出力分散システムでの共通の問題は、レギュレータと負荷の間のワイヤ電圧降下によるレギュレーション性能の低下です。ワイヤ抵抗、ケーブル長、負荷電流のいずれかが増加すると、配電線間の電圧降下が増加し、負荷での電圧とレギュレータによってプログラムされた電圧との間の差が増加します。リモート検出では、負荷までの配線を追加することが必要です。LT6110ケーブル/ワイヤ電圧降下補償器を使用すれば、余分な配線は不要です。この記事では、レギュレータと負荷の間の広範囲の電圧降下を補償することにより、LT6110がどのようにレギュレーションを向上できるかを示します。
LT6110ケーブル/ワイヤ電圧降下補償器
1 線式補償回路のブロック図を図1 に示します。遠隔負荷回路がレギュレータのグランドを共有していない場合は、2 本のワイヤが必要です。1 本は負荷線でもう1 本はグランド帰線です。LT6110ハイサイド・アンプは、検出抵抗RSENSE 両端の電圧VSENSEを測定することにより、負荷電流を検出し、負荷電流ILOADに比例した電流IIOUTを流し込みます。IIOUTの換算係数は、RIN 抵抗を使用して10μA~1mAの範囲でプログラム可能です。ワイヤ電圧降下VDROP の補償は、帰還抵抗RFAにIIOUTを流してレギュレータの出力電圧をVDROPに等しい量だけ大きくすることによって実現します。LT6110ケーブル/ワイヤ電圧降下補償の設計は簡単です。IIOUTとRFA の積がケーブル/ワイヤ電圧降下の最大値と等しくなるように設定します。
LT6110 は、最大3A の負荷電流に適した20mΩ のRSENSE を内蔵しています。このため、ILOADが3Aより大きい場合は、外付けのRSENSE が必要です。外付けのRSENSEは、検出抵抗、インダクタのDC抵抗、またはPCBトレースの抵抗の場合もあります。LT6110のIMONピンは、IIOUTシンク電流の他に、ソース電流(IMON)を供給して、LT3080などの電流基準リニア・レギュレータを補正します。
降圧レギュレータ向けのケーブル電圧降下補償
LT6110と3.3V、5A降圧レギュレータで構成される完全なケーブル/ワイヤ電圧降下補償システムを図2に示します。このシステムは、20フィートの18 AWG銅線を介して接続されている遠隔負荷の電圧を安定化します。降圧レギュレータの5A出力には、外付けのRSENSEを使用することが必要です。
最大5AのILOAD が140mΩ のワイヤ抵抗と25mΩ のRSENSE を流れると、825mVの電圧降下が生じます。0A ≤ ILOAD ≤ 5Aの範囲で負荷電圧VLOADを安定化するには、IIOUT• RFA が825mVに等しくなければなりません。以下の2つの設計オプションがあります。IIOUTを選択してからRFA 抵抗を計算するか、電流が非常に少ない場合のレギュレータの帰還抵抗を設計してからRIN 抵抗を計算してIIOUTを設定します。通常はIIOUTを100µAに設定します(IIOUTの誤差は30µA~300µAの範囲では±1%です)。図2 の回路では、帰還経路の電流は6µA(VFB/200k)であり、RFA抵抗は10kです。また、RIN 抵抗はIIOUT• RFA = 825mVと設定されるように計算する必要があります。
および
したがって、RFA = 10k、RSENSE = 25mΩ、およびRWIRE = 140mΩ の場合、RIN = 1.5kです。
ケーブル/ワイヤ電圧降下補償なしの場合、負荷電圧の最大変化量ΔVLOADは700mV (5• 140mΩ) になります。これは3.3V 出力では誤差21.2%に相当します。LT6110では、ΔVLOADが25°Cでわずか50mV(誤差1.5%)に低下します。これは負荷レギュレーションの値で1桁の向上です。
高精度の負荷レギュレーション
LT6110を使用して負荷レギュレーションを適度に向上するには、RWIREの推定値を適度な精度で決めるだけで済みます。 負荷レギュレーションの誤差は、2つの誤差(ワイヤ/ケーブル抵抗による誤差とLT6110補償回路による誤差)の積です。たとえば、図2の回路を使用すると、RSENSEとRWIREの計算誤差が25%である場合でも、LT6110はVLOADの誤差をなお6.25%まで低減します。
負荷レギュレーションの精度を高めるには、電源と負荷の間の抵抗を正確に推定することが必要です。ケーブル・コネクタとPCBトレースをワイヤと直列に接続したときの抵抗、RWIRE、RSENSE を正確に推定できる場合、LT6110は広範囲の電圧降下を高精度に補償することができます。
LT6110、RWIREの正確な推定値、高精度のRSENSEを使用することにより、ΔVLOADの補償誤差を低減して、ワイヤの長さにかかわらずレギュレータの電圧誤差に一致させることができます。
まとめ
LT6110ケーブル/ワイヤ電圧降下補償器は、このデバイスを使わなければ大電流、長いケーブル、および抵抗がレギュレーションに大きく影響するような遠隔負荷の電圧レギュレーションを改善します。正確なレギュレーションを実現するのに、検出ワイヤの追加、ケルビン抵抗の購入、銅使用量の増量、ポイントオブロード・レギュレータの実装を行う必要がありません。これらは、他のソリューションにはよくある難点です。対照的に、補償器ソリューションは必要なスペースがわずかであり、その上、設計の複雑さや部品のコストを最小限に抑えています。