要約
このアプリケーションノートでは、トリプルバンドのワイヤレス電話システムにおいて3つのIFフィルタをMAX2308に適用する方法について説明します。183.6MHzでRFスイッチを使用した手法と比較して対比しています。差動入力とRFスイッチを連動させることで、挿入損失を小さくし部品点数を最小化します。また、サンプル回路図を掲載します。
現代のCDMA (符号分割多元アクセス)の3GPPセルラモバイル無線規格では、GPS (全地球測位システム)レシーバが必要となり、また旧来のAMPSモードもサポートしなければなりません。設計者は、3種類のIF (中間周波数)フィルタをレシーバに搭載することによって、これを実現しています。IFフィルタの1つはCDMAパスに作用し、1つはAMPSに、また1つがGPSに作用します。残念ながら、CDMAパスが比較的広帯域であっても、GPSレシーバ用としては十分な帯域幅はありません。このため、AMPSとGPSの両方をCDMAとともに使用する場合には、3つのフィルタが必要となります。
マキシムのMAX2308 ICは、低コストのスーパーヘテロダイン携帯電話レシーバ用に高度に集積された部品です。このICには、広いダイナミックレンジのデュアル入力IF可変利得アンプ(VGA)、PLL (位相ロックループ)を備えた低位相ノイズIF VCO (電圧制御発振器)、及びIQ復調器が含まれています。MAX2308が本来サポートするIFフィルタパスは2つであるため、電話機の設計エンジニアにとって、MAX2308を3つのIFフィルタに効果的に適用することは困難と思われます。MAX2308を設計したときには、大部分のワイヤレス電話システムの規格に対して2つのIFパスで十分だと考えられていました。
183.6MHzでのRFスイッチ
MAX2308で3つのIFフィルタをサポートするための一般的なソリューションは、2つのIFフィルタを1つのMAX2308 IF入力に多重化するためのRF SPDT (単極/双投)スイッチを搭載することです。通常、この手法を使用してAMPSとGPSのIFフィルタを切り替えます。
3つのフィルタすべてで最もよく使用されるIF周波数は、現在のところ183.6MHzです。この周波数は、一般的なアナログ低周波スイッチにとって高すぎます。高周波スイッチは、183.6MHzで動作するのに問題はありませんが、挿入損失(IL)が増加するという犠牲を払うことになります。ILを悪化させるもう1つの問題は、RFスイッチが50Ωのシステム用に設計されて規定されているということです。大部分のIF SAWフィルタは約150Ωの出力インピーダンスを持ち、IF VGAの入力は約1kΩです。この条件の下で、標準的なRFスイッチは約5dBの挿入損失を生じます。図1に示すテスト回路図を使用すると、ハイインピーダンス入力で出力負荷状態の、RFスイッチの挿入損失を測定することができます。標準的なIF SAWフィルタの挿入損失は5dBであり、これをRFスイッチの5dBの損失に加算すると10dBとなり、この利得をレシーバが供給する必要があります。VGAがダイナミックレンジを使い果たした場合には、これは不可能となるおそれがあります。
この状況は、IF SAWフィルタが50Ωのスイッチにマッチングされ、次に50ΩのスイッチがハイインピーダンスIF VGAにマッチングされると改善されます(図2を参照)。
このソリューションには、長所と短所が存在します。
長所の例
- RFスイッチの挿入損失は、約3dB以下にまで低減されます。(ほとんどのGaAs FET RFスイッチは、500MHz未満の周波数で使用する場合には最適化されていません。これらのタイプのスイッチは、500MHz以上で1dBよりも優れた挿入損失を実現します。)
- IF SAWマッチングネットワークをチューニングするための便利な50Ω参照点が用意されています。この長所は意図されたものではなかったものの、システムの初期デバックや最適化に極めて便利なことがわかっています。
短所の例
- 追加のマッチングネットワークは、PCB上で設計して配置しなければなりません。
- 必要とされるハイインピーダンス変換比によって、部品に対してより厳しい制約が加えられます。高Qで精度の高い部品を使用しなければなりません。
- インダクタンスが高く、高Q、及び高精度のインダクタは、物理的に大きくなり、また多くの場合、特別なシールドを必要とします。
- 余分な部品(ほとんどの場合、値や許容誤差が規格外)のため、例外的なBOMになります。
3つのIFフィルタをサポートするためのトポロジ
MAX2308には2つの差動入力があります。1つはCDMA IF入力に使用され、もう1つはシングルエンド構成に使用されます。シングルエンドモードは、入力をグランドにバイパスしてAC接地を確保することによって、差動入力の1/2を無駄にします。このシングルエンド構成が使用される理由は、当然のことながら、差動マッチングネットワークの整流によって回路図が大幅に複雑になるからです(得られる長所が帳消しになる)。
また別のソリューションとして、適切なマッチングネットワークを通じて差動IF VGAの各サイドに各IFフィルタを接続するというものがあります。並行して、IF VGAの各入力を「大きな」コンデンサに通してSPDT RFスイッチの入力に接続します。次にスイッチの出力をAC接地します。動作中、所望のIFパスは、RFスイッチを用いて未使用のパスをAC接地することで選択します。VGA入力とIF SAW出力マッチングネットワークはハイインピーダンス回路であるため、スイッチのインピーダンスはIF周波数においてほぼ完全な短絡を実現します。この手法のもう1つの長所は、スイッチが、アクティブIFフィルタのパスにほとんどといっていいほど損失を生じないということです。このソリューションの例を図3に示します。