スイッチング電源の設計上のトレードオフを評価するためには、実際のアプリケーションにおける効率を予測することが不可欠です。LTspiceでは、.stepコマンドと.measコマンドを使用することにより、様々な負荷電流に対する効率を計算してプロットすることができます。
LTspiceを使って効率を評価するには、入力電圧と出力電圧の配線(ネット)にそれぞれINとOUTというラベルを付加する必要があります。具体的には、「F4」キーを押して、それぞれの配線名(ネット名)を入力します。それにより、それらが入力電圧と出力電圧であることを明確にします。また、以下の図に示すように、抵抗性の負荷を独立した電流源に置き換え、グローバル変数{Iload}を使用して電流源の値を定義します。
そのための操作としては、まず「F2」キーを押し、検索ボックスに「load2」と入力した上で、コンポーネントを選択/配置します。続いて、シンボルを右クリックしてコンポーネントの値を編集し、{Iload}という変数名を入力します。入力電圧源V1と負荷電流源I1の名前に注意してください。
.stepコマンドは非常に便利なものです。これを使用すれば、1回のシミュレーションにより、変数に一連の値を順に代入しながら順次実行することができます。変数としては、温度、モデルのパラメータ、グローバル・パラメータなどを使用できます。この例では、独立電流源の値が変数です。ステップ幅は、線形、対数、あるいは具体的な値のリストとして指定することが可能です。
.stepコマンドをSPICEディレクティブとして回路図に挿入してください。そして、独立電流源にステップ幅を定義し、軽負荷の状態から最大負荷の状態まで、条件を変更しながらシミュレーションをステップ実行します(SPICEディレクティブの追加と配置には、ホットキー「s」を使用できます)。ここでは、{Iload}として定義したグローバル変数を使用し、独立電流源I1の値を0.2Aから1.2Aまで0.1Aのステップ幅で変化させます。
.step param Iload .2 1.2 .1
.stepコマンドの中でparamディレクティブを使用することにより、このようにユーザが変数を定義することができます。.stepコマンドとparamディレクティブの詳細については、ヘルプ・ファイル(「F1」キー)を参照してください。効率を計算する際には、回路が定常状態にあるときを対象とすることが重要です。この条件を確実に満たすためには、回路のシミュレーションを実行し、.stepコマンドのすべての条件下でいつ定常状態に達するのかを確認します。必要であれば、シミュレーションの実行時間を延ばしてください。その結果に基づき、定常状態の期間中の短い期間を含むように、「Time to Start Saving Data」と「Stop Time」を設定します。以下の.tranコマンドを実行すると、2ミリ秒の時点でデータの保存を開始し、2.1ミリ秒の時点で停止することになります。
.tran 0 2.1m 2m startup
.measコマンドは、横軸上の範囲(あるいは横軸上の1点)の測定に役立つ便利なコマンドです。以下の式をSPICEディレクティブとして追加することで、平均入力電力Pin、平均出力電力Pout、効率Effを計算することができます。
.meas Pin AVG -V(IN)*I(V1)
.meas Pout AVG V(OUT)*I(I1)
.meas Eff param Pout/Pin
入力電圧源V1の電流は、慣例的にデバイスに流れ込む方向をプラスとします。そのため、Pinの計算式にはマイナス符号を使用している点に注意してください。最後の式では、わかりやすいようにparamディレクティブを使用して効率を計算しています。以上のような記述を行った上でシミュレーションを実行します。.measコマンドの詳細については、ヘルプ・ファイル(「F1」キー)を参照してください。シミュレーションが終了したら、いずれかのウィンドウを右クリックし、「View」→「Spice Error Log」を選択します(あるいは、「Ctrl」+「L」キーを押します)。Spice Error Logには、.measコマンドで計算した効率のデータが含まれています。
LTspiceは非常に便利な機能を提供しています。その1つを使えば、.measコマンドのステップ・データを横軸(Iload)上にプロットすることができます。そのためには、まずSpice Error Logを右クリックし、「Plot .step'ed .meas data」を選択します。次に、画面上の何も表示されていない部分を右クリックして「Add Trace」を選択します(あるいは、「Ctrl」+「A」キーを押す)。その上で「Eff」を選択します。すると、ステップ実行した負荷電流の各値に対する効率の計算値が表示されます。
.measコマンドと.stepコマンドは、様々な形で組み合わせることができます。効率の計算はその一例にすぎません。両コマンドを使いこなせば、アナログ回路の設計時に必要な様々な特性を迅速に評価することができます。