要約
このアプリケーションノートでは、ASK/OOKの手法について説明し、RFパワーディテクタといくつかのディスクリート部品を使用するASK/OOKレシーバの実装について述べます。また、これらの実装の波形出力テスト結果についても詳述します。
同様の記事が、2008年7月21日にRF DesignLineのウェブサイトに掲載されています。
はじめに
振幅シフトキーイング(ASK)は、多数の低周波RFアプリケーションのディジタルデータ通信でよく使われる変調手法です。送信側は最も簡単な形式で、「1」を送信するときには振幅の大きな搬送波を送出し、「0」を送信するときには振幅の小さな搬送波を送出します。ASK方式をさらに簡素化したのがオンオフキーイング(OOK)変調であり、送信側は「0」を送信するときには搬送波を送出しません。
ASKとOOKの通信プロトコルは、短距離ワイヤレスアプリケーションで一般的に使用されており、その例として、ホームオートメーション、産業用ネットワーク、ワイヤレス基地局、リモートキーレスエントリ(RKE)、およびタイヤ空気圧監視システム(TPMS)が挙げられます。OOKは特にバッテリ駆動のポータブルアプリケーションでよく使われています。このシステムでは「0」を送信するときに(つまり送信しない)、送出電力を節約することができます。使用する搬送周波数は、アプリケーションに応じて大幅に変わります。たとえば、基地局内の低周波有線通信(たとえば、AISGプロトコル)では、最大2MHzが使用されるのに対し、工業、科学、および医療(ISM)帯域を利用する短距離ワイヤレス通信では最大433MHzが一般的です。
今日の民生用の世界では、Bluetooth®、ZigBee®、およびWi-Fi®などのさまざまなワイヤレス技術が大幅に進展しています。これらのプロトコルはデバイス間の安全な通信手段を提供し、周波数シフトキーイング(FSK)、位相シフトキーイング(PSK)、および振幅シフトキーイング(ASK)または振幅変調の組み合わせを使用して、通常2.4GHzのISM帯域で動作します。これらの手法によって提供されるセキュリティとしては、チャネルホッピングとスペクトラム拡散の通信モードがあります。そのような方式では盗聴が困難であり、ノイズ耐性が改善されると同時にセキュリティが向上します。これらの方式はすべて、「1」と「0」の両方の送信時に送信エネルギーを消費します。残念ながら、これらのプロトコルは相対的に複雑であり、特にセキュリティと高ノイズ耐性が前もって規定されていなければ、ハードウェアの実装コストは高くつきます。
Wi-Fiは特に、高データレートで到達範囲の広いアプリケーションを目的としているため、単純な制御と監視のみを必要とするアプリケーションにはおそらく過剰の仕様であると考えられます。ZigBeeは、来たるべきセンサネットワークの分野で最適と考えられるのに対し、Bluetoothは民生用のオーディオ機器や個人用のワイヤレスデバイスで受け入れられています。表1は、Bluetooth、ZigBee、およびASK/OOK手法のさまざまな性能の特長を簡単に比較しています。
Features | Bluetooth | ZigBee | ASK/OOK General ISM |
Frequency | 2.4GHz | 2.4GHz | 315MHz to 2.4GHz |
Battery Life | Low | High | High |
Speed | 800kbps | 200kbps | 2Mbps |
Relative Cost | Medium | Medium | Low |
Industry Standards | Yes | Yes | No |
簡易ASK/OOKハードウェアの実装は比較的容易に選択されてきました。長寿命が要求されるバッテリ駆動アプリケーションでの実装コストが安くなるからです。さらに、ポイントトゥポイントの有線インフラやワイヤレス赤外線リンクへのアクセスが可能な場合にも、この実装の選択が有効です。その他の技術を使用した場合、アプリケーションによっては、実装コストが2~5倍高くなる可能性があります。必要であれば、トランスミッタとレシーバの間で、特別なコードを交換するなど、双方向の呼びかけ方式を実装することで、これらのリンクにセキュリティを追加することができます。ASKは、OOKよりも優れたノイズ耐性をFSKよりも低いコストで提供しますが、消費電力はOOKよりも高くなります。
ASKのアプリケーション
ASKレシーバのフロントエンドは通常、3つのブロックで構成されます。広帯域の入力ノイズスペクトルから所望の搬送周波数を見分ける入力バンドパスフィルタ、所望の情報を抽出するエンベロープディテクタ、およびバイナリ出力を得るためのコンパレータです。コンパレータのトリガのスレッショルドは、エンベロープディテクタの出力そのものから得られます。これによって、スレッショルドのレベルは受信した信号レベルに対して自動調整され、チャネル長とトランスミッタ強度に応じて変わります。
フロントエンドとして考えられる実装の1つは、MAX9933を使用するものです。これは、2MHz~1.6GHzの範囲でダイナミックレンジが45dBの入力信号を読み取ることができるRFパワーディテクタです。特に、-58dBV~-13dBVの信号レベルに比例する対数電圧(すなわち、1.25mVRMS~223mVRMS)を供給します。図1は、ASKレシーバの信号接続内のMAX9933 RFディテクタを示しています。
RFIN端子に供給されるRF信号は外部でAC結合されています。MAX9933はピーク応答のRFディテクタであるため、基本的に小さなミリボルトレベルの信号に対しても単純なエンベロープディテクタとして機能します。入力RF電圧振幅対出力DC電圧に対する対数変換機能によって、dBに比例する特性が得られ、これによって微小信号に対するMAX9933の感度が大幅に向上します。このため、MAX9933を使えば、ASKレシーバは「1」と「0」の小さな入力信号レベルを簡単に区別することができます。フィルタコンデンサCCLPFの値は、チップの出力端での応答帯域幅を決定するものであり、想定されるデータレートによって求まります。図2は、MAX9933をエンベロープディテクタとして使用し、MAX9030コンパレータを適応リファレンスとともに使用してディジタル出力ビットを生成したときに得られる出力波形を示しています。テスト波形は、搬送周波数が10MHzでデータレートが40kbpsの波形です。このテストのCCLPFの値は150pFで、R-Cフィルタは100kΩの抵抗と0.22µFのコンデンサから構成されています。
OOKのアプリケーション
RF電力検出コントローラであるMAX9930は、自動利得制御(AGC)ループ内パワーアンプ(PA)のフィードバック制御ループ用に設計されています。ただし、オープンループで構成すると(すなわち、OUTからRFINへのフィードバックループを閉じるPAがない)、図3に示すようにOOKアプリケーションで簡単にコントローラを使用することができます。アプリケーションで受信された「1」の最低信号レベルよりもはるかに下回るスレッショルドを示すREF電圧を使用してOOK情報を取り出すことができます。
RFIN端子を通して供給されるRF信号は外部でチップにAC結合されています。MAX9930コントローラのフロントエンドは、ピーク検出器であり、入力RF信号のピークを内部で検出します。SET端子に供給される電圧は、OOK検出に最適なコンパレータのスレッショルドとして働きます。抵抗RFBとRINは、ノイズ耐性の向上のためにコンパレータのヒステリシスを設定します。このときRFBには300kΩ、RINには10kΩを選択します。データレートを上げるるためにCCLPFを最小に設定することが可能です。図4は、図2のテストと同じ入力条件でのテスト結果を示しています。
OOKトランスミッタ
OOKトランスミッタの単純さは他に匹敵するものがありません。OOKトランスミッタは極めて単純で、搬送波をPAに送ることによって、アンテナ/ケーブルに給電し、搬送波を送信して「1」を送出するだけであり、「0」を送出するには何も送信しません。MAX1472 VHF/UHFトランスミッタは、非常に優れた製品の一例であり、入力ディジタルデータのストリームを使用して水晶ベースのPLL発振器出力を変調しパワーアンプに給電しています。レシーバシステムは、OOKレシーバシステム(固定スレッショルドを使用)、またはASKレシーバシステム(適応スレッショルドを使用)のいずれでも可能です。
結論
今日の接続社会では、回路間で多数の通信モードが必要になります。ASKおよびOOKはこのような2つのプロトコルであり、このアプリケーションノートでは、実現可能なアプリケーションのソリューションと、市場の他のプロトコルと比較したときの単純さについて説明しています。