する最小要件を導き出します。

TD-SCDMA UEの規格

UEの周波数安定性の仕様については、3GPP TS 34.122 V4.7.0で下記説明が提供されています:

定義と適用

周波数安定性は、UEからのRF伝送とBSからのRF伝送との間の変調搬送周波数の差です。UEはRF周波数生成とチップクロック生成に対して同じ周波数源を使用するものとします。

最小要件

UEの周波数安定性は、一定のタイムスロットの期間にわたって観測したとき、BSから受信する信号と比較して±0.1ppm以内であるものとします。

テストの方法

1.28Mcps TDDオプション

  1. 図1に示すように、SSをUEアンテナコネクタに接続します。
  2. 表1に指定したパラメータを使用して、「一般」の呼設定手順にしたがって、呼を設定します。
  3. UEをループバックテストモードにし、ループバックテストを開始します。
表1. 周波数安定性のテストパラメータ(1.28Mcps TDDオプション)
Parameter Value/description
SS level (Ior) -108dBm/1.28MHz (reference sensitivity)
UL reference measurement channel 12.2kbps according to annex C.2.1.2
Data content real life (sufficient irregular)

手順

  1. 付録Bにしたがい、TSの周波数誤差(デルタf)を測定します。
  2. 手順1を200バースト(タイムスロット)の間、繰り返します。

テスト要件

測定対象のすべてのバースト(タイムスロット)において、「手順」の項で得られた周波数誤差が±(0.1ppm + 10Hz)を超えないものとします。

図1. テストの構成
図1. テストの構成

規格の解釈の方法

上記の説明から、2つのテスト条件、1) 信号電力は-108dBm/1.28MHz (基準感度の電力レベル)であること、2) テスト期間は1タイムスロット(TD-SCDMAでは675µS)であること、に重点が置かれていることがわかります。これら2つの条件が、UEのベースバンドによる受信信号の搬送周波数の推定に作用します。UE無線機器のAWGN (相加性白色ガウスノイズ)とPLL位相ノイズの2要素だけがこの規定に関係します。以下の図2を参照してください。

図2. 解析モデル
図2. 解析モデル

すでに知られているように、AWGNとLO位相ノイズはともに確率過程(random process)であり、相関性はありません。このため、重ね合わせ(superposition)を用いることで簡単に解析することができます。つまり、これらのノイズによる影響を個別に算出して、最後に加算します。

AWGNによる影響

AWGNはベースバンドの搬送周波数推定能力を低下させ、その結果、伝送される信号の搬送周波数に誤差が生じます。ここでは、推定誤差が伝送信号の搬送周波数の誤差に等しいと仮定します。AWGNは確率過程であることから、推定誤差もガウス分布にしたがいます。

ここではTR25.945の推奨にしたがい、受信経路のノイズ指数を9dBとし、AWGNの電力密度はkB × T × NFとします(ノイズ指数(NF)はdBではなく線形率)。以下に示すシミュレーション結果が得られます。

図3. 周波数推定誤差の確率分布
図3. 周波数推定誤差の確率分布

上図の赤色の部分がシミュレーション結果であり、青色の曲線はµ = 0、σ = 46.7Hzの正規分布曲線です。

シミュレーションによって、さらに、以下の式が得られます。

式1.

この式を使用すると、σ = 45.6Hzが得られます。この値はシミュレーション結果に非常に近似しています。ここで、Psは-108dBmで、Ts = 675µSです。

位相ノイズの影響

ここでは、AWGNが0であると仮定して解析を行います。位相ノイズの時間差は瞬時周波数の誤差であり、標準周波数誤差は、指定期間でのこの瞬時周波数誤差の平均です。UEのベースバンドが受信した信号の搬送周波数を推定するとき、この平均周波数誤差が推定する周波数誤差に等しくなり、さらに送信経路LOによって周波数誤差が付加されます。総周波数誤差は、RxとTxの平均周波数誤差の合計となります。

位相ノイズがµ = 0の滑らかなガウシアンで、電力スペクトル密度が、GΘ(ƒ)と仮定すると、瞬時周波数もまたµ = 0の滑らかなガウシアンで、電力スペクトル密度はƒ²GΘ(ƒ)となり、1タイムスロットでの平均周波数誤差の標準誤差は、式2で与えられます。また確率分布は標準正規分布となります。

式2.

図4. MAX2392の位相ノイズ
図4. MAX2392の位相ノイズ

上記の位相ノイズ曲線は、Maxim TD-SCDMA v2.0受信経路のテスト結果です。この参照設計は、PLLとVCOが集積化されたMAX2392ゼロIF受信ICを使用しています。この結果を使用すると、σƒTsRx = 16.5Hzが得られます。ここで、Ts = 675µS、積分された周波数帯域は100Hz~1MHzになります。

Maxim TD-SCDMA v2.0の伝送経路に同じ方法を使用すると、 σƒTsTx = 9.6Hzが得られるため、TxとRxを合計すると、以下が求まります。

式3.

LO位相ノイズに対するUEのTx/Rx要件

上記の解析から、周波数誤差は確率過程である、つまり確率分布は標準正規分布になることがわかります。TD-SCDMA帯域の中心周波数は約2GHzであるため、0.1ppmの周波数誤差は約200Hzになります。設計マージンを加えて、標準周波数誤差を200Hz/3未満にすることを目標とします。

付加白色ノイズによる標準誤差をσnと仮定すると、TxとRxのLo位相ノイズによる誤差はσ ƒTsとなりますが、これには、以下に示す制限があります。

式4.

σn = 46.7Hzとすると、以下に示すσƒTsの制限が得られます。

式5.

式3と式5を比較すると、Maxim TD-SCDMA v2.0参照設計の位相ノイズの仕様が、マージンを考慮に入れても、ここで解釈したノイズ仕様を満たすことがわかります。

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