電圧リファレンスの温度係数(Tempco)および初期精度の計算

電圧リファレンスの温度係数(Tempco)および初期精度の計算

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要約

電圧リファレンス(VREF)の主な目的は、システム精度を確立することです。たとえば、アナログ-ディジタルコンバータ(ADC)はリファレンス電圧を使用して、そのフルスケール入力レベルを設定します。以下の説明は、システム精度の所定の要件を満たしながら、初期精度と温度係数(tempco)間のトレードオフによって電圧リファレンスの選択を拡大することができる方法について説明しています。示される計算によって、初期精度の任意の値に必要な温度係数が正確に求められ、その逆も同様です。

どの標準ADCアプリケーションも、ADCでディジタル化されるアナログ電圧の範囲を設定します。標準的な入力電圧範囲に適合させるには、これらのアナログ信号に対して通常、アンチエイリアスフィルタリング、バッファ、あるいは振幅のスケーリングを行う必要があります。ADC入力に指定される標準フルスケール値の中では、2.048V~4.096Vが明らかにディジタルシステムにおいて役立ちます。その理由は、ビット値のミリボルトの整数が得られるためです。たとえば、4.096Vフルスケール入力を備える12ビットADCは、4.096 / (212 = 4096) = 1mVのビット値をもたらします。同一システムにおける8ビットADCの「分解能」は、4.096 / (28 = 256) = 16mV/ビットです。

ディジタルシステムにADCのフル分解能が必要で、出力がかなり高精度で、1 LSB入力変動にも対応すると仮定します。その結果、総許容変換誤差は0.5 LSBとします。説明を簡単にするために、このADCは、リファレンスのみに起因する誤差がある完全なADCとします。このため、VREFで許容されるワーストケース誤差は、0.5 LSBです(8ビットADCの場合は8mV)。

初期精度

境界条件を固定するために、変数を区別して、温度係数がゼロのVREFの可能性を仮定します。このため、すべての誤差は初期精度からもたらされると仮定します。なお、4.096V出力における誤差の0.5 LSB (8ビットADCの場合は8mV)は0.195%の誤差を表し、その精度の温度係数がゼロのリファレンスには全温度にわたって0.195%の潜在的誤差があります。

温度係数

境界条件を再度検討するために、+25℃において初期誤差がゼロのVREFであると当面仮定します(この場合、大部分の電圧リファレンスは較正済み)。このため、すべての誤差は温度係数からもたらされ、動作温度の極値(最高値および最低値)において4.096Vの上下で0.5 LSB以下の誤差が発生することがあります。すなわち、8ビットADCのVREFの温度係数は、高温か低温かを問わず+25℃から最も離れた動作温度の極値において8mV以下の誤差をもたらすはずです。

実際のVREFは初期精度および温度係数誤差をともに示すため、以下の方式を採用します。

  • VREF動作温度範囲を決定します。
  • +25℃から最も離れた温度の極値を確認します。
  • すべての計算のベースをその極値にします。
  • リファレンス出力電圧(VREF)を決定します。
  • ゼロ温度係数製品のトータル精度である、フルスケールのパーセント値で0.5 LSBを計算します。たとえば、4.096Vのリファレンスにおける8mVの誤差はフルスケールの0.195%です。
  • +25℃において完全精度の許容ゼロ製品を仮定して、ppm/℃で許容されるワーストケースの温度係数を計算します。
  • 以下に示される方式を使って、適切なソリューションを求めます。

たとえば、+80℃の最高VREF温度を前提として(最低VREF温度は0℃の最低動作温度)、0℃~+70℃の動作温度範囲とケース内における10℃の上昇を仮定します。+80℃のVREF温度は+25℃よりも55℃高く、0℃は+25℃よりも25℃しか低くないため、この例では高温の極値が該当します。最大許容誤差(0.195%)の場合は、温度係数(25℃において誤差ゼロを仮定)は、0.195% / 55 = 0.00355% = 35.5ppm/℃です(パーセント値からppmに変換する理由について確認するには、以下の説明を参照)。

図1は、この状態を図示しています。上記の要件にちょうど適合する実際の電圧リファレンスは、右上隅のワーストケース点に収束する複数の線のいずれか1つで表されます。

図1. この図は、常温との1度差当たり、リファレンス電圧で1 LSBのばらつきの許容温度係数を示しています。

図1. この図は、常温との1度差当たり、リファレンス電圧で1 LSBのばらつきの許容温度係数を示しています。

任意のVREFの全温度範囲にわたるワーストケースの結果は、( 4.096Vに対する) +80℃、8mVの点を通る線で表すことができます。以下のように定義される変数を備える線(y = mx+b)の式を用います。

y = 誤差 (%)
m = 温度係数 (%/℃)
x = +25℃との温度差
b = +25℃における初期精度

なお、以上の式の温度係数の単位は、%/℃です。この方式は誤差(e)と整合する単位を提供し、%で表されます。多くの場合、温度係数は非常に小さいため、100万分の1の単位(ppm)で容易に表されます。測定単位「ppm」は、単位「%」の1万分の1であり、「%」は「100の1の単位」を意味し、100と1,000,000の比率は10,000です。便宜上、以下のように変数の名前を変更することができます。

yはeになり、
mはTCになり、
xはΔTになり、
bはAになります。

したがって、以下のようになります。

e = TC(T) + A

初期精度(A)を求めると、この式は以下のようにより便利になります。

A = e - TC(T)

温度係数(TC)のソリューションも、以下のように同様です。

TC = (e - A) / T

この例のVREFの場合は、AとTCの各組合わせを定義するすべての線は、(55℃、0.195%)の最大誤差点を通るはずです。

0.195 = TC(55) + A

Aを求めます TCを求めます
A = 0.195 - 55TC TC = (0.195 - A) / 55

これで、温度係数(%/℃で表示)にプラグインして、必要な精度を計算することによって、VREFを評価することができます。また、任意の精度を選択し、第2式を使って最大許容温度係数を計算することもできます。

たとえば、MAX6043BAUT41のリファレンスの初期精度は0.1%であり、これは0.195%の約半分です。その温度係数は25ppm/℃です。この温度係数が適格かどうかを決定するには、この精度を第2式に代入して、以下のように許容温度係数を求めます。

TC = (0.195 - A) / 55
= (0.195 - 0.1) / 55
= 0.00173%/°C
= 17.3ppm/°C

したがって、この製品の25ppmの温度係数は適格ではありません。17.3ppmかそれより適切な値が必要であるためです。幸いにも、Aグレードバージョン(MAX6043AAUT41)の温度係数はわずか15ppm/℃であり、その初期精度もこれより適切な値です(0.06%)。マキシムなどの製造メーカーは、150ppm~1ppmの範囲の温度係数のほかに、初期精度の範囲が2%~0.02%の幅広い電圧リファレンスを提供しています。

結論

負荷レギュレーション、ラインレギュレーション、温度ヒステリシス、および長期ドリフト(安定性とも呼ばれる)などの多くの要素が電圧リファレンス精度に影響を与えます。これらの影響は通常は2次的なものですが、(上記の)基本的方式で選択されたリファレンスの許容性がごく小さい場合は、これらの影響を考慮する必要があります。こうした影響だけでなく、入手可能な電圧リファレンス技術の長所と短所も取り上げている複数の卓越したアプリケーションノートを参照するには、「電圧リファレンス」にアクセスしてください。

同様の記事が、2006年3月にPlanet Analogのウェブサイトに掲載されています。