mSure技術の開発目的
アナログ・デバイセズは、スマート・メータ向けにmSureという技術を開発しました。この技術によって得られる主なメリットは以下の3つです。
- メータの使用期間を延長する
- 現場での検査/試験を不要に
- メータの改ざんの検出
あなたは送配電網を運用する電力会社に勤めているとしましょう。そしていま、膨大な数のメータを管理するという課題に直面しています。この課題を解決するために、新型のスマート・メータで構成される高度計測インフラストラクチャ(AMI:Advanced Metering Infrastructure)を導入するという計画を考えました。その狙いは、メータの数値の自動読み取り、需要に対応するためのプログラム、リモートでの接続と切断、供給停止の管理といった改善を図ることです。しかし、AMIを導入したとしても、新型スマート・メータの予測寿命が近づけば、それらを交換するためにかなりの人件費が発生します。電力会社や規制当局は、統計に基づいてメータの耐用年数を決定しています。そのため、交換されるメータのほとんどは、実際にはまだ何年も使用できる状態だったということが起きます。この点に気づいたあなたは、次のようなことを考えました。
「現場に配備済みのメータをできるだけ長く使用し、寿命に達したものだけを交換することはできないものだろうか」。
メータの使用期間を延長できれば、驚くほど大きな見返りが得られます。メータそのもののコストを含めて、その設置には1個あたり50米ドル(約5400円)のコストがかかるとしましょう。そして、そのメータには10年という耐用年数が定められているとします。ここで、そのメータを12年使用できたとしたら、メータ1台につき10米ドルのコストを削減できることになります。3年延長できれば、15米ドルの削減です。耐用年数が10年よりも短く設定されていて、メータの設置コストが50米ドルよりも高ければ、コストの削減効果はより大きなものになります。また、将来の資本支出を先送りできると共に、メータという廃棄物の量を減らすことも可能になります。
メータの耐用年数の決定
規制当局や電力会社は、業界のベスト・プラクティスに基づいてメータの耐用年数を決定します。そうしたベスト・プラクティスは、故障の統計的な分布に基づいています。一般に、信頼性を専門とする技術者は、ワイブル関数を用いて耐用年数を割り出します。この関数は図1に示すような形状を示すことから、バスタブ曲線としても知られています。このような手法を適用することにより、信頼性を専門とする技術者は、交換前のメータによる電力の計測精度は、耐用年数の間は許容範囲内にとどまるという予測を立てます。時間の経過に伴い、メータのセンサーにはドリフトが生じます。そのことが原因で、顧客にとって電気料金の支払額が多くなりすぎたり、電力会社にとって請求額が少なくなりすぎたりといったことが生じないようにしなければなりません。
従来は、製造プロセスを改善し、メータを配備する前にバーンインなどの徹底的なテストを実施することで、早期の故障を減らすという施策がとられてきました。3σ(標準偏差)以上を前提とする安全サイドの統計的手法を適用してデバイスの耐用年数を決定することで、仕様を満たさないデバイスが使われ続ける確率を最小限に抑えます。言い換えると、バスタブ曲線における老朽化の領域(一般にガウス分布に従います)を回避することが可能になります。但し、そうした手法には欠点があります。いちばんの問題は、廃棄されるメータの99%以上は、その時点でも仕様の範囲内で適切に動作するということです。これは、問題のないメータを廃棄しているということを意味します。従来は、各メータによる電力の計測精度を高い費用対効果で確認する方法は存在しませんでした。
アナログ・デバイセズのmSure技術
mSure®は、住宅用/商業用/産業用のメータに非侵襲的な診断システムを提供する技術です。その診断システムは、アナログ・デバイセズの最新のエネルギー計測用ICに組み込まれており、メータ機器を製造/販売する世界中のサプライヤに活用されています。メータの稼働時には、落雷、メータの改ざん、製造上の欠陥、経時劣化などの要因によってゲインが変化する可能性があります。mSureでは、電流/電圧センサーによって、その変化を連続的に監視します。図2に示すように、mSureでは、診断用のデータがメータの数値と共にAMIネットワークを介して送信されます。それらのデータを分析し、レポート、知見、アラートが生成されます。
mSureがもたらすメリット
mSureを利用することで、どのようなメリットが得られるのでしょうか。以下、それについて説明します。
不正行為による損失の回避
メータの数値を改ざんするという不正行為は、多くの国/地域で非技術的な損失(NTL:Nontechnical Loss)の最大の要因になっています。通常、盗まれた電力の料金は、何の罪もない他人の電気料金に上乗せされます。従来は、統計を拠り所としたり、変電所とその下流にある各メータの間の電流量の差を検出したりといった方法で改ざんを検出していました。一方、mSureに対応するメータでは、改ざんを示唆する変化が生じていないかどうかを電流/電圧センサーによって常に監視するということが行われます。その結果として、改ざんされた各メータの状態を示すレポートを参照することができます。改ざんが行われた日時のタイムスタンプ、改ざんの種類、改ざんが断続的に行われていたのかどうかといったことなど、不正行為について調査することが可能です。mSureを利用すれば、使用中または未使用の配電線の迂回や二重迂回といった検出しにくい改ざんも検出できることが実証されています。そうした知見は、調査時間の短縮と迅速な収益の回復につながります。
現場での検査/試験が不要に
多くの国では、法律や規制により、配備済みのメータの定期的な検査/試験を実施することが義務づけられています。その作業には大きなコストがかかります。それだけでなく、メータを取り外す間は電気を使えなくなるので、顧客にも負担を強いることになります。mSureを利用すれば、各メータの計測精度をリモートで把握することができます。したがって、現場で検査/試験を行う必要はありません。また、作業員、メータの専門家、アナリストを、より優先度の高い作業に割り当てることができます。
信頼性の高い請求プロセスの確立
mSureを利用すれば、全メータについて電力の計測状態に関するレポートとアラートを得ることができます。そのため、顧客に対して正確な請求書を送付しているという確信が持てるようになります。時折、顧客は受け取った請求書の金額を見て、想定していたよりも高額だと感じてしまうことがあるはずです。その場合、メータに何か問題があるのではないかという不信感を持ってしまうことになるでしょう。mSureを利用すれば、各メータの精度の履歴を確認することができます。そのため、サービス担当者は現場を訪れることなく顧客からの問い合わせに対応することが可能です。また、精度の確認結果を毎月請求書に記載するか、支払いに関するポータル・サイトで結果を確認できるようにすることで、請求内容が正しいことを積極的にアピールすることも可能です。このような仕組みは、規制当局から見ても、顧客に対してメリットをもたらすサービスだと受け止められる可能性があります。
メータの使用期間を延長する
多くの国では、メータを定期的に交換することが法律によって義務づけられています。交換までの期間は、膨大な数のメータに基づく統計的な手法によって定められています。それらのメータは、まだ許容範囲内の精度で動作していたのにもかかわらず交換されてしまったものです。mSureを利用すれば、各メータの計測精度を常時把握できるので、許容範囲の限界に近づいているか、または許容範囲から外れてしまったメータだけを交換するということが行えます。これは、資本支出の先送り、無駄の削減、作業員の労力のより効率的な活用につながります。
mSureで将来に備える
従来、メータの交換は、故障に関する統計的な分布をベースとする業界のベスト・プラクティスに基づいて行われていました。アナログ・デバイセズのmSure技術を利用すれば、従来よりも長くメータを使い続け、寿命に達したものだけを交換することができます。メータの使用期間を延長できるだけでなく、現場での検査/試験を不要にしたり、メータの改ざんを検出したりすることも可能になります。
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