要約
多くのハンドヘルド製品は、高精度残量ゲージを実現するのは難しいという誤解により、高精度のバッテリ充電モニタ(「残量ゲージ」)に欠けています。このアーティクルはこの迷信の正体を明らかにし、全ての温度、充電量および放電レート、そして経年条件で充電を正確に監視する方法について説明します。
バッテリ「残量ゲージ」は、ワイヤレスおよび携帯電話端末、PDA、MP3プレーヤのようなポータブルアプリケーションに使われる充電式バッテリに残っている残容量を監視します。正確な残量ゲージによって、ハンドヘルドシステムは、バッテリを最大限に活用し、システム設計者はデータ損失のリスクを減らし、顧客満足度を向上しつつより小型のバッテリ仕様を定めることが可能です。
PDAとセルラハンドセット能力を組み合わせたような新しいデバイスは優れた残量ゲージから利益を得ることが可能なデバイスの良い例です。対照的に大きな製品であるPCノートブックと異なり、残量ゲージを含むスマートバッテリ規格を大抵は使用しません。しかし、充電間の動作を延長し、揮発性データを保護する残量ゲージが必要となることがよくあります。
DS276x、DS277x、DS274xおよびDS275x製品は使用可能なバッテリ寿命を正確に監視する簡単な方法です。
誤解1:バッテリ情報を正確に把握しても、動作時間の延長にはつながらない
無線携帯端末のメモリに対する要求が大きくなると、アプリケーションプログラムやユーザファイルが揮発性RAMメモリに記憶されるということになります。バッテリ電力の損失によりユーザが作成、または購入したファイルが壊れることがあります。メインバッテリが切れたり、取り外されたりした時に充電式ボタン電池でメモリに電源供給するシステムもありますが、このような電池は、最大のものでも25mAhの容量しかなく、メモリを保持できる時間はせいぜい1日です。さらに、よく使われるボタン電池は容量5mAh以下で、数時間で消耗します。このため、メインバッテリが完全放電する前に、データ中心の無線携帯端末をシャットダウンし、充電器が接続されるまでメモリの内容を保持するための容量を十分に残しておく必要があります。多くのユーザが望むバッテリ使用時間は、少なくとも5日、できれば10日以上です。理想的には多機能な端末や無線PDAで使用されるバッテリは、満容量900mAh~2000mAhのうち100mAh~200mAh程度を残した状態でシャットダウンすべきです。
例えば、150mAhの予備容量を必要とするアプリケーションがあるとします。図1に示す+20℃における曲線から判断すると、カットオフ電圧を3.5Vにするとバッテリに適切な容量が残ることになります。しかし0℃~+40℃の曲線は相互関係がありません。バッテリ温度が低いと(0℃曲線)電圧は低くなります。カットオフ電圧を3.5Vにすると400mAh以上を予備容量に回してしまうことになり、駆動時間用には600mAh以下しか使えません。逆に、バッテリ温度が高いと電圧は高くなります。予備容量が100mAh以下になってしまいます(+40℃曲線)。
図1. 電圧放電特性は温度によって異なります。バッテリ温度が低いと電圧は低くなります。バッテリ温度が高いと電圧は高くなります。
負荷電流の変化も大きな影響を持ちます。図2の曲線では、3つの放電レートがもたらす電圧特性を示しています。C/2、C/5、C/10、ここでCはセルの充電容量に等しくなります。この図から、3.5Vのカットオフ電圧による予備容量は、C/10では100mAh以下、C/2では200mAh以上に変化することがわかります。負荷条件がC/10の時にも十分な予備容量が得られるようにカットオフ電圧を3.6Vまで高めると、3つの放電レートにおける予備容量は150mAhから400mAhまで変化します。このように、カットオフ電圧を高めて予備容量を増やそうとすると、大きな代償を払わなければならなくなります。
図2. 電圧特性は、放電レートによって変化します。カットオフ電圧を高くすると、予備容量は小さくなります。
大きな変化ではありませんが、電圧特性は、バッテリセルの経年によっても変化します。経年は、セルによっても異なりますし、メーカーが異なると大幅に異なります。また、セルが浅い放電を繰り返し行った場合は、完全放電の繰り返しとは異なった影響があります。図3では、500回のサイクルにより、全バッテリ容量から永久的に150mAhも低下することがわかります。これは、このようなストレス下におけるセルの特性としては、特に優れているケースです。予備容量に対する影響は、完全放電サイクルの繰り返しによる経年に応じて、50mAh~75mAhとなります。
図3. C/2放電電圧特性は、経年とともに変化します。この図の例は、このようなストレス下におけるセルの特性としては、特に優れているケースです。
容量測定手法の問題
ルックアップテーブルを用意すれば、温度や放電レート、および経年による端子電圧の広い変動を補償することができます。しかし、この方法では、エラーが起こりやすく、また、温度と電流も測定しなければなりません。高精度にするには、電流と電圧を同時に測定し、端子電圧データと放電レートを一致させる必要があります。このため、放電レートは無視し、電圧を基準にした容量にすることがよくあります。電圧と温度だけなら、2次元のルックアップテーブルに公称セル特性を記録しておくだけで、残容量予測を算出することが可能です。この方法では、全温度範囲で20%~40%のエラーが発生します。
電圧基準の方法では精度が限られるため、一般に、必要以上の大きなバッテリを使用します。この結果、携帯端末のサイズに影響が出て、機器の競争力に重大な問題が生じてしまいます。しかし、この問題を避けようと小容量バッテリにすると、駆動時間が短くなるか、データ損失の危険性が高くなる結果になります。最適な選択としては、端末サイズを増やしたりデータ損失の危険性を大きくすることなく、駆動時間を伸ばすインテリジェントなバッテリモニタ(DS276xおよびDS277xファミリなど)があります。
インテリジェントバッテリモニタの動作原理
インテリジェントバッテリモニタでは、電圧、温度、および電流に基づいた容量のルックアップを使用しません。その代わり、バッテリへ流入したり流出したりする充電量を計測します。バッテリの充電量を、クーロンカウンタが追跡します。温度と放電レートの測定は、セル特性を記録した小さなルックアップテーブルを基に、蓄えた容量から給電できるセル能力を補正するために使われます。DS276xファミリとDS277xファミリは、必要となるすべての測定とデータ記録を、ホストシステムによるアルゴリズムストレージと結果計算で提供します。+15℃以下という温度条件で、満充電状態のバッテリの放電を行った場合、エラーは、最大で3%に過ぎません。温度、負荷、経年条件がどのようであれ、合計エラーは5%です。満充電まで充電する間隔が2週間以上になると、入力オフセットエラーが発生しやすくなります。ただし、ユーザの多くは、毎週、満充電します。表1は、バッテリモニタの主な特長と性能です。
表1. バッテリモニタの特長と性能
Device | Measured Parameters* | Current Range (mV) | Current Offset (µV) | Data Storage | Other Features |
DS2761 | V, T, I | ±64 | ±15 | 32 bytes EEPROM | Li+ protector |
*V = 電圧、T = 温度、I = 時間
誤解2:バッテリ情報を正確に表示しても、ユーザにとって無意味である
バッテリ容量表示として数本の棒か3つの斜め線のついた簡単なバッテリの絵を複雑な表示に変えても、ユーザは喜ばない、あるいは混乱してしまうとほとんどのメーカーは考えています。ユーザは、駆動時間のリアルタイムの変化を表すには簡単すぎるシンプルな棒表示に満足していると多くのメーカーは信じています。電話機能だけを使う携帯ユーザにとってはそういえるかもしれませんが、多機能無線データ端末のユーザにとってはそうはいえません。後者はノートパソコンから移ってきたユーザで、パーセント表示の残量や予想駆動時間、待機時間、充電時間が表示されるのに見慣れています。
残り駆動時間や通話可能時間の測定はその時点の使用状況によって左右されるため、バッテリ残量の予測値を表示したくないと考えるメーカーもあります。状況の変化が起きる前に、条件の変更を考慮することは不可能です。また、ユーザが低消費から高消費の方式に移行したため、誤った駆動時間を予測することで、ユーザの期待を裏切る結果になることを避けたいという機器メーカーもあります。
しかし無線データデバイスのユーザを過小評価すべきではありません。ユーザのほとんどは、利用モードの違いを理解しています。ちょうど、市内よりも高速道路を走る時の方が車の燃費が良いことや、乗っている人が少ない方が燃費が良いことをよく知っているようにです。また、現代のハンドヘルドシステムでダウンロードしたサードパーティのソフトウェアを走らせたり、CompactFlash®などの増設ハードウェアを使ったために駆動時間が変化しても、それによって困惑することもありません。
バッテリの残量が半分以下になると、バッテリに対する不安が大きくなります。よくある3段階や4段階のバッテリ表示だけでは、本当のところ、どの程度のバッテリがハンドヘルドに残っているのかよくわかりません。通話途中で切れてしまったり、データ送受信が中断されたり、データファイルを失ったりといった経験をしたユーザは、データ表示を信用しない方がいいことを学んでいます。その結果、バッテリ表示の最初の1段階や2段階が消えると、すぐに充電するようにしているユーザもいるほどです。予測精度が悪く、バッテリ残量の表示段階数が少なすぎるため、なるべく有線通信をするように心がけるユーザもいます。急に電話をかけなければならなくなった時のためにバッテリ電力を節約しようとして、無線データ通信を避けることも多いはずです。しかし、インテリジェントバッテリモニタを使えば、予想駆動時間が表示されるため、ユーザは異なる電力消費モードを意識することができます。DS276xやDS277xによって残量を定量的に見積もることができれば、バッテリ充電に蓄えられたエネルギーをどのように消費するかユーザ自身が選べるようになります。
誤解3:何ヶ月もスタンバイモードを続けても、バッテリモニタは正確でなければならない
これは新しい機器にバッテリを配置する際に生じる問題です。バッテリが出荷されてからエンドユーザの手に渡るまで、通常、3ヶ月から9ヶ月かかります。1.6mV~30mVレンジにおけるバッテリモニタのオフセット性能で、数ヶ月間(数千時間)もの間蓄積された小さなオフセットエラーは、消費バッテリ容量の相当量に等しくなります。例えば、その容量が約30%という状態なのに、バッテリが完全放電した、あるいは満充電であるという表示が出るのではないかとメーカーは心配するわけです。このような状態はオフセットエラーがマイクロボルト以下に低下するまで続きます。
バッテリは使用前にユーザによって満充電されるべきです。初回時の満充電はセルを「構成する」重要なステップであり、バッテリ性能を十分に引き出すために必要です。ユーザマニュアルに明記しておけば、ユーザは初回使用前にバッテリを満充電にしてくれます。また、バッテリを何ヶ月も使用しなかった場合は、多くの場合、いったん満充電することが推奨されます。バッテリが満充電されると、バッテリモニタのクーロンカウンタ(DS276xシリーズとDS277xシリーズデバイスに内蔵されている電流積算レジスタ(ACR))とセルが同期されます。
誤解4:インテリジェントなバッテリモニタは高価すぎる
最初のバッテリモニタソリューションが市場に出回るようになったころ、無線通信を行っていたのは音声通話だけの携帯電話でした。PDAは、到達距離の短い赤外線リンクやシリアルリンクを経由してPCに接続されていました。Bluetooth®やWi-Fi®、第三世代ネットワークなどの技術はまだ開発段階でした。当時は、インテリジェントバッテリモニタは費用対効果も悪く、必要性もありませんでした。
現在はデータの価値も上がり、被害も受けやすいため、状況は一変しました。インテリジェントバッテリモニタを採用すれば、駆動時間を伸ばし、機器を小型化し、使い勝手を向上し、無線通信を促進することが可能になるのです。今や、ユーザは、無線データ端末自体に$200~$600も支払った上、サービス料などを毎月$40~$100も支払っているのです。駆動時間が長くなり、しかもそれが正確に表示されれば、付加価値になるでしょうか?サイズと性能、コスト面で競争を展開している携帯端末メーカーにとって、より小型の新製品を出せるのは魅力的なはずです。無線通信サービスを提供し、データサービスの利用者増を狙っている業者にとっても、バッテリはすぐには消耗しないと信頼された方が良いはずです。ごく少数ではありますが、インテリジェントバッテリモニタに、その価格をはるかに超えるメリットがあることを理解しているトップメーカーがあります。そのような企業の製品は、駆動時間においてもユーザの満足度においても他社をリードしています。そうです。彼らは、代償を支払うのではなくメリットを享受しているのです。
まとめ
革新的な製品機能は、「あった方がいい」特別なものから「なければならない」コアな機能や必須機能へと進化していくものです。インテリジェントなバッテリモニタも、そのような機能の一つです。携帯のコンピュータ化や通信の利用が増大するにつれ、ほんの何段階かに表示されるだけの予測不可能なバッテリ容量では、ユーザは満足できなくなってきました。電圧基準のソリューションが普及している限り、今後も、大きめの端末に大きめのバッテリを搭載して、早めにシャットダウンしなければなりませんし、それでもなお、ユーザの不安を払拭することはできないのです。それでも幸いなことに、バッテリ残量を正確に見積もることは可能になりました。DS276xやDS277x製品ラインなどのインテリジェントなバッテリモニタを採用すれば、無線端末をPCと同じように進化させ、小型化を実現すると同時に性能を高め、ユーザの不安を払拭することができます。