専用集積回路を使ったアナログフィルタ設計

専用集積回路を使ったアナログフィルタ設計

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要約

このアプリケーションノートはADC (アナログ-ディジタルコンバータ)用のアンチエイリアスおよびノイズフィルタ、およびDAC (ディジタル-アナログコンバータ)用の「再生」ポストフィルタ用のスイッチトキャパシタフィルタの進歩について説明します。このアプリケーションノートは連続時間アクティブフィルタに対するMAX74xxシリーズのユニークな利点を要約し、アプリケーション例を提供します。

同様の記事が「Electronic Products」の2009年10月号に掲載されました。

アナログフィルタは電子信号合成サブシステムにおいて重要な役割を果たし、ADC用のアンチエイリアスおよびノイズフィルタ、およびDAC用の再生ポストフィルタなどの機能を提供します¹。さまざまな設計仕様および要件が個々のフィルタ構成の使用に影響します。最も一般的なフィルタにはベッセル、バターワース、およびエリプティックがあります。

ベッセルローパスフィルタはリップルのない通過帯域と単調なロールオフを備えた線形位相応答を提供します。これらの特性のために、ベッセルフィルタは時間領域でのアプリケーションに最適です。バターワースローパスフィルタは通過帯域の周波数応答が最大に平坦で、ベッセルフィルタよりもずっと急峻な単調なロールオフを備えています。このフィルタの位相応答は周波数とともに非線型に変化します。これらの特性は振幅をベースとしたアプリケーションで問題になることはありません。最後にエリプティックローパスフィルタはほとんど平坦な通過帯域と極度に急峻なロールオフ特性を備えています。エリプティックフィルタは振幅ベースのアンチエイリアスアプリケーションに理想的です。

連続時間アクティブフィルタの設計と構造には非常に大きい設計問題があり、多くの一致した許容差の受動部品によって囲まれた複数の高性能オペアンプの使用を必要とします。設計課題には最適なフィルタ構成の選択およびフィルタ合成のための特別なソフトウェアの使用が含まれます²。より簡単な方法は高集積のSCF (スイッチトキャパシタフィルタ)の使用を含むことです。そのような回路によって部品点数の削減が可能でフィルタの調整およびシステム電力の微調整が簡素化されます。このアーティクルでは最初に連続時間フィルタの使用、その次にSCF法としたフィルタ実現法を調査し、性能と複雑性の差を示します。

前に述べたように、各特性に従い、ベッセルフィルタは時間領域のアプリケーションに理想的です。それはオシロスコープ/アナライザタイプの測定において歪を持たないからです。しかし、完全な特性のフィルタのコストは設計者が高次のベッセルフィルタ(バターワースまたはエリプティックフィルタよりも多くのポールを備える)を構築し、適切なレベルの阻止帯域減衰を達成しなければなりません。

図1 は5次の1.0kHzのローパスフィルタの回路図を示しています。この設計はサレン-キー方式に基づいており、最小の部品点数に最適化されており、1%の許容差の標準数値の抵抗と5%の許容差のセラミックコンデンサを使用します。各部品値を決定するために、設計はソフトウェアのFilterPro™を使用して行われ、シミュレーションツールのPSPICEを使用して評価しました。

図1. 2つのオペアンプと多数の受動部品によってこの5次、1.0kHzのローパスベッセルフィルタが構成されました。

図1. 2つのオペアンプと多数の受動部品によってこの5次、1.0kHzのローパスベッセルフィルタが構成されました。

多くの場合、入力および出力のRCフィルタにはオペアンプバッファを追加することも必要で、特にそれは信号源インピーダンスが比較的大きく(数百Ω以上)、しかもフィルタ出力が比較的小さいインピーダンス(数百kΩ以下)に接続される場合です。

ベッセルフィルタ回路について実行されたSPICEシミュレーションが 図2 に示されています。これらの周波数応答のプロットは同じフィルタに対して100の異なる製造ビルドのモンテカルロを実行した結果です。SPICEシミュレータはランダムに部品値をその仕様許容差の範囲内で変化させて、製造ばらつきを考慮します。シミュレーションの結果はコンデンサと抵抗の各値の許容範囲内での変動によるfC = fIN -3dB ± 0.6dBの周りの通過帯域変動を示しています。

図2. これらの周波数応答のプロットは5ポールのベッセルフィルタのSPICEシミュレーションの結果を示しています。

図2. これらの周波数応答のプロットは5ポールのベッセルフィルタのSPICEシミュレーションの結果を示しています。

1kHz~15kHzのカットオフ周波数で許容されるフィルタ特性を実現(80dB以上のダイナミックレンジに対して)するためには、設計者はより高精度で良好な温度安定性を備えた部品を使用しなければなりません。以下の例のとおりです。

  1. アンプは1kHz~15kHzのカットオフ周波数および0.005%より良好なTHD+N (全高調波歪+ノイズ)係数のためには0.5MHz~6.5MHzのユニティゲインを持たなければなりません。
  2. コンデンサは高精度のセラミックまたはフィルムコンデンサでなければなりません。これらのコンデンサは広い温度と電圧範囲でその公称値を維持しなければなりません。
  3. 各抵抗は±1%より良好な許容差と低温度係数の金属皮膜抵抗でなければなりません。
  4. 各部品が所望の特性を示すことを保証するためには、各部品はパナソニック、Rohm、Vishay、Kemet、およびAVXなどの信頼できるソースから入手しなければなりません。

予備推定によると、5次の1kHz~15kHzのカットオフ周波数のローパスベッセルフィルタ部品コストは$1.50~$2.00 (1000個以上の価格)となることが示されます。これには、設計、試験、PCBレイアウト、組立て、部品購入などに費やされる増加時間は含まれません。これらの出費は定量化が困難で、会社によって異なります。

マキシムはスイッチトキャパシタ技術に基づく集積化ソリューションによる更に高効率で複雑性の少ない方法を提供します。この方法はほとんどのフィルタ関数を1つのシリコンICに集積化することができます。(アプリケーションノート733 「A Filter Primer」(英文)はSCFの動作に関する詳細情報を提供します。)特定のフィルタ特性を設定するために設計者がしなければならないことは、1つの安価な外付けコンデンサまたは外付けクロックを使用することだけです。その結果、温度変動およびその他の変動に強い、小型、確実でコスト効率の高いフィルタ設計が可能です。

図3 と図4はSCFチップによる5次ローパスベッセルフィルタの簡単な回路実現を示しています(MAX7409/MAX7413)。デカップリング用の0.1µFコンデンサは汎用の低コストのセラミックタイプ(誘電体タイプはX7RまたはZ5U)で可能です。しかし、図4のCCLK用にはCOG (NPO)誘電体タイプを推奨します。

図3. スイッチトキャパシタ回路のf<sub>C</sub> (カットオフ周波数)の設定は50% ± 10%のデューティサイクルの外部クロックを使用して行うことが可能です

図3. スイッチトキャパシタ回路のfC (カットオフ周波数)の設定は50% ± 10%のデューティサイクルの外部クロックを使用して行うことが可能です。

図4. スイッチトキャパシタフィルタの内部発振器を使用するf<sub>C</sub>の設定のためにはCLKとグランド間にC<sub>CLK</sub>コンデンサの接続が必要です。C<sub>CLK</sub>を300pFとすると、f<sub>C</sub> = 1kHzです

図4. スイッチトキャパシタフィルタの内部発振器を使用するfCの設定のためにはCLKとグランド間にCCLKコンデンサの接続が必要です。CCLKを300pFとすると、fC = 1kHzです。

シミュレーションと試験結果(図5 に示す)は連続時間のオペアンプベースの設計に比べてMAX7409/MAX7413ベースの設計の通過帯域変動が向上していることを示しています。これらの2つの集積化ソリューションのもう1つの利点はチューニングが容易なことです。カットオフ周波数は自己クロックまたは外付けクロックの2つのクロックオプションによってクロックチューニングされます。これに比べて、オペアンプベースの設計におけるカットオフ周波数の変更は、多くの場合、基本的な再設計が必要です。

図5. f<sub>C</sub> = f<sub>IN</sub>における通過帯域変動は温度および電源変化範囲で-3dB ± 0.4dB です。

図5. fC = fINにおける通過帯域変動は温度および電源変化範囲で-3dB ± 0.4dB です。

表1と 表2 は低消費電力ながら高次フィルタ特性を提供するマキシムからの多くの集積化フィルタソリューションの幾つかを示しています。

表1. マキシムの低電力5次フィルタのファミリ
Part Supply Voltage (V) Filter Type Filter Characteristics
MAX7411 +5 Elliptic Steepest rolloff, 37dB of stopband rejection
MAX7415 +3 Elliptic Steepest rolloff, 37dB of stopband rejection
MAX7408 +5 Elliptic Steep rolloff, 53dB of stopband rejection
MAX7408 +5 Elliptic Steep rolloff, 53dB of stopband rejection
MAX7412 +3 Elliptic Steep rolloff, 53dB of stopband rejection
MAX7409 +5 Bessel Linear phase response
MAX7413 +3 Bessel Linear phase response
MAX7410 +5 Butterworth Maximally flat passband and stopband response
MAX7414 +3 Butterworth Maximally flat passband and stopband response

表2. マキシムの低電力8次フィルタのファミリ
Part Supply Voltage (V) Filter Type Filter Characteristics
MAX7400 +5 Elliptic Steepest rolloff and 83dB of stopband rejection
MAX7401 +5 Bessel Linear phase response
MAX7403 +5 Elliptic Steep rolloff and 60dB of stopband rejection
MAX7404 +3 Elliptic Steepest rolloff and 83dB of stopband rejection
MAX7405 +3 Bessel Linear phase response
MAX7407 +3 Elliptic Steep rolloff and 60dB of stopband rejection