規格外の動作時にMAX2140の内部ESDダイオードを保護する設計 *

2006年06月15日

要約

MAX2140 SDARSレシーバは、このデバイスにとって規格にない動作であるホットプラグ動作(通電したままで接続または切断する)のときに内部ESDダイオードが故障する可能性があります。このことは多くのアプリケーションで発生する可能性があり、特に自動車産業機器において、ホットプラグが行われる確率が高くなります。この記事では、ホットプラグ時に発生するESDダイオード問題の原因を探り、故障を防ぐための計算方法や適切な回路設計を検討しています。

はじめに

組み立て、テスト、および故障診断を行うときには、MAX2140 SDARSレシーバにとって規格外の性能が要求される状況が発生します。このような例の1つが「ホットプラグ」です。ホットプラグとは、電源がオンのまま、デバイスを搭載した回路を接続または切断することです。ホットプラグは、特に自動車産業において一般的に行われます。自動車産業では、「部品のモジュール設計」、「モジュール間の距離」、および「多数のシステムが同時に動作すること」が必要となるため、モジュールの再接続が要求されるからです。

ホットプラグ動作がダイオードの故障を引き起こす過程

ホットプラグは、トランジェントを引き起こします。トランジェントには、大きな電圧、電流サージ、リンギング、および極性の反転という特徴があります。トランジェントプロセスの要因となる物理的特性としては、エネルギ交換、限られた充電/放電時間、および自己共振が含まれます。

図1は、MAX2140の一般的なホットプラグ動作を示しています。

図1. 自動車産業におけるMAX2140の一般的な使い方を示した図
図1. 自動車産業におけるMAX2140の一般的な使い方を示した図

ホットプラグが行われると、当然の結果として、インタフェースケーブル上に電圧降下が生じます(図には赤の矢印で表示)。同時に、アンテナモジュール内部のバイパスコンデンサが、電気的短絡としての役割を果たします。この結果、MAX2140の電気的グランドが、アンテナモジュールの電気的グランドよりも上昇します。電気的グランドのこの差によって、短時間の間、ICのグランドとピン16間に接続されたMAX2140の内部ESDダイオードに順方向電圧が加わります。この順方向電圧のスパイクは、デバイスの絶対最大定格を超える可能性があり、電気的オーバストレス(EOS)と呼ばれています。ダイオードの順方向電圧は、-0.3V~+4.3V (VCC_xxとGND間、VINANTとGND間、AGCPWMとGND間、VOUTANTとGND間)で規定されています。設計シミュレーションによると、短期間の動作として、72mAで-1.3Vが可能であることが確認されています。

ESDダイオードの故障を防ぐ設計

EOSを防止する最善の方法はアプリケーションによって異なります。一般的に推奨される設計の変更を以下に示します。

  1. リアクタンスの多用を避けます。すなわち、「ストレージおよびバイパスコンデンサ」、「RFノイズチョークインダクタ」、「長いインタフェース配線」を避けます。
  2. サージ電流の経路を変更します。すなわち、「短いソリッドグランドを各モジュールに設ける」、「内部ダイオードと並列に外付けのダイオードを追加する」、「大きなコイルの両端にダイオードを配置する」を実施します。
  3. 電力供給を順序付けます(可能な場合)。すなわち、「電源を順にオンにする」、「内部ユーザにプログラム可能な遅延を紹介する」を実施します(マキシムは、広範囲にわたる電源シーケンシングの製品群を提供しています)。
次の設計例(図2)は、ローカル接地を施したMAX2140と、電流サージ用に適切なバイパスを設けるために追加されたショットキダイオードを示しています。

図2. MAX2140レシーバとアンテナモジュール間の設計変更の図。この変更によって、EOSを防止します。
図2. MAX2140レシーバとアンテナモジュール間の設計変更の図。この変更によって、EOSを防止します。

具体的な設計の変更を以下に示します。

  • MAX2140レシーバとアンテナモジュールの間のケーブルには0.5Ωの抵抗がありますが、インダクタンスはありません。
  • アンテナモジュールには100µFのバイパスコンデンサがあります。
  • MAX2140レシーバはアンテナモジュールに5Vを供給します。
ここで当然のことながら、40µsの初期トランジェントの間にコンデンサを流れる最大電流とケーブル両端の電圧降下がどの程度かという疑問が生じます。これらの値は、次式で求めることができます。

この式は、コンデンサを流れる瞬時電流を算出するものです。ここにあるduとdtは、適宜、デルタ値に置き換えることができます。またCはコンデンサの値です。

ここで、コンデンサを0Vから5Vに変更します。

これは、0~40µsの時間間隔を表しています。 バイパスコンデンサを流れる電流は、次式で表すことができます。

40µsのトランジェントの間のケーブル両端の電圧降下は、以下のとおりです。

一例として、電圧が、12.5Aにて6.25Vであって、内部ESDダイオードの短期間の要件を大幅に超えると仮定します。ショットキダイオードを追加することで、トランジェントの間の電流サージのほとんどをバイパスすることができます。この動作には、パルス信号用の一般的なショットキダイオードを使用することが可能です。上に示した図2の設計に基づくと、短いケーブルによって抵抗と電圧降下が大幅に低減する一方で、適当なコンデンサ値を使用することで、最大電流サージが許容レベルにまで低減します。

結論

デバイスの規格外の使い方(MAX2140レシーバのホットプラグ動作など)に対応する幾つかの方法があり、成功させるためには、工程において、製品の慎重な設計と適切なテストが必要になるとともに、マキシムのサポートと認可も必要になります。

*「絶対最大定格」を超えるストレスを加えると、デバイスが永久的に損傷するおそれがあります。これらの絶対最大定格はストレス定格のみです。このような状態や、動作仕様書に記載された絶対最大定格を超えた状態におけるデバイスの機能動作を示すものではありません。絶対最大定格の状態でも長時間デバイスを放置すると、デバイスの信頼性に影響を与えることがあります。

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