要約
マキシムは、G級技術による革新的なチャージポンプベースのブーストアンプを発表しています。これらのアンプは、従来の値より高い出力レベルが必要なポータブルアプリケーション用に設計され、効率もPCB実装面積も犠牲にしていません。このアプリケーションノートでは、ラウドスピーカの給電にチャージポンプ技術とG級技術を採用する利点について説明します。スピーカアンプのMAX9730とMAX9788は、この新しい設計の例となります。
はじめに
ポータブルオーディオアプリケーションの場合によくある問題は、スピーカアンプに利用可能な電源電圧が限られている点です。これらのオーディオシステムでは、公称電圧3.7Vのリチウムイオン(Li+)バッテリが標準的に使用されます。システムの大部分の構成部品の稼働には3.7Vの電源で十分ですが、スピーカアンプには許容可能な音圧レベルを生成するためにさらに高い電圧が必要です。このため、ほとんどのスピーカアンプは、スピーカに2倍の電源電圧を印加することができるブリッジ接続負荷構成で、トランスデューサに給電します。
多くの場合はスピーカへの供給電圧を2倍にすれば十分ですが、アプリケーションによってはさらに高い出力電力が必要になります。2つの例は、圧電スピーカ(高電圧ドライブが必要)を使用するシステムや高い音圧レベル(GPSデバイスなど)を必要とするシステムです。これらの要件の厳しいオーディオアプリケーションに対する唯一のソリューションは、電源電圧を上げることです。通常、電源電圧を上げるには、個別のDC-DCブーストコンバータが必要となり、コストと複雑性がシステムに追加されます。
G級パワーアンプのMAX9730およびMAX9788は、チャージポンプを使って電源電圧を上げることによって、この電源電圧の問題を解決しています。MAX9730は特に従来のダイナミックスピーカに対応し、MAX9788はセラミックスピーカに対応した製品です。
新しいチャージポンプ方式
MAX9730およびMAX9788アンプは、チャージポンプ技術を使用して、標準の5Vアンプに比べて最大2倍の出力レベルを達成します。このチャージポンプは、アンプに完全に内蔵されており、必要となるのは、2つの外付けコンデンサのみで、0603サイズの小型セラミック表面実装コンデンサが可能です。内蔵のチャージポンプは、電源と等しい大きさの負電圧を生成します。これによって、電源電圧が効率的に2倍に上がるため、可能な出力電圧が2倍になります。
DC-DCブーストコンバータと異なり、チャージポンプは、負荷が印加されたとき負電源のドループを引き起こす相当の出力抵抗を備えています。このため、MAX9730およびMAX9788の設計は、チャージポンプの出力抵抗が出力電力の大幅な増大を可能にするために十分低くなることを保証しています。3.7Vで動作する従来のアンプは700mWを8Ωに供給可能ですが、MAX9730は同じ条件の下で1.3Wを出力することができます。
G級技術は独自の方法でこのアプリケーションに最適
MAX9730とMAX9788は、ハンドへルド機器に標準装備される5Vのアンプの代わりに、10Vのアンプを使用するため、高効率を維持することがバッテリ寿命の最大化に不可欠となります。D級技術は、高効率で、ハンドへルド機器によく使用されますが、セラミックスピーカには対応していません。このデザインの課題は明らかでした。つまり、セラミックスピーカに対して何か別の技術が必要でした。あまり知られていなかったアンプ技術であるG級が最適な技術として登場しました。
G級アンプは、AB級アンプとまったく同様に動作します。ただし、G級では、1つの固定電圧ではなく、複数の電源電圧を使用します。入力信号は振幅が異なるため、G級方式は、適切な電源を自動的に選択し、出力トランジスタ全体の電圧ドロップを最小限に抑えます。効率は大幅に向上します。通常、G級アンプは、2つの正電源とグランドで動作します。高電源は大出力レベルに使用され、低電源は小出力レベルに使用されます。
MAX9730およびMAX9788は、G級技術を独自な方法で適用し、高/低の正電源の代わりにチャージポンプからの反転電源を利用します。アンプが小出力信号を生成するとき、このアンプはバッテリ電圧とグランドを電源として使用します。このモードでは、デバイスは標準的な5VのAB級アンプのように動作します(図1a)。出力信号が電源の性能を上回ると、アンプはバッテリ電圧と反転チャージポンプ出力の使用に切り替わります(図1b)。これで、アンプは従来のアンプよりはるかに高い信号を出力することができます。
図1aおよびb. 低電源(a)と高電源(b)から動作するMAX9788のG級出力段
MAX9730およびMAX9788は、2つの電源間の遷移が可聴域の歪みを発生しないように保証します。出力信号がVCCとGNDを使用して可能な限界に達すると、負電源が出力段に自動的に接続されます。このとき、出力信号は、負の振幅はもうクリッピングしていませんが、正の振幅はまだクリッピングしています。これを補正するために、アンプは追加の補正信号を逆の出力に追加します。この効果は、図2のようになります。正および負の出力が個別に観察された場合、波形の正の振幅は明らかにクリッピングされ、負の振幅は明らかに歪んでいます。これらの信号は、大きく歪んでいるように見えますが、実際には、このアーキテクチャを利用するために注意深く処理されています。負荷に印加される実際の出力信号は、歪みのない信号となります。
図2. MAX9788アンプによって生成されたG級出力波形
結論
MAX9730およびMAX9788は、G級技術を反転チャージポンプと組み合わせて使用し、よくある問題に独自のソリューションを提供します。ほとんどのブーストアンプソリューションは、大型インダクタを必要とするのに対し、MAX9730およびMAX9788は、2つの小型セラミックコンデンサのみ使用して動作するため、PCBスペースとコストを節約します。また、MAX9730およびMAX9788は、消費電流を低減する高効率のG級アーキテクチャを採用することによって、既存の設計を向上させています。