ポジトロン放出断層撮影(PET)画像処理入門

2010年11月22日

Figure 1

   

要約

このアプリケーションノートはポジトロン放出断層撮影(PET)画像処理装置が3Dの医療画像を生成する方法を説明します。本稿は注入した放射標識化した糖が罹患組織に異なる反応をすると生成されるガンマ線をPET装置が検出する方法を詳述します。本稿はまた、環境中の競合する電子ノイズが画像に与える影響と、患者の体内で生成された信号の位置の特定のために光子のタイミングと動きを正確に検出することの重要性を議論します。ファンクションブロックダイアグラムはPETシステムに見られる標準的なIC部品を示します。

概要

ポジトロン放出断層撮影(PET)画像診断装置は、放射標識化した特定の糖を患者に注入したときに放射されるガンマ線を検出することによって3D医療画像を構成します。体内に取り込まれると、これらの放射標識化した糖は、人体の他の部分よりも活性/代謝レベルが高い組織(進行性の腫瘍など)によって吸収されます。

ガンマ線は、放射性物質から放射された陽電子(ポジトロン)が組織内の電子と衝突したときに発生します。その衝突によって一組のガンマ線光子が生成され、それぞれ衝突位置から反対方向に対として放出されます。それらの光子を、患者の周りに配置したガンマ線検出器によって検出します。コンピュータ断層撮影(CT)、X線、および超音波といった解剖学的な画像診断法とは異なり、PET画像診断からは人体の「機能的」情報が得られます。

ポジトロン放出断層撮影(PET)画像診断装置
撮影:Jens Langner氏

CTとPETの装置を一体化すると、有効な解剖学的情報と機能的情報の両方を得ることができます。

光子の検出

PET検出器は、患者の周りに環状に配置した数千個のシンチレーション結晶と数百本の光電子増倍管(PMT)のアレイで構成されます。シンチレーション結晶によってガンマ線放射を光に変換し、それをPMTで検出して増幅します。

信号対ランダムな光子「ノイズ」

PET画像診断装置のメーカーは、装置の診断性能を絶えず向上させています。各メーカーは、時間測定精度の向上とガンマ線光子検出位置の特定に重点を置いてきました。

環境中にはランダムなガンマ線が存在しており、PET画像診断装置では、ランダムな光子と人体内で生成された光子対を区別する必要があります。これを行うには、装置において、時間的に相関した光子対、つまり同時に生成されて反対方向に移動している2つの光子の存在を検出することが必要です。PET装置では、環状の検出器アレイに入射した光子対の位置を解析し、それらが反対方向に移動していることを確認することによって、これを実現しています。また、装置では、光子対が検出器に入射した時間を正確に測定し、それらがほぼ同時に生成されたことを確認することも必要です。この情報を使用して、PET装置は、ランダムな光子ノイズと目的の信号を区別することができます。

PET装置のブロック図。この図は、共通のタイムディスクリミネータを使用する複数のレシーバグループの1つを示しています。マキシムが推奨するPETソリューションの一覧については、japan.maximintegrated.com/petをご覧ください。
PET装置のブロック図。この図は、共通のタイムディスクリミネータを使用する複数のレシーバグループの1つを示しています。

光子信号強度の検出による入射位置の特定

コスト削減と簡素化のため、最近の大部分のPET装置は、シンチレーション結晶の数がPMTの数よりも多くなっています。結晶とPMTの数が異なる場合、装置では、多数のシンチレーション結晶の中でいずれの結晶に光子が入射したかを特定する必要があります。これは、対象とする結晶付近にあるPMTの出力信号強度を解析することによって行います。

各PMT出力からの電流信号を電圧に変換し、低ノイズアンプ(LNA)で増幅します。PMTによって生成される信号は、急速に立ち上がってゆっくりと減衰するパルスです。各PMTからの信号強度は、この時間領域パルス間の領域をディジタル積分して算出します。PET装置は、LNAの後段の可変利得アンプ(VGA)を使用して、PMT感度のばらつきを補正します。

LNAとVGAを総合した利得は約40dBで、利得範囲は約20dBです。通常、使用されるアンプのノイズは数nV/√Hz以下、帯域幅は100kHz~1GHzの範囲です。最小限の電力で高速処理を実現するために、電流フィードバックアンプを使用する場合もあります。分解能10~12ビットの高密度ディジタル-アナログコンバータ(DAC)を使用して、VGAの利得を制御します。

VGAの出力はローパスフィルタに通し、オフセット補正を行ってから、サンプリングレート50Msps~100Mspsの10~12ビットアナログ-ディジタルコンバータ(ADC)でディジタル信号に変換します。

ADCサンプルは、通常、複数のADC出力を処理可能なフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)ディスクリミネータで処理します。そのため、相互接続の複雑さとディジタルノイズの両方を低減するために、シリアルLVDS出力を内蔵したADCや多重化CMOS出力バスを内蔵したデュアルADCが有効な場合があります。上記のとおり、複数のPMTからのディジタル信号情報を使用して、特定の光子の入射位置を計算します。

光子入射時間の検出

ディジタル化したレシーバ出力の時間測定分解能は、残念ながら、高度な画像処理のための正確な飛行時間情報の算定や、2つの光子の入射がほぼ同時に起こったことの確認にも不十分です。そのため、PET装置では超高速コンパレータを利用しています。

物理的に近接した複数(通常は4本以上)のPMTからの信号を加算し、この総合した信号で超高速コンパレータの入力を駆動します。DACでコンパレータのリファレンス電圧を生成し、DCオフセット補正を行います。飛行時間の計算には極めて高い精度が要求されるため、コンパレータの出力信号と超高速クロックを使用してディジタルタイムスタンプを生成します。このようにして、物理的にかなり離れた複数のPMTについて時間測定情報を比較することができます。

画像の生成

光子対によって、衝突が発生したラインがわかります。これは応答線(LOR)と呼ばれています。数万本ものLORを解析することによって、バックエンドの画像信号プロセッサは衝突の状態を3D画像として表示することができます。2つの光子入射イベントのタイムスタンプを、それらが有効な信号として計数可能なほど時間的に接近していたかどうかを確認するためにのみ使用しているPET装置もあります。このLORの検証は困難であり、数ナノ秒の時間測定精度が要求されます。

より新しい高性能のPET装置では、2つの光子入射イベントのタイムスタンプを、LOR上のおよその衝突位置の決定にも使用するようになっています。この手法は画質を向上させます。これらのPET装置では、各光子の飛行時間を100ps以内まで計算することによって、衝突位置を約10cm以内まで計算します。この計算では、装置に対してはるかに高い時間測定精度が要求されます。

電力と集積度について

多数のシステムチャネルと信号処理速度を考えると、消費電力はPET装置において重要な問題です。そのため、各メーカーはソリューションの低電力化と高集積化を追求しています。将来的には、PET装置はPMT方式から離れ、はるかにチャネル数が多い固体光子検出器を利用するようになります。その場合、チャネル数は数百本から数万本に増加すると考えられます。このような発展は、低電力化と高集積化をさらに推進するという大きな課題をICソリューションプロバイダに与えることになります。

著者について

John Scampini
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740MHz、低ノイズ、低歪みオペアンプ、5ピンSOT23

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