高速スタートアップ発振器(FOX)によるスーパーヘテロダイン性能の向上

高速スタートアップ発振器(FOX)によるスーパーヘテロダイン性能の向上

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要約

マキシムは、単一チップのスーパヘテロダインRFレシーバ製品にユニークな高速スタート発振器システムを取り入れました。レシーバは、300MHz~450MHz ISM (US)帯域のアプリケーションを対象としており、レシーバの起動時間を短縮することでバッテリ電力を節約します。高速発振器回路によって、レシーバスキャニング用の低デューティサイクルが可能になります。

本記事に類似した内容が2002年10月21日号の「Planet Analog」誌に掲載されています。

簡易RFデータ伝送の一般的なアプリケーションは、多くの新しい車両で使用されているリモートキーレスエントリ(RKE)システムです。このシステムは車両のドアを開閉し、トランクを開け、セキュリティアラームを制御します。将来の車両では、車両を見つけてリモートでエンジンをかけるRKEが使用されることになるでしょう。

RKEシステムの動作は簡単です。RKEシステムは、キーフォブ型のトランスミッタ(通常は1人のユーザに1つ)と車両に取り付けたレシーバから構成されます。動作周波数は通常、300MHz~450MHzですが、ヨーロッパの新しいシステムの中には、ISM帯域の868MHzの周波数割り当てを検討しているものもあります。通信は単信であり、トランスミッタからレシーバにのみデータが流れます。このアーキテクチャを採用した数多くの理由の中でも、最も主要な理由は、低コストであるということと、キーフォブのバッテリ寿命を延長できるということです。

操作を開始するには、キーフォブ上のボタンを押します。これにより内部のマイクロコントローラを起動し、直ちにデータストリームをRFトランスミッタに出力します。データストリームには、データプリアンブル、実際のコマンド(たとえば、ドアをロックするなど)、キーフォブが別の車両のドアロックを解除しないようにするための車両間セキュリティ用のローリングコード、および(場合によっては)数ビットのチェックビットが含まれています(図1)。

図1. リモートキーレスエントリ(RKE)システムのキーフォブ上のボタンを押すと、短いデータストリームの送信が開始されます。
図1. リモートキーレスエントリ(RKE)システムのキーフォブ上のボタンを押すと、短いデータストリームの送信が開始されます。

全データパケット(64~128ビット)は通常、振幅偏移変調(ASK)またはオンオフキーイング(OOK。変調が0%または100%のASK)によるRF変調を用いて、通常2.4kHz~20kHzのレートで送信されます。これらの変調方式により、コストが最小限となり、キーフォブのバッテリ寿命が延長されます。

推測されるように、低価格化とバッテリの長寿命化が極めて重要です。使用されるシステムの数(何千万)を考えれば、低価格に対する要望は明らかです。最大バッテリ寿命は、トランスミッタとレシーバの両方にとって重要です。

キーフォブトランスミッタにとっては、バッテリの長寿命化により、ユーザによるバッテリ交換の回数が減ります。理想的なトランスミッタのバッテリは、車両の寿命を通して取り替える必要がないというものです。今日でもこのようなバッテリは可能ですが、できあがった巨大なキーフォブを見れば、おそらくポケットや財布に入れて持ち運びたいとは思わないことでしょう。小さなキーフォブは便利ですが、2か月ごとにバッテリの変更が必要とあれば、便利ではなくなります。今日の製品の多くは、その間を取って、バッテリ寿命が2~5年の、妥当なサイズのキーフォブを提供しています。

レシーバにとってもバッテリ寿命は同様に重要です。ユーザはいつでもコマンドを送信することができるように、レシーバのバッテリは常にオンでなければなりません。RKEレシーバの電源は車両のバッテリ(車両の始動に使うバッテリと同じもの)で供給されます。レシーバの消費電力があまりに大きいと、バッテリに車両を始動させるだけの電力がなくなってしまいます。

この可能性について心配することはばかげているように思われるかもしれません。車両のバッテリは巨大で、標準的なレシーバは1mA~5mAの電流しか消費しません。このように小さな消費電流は、日常使用されている車両には問題とはなりませんが、2~3週間以上車両を空港に置いておくような場合には、状況は一変します。

したがって、車両の製造業者は、それぞれに応じてバッテリサイズを決定します。RKEシステムでは、バッテリサイズ(容量)は、「レシーバが消費する電力」と「レシーバに電力が供給される日数」の積に正比例します。このため、30日よりも長い間、車両を保管する場合には、あらかじめ警告されます。スーパーヘテロダインレシーバ内の高速スタートアップ発振器がバッテリ寿命に及ぼす影響というこの記事のタイトルに戻りましょう。

計算を簡素化するために、中央の値を使用します。データパケットと送信速度の説明を思い出して、100ビットのデータパケットと10kHzのデータレート(データビット当たり0.1ms)を仮定します。したがって、100ビットのパケットは10msで送信されます。レシーバでの電力を節約するため、(有効な送信があるかどうかを判断できるだけの長さ)、レシーバをオンにする時間を短くする(有効な送信があるかどうかを判断できるだけの長さ)ことにより、動作を「タイムスライス」します。通常、この「オンタイム」値はおよそ10%のデューティサイクルになります。

レシーバはタイムスライスされるので、要求した動作の1つをレシーバが確実に検出できるようにするため、余分な送信が必要となります。通常、キーフォブの送信は余分に3回繰り返されるので合計で4回の送信になります。キーフォブの合計送信時間は4 x 10ms、すなわち40msです。レシーバが動作するために、100ビット(10ms)送信のうちの少なくとも1つを完全にデコードする必要があります。

少なくとも1つの完全な送信を得るためには、レシーバをポーリングして、有効なデータが存在するかどうかを判断する必要があります(レシーバをオンのままにしておくこともできますが、電力を費やすことになります)。40msの所定の送信パケットは繰り返される可能性はないので、少なくとも1つの10ms送信の全体を捕捉できるだけの頻度でレシーバをポーリングする必要があります。この要件により、レシーバのポーリング間隔の最大時間は30msになります。

ただし、この間隔では、コマンドを見逃してしまうおそれがあります。システムタイミングのビットがオフになっているか、データを破損する干渉やその他のノイズが存在する可能性があるからです。控えめに考えても、少なくとも2つの完全な送信が得られるようにシステムを設定する必要があります。したがって、レシーバのタイムスライス回路を20msに設定します。20msごとにレシーバは起動し、送信のデコードを試みます。有効なデータが存在すれば、レシーバはこのデータをデコードします。有効なデータが存在しなければ、次の20msまで動作を休止します。

有効なデータを検出するためには、レシーバは情報をデコードするデータの7~8ビットすなわち0.75msの時間を必要とします。この状態により、トランスミッタが該当する周波数と形式でデータを送信しているかどうかを判定します。したがってレシーバは20msごとに約0.75msの間、起動状態でなければなりません。残念ながら、この機能を完ぺきに達成できるようなレシーバはありません。

レシーバには、起動の立ち上がり時間が必要です。レシーバ内のほとんどのアンプは短時間で立ち上がって安定状態になりますが、発振器はこれができません。発振器の圧電結晶は電気機械的な素子であるため、発振の開始には時間を要し、また所望の周波数で安定するためにはさらにもう少しの時間が必要となります。

一部のレシーバの仕様は、この点について明確ではありません。重要な仕様は、レシーバをオンにしてから発振器の周波数が範囲内に入る(安定化する)までの時間です。有効IF出力などのその他の仕様は誤解を招きやすいものです。IF出力は、発振器が動作を開始すると有効になります。しかし、レシーバはトランスミッタに対して周波数ロックされていない可能性があります。この状況は、90MHzにチューニングされている無線機が実際には92MHzを受信しているようなものです。確かに無線機は動作していますが、必要なものを受信していません。

通常のスーパーヘテロダインレシーバは、2ms~5ms以内で起動し安定することが可能です。説明のため、ここでは2.25msを仮定します。データデコード用として0.75msを加えると、キーフォブの送信を検出するには、20msごとに3msの「オンタイム」が必要になります(図2)。一方、スーパーヘテロダインレシーバMAX1470MAX1471、およびMAX1473には、高速スタートアップ発振器が含まれており、水晶内の振動を維持することによってターンオン時間を最小限にできます。このため、ターンオン時間は通常の2.25msから0.25msに低減されます。0.75msのデータデコード時間に0.25msのターンオン時間を加えると1msとなり、キーフォブの送信を検出するのに20msごとに1msしか必要としないことになります。つまり、これらのレシーバは、1/3の時間で同じ測定機能を遂行できることになり、電力が節減されます。

図2. キーフォブの送信を監視するためには、RKEレシーバは、立ち上がり、安定化、および入力信号のデコードのための時間を割り当てる必要があります。
図2. キーフォブの送信を監視するためには、RKEレシーバは、立ち上がり、安定化、および入力信号のデコードのための時間を割り当てる必要があります。

ほとんどの高性能スーパーヘテロダインレシーバ(優れた感度を持つレシーバ)は、動作時に5Vで5mAの電流を消費します。レシーバMAX1470、MAX1471、およびMAX1473はわずか3.3Vの供給電圧で5mAの電流を消費しつつ、最高のレシーバ感度を提供します。より低い供給電圧によって節減される電力はかなりの大きさになります。通常のスーパーヘテロダインレシーバは25mWを必要としますが、MAX1470、MAX1471、およびMAX1473は16.5mWを必要とします。20msごとのポーリングサイクル(図3)の時間関数を加味すると、通常のスーパーヘテロダインレシーバの場合エネルギー要件は25mW × 3ms = 75µJとなり、一方MAX1470、MAX1471、およびMAX1473の場合には16.5mW × 1ms = 16.5µJになります。したがって、高速起動のレシーバで得られたエネルギー節減により、バッテリ寿命を4~5倍延長することができます。

図3. 短い起動時間と低い供給電圧によりエネルギーが節減されます。
図3. 短い起動時間と低い供給電圧によりエネルギーが節減されます。

このようにして決められたバッテリ寿命の仕様により、バッテリサイズを小さくしてコストを削減できます。あるいは同じ電力でより頻繁なサンプリングが可能となるので、トランスミッタのバッテリサイズを小さくすることができます。車両のバッテリサイズは主に「クランキングアンプ」用に決められており、容量が確保されているので、そのサイズを小さくしても価格上の大きな優位性を得ることはできません。一方、トランスミッタのバッテリサイズを小さくすることには利点があります(特に新しいタイヤ空気圧監視(TPM)システムに応用するとき)。

TPMトランスミッタは基本的に、タイヤ(通常はバルブステム内)に取り付けられたキーフォブです。TPMトランスミッタはタイヤの圧力と温度を測定し、RKEのキーフォブと同様にデータパケットを送信します。しかし、膨張問題を直ちに検出する必要があるため、TPM情報の送信頻度は(キーを押す場合と比べて)高くなります。スローリーク(ゆっくりとした空気洩れ)を検出するため、車両が静止している間も、システムは各タイヤを監視します。

ホイールのバランスを狂わせることなくバルブステムに巨大なバッテリを取り付けることは不可能です。またレシーバのバッテリ交換も容易ではないため、レシーバのバッテリはキーフォブのバッテリよりもかなり長持ちさせる必要があります。したがって、低電力送信がTPMには不可欠になります。当然、RKEトランスミッタの設計者は低電力動作に関心がありますが、システムエンジニアはレシーバの改善も消費電力に影響することを認識しています。このため、システムエンジニアは、高速スタートアップ発振器を備えたスーパーヘテロダインRKEレシーバを搭載してもよいでしょう。