LT6658-2.5V電圧リファレンスは、150mAと50mAのデュアル出力が可能な高精度のリファレンス仕様となっています。かつてない優れた精度と電力性能を備えたこのデバイスは、負荷レギュレーション12ppm/A未満という高精度の大電流電源を実現できます。必要な追加部品はごくわずかです。
LT6658-2.5Vの代表的な構成を図1に示します。バンドギャップ・ブロックを置くことで、ワールドクラスのリファレンス仕様が実現します。400Ωの抵抗を配置し、ノイズ低減(NR)ピンに任意の大容量コンデンサを挿入することで、ローパス・フィルタが構成されます。最終的に、VOUT1およびVOUT2の2つの出力は、ケルビン検出入力を備えた低ドリフト・アンプでバッファされます。
5Aの出力能力は、図2に示すように、3つの2N3055 NPNトランジスタを並列に追加することで実現します。合計5Aの出力駆動を得るため、2N3055はそれぞれ1.667Aの電流を通します。0.1Ωのバラスト抵抗により、2N3055の電力バランスをとっています。なお、バラスト抵抗はわずか0.1Ωで、1.67Aの電流が流れても抵抗1個あたりの消費電力は0.28Wです。LT6658にはフォース出力に2.5Vのヘッドルームが必要であるほか、この回路には外付けNPNトランジスタのVBE(約0.7V)相当の電圧とバラスト抵抗の電圧降下分が追加ヘッドルームとして必要です。2N3055の全消費電力の計算値は、5A × (2.5V + 0.7V) = 16Wとなります。したがって、2N3055 TO-3パッケージには適切なヒート・シンクが必要です。
電力効率を上げるには、図2に示すように、出力段に独立した電源を使用してください。出力電源の電圧は、2N3055に必要なヘッドルーム分だけなので低くすることができます。
この固定電圧源は、VOUT1_Fピンに1μF~50μFのコンデンサを備えているため安定しています。VOUT1_Sの電源出力の追加コンデンサは、小容量コンデンサからミリ・ファラッド・レンジの大容量コンデンサまで、様々なものが可能です。この回路は、VOUT1_Sから電流をシンクすることはできません。シンク電流はVOUT1_Fピンに限定されます。2.5kΩの外付け抵抗により、ループは1mAの負荷でアクティブな状態に維持されます。負荷が常に電流を引き出して回路のソース電流を維持できる場合には、この抵抗は不要です。
上記回路の負荷レギュレーションを図3に示します。5A時の合計誤差は60ppm未満であるため、負荷レギュレーションは12ppm/A未満になります。
この回路は、わずかな変更を加えるだけで、図4に示すような可変電源に変換できます。LT6658は2.5Vの固定出力であるため、出力範囲を1Vに下げるには、267Ωの抵抗をNRピンに配置して分圧器を構成します。出力バッファのゲイン回路は、1kΩの固定抵抗と4kΩの可変抵抗を追加することで組み込まれます。なお、LT6658の電源ピンの最低電圧は、VINの4.25Vです。VIN1の最低電圧は、4.5VまたはVOUT1 + 2.5V + VBEのいずれか高いほうです。
ここで、低ノイズ性能を実証するため、図5aに示すように、220μFのコンデンサをNRピンに配置します。これにより、バンドギャップ・ノイズがロール・オフされ、ノイズ密度は約7nV/√Hzに減少します。5A回路の出力電圧ノイズ・プロットを図5bに示します。
2N3055トランジスタのβは約100で、必要なベース駆動電流は50mAです。これは、VOUT1の出力駆動の仕様内に十分収まっています。
LT6658には2つの出力があるため、1つめの出力を大電流電源として構成し、2つめの出力で優れたリファレンス性能を維持することが可能です。
大電流出力が2つ必要な場合は、2つめの出力も低ノイズの大電流電源として構成することができます。バッファごとに専用の電源ピンがあるため、優れた電源除去比と極めて低いチャンネル間クロストークを実現できます。