低歪みサイン波のレベル・シフト

低歪みサイン波のレベル・シフト

著者の連絡先情報

Generic_Author_image

Guy Hoover

SAR ADCの性能を評価する際、ADCの入力範囲の条件に合うように信号源の出力をレベル・シフトする必要がある場合がよくあります。通常、レベル・シフトは、信号源のDCオフセットがジェネレータのオプションにあればそれを使用し、なければ信号源出力をACカップリングします。ジェネレータのDCオフセットは、使用可能であっても、顕著な歪みを生じることがしばしばあります。信号をACカップリングする方法は、20kHz以上では良好に機能しますが、減衰や歪みを生じずに信号を通過させるには、目的の周波数が低くなるほど、大きな値のコンデンサが必要になります。16ビット~20ビットSAR ADCで通常、仕様規定される1kHz~2kHzの入力周波数で、適切なカップリング・コンデンサを見つけることは、多くの場合、現実的ではありません。

図1の回路は、ジェネレータのDCオフセットや信号のACカップリングによる方法の代替手段となるものです。R2、R1、ジェネレータのソース・インピーダンスが分圧器を形成することによって、図1の回路に示すように、±5Vの信号が0 - 5Vに変換されます(ここで使用したStanford Research SR1ジェネレータのソース・インピーダンスは25Ωですが、実際のジェネレータのソース・インピーダンスがこれと異なる場合は、R1の値を調整する必要があります)。この回路の駆動対象の入力電流によって生じる誤差を最小限に抑えるためには、R1およびR2は低インピーダンスであることが必要です。+5Vのノードを調整することで、これ以外の電圧範囲も可能です。C2はR2、R1、およびジェネレータのソース・インピーダンスと共に、2.1kHzのローパス・フィルタを構成します。歪みを低く維持するには、入力電圧が変化しても、+5Vのノードが変動しないことが重要です。実験室の多くの機器では電流のソースやシンクができないため、抵抗R3を用いて+5Vのノードにプリロードし、これを一定に保てるようにします。C1は、+5Vノード用のバイパス・コンデンサです。

図1. ±5V信号を0-5V信号に変換する低歪みレベル・シフト回路

図1. ±5V信号を0-5V信号に変換する低歪みレベル・シフト回路

図2に、図1の回路に100Hzの信号を入力した場合の入力電圧と出力電圧を示します。トレース1が入力でトレース2が出力です。図3には、2kHzの信号を入力した場合の回路の出力のFFTを示します。THDは-119dB、SNRは112dBで、これは20ビットADCにも十分に適しています。

図2. 図1の回路の入力電圧(トレース1)と出力電圧(トレース2)

図2. 図1の回路の入力電圧(トレース1)と出力電圧(トレース2)

図3. 図1の回路の出力のFFT

図3. 図1の回路の出力のFFT